2024.8.12 新日本プロレス G1 CLIMAX 34 新潟・アオーレ長岡 Aブロック最終戦 試合雑感
◼️第4試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
カラム・ニューマン vs ゲイブ・キッド
荒くれのゲイブに対して意表をつくカラムの奇襲。これは良かったのですが、やはり全体的に技の精度と軽さが目立つのがカラムの現時点での欠点で、せっかくのスピードが加重として活かされてないように感じます。ただ、ハンドスプリングからゲイブの背後をとってのジャーマンからブリッジのないマヤ式……ようはデルフィン・スペシャル1号のような感じで固めたあたりはセンスを感じましたし、オスプレイの後継者のようでいて、オスプレイらしさのない技のほうがひょっとしたら当人の素養に合っているのかもしれません。
再三に渡って仕掛けたオスカッターは徹底的に防がれ、最後は速射式のパイルドライバーからレッグトラップパイルドライバーでゲイブの完勝。カラムの速度に合わせつつテンポ良く試合を運んだゲイブのセンスはよかったですね。カラムはあと一つ二つ、何かネームド技が欲しいように思います。
◼️第5試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
SANADA vs ザック・セイバーJr.
やはりこの二人は手が合いますね。やや演舞めいていながらも最初のクラシカルなレスリングの攻防は見応えがあり、ザックが打撃でギアを上げればSANADAも応じることでテンポを上げていきます。
見所はSANADAのドラゴンスクリューであり、ちょいちょい使っていながらもシャイニング実装以降はこの技の意味合いも昔よりは重くなっており、武藤の系譜を感じる高速ドラスクだったことに感じ入るものがありました。対するザックもラウンディングボディプレスをアームバーで捉えての複合関節技地獄はSANADAを悶絶させるだけの威力があり、これだけで終わりを予感させる凄みがあります。
何とか危機を脱したSANADAはオコーナーブリッジ!これはザックに切り返されますが、すかさずザックのお株を奪うヨーロピアンクラッチ。SANADAのシャイニングは今度はザックがジャパニーズレッグロールクラッチで切り返すと、それをSANADAが防いでスカルエンド。それをさらにヨーロピアンクラッチでザックが切り返すと、SANADAが反転してオコーナーブリッジに。いやあ……この至高のカウンター合戦はこの二人はならではで、これで大SANADAコールを呼び起こすあたりに歴戦の積み重ねを感じるわけです。
最後はデッドフォールとスカルエンドの二つで揺さぶりをかけるSANADAに対し、第三の手で出してきたオコーナーブリッジを外して一瞬のザックドライバーでザック1位通過!デッドフォールが代名詞かつ絶対的フィニッシャーになったSANADAですが、元々複数フィニッシャー持ちだっただけに、終盤戦でルートを切り替えつつ攻められるのがSANADAの強みでもありますね。そしてこれを凌いで一撃必殺で決めたザック。これはお見事です。
◼️第6試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
鷹木 信悟 vs ジェイク・リー
スペックの高さと実績は折り紙付きでありながらも、いまいち今夏のG1の戦績は振るわず、前評判ほどには活躍したとは言い難いジェイク。しかしながら不穏さと曲者感はしっかり残っていて、鷹木に礼儀を教えつつの蹴りでの不意打ち、そしてボゥアンドスクレープで挑発したあたりは詐欺師キャラクターの本領発揮といったところですね。
そして鷹木ばりに口撃を混ぜながらの体格差によるジェイクの打撃による圧倒。ジャイキリは完全にデチューンされてほぼキチンシンクというか通常打撃の膝蹴りとして扱っていますが、サイズ感を考えるとこの使い方もアリかもしれないですね。嫌味なジェイクを相手にすると鷹木の実直さと熱血さが際立つのも道理で、持ち前のパワーとスピードの勢いで張り合う展開がよかったです。
最後は打撃の撃ち合いに勝利し、ハイキックからのFBSを狙うも鷹木がジャンボの勝ち!固めのようなパンピングボンバー固めで鷹木の勝利。これ、クイックのように使えていい技ですね。計算が狂い激昂するジェイク。最後の最後で計画の上手くいかない詐欺師、というのも面白いキャラではあるのですが、この重ねた屈辱の先があるのか。今はそれが気になりますね。ただ一つ言えることは、ジェイクはこれで終わりではなくむしろ始まりで、かなり長期的に見据えた壮大な計画の一環なのではないかと……そんな気もします。「ジェイク、色々聞いていたけどあまり大したことなかったな」というのは詐欺師にとっては一番動きやすいんですよ。警戒されていないってことですからね。ようは新日マットにジェイクは「役割」があるのか否かであり、明確なポジション含めてこれを早く見せて欲しい気持ちがあります。
ジェイク、現時点での僕の結論としてはやはり驚くほどの「違和のなさ」があるんですよね。キャラクターも戦い方も、何もかもが今の新日マットに馴染みすぎとでも言いますか。G1でのこの戦績も、参戦して2〜3年後のような感じの馴染みっぷりで、いい意味でも悪い意味でも初参戦の特別感があまりないんですよ。NOAH時代はフィニッシャーもキャラクターも他に類似がなく違和感として機能したのと、それでいながら圧倒的な体格差やそれによる当たりの強さがNOAHのマットの気風とピッタリ合致したというのもあり、その相乗効果であれだけの爆発力があったように思います。それは「新しいビジネスモデル」としてのジェイクのマーケティング含めたプロモーションが上手くいったことの証左であり、新日ではそう簡単に上手くはハマらなかった。この計画の狂いっぷりはある意味で今のキャラクターも合っているため、そこにリアルがある。まだまだジェイクは油断できませんよ。G1での敗退すら、今後のストーリーのトリガーになりそうですし、終わっての下半期での活躍を期待します。
◼️第7試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
海野 翔太 vs “キング・オブ・ダークネス”EVIL
G1敗退が決定されている海野からの辞退文音読をリングアナに強要し、煽るEVIL。当然の如く海野は激昂し、開始早々EVILに襲いかかりますが、館総出で海野の処刑に。悪行三昧は相変わらずでありながらも、ここ最近はここまでコテコテなのは鳴りをひそめていたので、わりと新鮮に映りますね。
集団戦で徹底的に追い込まれる海野でしたが、棚橋社長の有言実行の実力行使による乱入もあって海野は何とか復活。EVILが掟破りのデスライダーを見せれば、海野も掟破りのEVILを見せるという展開に。最後はデスライダーでEVILを倒しての逆転勝利。決勝進出はならずともEVILの野望を食い止めることに成功しました。EVIL、破竹の快進撃を思うと決勝トーナメント進出は確実視されていただけに、この展開は意外でしたね。
海野、正直な話ベビーとしてはまだまだ「貫目」が足りず、どうにも絶対ベビーの社長や敵役としてのHOTの両方にお膳立てしてもらって勝った印象は拭えないですね。しかしながら、決勝進出がかかった試合でなく敗退が決まっているという立場と、ベビーとしてまだそこまで絶対的な支持があるわけではないからこそ、EVILの悪辣さも普段よりストレスなく見れた側面もあるわけで、これに関しては良かれ悪しかれな部分があると思います。まあ普段ベビー側のファンが乱入や介入でヤキモキしていたのを、今度はヒール側がやり返されたと思えば因果応報と言えなくもないのですが、負けるなら負けるでスッキリ納得のいく負けが見たいという気持ちはわからなくもないですかね。
あと、なんだかんだで海野の特性としてこうしたシチュエーション先行の試合はわりとガッチリハマりやすく、このエンタメ気質とエンタメ適性が高いのって間違いなく彼個人の長所であり、同じようなシチュエーションをこなすとなると新世代の中で一番ハマるのも海野なんだと思います。そうした意味では場さえ整えてしまえばこうした試合をやることに一番違和感がなく、しっかり声援が飛んでいたあたり、海野も言われるほど悪くはないなと思うんですよね。根っからのヒーローショータイプなんですよ。その「要素」を持った選手は今までもいたのですが、そこに特化したレスラーというのも意外と珍しく、その将来性を考えるとエース候補というのは個人的には納得しかないと思います。
◼️第8試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
内藤 哲也 vs グレート-O-カーン
決勝トーナメント進出がかかったこの試合。今の内藤のコンディション的にオーカーンは色んな意味でちょうどいい相手ながらも、そこに足攻めや膝十字などで「怖さ」をアレンジとして加えていくオーカーン。特に膝に爆弾を抱えている内藤へのローキックは少しゾッとしましたね。オーカーンはどうにも試合構成のサイコロジーがやや乏しいというか、使う技がその局面で出すことの必然性をあまり感じず、他の選手ほど型に囚われすぎることがない代わりに、型がない故の弱みもあります。格闘要素のある技のキレが凄まじい代わりに、プロレス的な積み重ねがそこまでなく、シーンごとの印象が強くても、試合全体を通してそれらの積み重ねをあまり感じない。一枚絵は上手いけれど、漫画にするとそこまででもないという感じが印象的に近いというか……テンポ感や試合の波がハネそうでハネないのは今後の課題でしょうかね。
しかしながら、このG1で連敗街道を脱出した試合終盤の羊殺し→変形コンプリートショット→エリミネーターの必殺コンボはわかりやすくキャッチーかつ、これが出たら終わりという説得力もあっていいと思います。今回の試合もこの問答無用のエリミネーターで内藤を轟沈させ、前年度覇者かつ現IWGP王者の内藤G1敗退という衝撃も上乗せされて、かなりのカタルシスを感じました。
内藤もこのG1では追い続けることに不安は多少あったものの、少し驚いたのはコリエンド式首固めでのフィニッシャーを別ルートとして開拓したことにより、以前よりデスティーノという技自体の価値が上がったように感じます。特にコリエンド式デスティーノは首固めへの派生があるせいか仕掛ける動作にフィニッシャーの予感が加わったことで、以前は終盤の繋ぎ技だったコリエンド式デスティーノがこれで終わってもおかしくない技に昇格した感じもあるんですよ。正調デスティーノ自体ができるかどうかの不安もあって、これは怪我の功名かなとも思います。
それにしても、オーカーンの決勝進出は驚きましたね。これでAブロックはザック1位、鷹木2位、オーカーン3位という結果になりました。決勝進出が決まると夏も終わりつつあるのだなというのを感じます。あと残すはBブロック。それも楽しみにしていきましょう。ではでは。