2023.8.13 新日本プロレス G1 CLIMAX 33 優勝決定戦 試合雑感

約一ヶ月の夏の激闘もいよいよ終幕。選手の激闘に合わせて僕のnoteも連続更新の形で並走していましたが、それもいよいよ最後。いやあ……毎年この日は感慨深いものがありますね。元がそんなにこまめな性格ではない自分が更新を続けることができるのはひとえにこのG1のおかげであり、感想文という体裁ながら楽しませていただいてることには感謝の念しかありません。ではG1最後のレビュー、いってみましょう。

◼️第8試合 時間無制限1本勝負
「G1 CLIMAX 33」優勝決定戦
オカダ・カズチカ vs 内藤 哲也

決勝戦。やはりこのカードになりましたね。今年のG1のテーマは新世代の台頭であり、そんな中であえてこの二人が決勝で戦うということの意味は非常に大きいと思います。変わり映えのしない組み合わせと思われるかもしれませんが、外国人に新世代と層が厚く選手が揃っているからこそであり、これは新時代の到来に対しての叛逆。オカダと内藤による「俺たちの時代」宣言なわけですよ。新日本の会社がブシロードへと移り変わり、そんな激動の中で生まれた稀代の怪物チャンピオン、オカダ・カズチカと、将来を約束されたはずのエース、内藤哲也による逆転の物語。それこそが2010年代の新日本プロレスの歴史であり、間違いなく二人の時代だったと思います。

オカダの肩にはG1史上初の三連覇のプレッシャーがかかっており、単純な話、ここを逃すと同じ記録を作るのにまた3年かかるのです。数々の新日本の記録を塗り替えてきたレコードホルダーが挑む前人未到の大一番。同じシチュエーションはほぼ不可能。対する内藤哲也はやはり2020年ドームでのデハポンコール未遂でエンドマークは付かないまま時計の針は止まっており、それを超えるシチュエーションとなると、今このときのG1決勝戦しかないわけです。加えて41歳のG1制覇は年齢的にもギリギリで、ある意味ではラストチャンス。互いに絶対に負けられない戦いであり、勝負論は十二分に高まっていたと思います。

そんな機運の高まりに反して序盤は至って静かな立ち上がり。ロープワーク、アームドラッグ、内藤の寝そべりアピールと、ここで相手の意表をつくなどの変化球は互いに見せず、あえて今までのオカダvs内藤の攻防のテンプレートを再演することでこの試合のメモリアル性を観客に印象付けます。

もう一つ、無視できない要素があり、それは両者の疲労感にあります。この試合は全体的に重く、ハイスピードではなかったわけですが、それはやはり前日の激闘のダメージの蓄積が両者にあったと見るのが妥当でしょう。しかしながらその疲れを隠さずにそのままさらけ出したあたりに二人の凄みがあり、そしてそれを積み重ねてきた二人の歴史に重ね、勝敗の重みにも重ね、固唾を飲んで見守る観客の前へと突きつけていく……。いやはや……脱帽ですよ。

チンロックでジワジワと首攻めを開始する内藤に対し、オカダは返礼のフラップジャックと側頭部へのスライディングキック。前者はともかく後者は今となっては数えるほどしか見ない技で、凱旋帰国当時のオカダ・カズチカのイメージが強い技でもあります。昔使っていた技を出す意味合いは大きく、オカダ・内藤物語の第一幕開始といった感じですね。

序盤にペースを握ったオカダ。脳へのダメージが不安視される内藤に対し、それを確かめるようなエプロン直下のDDT。これ面白いですよね。前日のことを思うと無慈悲な一撃でありながら、これをきっちり倒立で受け切ることで、逆説的にいつもの内藤であることがわかるという。鉄柵への全力スルーを見せ、内藤のコンディション不安を煽りつつ、戻った内藤に再び無慈悲なDDT。内藤の頭がグサリと刺さり、踏みつけてのアピール。これもまた、ストーンフェイスで周囲を見下していた最初期のヒールチャンプ、オカダ・カズチカの再演なのですよ。

過去の追体験を始めたオカダに対し、内藤は膝を立てる変形ネックブリーカーで反撃。これはやや形が流れましたが、続くヒップトス式牛殺しのようなネックブリーカーはズバリと決めます。前日のオスプレイ戦で光った技の一つであり、過去のオカダvs内藤にはない技の一つです。あくまで自分は今を生きるという内藤の意思表示であり、今というのは過去の連続でもあるのです。一見メモリアルになりそうな試合の中でこうした変奏を差し挟むあたり、内藤はセンスがありますよね。

先ほどのお返しとばかりに場外へ逃れたオカダを鉄柵に放り投げると、鉄柵を利用してのネックブリーカーでオカダ悶絶。ここもまた面白いシーンというか、ネックブリーカー地獄で内藤は反撃したわけですが、そもそもこうした徹底した序盤の首攻めって初期のオカダの定番スタイルだったわけですよ。オカダの領域に入ることでの内藤なりの過去との対話。変則的でありながらも、オカダと内藤は繋がっている。そんなことを実感したシーンでした。そして再び変形ネックブリーカーからのレッグシザースネックロック。いつもの技であり、ここで再び現代へと舞い戻る内藤。この使う技の変換で過去と現代を行き来する内藤は素晴らしいですね。

オカダもコーナードロップキックを狙った内藤に対してリバースネックブリーカーにコーナートップへのドロップキックと、今でも使う定番技を披露して過去からの継続での今を見せます。このときのドロップキックの内藤の落ち具合はかなり危険で勢いがついており、これはちょっとゾッとしちゃったわけですが、この技は2012年のIWGP初戴冠時、当時の棚橋との王座戦で疑惑の目を向ける観客の度肝を抜いた技でもあり、今となっては見慣れた技でも内藤のド派手な受けで当初の危険技の印象を蘇らせたのは凄まじいと思いました。

そしてオカダは内藤に場外ツームストン!これもコーナートップへのドロップキックと同じ、2012年のIWGP王座戦でオカダの怪物性を知らしめた技の一つです。オカダのツームストンは旋回式、開脚式とオカダの成長に合わせて変化してきたわけですが、今となっては通常式のツームストンはこうした場外での一撃で使用することが多くなっており、たまに使うことはあるのですけれど、内藤相手に繰り出すのは意味合いが変わってくるというか、嫌でも昔のオカダが頭をよぎってしまいますね。

ボロボロの状態でリングに戻った内藤に対し、跳ね上げるような高角度のジャーマン。ローリングラリアット。レインメーカーは避けられたものの、代名詞技であるドロップキックが突き刺さり、たまらず内藤はダウンします。序盤から色濃く見えていた疲労度はここで一旦限界を迎えた感じがありますね。

そして始まる無情のダウンカウント。この試合、戦前からあった懸念として内藤の前日のオスプレイ戦でのアクシデントがあり、ここにきてその不安感が一気に悪夢となって表面化した感じです。実は内藤だけでなくオカダにとってもこれはトラウマであり、遡ること一昨年、G1決勝での飯伏幸太戦でのレフェリーストップという悲劇があり、プロ意識の高いオカダからすると戦いを完遂できなかった無念の味は筆舌に尽くし難いものがあるわけです。「無事にこの戦いを終えること」これは双方の選手も観客も含めて会場全体の総意であり、この試合の中で一番ハラハラしたのは間違いなくここですね。

だからこそ中断させるわけにはいかず、ダウンカウントはオカダが途中で止め、内藤に気付け代わりのエルボースマッシュ一発。ここでゆらりと立ち上がった内藤がオカダに吐き捨てた唾。いやあ……これにはシビれました。昔は背伸び感と反骨心を感じた挑発なのですが、今は別でそこには哀愁すら感じる……。間違いなくこの試合の名シーンの一つであり、間違いなく世界一カッコいい唾吐きですよ。そして余計な心配は無用だと言わんばかりのトルネードDDT。コンディションは問題ないと示す一撃なのが見事でしたね。

度重なる首へのダメージでオカダの表情が崩れる中、内藤は首への引き込み式バックエルボーを乱射。いつもより重く、いつもより激しく打ったわけですが、オカダは倒れながらも指クイで「打ってこい」とのアピール。内藤の唾吐きに勝るとも劣らない名シーンの一つであり、超一流は所作だけで対話するのです。内藤は雪崩式フランケンシュタイナーを繰り出すと、そのままプルマ・ブランカへ。これは自身がG1を駆け上るきっかけの技であり、そしてまたロスインゴ化するまでの長い期間、ブーイングを浴び続けることになった技でもあって、これを今の内藤がG1の舞台で繰り出すのは本当に惚れ惚れするわけです。

オカダはロープに逃れるも内藤は機を逃さず、エスペランサにコリエンド式デスティーノ。現代へと時を進める内藤に対し、オカダはコリエンド式を捉えてヘビーレインの体勢へ。これは内藤のDDTの切り返しで未遂に終わりましたが、オカダは徹底して過去への探訪にこだわり続けます。

そして内藤のバレンティア。胸を叩いてのスターダストプレス。前回は語弊を恐れず「捨て技」と称したわけですが、この試合も出したタイミング的に決まる感じではなかったですね。ただ、同タイミングでこの技が命中したのは内藤がオカダ超えを果たした2020年のドームの時であり、それを踏まえると当たるか当たらないか含めて結果はシュレーディンガーの猫なのですよ。今回は外れましたが、逆にこの技が当たり、ピンを取るのはいつの日なのか。ひょっとすると外し続けて引退試合で当てて終わるのだろうかとか、そんな妄想をしてしまいました。

ここで30分経過のアナウンス。ロープに頬を当て立ち上がろうとするオカダの表情が本当に素晴らしく、限界まで削られた姿を讃えることに罪悪感を覚えつつも、それでも目を離せないのがプロレスという残酷な趣味の本質です。そして一気に立ち上がるやいなや、勢いをつけてのショットガンドロップキック!そしてショートレンジでのラリアットを放ちますが、これはバックに回って縋り付いて防ぐ内藤。オカダはツームストンを狙いますが、これも縋り付くようにして阻止。内藤も必死です。

業を煮やしたオカダがハンマースルー。内藤はフライングフォアアームを放ちますが、これはオカダがキャッチしてレインメーカーの体勢へ。これは2012年のオカダvs内藤の最初のIWGP戦のクライマックスの再演であり、内藤にとってはオカダを追いかける日々の始まりを告げた攻防の一つで、ようやく現代と過去を行き来した二人が再び出会った瞬間でしたね。しかしこのレインメーカーを躱すと、このG1でザックと棚橋を葬ったスイング式首固め。まさにバックトゥザフューチャー。今現在の内藤哲也の一番ホットな技であり、内藤なりの過去からの脱却の一発です。これをすんでの所でキックアウトしたオカダに対し、内藤は再びフライングフォアアーム!コリエンド式デスティーノを狙うも、オカダは迎撃のドロップキックからの開脚式ドライバーで一気にクライマックスへと雪崩れ込みます。

レインメーカーvsカウンターのデスティーノ。双方共に不発に終わるも、オカダのショートレンジラリアットが火を吹きます。足早に周囲を回りつつタイミングをズラすオカダ。立ち上がりが一度は崩れつつも、放たれたラリアットに対しドンピシャでのポルポ・デ・エストレージャでの切り返し!以前、武藤戦のときに僕は内藤のことを「タイムマシン」と評したわけですが、今回はまさにそれですね。先ほどのスイング式首固めから一転して再び過去へと舞い戻る。それでいて単なるメモリアルではなく、2022年のNJCでオカダにリベンジしたこともある思い出の技でもあるのです。

そして勝負は最終局面へ。オカダのカウンター技であるケブラドーラコンヒーロ式のドライバーを防ぐと、内藤はコリエンド式デスティーノ。続く正調デスティーノは回転の反動をつけてオカダが垂直落下式のドライバーで返します。このときの絶望感は凄まじく、ここにきてカウンター技のバリエーションの引き出しを開けるあたり、終盤戦のオカダは本当に怖いですよ。そしてレインメーカーで終わりかと思いきや、避けた内藤がまさかのレインメーカー式デスティーノ。過去と現在。そしてこれからの未来と、この勝負の中でかつての勝負を再演しつつ歴史探訪を繰り返してきた二人が手を取り合った瞬間でもあり、いつも手を掴むオカダに対し、最後で手を差し伸べたのは内藤なのですよ。そして……。最後は内藤の正調デスティーノ。3カウント。言葉が出ません。内藤哲也41歳最後の夏は、三度目のG1優勝とオカダvs内藤のベストバウト更新という最高の結果で終わりました。

何が勝負を分けたのか。その答えは内藤のマイクにありましたね。「このリングの主役は俺だ」ロスインゴより遥か前の、スターダスト時代から言い続けている決め台詞。それは信念であり、自己暗示であり、昔から変わらない目標の一つでもある。「プロレス界に金の雨を降らせる」というオカダの言葉と比較するとスケールは小さいながらも、徹底してこだわり続けたプロレスラーとしてのエゴイズム。体格で負け、実績で負けても、これだけはオカダに譲っていないもの。それは何を隠そう主人公力であり、主人公だからこそ勝つことができた。これに尽きます。

「ずっとという言葉は好きじゃない。だからこそ今というもう戻らないこの瞬間を楽しみたい」刹那的でありながら、41歳の内藤哲也が言うのは非常に重く、時折限界こそ見えはするものの、それでもファンの心配を他所に、当の内藤はどこ吹く風でただひたすらに走り続ける。今日のリングの上には確かに「今」しかありませんでした。僕は今まで勘違いしていましたが、今っていうのは明日がないという意味ではなく、いずれ過去になるであろう時間を憂うものでもないんですよ。これが内藤哲也のラストランの始まりな予感もあるのですが、かといって終活ではないのですよ。あくまで「今」のために、内藤はいつだって全力なのです。だって今しかないのですから。

安室奈美恵の「Chase the Chance」という歌の歌詞が僕は非常に大好きなのですが、今回のマイクでその歌の冒頭を思い出しましたね。まさにあれで歌われたことと同じ心境ですよ。内藤は「今」というキーワードを連呼しつつも、一度も「今しか"ない"」とは言いませんでした。今というのは本来後ろ向きに使う言葉ではないのです。今はただ言葉通りの「今」でしかない。残り時間の少なさなんて他の誰よりも内藤自身が自覚してます。だからこそ魂を燃やすように、今という時間を目一杯生き抜く。そこに不純物は必要ないのです。また一つプロレスに教えられましたし、プロレスには人生の学びがあります。だからこそ、僕はプロレスを見るのがやめられないのです。

試合後で感動したことが二つあって、一つは決勝でライバルが対峙するというエモいシチュエーションでありながら、当のオカダと内藤はそれに耽溺することなく言葉少なに終わらせたことで、決してベタベタしていなかったことなんですよね。解説の棚橋相手にも内藤は目配せだけして終わったというのがとてもよくて、あれは本当に格好いいなと思います。令和の時代はエモーショナルの中に生きてることを自覚しがちではあるのですが、それらは観客の中に放り投げて、当人たちはただひたすらに目指すものしか見ておらず、あれは最高にクールでしたよ。

もう一つは今回の内藤哲也G1優勝が決して内藤哲也の晴れ舞台の「やり直し」感がなかったことです。ファンの脳裏に刻み込まれているドームでのデハポン中断。内藤哲也を語る上であれは外せず、またあの瞬間を超える高揚感を今後出せるのかという不安は常にあったのですが、今回は間違いなく試合内容、シチュエーションともにあの瞬間を超えており、オカダvs内藤の試合は今回が一番の名勝負です。それは今までの積み重ねがあったからで、今の年齢、今のキャリアでしか生み出せないものがある。プロレス、本当に最高ですね。





今日はワンマッチレビューしか書く気がなかったのですが、最終戦というのもあって普段よりボリュームが多めとなっております。noteの更新もこれでひと段落で、これからはまた気が向いたときにポツポツ更新していきますね。お付き合いしてくださった多数の読者様。本当にありがとうございました。モチベーションが保たれたのも、単なる感想文に過ぎないこれらを読んでくれる人がいたおかげです。今はただ感謝を。またお会いしましょう。ではでは。


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