2025.1.1 プロレスリング・ノア ABEMA PRESENTS NOAH “THE NEW YEAR” 2025 試合雑感
あけましておめでとうございます。昨年の下半期は東京への引っ越し等の私事で忙しく、全然時間が取れなかったわけですが、その我慢を爆発させるべく、行ってきましたよ!NOAHの元日興行!日本武道館へ!自分にとってはおよそ20年ぶりとなるNOAHの現地観戦ではあったのですが、今まで行く機会に恵まれなかったんですよね。東京に住まいを移したのもあってアクセスが容易になったので、ひょっとしたら今までよりも現地観戦の機会が増えるかもしれません。
スケジュールの都合上、ノアの1.1と新日の1.4、どちらを取るかで非常に悩んだのですが、今年はともかく来年は棚橋の引退試合というのもあって2026年の1.4は行かないという選択肢はなく、来年が棚橋なら今年は中邑を選ぼうかと(笑)自分にとってのこの二人はやはり特別で、プロレス暗黒期にプロレスから離れずにいれたのはこの二人がいたからこそなのですよ。
日本武道館、相変わらず座席が硬いですね(苦笑)学生の時ならまだしも、大人の身だと常時アトミック・ドロップ状態なので長く座ってると坐骨がマジで死にます(笑)しかしながら全体的に見やすくはありますし華やかなんですよね。俯瞰で見るのが好きなので今回も2階席にしました。
久しぶりのNOAHの会場だったわけですが、空気は昔と比べるとだいぶ変わって垢抜けたのを感じます。しかしながら新規客の明るさと昔のノアファンのノスタルジーが混じり合った独特の雰囲気があり、昔はよく言えば硬派、悪く言えば閉鎖的な空気だったのが、今は思った以上に柔らかく温かみがあったのが印象的でした。
さて、長ったらしい前置きもここまでにして、そろそろ本題に入りましょう。
◼️ダークマッチNOAH THE RUMBLE
新年のランブル戦は新日もやっているせいか、日本マットでもお正月の恒例となりつつある気がします。WWEのそれと比較すると新日もノアもお祭り要素の方が強く、肩の力を抜いて気楽に見れるのがいいですね。途中で入場してきた井上雅央が放置されてて「気づいてあげて!」と野次が飛んでいたのは笑いました。昨今は野次は嫌われがちではありますが、こういうのがあるから完全禁止とまでは言いにくいんですよね。悪質だったりセンスがないのはダメですが。
ランブル戦となると気になるのはゲストの存在であり、予定人数に達する直前になってもリング上にかなり選手が残っていたので最後に来るのは所謂「掃除屋」かな?と思っていたのですが、現れたのはまさかのダンプ松本!これには一本取られました。ランブル戦は選手が矢継ぎ早に入場する関係上、選手に対する事前情報がある程度は必要となるわけですが、その前提を軽くすっ飛ばせる人選でしたね。間違いなく今現在最も有名なレスラーの一人であり、プロレスを元にしたNetflixの『極悪女王』に今度はプロレス側から乗っかるという相互作用が素晴らしいです。
とりあえず一通り竹刀で蹂躙した後、全員からのカバーでダンプ松本退場。その後は残った選手での攻防の中、最後はタダスケが漁夫の利で勝利をモノにしました。ランブル戦での勝利って普通のプロレスの試合の勝利の余韻とは少し違ってて生き残りを賭けた戦いのせいか、マラソンを完走した時のような「やり切った」感があるんですよね。タダスケ会心のガッツポーズと試合後のダンプのマイク、とても良かったですよ
◼️GHCジュニアヘビー級タッグ選手権試合
3WAYマッチ
HAYATA&YO-HEY vs AMAKUSA&宮脇純太 vs アレハンドロ&カイ・フジムラ
同郷というのもあってこの面子だとついつい宮脇純太を応援してしまいますね。一本背負い式のファルコンアローはバックボーンもあってかいい技だと思いますし、以前よりも躍動感と輝きが増している気がして安堵するやら感動するやら。しかしながら個人的に一番目を引いたのは実はカイ・フジムラであり、試合の要所要所でピンポイントで釘を刺すような動きに舌を巻きましたし、輝きっぷりが凄かったです。あれは間違いなく主人公のオーラですね。宮脇も恐らくそのタイプだと思うのですが、この二人がいるならノアジュニアは安泰だなと思わされました。
そんな希望も束の間。やや押され気味だった金髪夫婦がペースを握り返し、最後は403インパクトでHAYATAの勝利。やはり立ち姿が絵になるビジュアルの強さとタッグチームとしての安定感。終わってみれば盤石のコンビであり、これには敵いませんね。
◼️8人タッグマッチ
NEW YEAR LIMIT BREAK
潮崎豪&モハメドヨネ&小峠篤司&大原はじめ vs 藤田和之&石川修司&遠藤哲哉&ブラックめんそーれ
石川修司と真っ向から撃ち合えるモハメドヨネ、ヤバいですよね。バトラーツ仕込みのバチバチさに衰えはないどころか、今は貫禄すら付随されているせいか、普段は流しがちなエルボーラリーすらモハメドヨネと石川修司の二人なら見応えがありますね。一瞬で脇固めに取ったのも素晴らしかったですし、今のヨネってもっと大物扱いされてもいいんじゃないかと思うんですが。
それにしてもTEAM NOAHとはいえ、相手が藤田和之に石川修司という怪物コンビに加え、リミブレでの縁があるとはいえエンテツがしれっと混じってるのは戦力としては些か傾きすぎというか、明らかにタッグのパワーバランスというか格の面で差があって、バトルシップの古参兵vs敵側がアベンジャーズのような違和感があって笑いました。ただ、ロートルの集まりみたいな意地の悪い揶揄をされることもあるTEAM NOAHがこうして格上の強敵連合軍に挑む図は燃えますし、こういうのを見せられちゃうと傍流ではなく主流で見たいなと思わされてしまいますね。
そんな中、我らが潮崎豪の輝きは素晴らしく、めんそーれのサミングに苦しみつつも最後は豪腕ラリアットで一蹴。その「豪音」は2階席までしっかり届きましたよ。
◼️シングルマッチDefeat the Beast
藤田和之 vs 小田嶋大樹
8人タッグから間を置かずにすぐさま行われた藤田のダブルヘッダー。1分間野獣討伐チャレンジですね。開始早々、小田嶋はハンマーブロー、エルボー、逆水平、さらにはドロップキックと果敢に攻め立てますが藤田は動じず。若手とやる藤田和之は不器用な頑固親父感があってとてもいいですね。小田嶋も藤田の顔面を蹴り飛ばすなどデンジャラスな攻撃を見せますが、野獣のラリアットで薙ぎ倒されると最後は藤田のパワーボムで粉砕。ラリアットの時点でフォールを返す力が弱々しく、最後のパワーボムでも上半身が上がり切ってなかったあたりにリアリティがあります。結果の上では引き分けでも誰が見て分かる通りの玉砕であり、こうして見ると実際には一分も要らなかったとはいえ、制限時間としての一分は少々短すぎましたかね。
◼️シングルマッチBrother vs Brother
イホ・デ・ドクトル・ワグナーJr. vs ガレノ・デル・マル
スト2のリュウケン対決のような同スペックだけどキャラ性能的に少し違う擬似ミラーマッチのような印象を受けました。ワグナーは試合内容のみで今の評価を築き上げた猛者であり、それだけに試合内容が非常にいい意味で教科書的というか、お手本のような試合でした。飛び技一つとっても二人とも身体の厚みがあるせいか文字通りの「重爆」であり、体格の良さに伴う打撃の重さもあり、軽やかさと重さが同居するシンプルかつ骨太な試合でありましたね。
ワグナーJr.もスワンダイブ式のコードブレイカーやワグナードライバーなどを見せるも決め手にならず。パワーに勝るガレノがセカンドロープからのムーンサルトを被弾させると、最後はベアハッグの体勢から持ち替えてのネックブリーカー「ガレノスペシャル」で兄超えを果たして終わりました。規格外のパワーと重戦車のような機動力!何度も噛み締めたい良試合でした。
◼️シングルマッチNOAH 25th ANNIVERSARY SPECIAL
拳王 vs KENTA
今大会の個人的ベストバウトの一つです。場内の応援は耳にした印象としては真っ二つに分かれており、今の時代のカリスマである拳王のラブコールにより成立した過去のカリスマであるKENTAとの対峙は新旧カリスマ対決として重みがありますよね。KENTAへの声援はあの頃を知る熱狂的な古参ファンと、新日を経由することで知名度を増した今のKENTAが好きなファンとの混成なのに対し、拳王への応援は当人へのファン心理だけでなく、そうした過去の時代に負けないで欲しい、時計の針を戻さないで欲しいという強烈な対抗心もあったような気がして、久しぶりに歓声を聞くだけで身体がゾクゾクと震えました。
NOAHのKENTAに求められているのは新日で見せているような反則でのらりくらりするスタイルではなく、かつてのバチバチの特攻スタイルなのは周知の事実で、そうしたファンの心理は裏を返せば「昔のKENTAが良かった」というノスタルジーにも繋がります。それは当人からすると恐らく最も言われたくない台詞の一つであり、挑戦を繰り返してきたKENTAからすると過去の栄光に縋るのも良しとはしないでしょう。そんな複雑な心境の中で出した「今のKENTAを見せる」との言葉は牽制でありながらも現在進行形のKENTAというものへの強烈なプライドも感じさせました。
そんな中、KENTAは「あの頃」の曲で入場。小橋を含むバーニング勢5人が離脱して、ただ一人残された反背広組であり、団体が今よりもっと薄暗く未来が見えなかった中、バーニングの残火が唯一の希望の灯火として団体を照らしていたBLACK SUNの時代。孤高のカリスマとして一年近くGHCヘビーを防衛していたあの時代が一気に去来しましたね。これは「忘れてないよ」とのKENTAのファンサービスであると同時に、過去が繋がって今があることの証明でもありましたね。それだけで僕は涙腺が緩んでしまいました。
対する拳王は髪をかつてKENTAと戦っていた黒髪に戻しての登場。そしてリングに立つKENTAに対して「おかえり」のシェイクハンド。幾ばくかの逡巡の後、これにKENTAも応じクリーンに幕が上がりました。
しかしながら試合内容は壮絶で、ロープブレイク時に拳王の張り手一閃!KENTAも負けじと返すも、続く一発でダウンを奪われると、怒涛の場外戦から鉄柵攻撃。さらには拳王のミドルキック乱射で悶絶します。ここで放った拳王の場外フットスタンプは自身の得意技でありつつも、かつてKENTAが得意としていたコーナートップからの場外鉄柵超えフットスタンプが頭をよぎりましたね。過去のKENTAを象徴する技であり、過去のKENTAならできるだろうという再演への布石と最大級の挑発。KENTAはこれをかわすと場外パワースラムで反撃。スピーディかつコンパクトでキレは抜群であり、これ密かなKENTAの得意技の一つなんですよね。かつて三沢がフライングラリアットで自身の調子を確かめていたという逸話がありますが、KENTAにとってはパワースラムがそれなんじゃないかなと勝手に解釈しております。加えてこの辺りの場外を使ったペースチェンジはバレクラ時代に培ったダーティーな戦術も生きており、拳王の過去を想起させる問いかけに対する、今の俺はこれだよ、とのアンサーのようにも思えました。
そしてKENTAは緩急をつける首四の字やヒデオ・イタミ時代のニードロップ。そしてミドルキックの乱射とギアを入れ替えて攻めていきます。拳王も負けじとミドルキックで応戦しますが、やはり打撃では今のKENTAと今の拳王では拳王の方に分がありましたね。かつてのKENTAのように蹴り伏せるほどにはいかない衰えに哀愁を感じた場面であると同時に、それでもほんの少しの時間でいいなら、蹴り合いに付き合えるしかつての自分を揺り戻す程度には蹴りを出せるんだよという意地にも見えました。
Twitterにも書きましたが、KENTAは語弊を恐れずに言えば騙し騙しやることへの割り切り方がとても凄くて、渇望されるあの頃のKENTAは加齢や怪我による肉体的なコンディションとしては土台無理な話なわけです。しかしながらも、その中でもほんの一瞬だけならかつての自分を取り戻せるわけで、それは努力によるノスタルジーの再演ではなく、現実的な手持ちのカードによる手段の一つに過ぎません。表現が難しいのですが、今の状態でできるだけのことを精一杯やったというのとも全然違うのですよ。鍛え上げられた太ももを見ればそれは分かります。これも含めてあくまで現在進行形かつ集大成。それでいて単なるノスタルジーでは絶対に終わらないという強い意志がKENTAにはあり、それでいて渇望されるあの頃を見せつつも、それをしっかり今の自分として織り交ぜていく。こうした周囲の期待感と差し迫った現実の中での「折り合い」の付け方はまさに大人のそれであり、近い年齢になった自分としてはたまらなくブッ刺さりました。
死闘はさらに加速し、ビッグブーツの相打ちにKENTAがハンギングDDTにコーナードロップキックやフットスタンプで立体的に攻めると、拳王も負けじとアンクルからの腹部の蹴り上げや蹴暴など、打撃力に勝る直線的な攻めでKENTAを追い詰めます。興味深かったのは二度に渡って仕掛けた拳王スペシャルを完璧に防がれたことで、KENTAにとっては対ヘビーの突破口となった技であり、GHC奪取のきっかけでもあったGAME OVERと最終的には同型の技だからこそ、これを許さなかったあたりに彼のプライドとこの技に対する理解度の深さを感じましたね。
拳王もハイキックからドラゴンスープレックス、蹴暴の連発とギアを上げましたが、クロスカウンター式の張り手でペースを取り戻すと、最後はKENTAがブサイクへの膝蹴りから左右のバズソーキック、そしてgo 2 sleepのフルコースで完璧な3カウントを奪いました。
勝敗を分けたのは拳王スペシャルとGAME OVERの練度の差。もう一つ語弊を恐れずに言うのであれば、KENTAに帰る家はない。その覚悟の差ですかね。受け入れられていたとしても新日本では外様であり、年齢的に重用されるような若さがあるわけでもない。NOAHは自身のホームかつ古巣でありつつも、今の新生NOAHはかつてのNOAHとは違い、そうした過去から脱却しようとしていて、舞い戻っても下手すればレジェンドという名の「懐古枠」になる恐れもある。KENTAは常に「自分は本当に必要とされているのか?」と内向的に問い続けている感じがあり、そうした内なる声に対して自分の価値を証明し続けようとする反骨心があります。かつて袖にされたと言っても過言ではないWWEに、今最も近い日本の団体はNOAHであり、この戦いを通じて見せつけてやるという野心もあり、いまだにそれを捨てていない点に、僕は否応なしに惹かれてしまうわけなのです。
この試合後は答えを保留しましたが、翌日の1.2で拳王と和解し、拳王の誘いではなく、自分の意思でのNOAH参戦を決断。それは決してノスタルジーなどではなく、今のKENTAを見せつけるため。「いつでも準備できてるぞ」はリップサービスではない、正真正銘のスタンスなのです。新日ではヒールでしたが、超ベビーのKENTAは NOAH。妬けるようでありながら、いずれ来たであろうKENTAの NOAH帰還が最も美味しいタイミングで実現したことに、今は感謝の念しかありません。
◼️GHCジュニアヘビー級選手権試合
ダガ vs Eita
完全無欠の王者ダガに対して唯一互角に近いレベルで対抗できるのがEitaでありますが、三本勝負の一本目は速攻のディアブロウィングスでダガの先制。一気に追い込まれるEitaをパイルドライバーでの場外テーブル葬からディアブロウィングスを狙うも、これをジャックナイフ式エビ固めで押さえ込んでEitaがイーブンに戻します。わずか5分に満たないうちに三本勝負の二本が決まるというスピーディさ。これには驚かされました。15分番組でやったダイジェストエクソシストのような超高速悪魔調伏。やや「巻き」が入っていた気もしますが、縦横無尽に迫るダガに対して必死にEitaが追いすがり、ギュッと濃縮した高密度かつハイスピードな攻防は、最後は雪崩式カサドーラこと秘技サラマンダーでEitaが勝利!改めて見ると雪崩式カサドーラの説得力ってヤバいですね……。
◼️GHCナショナル選手権試合
征矢学 vs マサ北宮
これもまたお手本のような試合だったというか、パワーファイターでありながら無我ベースのベーシックな土台を築く征矢と、アメリカンプロレスのマサ北宮の相性が悪いわけもなく、この試合より所作が雄弁な試合も他にないでしょう。互いに放ったブレーンバスターはとても美しく、 杉浦といいNOAHはブレーンバスターの名手が多いですね。
首攻めの征矢と足攻めのマサ北宮のコントラストも分かりやすく、監獄地獄を抜けた征矢が最後はスライディングのような感じで膝立ちの北宮にDDT。そして情熱DDTで串刺しにして勝利しました。いやあ、シンプルかつわかりやすいプロレスらしいプロレスの試合でしたね。
◼️GHCタッグ選手権試合
丸藤正道&杉浦貴 vs ジャック・モリス&オモス
史上最大のXの言葉に嘘偽りなく、現れたのは221センチという巨漢のオモス。とはいえ、僕自身は以前からこのnoteでも何度か書いている通り、昔のファンほどにはレスラーのデカさに実のところそこまで拘りはありません。理由は単純に、今まで見聞きしてきたコンテンツの影響があまりにも強いんですよね。ナッパよりベジータが強く、90年代ビッグショーの負けっぷりにボブサップのミルコ戦の敗戦や曙の大晦日での敗北。セーム・シュルト以降のK-1の失墜と、とにかくデカいだけじゃダメというのが骨の髄まで刷り込まれてしまっているせいか、デカさに対してロマンを感じないつまらない世代なのですよ。ただ、それに反してコンタクトスポーツを一度でもやったことのある人間なら、身長差や体重差による絶望的なスペックの違いは肌感覚として分かる話で、それはどうしようもないリアリティかつ現実なわけですよ。デカさにロマンを感じないけど、現実的な価値とその強さは知っている。毎回その狭間で思い悩んでいたりします(苦笑)
しかしながら、物事には例外があるのが世の常であり、221センチは流石にそうしたくだらない考えを一蹴するぐらいのインパクトはあり、今回は生観戦だったということもあってそれをまざまざと思い知らされました。とにかく遠目から見てもデカい!この興奮と失われて久しい、言葉を選ばずに言えば「異形」に対しての畏敬の念はプロレスの原点に近いものでもあり、それを味わえただけでもこのXの価値たるや凄まじいものがありますね。そして何より入場曲も怪物的。これはもはや生で見る怪獣映画ですよ!デカいだけなんて……ってオモスの目の前に立って言えるんかって話です。これがWWE特有のワールドクラスな空気感を纏って入場してくるわけですから、興奮しないわけないですよね。
試合としては丸藤と杉浦をレジェンド二人を相手取ってもオモスのプロモーションに振り切ったことには驚きましたが、この試合に限ってはそれで正解だった気もします。わかりやすいですものね。時折ちょっかいをかけるヨシ・タツの働きも素晴らしく、ヨシ・タツってナメられがちですがスポークスマンとしてはすこぶる優秀で、嫌でも目を引き記憶に残る目立ちっぷりもさることながら、そのワードセンスが素晴らしいんですよ。ヨシタツ名言集を出してもいいんじゃないかと思うぐらいキャッチーな言葉を作り出すのが上手いですね。
最後はほぼハイパーアーマー状態で蹂躙したオモスが丸藤を高々と抱え上げてピン。記録上ではダブルチョークスラムとなっていましたが、それだとネックハンギングボムやボルドーボムになりますかね?スカイハイ・ドロップというと、かつてのディーロ・ブラウンの技を思い出しますが、高さとインパクトがダンチでした。
◼️ダブルメインイベント①
スペシャルシングルマッチNEW YEAR FIRST DREAM
中邑真輔 vs 佐々木憂流迦
俎上の鯉。中邑真輔シェフによる佐々木憂流迦解体ショー。それに尽きます。中邑は戦前の挑発から試合後のインタビューでまでかなり意図的に猪木を模倣していましたが、盤上の駒をひっくり返し、飛び散った駒で謎かけをするような難解さはなく、また制裁めいたものでもなく、残酷ショーとまではいきすぎない、しっかり「試合」として成立させたあたりに中邑のポリシーを感じますね。
佐々木憂流迦は以前このnoteで人造・中邑真輔と評したことがありましたが、2003〜2004年頃の総合格闘技とプロレスのハイブリッドを期待されていた頃の中邑がそのまま成長したかのような、かつてあった理想像としての中邑を NOAHが人工的に作り上げたような印象があります。もちろん、レスラーとしては全然違うわけですが、先達に対してのオマージュがあるのは憂流迦が使用している中邑考案のシャイニングトライアングルを見ても分かる通りで、この技自体がプロレス技の代表たるシャイニングウィザードと、高専柔道由来の総格技の代表格の一つである三角絞めのハイブリッドであることからも憂流迦の立ち位置は明白ですね。元々、こうしたプロレス技と総合格闘技技の融合って若手時代の藤田和之や武藤敬司が使っていたフランケンシュタイナー式腕ひしぎがその嚆矢だと思うのですが、総合格闘技とプロレスが道を違えずに入り混じったIFの世界線にいるはずの存在が佐々木憂流迦だと僕は解釈しています。
しかしながらそうした格闘技に対してのプロレス側のコンプレックスがもはや遠い過去の話になったのが今であり、そうした中で何を憂流迦が見せるのか?というのがこの試合における一つのテーマだったのでしょう。憂流迦という存在が面白いのは、そのプロレスに対する適応力や才能もそうなのですが、憂流迦の見るプロレスに対する「まなざし」が一番の見所なんですよね。プロレスが総合格闘技に押されていたあの時代に生きた身としては、未成熟の天才、佐々木憂流迦というフィルターを通して伝わってくるプロレスの深淵やその難解さが逆にとても新鮮に映るというか、プロレスというジャンルに対しての信頼性や自尊心が回復していくような、そんな妙な心地良さがあるんですよ。それは時代の変化もあるのでしょうが、確実にプロレスの進化による受け手側の受容の変化もあるわけで「プロレスをナメるな」というような、コンプレックスの裏返しのようなものもない。ただひたすらに、憂流迦と一緒にプロレスを「勉強」していける。憂流迦の「プロレス探訪」が、そのまま「プロレス再発見」に繋がっているわけなのですね。そりゃ夢中になっちゃいますよ。
そんな中、中邑が突きつけたのはジェラシーや情念、生き様といった感情部分であり、これは確かに正当な問いかけだったように思います。憂流迦は非常に面白いレスラーで、その真摯さやひたむきさを応援しつつも、確かに感情面で揺さぶられたことがあるか?と言われたらNOであり、それがレスラー佐々木憂流迦の足りないパーツであることを見抜いた中邑は慧眼ではありますね。とはいえ、その前提条件が観客側と共有できていたかと言われたらそれは難しく、やや空回ったままで中邑と佐々木憂流迦の純然たる格の差だけが露骨に浮かび上がってしまった。観客が中邑の指摘に呼応するほど憂流迦にヘイトを向けているわけではなく、また互いのガチの強さを測るほどにヒリつく類の試合でもなく、本質はそこにあったわけでもなかった。それらを加味して今回の試合は良くも悪くもスペシャルシングルマッチの域を出なかったように思います。
あまり試合レーティングを語ることを僕は好みませんが、この試合に限っていうなら75点の試合で、そうなったのは前述の理由になりますが、憂流迦側が解答を用意しないとその点以上にはならない気がします。単なる「いい試合」をしようとしたのであれば、中邑の力量なら試合のクオリティはもっと上になったでしょうが、限界値を超えて中邑真輔を引き出して相互作用として名勝負に仕立て上げるほどには佐々木憂流迦はまだ育っておらず、それはキャリアを考えれば当たり前の話です。加えて中邑もそこまでお膳立てする気もなかった気がしますし、それ自体が憂流迦を一人前のレスラーとして扱っていることの証左でもありますね。
そんな中、テーマに呼応する形で唯一垣間見えたのは佐々木憂流迦のスリーパーであり、ロープ越しに無理やり引き摺り込んだり執拗に仕掛けた様はほどよく「逸脱」感があり、中邑の狂気に満ちた世界観の中で唯一正気を取り戻すのが身に染みた得意技というのは腹落ちします。醒めない悪夢から目覚めるためのスリーパーというのが非常に面白いですね。
総合格闘技の技術としては憂流迦が上かなと思いつつも、レフェリーをサッと片手で誘導する中邑の仕草はWWE経験者らしい視野の広さを感じましたし、インサイドワークに雲泥の差がありましたね。これもまた「プロレス」の実力ですよ。最後もムタとの戦いを通してラーニングした毒霧からキンシャサで中邑の完全フォール勝ち。どの領域で戦うも自由であり、自由は強者の特権です。憂流迦はもっともっと自己主張を。それが僕の願いですね。これはまだ序章に過ぎませんよ。中邑vs憂流迦の第二章。期待したいですね。
◼️ダブルメインイベント②
GHCヘビー級選手権試合
清宮海斗 vs OZAWA
文句なしに今大会のベストバウトです。OZAWAに関しての個人的な評価は、当初の衝撃的な暴露は良かったものの、それ以降は最初のインパクトを超えることはなく、やや浮き足立っていたなという印象がありましたね。色んな人が語っている通りこのカード自体がかなりの博打だったと思います。
しかしながらOZAWAの才能に対しての期待感を上手く醸成できたのは素晴らしく、一度だけ見せたワンステップのフェニックススプラッシュに、誰よりもハヤブサを知るミスター雁之助が太鼓判を押す技の完成度と身体ポテンシャル。NOAHのルーツとなる旧全日本とハヤブサの関係を思うと、武藤ルーツの最後の継承者である清宮も含めて、若手二人の試合ながら歴史的な重厚ささえ感じるメインイベントに相応しいカードとなりました。
開始前は清宮にも若干のブーイングがありつつも歓声はしっかりと飛んでおり、OZAWAにはブーイングと歓声が半々といった印象だったのですが、その「異変」は深く静かに進行しており、のらりくらりと清宮を煽りつつも、時折見せるアジテーションを織り交ぜた器械体操ベースの身体能力を活かした脅威の空中殺法で見るものを虜にし、気がつけば場内は大・OZAWAコールに。これだけならまだいいのですが、途中の清宮が勝ちパターンに入った瞬間に場内で巻き起こった怒号のようなブーイングは想定外でした。
場内には明らかに「魔物」が棲んでおり、清宮のターンになるたびに聞こえてくる「空気を読め」「今日はお前の日じゃない」という怨嗟にも似たOZAWA戴冠に対する願いと祈りがブーイングに込められていて……いやはや……これには圧倒されましたね。実は清宮はめちゃくちゃ嫌われていたとか、単なるOZAWA戴冠のほうが面白いだろという悪ノリとか、そういうのでは簡単に括れない、魔力とでもいうべき力場がこの空間にはあったように思います。水面下で高まっていた清宮不信。体制打破を願う声。今最もホットでクールな新しいヒール像。その全ての交差点がこの1.1だった気がします。
清宮、試合において任されたオーダーを完璧にこなすことに関しては100点満点だと思いますし、OZAWA劇場となった今回の試合でも、引き立て役&牽引役としては申し分なかったと思います。この試合でOZAWAがブレイクしたのであれば、結果から逆算しても殺されるべき英雄の振る舞いとしては完璧だったと言えるでしょう。ただ一点、ズレを感じたとすればOZAWAの反則に対しての清宮の金的で、ブーイングを飛ばしたとはいえ、観客が見たかったキレた清宮のOZAWA制裁の図とは行動がかなりズレていますし、この空気感で金的をベビー側のダーティーな意趣返しとして捉えるのはかなりの無理があります。裏を返せば混乱としてはリアリティがありますが、同じ土俵に立ってしまったという意味ではあのシーンこそが明確な敗北だった気もします。ただ、あえて振り切ってヒールをやってやろうとOZAWAからヒールを簒奪したという見方もありますし、この後のオモス登場と合わせて明確なターニングポイントかつ今後の布石になったと思えば面白く、深みがありますね。それすらも計算の内であるならまごうことなき天才だな、とも。ただ、みんなが見たい清宮像とはやはり違うわけで、個人的にはちょっとなあ……と思うシーンではありました。
ただ、そんな異様な空気であったわけですが、品格vs露悪という対立構造は明瞭で、NOAHが最もNOAHらしくないヒールを自前で生み出し、なおかつ若手での最短でのGHC戴冠記録を作り出したという意味ではまさに歴史的な快挙ですね。最後はオモスに気を取られた清宮を身体が浮き上がるほどの急所蹴りから、ザコシばりに誇張した掟破りのおちょくりシャイニング。リストクラッチ式のブルーサンダーのようなビッグバンエッジのような技から、ワンステップ式フェニックススプラッシュことReal RebelでOZAWAが清宮を下してGHCを一発奪取!清宮を奈落の底へと突き落としました。
オールレベリオンの語った「革命」が、王者である清宮をOZAWAが打倒することで本当の革命となってしまった。運命とは皮肉なものです。個人的な胸中は複雑で、今までの清宮の献身が他の誰でもない、自団体の観客の手でたった一夜で全否定されたことのショックは大きく、コツコツ地道に積み重ねてきた努力より、露悪と扇動が代弁として力を持ってしまう風潮は世相の反映とはいえ個人的にはあまり好ましいものとは思えません。しかしながら、ジョーカーは元を正せば道化師であり、宮廷道化師が機密を握り、王に対して茶化しつつ辛辣なのは歴史的にも当然で、ジョーカーは切り札の意味もあります。トランプだとジョーカーはキングより強いんですよ。それを思えばOZAWAの誕生は必然とも言えるでしょう。OZAWAという令和のプロレス史上に残るであろうヴィランの誕生と、運命の変わり目といえる異様なこの空間を生観戦できたことはプヲタ冥利に尽きるものであり、何より新王者OZAWAの防衛ロードはシンプルに見たい!サイバーエージェント、もといAbemaプレゼンツの王者としてOZAWAはイメージ的にもピッタリハマりますし、新しいカラーの王者になりそうで楽しみです。それと同様に清宮にもう二度とあんな顔はさせずに、爽快かつ「本当は怖い」清宮海斗の大逆襲も見たい!いやはや、プヲタとはつくづく因果な生き物ですね。まとめるととにかく心がザワついた最高のメインイベントでした。二人とも天晴れですよ。
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新年一発目の生観戦、最高に楽しかったです。最後になりましたが、今年もよろしくお願い致します。