2024.2.23 新日本プロレス THE NEW BEGINNING in SAPPORO 北海きたえーる2連戦初日 試合雑感
お久しぶりです。もるがなです。北海きたえーる2連戦、当初は二日まとめて一つのnoteにまとめようかと思ったのですが、あまりにも長くなりすぎたのと時間がかかりすぎるのもあって分割で更新することにしました。いやはや……書くことが多いというのも困りものですね。前置きはここまでにしてさっそく書いていきましょう。
◾️ 第5試合 60分1本勝負
IWGP女子選手権試合
岩谷麻優 vs 白川未奈
Xでの苦悩に溢れたツイートは心配を呼んだものの、一度残留を決めてからの岩谷の覚悟は相当なもので、スターダムのアイコンたる堂々とした立ち振る舞いは安心感と強さを同時に感じて良かったですね。周囲の岩谷に対する湿度の高い情念や絡まり続ける因縁を他所に、気にしていないわけではないけれど当人の視座はどこか高く別の場所へと向いており、その「つれなさ」も含めて魅力的だなと思います。
相手の白川未奈のクラシカルな攻めも素晴らしく、話題になっていた肩車式のドラゴンスクリューが見れたのが個人的には嬉しかったポイントの一つであり、足4の字固めは改めて見ると映えっぷりが岩谷のリアクション含めて凄まじかったです。セルリアンブルーのライオンマット、所謂新日本プロレスのIWGP戦に相応しいストロングスタイルは十分すぎるぐらいお披露目できたかなと。
フィギュアフォードライバーMINAが外されてツームストンで逆に叩きつけられたのが勝負の分かれ目で、これが見れなかったのは残念ではあるものの、岩谷の「銭の取れる」技である二段式ドラゴンスープレックスが見れたのはとても良かったです。ドラゴンスープレックスは使い手は多いものの名手と言われたら意外と思い浮かぶレスラーは少ないですが、岩谷麻優は別格でこの一芸だけでスター選手であることは一発で伝わってきますよね。
惜しむらくはやはりIWGP女子王座というフォーマットにあり、スターダムを知らない観客に対して新日本プロレスの知名度と看板を使っての大舞台でのアプローチ……という意味では王座設立も成功であり、二人の働きも申し分ないとは思うものの、言葉こそ悪いですが「間借り」故の出力や枠として割ける尺の限界がどうしてもあるというか……ぶっちゃけてしまえばセミファイナルでもいいんじゃないかと思ってしまうのです。もちろん、スターダムで見たいので新日本でわざわざやる必要はないとの声もあるのは重々承知はしているのですが、それでもこのクラスの選手を借り出しておいてTV王座より試合時間が少ないというのはやっぱり「惜しい」ですよ。個人的には20分以上の枠組みで見たいなと思ってしまいました。
◾️ 第6試合 60分1本勝負
IWGPジュニアヘビー級選手権
エル・デスペラード vs SHO
単に王座を賭けるだけではなく、負けたらSHOのストロングスタイル入りという条件付きの非常にハイリスクな試合となりました。
HOT入り以降の「壊れてしまった」SHOのヒールとしてのキャラクター性はズバ抜けており、漂うガラスのように脆い情緒不安定さと、輩めいた地方蔑視の痛烈な罵倒という相反する二つの要素があまりにも魅力的すぎるんですよねえ。仮にベビーターンした場合、そのキャラクターをそのまま踏襲するにはさすがに無理があると思いますし、アンチヒーロー的になるにしても微調整はあるとは思うので。
そう考えるとSHOのストロングスタイル入りは「無い」かなと思われるかもですが、そうとも思えなかった点はいくつかあり、その一つはSHOのストロングスタイルへの適合性です。以前のSHOの熱血漢ぶりと、あの鷹木と互角に撃ち合った殺気のあるハードヒットな打撃は硬派なストロングスタイルっぽさがあり、打撃=ストロングスタイルというわけでは決して無いのですが、なんというか「新日本らしい」選手ではあったわけなんですよね。
もう一つの理由は、成田のHOT加入による微妙なポジション変更にあり、タッグパートナーへの裏切りからの加入はSHOの専売特許だったわけですが、後年に成田がそれを果たしたことによって、若干の「被り」が発生してしまったんですよね。単にシチュエーションが被っただけならいいのですが、成田がプッシュアップバーという新たな凶器=トーチャーツールも得たことで、SHOの存在は成田にとっては参考になる先達でありながらも、かえってその「二番煎じ」感に拍車をかけてしまったわけです。HOTとしてのSHOはJr.の階級でHOTの介入ギミックを使える点にありましたが、成田加入以後はそこぐらいしか優位性がなく、逆に成田もヘビーという階級ぐらいの差異がないせいか、キャラクターやポジション面でSHOを上回るのも難しいわけなんですよね。ならいっそ組ませれば……とも思ったものの、階級が違うのでそれも難しく、HOT加入で激変しつつも実績としては伸び悩みのあったSHOにワンステップ上にいくための変化をもたらすなら……という意味でのSHOのストロングスタイル加入は普通に可能性として「アリ」だったわけです。
そんな風にどう転ぶかわからないという意味では戦前の期待感は非常に高く、試合としてもSHOの憎々しさとデスマッチ経験のあるデスペが味わった「地獄」の片鱗を見せるというかなりハードな試合へとなりました。
しかしながら最後は介入と反則を使ってのリングアウト勝ちでSHOの勝利。デスペを短期政権で蹴落としつつ、無理かと思われたHOTの SHOとしてのJr.王者が爆誕しました。いやはや……これには驚ろかされると同時に、KOPW以来の象徴となるシングルタイトルの戴冠を思えば一つ殻を破った感はありますね。
個人的に今回のシチュエーションで一番やって欲しくなかったのは、デスペラードの勝利→なんやかんやあってSHOがストロングスタイル加入を拒否するという展開であり、ヒールは約束を守る必要はなくとも、それをやってしまえば王者としての沽券に関わるわけで、平たくいえば小悪党一人どうにかできないのであればチャンピオンとしての「示し」がつかないんですよね。
それを思うと逆にSHOとしては絶対に負けられない一戦であったと同時に、ストロングスタイル加入を持ち出してやにわに高まった以前のSHO待望論はかなりプレッシャーであったとも思います。それはHOT加入という決断と変化、今までの積み重ねの全否定であると同時に、昔の自分のほうが魅力的だったと言われるのはプライドが傷つくものでしょう。
だからこそ負けるわけにはいかず、HOT加入の「意味」を示さなければならなかった。そう思うと反則決着はスジが通りますし、戦前の期待感に反して終わってみればSHOにとっては一世一代の勝負だったんだなと改めて思った次第です。手段はどうあれこれでJr.王者としての箔は付きましたし、個人的には満足ですかね。いやはや、プロレスは見終わってみて初めて分かることもあり、だからこそ見るのをやめられないんですよね。
デスペの短命政権は残念ではありつつも、王座陥落によって以前から予想としてあったBOSJ初優勝の可能性がかなり高まったことは個人的にはかなり嬉しいです。新日本のジンクスの一つにすでにシングルプレイヤーとして確立しつつもリーグ戦は中々優勝できないジレンマがあり、それに苦しんだのは橋本真也と中邑真輔なんですよね。二人ともシングルプレイヤーとしての実績に反してリーグ戦との縁は中々結ばれず、G1初参戦から8年目での優勝であり、デスペラードも間を置きつつも、数えれば今年で8度目の出場になるわけです。「8」は一つのキーワードなんですよ。デスペラードのBOSJ初優勝、期待したいですね。
◾️ 第7試合 60分1本勝負
NEVER無差別級選手権試合
EVIL vs 海野翔太
絵に描いたようにわかりやすいベビーvsヒールの戦いであると同時に、互いのキャラクター性も相まってかこの二人はわりと手が合う印象があります。海野は試合内容含めて課題の多い未来のエース候補ではあるのですが、こういった善vs悪の形から入るシチュエーション先行の試合は新世代の中では突出してハマりやすく、プロレス初心者でも一目瞭然なぐらいキャッチーなのはいいですね。また当人への叱咤激励や苦労して欲しいというスパルタめいた観客の視線とEVILの悪辣ぶりも相性が良く、それもあってか過度にヘイトを稼ぎすぎず、格としては申し分ないながらも、若手の壁役もしっかりとこなせるEVILの働きぶりと立ち位置にはひたすらに頭が下がりますね。
この試合、ちびっこEVILファンの歓声がよく目立っており、それは将来有望かつ微笑ましかった反面、女性や子供中心に人気を博している海野からすると、かなりの逆風だったようにも感じました。勿論、当人は誰を応援してもいいというスタイルではありながらも、この試合において必須条件の一つであった「ヒーロー性」をEVILにわかりやすい形で簒奪されていたのはかなり厳しく、こうした観客のリアクションによる「現場感」と「リアリズム」のアクセントが試合内容のいいアクセントになっていたと思います。
海野はやはり前々から書いている通り、技の「軽さ」に引っ掛かる部分もあり、戦った相手との関係性を技として昇華させつつラーニングするのは主人公らしいワクワク感がある反面、各選手のフェイバリットホールドを安易な繋ぎ技感覚で消費してしまうことに抵抗感もあります。小林邦昭のフィッシャーマンズスープレックス、蝶野正洋のSTF、タマ・トンガのガン・スタン、オスプレイのヒドゥンブレードのアレンジであるブレイズブレイドetcetc……。こうして列挙してみても一試合に出す借り物の技としては多すぎな気もしますし、借り物であることがダメなのではなく、それが単に攻めの手段に即している以上の意味がなく、そこに試合の流れの変化や深い文脈などの位置付けが薄くてどこかパロディ的に見えちゃうのは難点の一つであると言えるでしょう。
しかしながら、髪を短く切ってイメチェンを図ったのはとても効果的で、それが似合っていたのもあって繰り出す技にイヤミがなく、いつもなら鼻白む場面でも今回はわりと好意的に見てしまった部分もあります。やはりサマになるのは大事ですね。それを思うと当人も見る側も含めて良くも悪くもガワから入るタイプの選手なのかな、とも。
最後はちびっ子ファンの声援を受けつつ、介入や乱入で荒らしながらEVILで幕。試合内容としてはまさに完敗の一語であり、そう簡単に越えられない壁としての存在感をEVILは示しましたね。海野vsEVILの抗争はそうすんなりと決着がつくような印象は薄く、下手したら来年のドームでのNEVRE初戴冠のシングル戦までもつれ込むとも思っていたので結果としては予想通り。現状の実力を考えると即IWGP戦線へ名乗りを挙げるのはかなり厳しく、下位のタイトルであるNEVER王座含めて海野は丁寧に下積みをしていくんじゃないかと思います。個人的には覚醒前のYOSHI-HASHIの欠点と酷似してるのもあり、YOSHI-HASHI自身がNEVER王座のシングルタイトルを戴冠してないのもあって相手としてはちょうどいいかと思うのですがどうでしょうかね。好敵手候補が多いのもまた海野の武器の一つであるでしょう。そう考えるとエース候補になるのもわかる気はします。
◾️ 第8試合 15分1本勝負
NJPW WORLD認定TV選手権試合
棚橋弘至 vs マット・リドル
現状の棚橋のコンディションでできる限りの、マット・リドルのプロモーションだった気もします。マット・リドルは総合格闘技経験のある外国人選手というイメージから連想されるファイトスタイルからはかなりズレているタイプの稀有なレスラーであり、その格闘センスに反してプロレスへの適合の高いキャラクター性が妙にハマってるのもあってか奇妙な味の選手なのですよね。甘いマスクに反したトンパチさ、人間の叡智の結晶でもある総合格闘技の技術がありながら、裸足で戦うファイトスタイルという野生味。この「掴めなさ」は唯一無二で、もっと見たくなる選手であります。
最後は相手の股下でクラッチしてのジャンピング・ツームストンパイルドライバーことブロストーンでマット・リドルの勝利。オカダがみのる相手にやったゴッチ式ツームストン。古くは秋山準が若手の頃に使ってた同型のツームストンパイルドライバーですね。ただ、マット・リドルのそれはジャンピング式な点に差異があり、船木誠勝のハイブリッドブラスターもそうなのですが、格闘色の強い選手が敢えてチョイスするパイルドライバー系列の技にはいつも魅力を感じてしまいます。どこか技のイメージも殺伐としていていいですよね。
◾️ 第9試合 60分1本勝負
IWGP GLOBALヘビー級選手権試合
デビッド・フィンレー vs ニック・ネメス
ドルフ・ジグラーことニック・ネメス。良く言えば謙虚、悪く言えば自己肯定感の低い戦前のコメントにはびっくりしたというか……だってあのドルフ・ジグラーですよ!?WWEのトップスター、超大物という認識だったので、その挑戦心を忘れない姿勢には頭が下がると同時に、新日本プロレスに対しての払ってくれた最大限の敬意に嬉しくなってしまいました。
試合はもうこれをお手本にしてもいいんじゃないかと思うほどの好勝負であり、必死かつ熱血に振る舞いつつも根底のコントロールの手練手管はやはりWWEならではの視野の広さと技術がありましたね。もっと大物ぶっていいはずのスターが初心にかえって全力でプロモーションをやるという心意気には打たれますし、それもあって情熱的なガイジンベビーとしてこの試合一つで人気を獲得したのは凄すぎることですね。
ネメスの受けは一級品かつ、その中でも最も「映え」るスピアー受けが見れたのはとても嬉しかったですが、その真骨頂は躍動感にあり、受け攻め含めての伸びやかさとテンポ感が素晴らしいんですよ。げに恐ろしきはそれにきっちり合わせつつ渡り合ったフィンレーにあり、相手の足をロープに引っ掛かるように落とすボディスラムはスマッシュでスターバック相手に父親のフィンレーがやった基礎の荒技であり、こうした血統含めて全力で張り合った点に好感が持てます。
最後はジグザグこと飛びつき式の河津落としであるデンジャーゾーンでニック・ネメスの勝利。終わってみれば危なげのないパーフェクトゲームでありつつ、そのWWEスターぶりを如才なく発揮したその辣腕ぶりに驚かされますね。もちろん、この負けがフィンレーの格を落とすわけもなく、むしろドルフ・ジグラーを知っていてデビッド・フィンレーを知らない層には刺さったのではないでしょうか。まさにWin-Winの試合であり、フィンレーもプロテクトされてるばかりでなく、反骨と成り上がりを虎視眈々と狙う新世代であることが伝わってきました。これならもうIWGP戦線に入っても大丈夫だと思いますし、過去のバレクラリーダーに反して足りない実績面を補うにはIWGP戴冠しかないと思います。
ニック・ネメスは見たいカードが多すぎるので戴冠は喜ばしく、ぜひG1にも参戦して欲しいですね。見たいのは内藤哲也との躍動感対決に、上村優也とのコッテコテのアメリカンプロレスマッチも面白そうです。あと極上であることが確定しているザック・セイバーJr.戦もいいですね。誰とでも合わせられる上手さがあるので早くこのゲスト感を抜けつつ、超大物として荒らし回って欲しいです。
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初日からしてハイカロリーな興行だったせいか、その熱に当てられて長くなってしまいました……。二日目はリアタイ視聴できなかったのもあって更新は少し先になりますが、なるべく早めに書きたいと思います。ではでは、近日中にまたお会いしましょう。