後藤革命〜2025.2.11 新日本プロレス THE NEW BEGINNING in OSAKA 試合雑感〜

◼️第1試合 30分1本勝負
棚橋弘至ファイナルロード〜縁(えにし)
棚橋弘至 vs 真壁刀義

棚橋にとってはデビュー戦の相手であり、常に対角線に居続けた雑草上がりの先輩。棚橋浮上のきっかけとなったU-30決勝戦の相手であり、また王座戦で行われたこの戦いがかつては馳浩にダメ出しされたこともあるという……。それを思えばこの二人のカードは名勝負数歌とはまた少し趣の違う、激動のゼロ年代新日本史のメモリアルでもあるのです。

まず最初に目を引いたのは二人の表情のコントラストであり、荒々しく振る舞いながらも瞳の奥には憧憬を隠し切れない真壁の優しい眼差し。棚橋は逆に血気盛んで気が急くような楽しさを全面に出していて、これは棚橋オタにしかわからない非常にレアな「目上のものに甘える」棚橋なんですよ(笑)この表情って現役だとあとは柴田相手ぐらいでしか拝めない表情であり、同期とか後輩相手には絶対見せない顔なんですよね。真壁相手にしか出さないと言われるアームドラッグに、久しぶりの青天井エルボーとサンセットフリップという若手時代のコンビネーションをやることからも、その同窓会めいたはっちゃけぶりは伝わっていたかと思います。

正直な話、お世辞にもお互いともにコンディションはいいとは言えません。真壁のパワースラムはかなり崩れていて危なっかしい感じもありましたしね。ただ、真壁も呼応するようにノーザンライトスープレックス……個人的に相手の片腕を抱え込むのが正しいノーザンライトスープレックスの形であり、そうでないタイプの技はノーザンライトスープレックスとは呼びたくないのですが、それを書くのも無粋な話でしょう。そしてそれに続いて繰り出したのは若手時代から定評のあった真壁のジャーマンスープレックス!ジャーマンってベタ足のままか、ベタ足で投げてブリッジで爪先立ちかと、投げ方一つとっても選手によって特色があり色々と種類もあるのですが、真壁のジャーマンも同様に個性のある一発で、投げの時から爪先立ちになるため角度がより鋭角になるんですよね。腰を曲げ、頭頂部を打つ負担の大きい技を、コンディションの厳しい中で繰り出したというのはまさに棚橋に対しての惜別でもあり、この試合に賭ける思いは伝わってきますね。

棚橋もここ最近はテキサスクローバーホールドでのフィニッシュが目立ちましたが、この試合ではハイフライフローを解禁。しかしながら、ハイフライの最大の肝であるトップロープの飛び越えで足が引っかかったのは衰えを感じてしまいました。でもこれも含めて今の戦いなんですよね。

互いにキングコングニーとハイフライをかわしつつ、最後は一度失敗したジャパニーズレッグロールクラッチホールドを再トライしての棚橋の勝利。これは思いつく範囲だと、2010年8月15日のG1クライマックスでの決勝戦進出をかけての真壁との一戦でも繰り出した技であり、カウント3後でありつつも最後のブリッジはきっちりやり切りましたね。

衰えは仕方ないんですよ。限界が来たから引退するわけで、それは仕方のないことなのです。それでもこれだけ語れるぐらいには僕にとっては「刺さる」試合でした。

◼️第2試合 30分1本勝負
スペシャルシングルマッチ
鷹木信悟 vs ドリラ・モロニー

HENAREに続いての鷹木によるドリラ・モロニー格上げマッチといった印象でしたね。どこかNEVER王座戦の見えないベルトが浮かび上がるような一戦であり、それ即ち鷹木がベルトの要らない王者であり門番である印象も受けます。ただ、役割としては石井の担ったポジションの踏襲でありつつ、壁役ではなく前線で暴れる鷹木が見たいなとも。しかしながらそんな思いを打ち砕くような無慈悲なドリラキラでモロニーの勝利。モロニーはその体躯とルックスが目立ちますが、技の一撃必殺性が印象深いのはいいですね。

◼️第3試合 30分1本勝負
スペシャルシングルマッチ
海野翔太 vs グレート-O-カーン

評価の難しい試合です。と、いうのもこの試合における海野へのブーイングはやや逸脱感があり、リアルタイムで行われてる試合に対しての評価というよりも選手個人への評価が先走ってる感じがあって、試合そのものに注目して見ると若干集中力を削がれるものではありましたね。

海野の所持する手製のベルトをオーカーンが破壊するというのはわりと一線を越えたなと思う反面、海野に対する低評価を思うとこうしたオーカーンの挑発すらヒーローショーのお膳立てのように思われてしまうのが海野にとって苦しい部分であり、そういう意味でもあまりスッキリとはしない抗争の幕開けだったと思います。海野の纏う軽薄さを嫌う層からすると、こうした挑発よりも試合内容でハッキリさせてくれという思いのほうが強いでしょうし、オーカーンの持ち前の格闘技術で塩漬けにして完封してしまうほうがドン底に突き落とす「制裁」としてのニュアンスは高まったのではないかと思います。一昔前の新日ならそうした残酷ショーをやることすら厭わなかったというのもありますし、この辺りは良くも悪くも時代の流れを感じますね。

反面、ではオーカーンのほうが良かったかと言われると案外そうとも言い切れず、海野に先輩風を吹かせるほどにオーカーンに実績があるか?と言われるとそうではなく、KOPWぐらいの差しかないんですよね。明らかにオーカーンより海野のほうがメインイベンターかつ「主役」として扱われている以上、自虐以外でそこに触れないのは不自然に思いますし、触れるのであればジェラシーを剥き出しにしないとオーカーンの側にもちょっと乗りづらさがあるなとも思うわけです。本来なら怖い先輩が叩き潰すことで「壁」としての役割を果たすべきなのですが、現状だとそれが不在でなんとなくオーカーンにお鉢が回ってきたのだという感じが拭えませんでした。

そんなこんなでスッキリしないまま迎えた一戦はどうにも上滑りするブーイングに終始してしまったわけですが、勘違いしないで欲しいのはブーイングそのものは「アリ」だということです。野次やSNSでのクソリプと違って、ブーイングは歓声と同じく観客側から選手に対する合法的なリアクションの一つであり、1.4の海野のメインを「失敗」だと捉えるのであれば、その後の海野に変わらず主役として与えられた「機会」に納得がいかず、それに対しての反発でブーイングが飛ぶというのはそれほどおかしなことのようには思いません。

当然、全員がアンチというわけでもなく大半は浮遊層ではあったとは思いますが、単純なファンだけでなく、そうした層も取り込む存在こそがエースと呼ばれるものでしょう。それを口に出した以上は、そこには文句はつけられないのです。とはいえ不快に思うのは分かりますし、実際その場の空気や観客の悪ノリもあり、さらに言えばブーイングを飛ばして「鍛えて」やってるとそうした層に「誤学習」されてもたまらないわけで、ついつい文句をつけたくなる気持ちはわからなくもないのですがね。ただ、試合不成立クラスでないなら、それもまた評価として受け取らざるを得ないのかなとも思います。

さて、肝心の試合なのですが、ここが評価の難しいところで、起こったブーイングが試合の評価というよりは選手の評価に偏ってる関係上、試合単体を見るとそこまで悪く言われるほどでも……となってしまうんですよね。悪くはないが印象に残るほどの試合でもない、というのがずっと続いており、名勝負はおろか好勝負の領域にはいない。そうした試合が多いせいか、試合の印象より個人の印象のほうが強いままで選手として見ても凄く歪なんですよね。

新世代の中で海野だけベルト戴冠がないあたり、新日本の海野に対する評価は相当シビアで、それを思えばとても優遇されてるとは思わないのですが、その実績のなさに反して扱いは主役級であり、それが異例とも言える1.4のメイン抜擢で顕在化したことにより、所謂「コネ」感が強まってしまって反発を呼んでるのではと思います。ただ、それが団体の扱いによるミスかと言われるとそこまでは言い切れず、嫌でも耳目を集めて主役として振る舞えるだけの「才能」がやはり本人にあるのですよ。興味のあるなしに関わらず、半強制的に海野翔太の成長物語に巻き込んでしまう。つまりは鼻につく。それが全ての理由なのでしょう。裏を返せば今の新日でもっとも「物語性」が強いレスラーであるとも言えますね。

試合はオーカーンが必勝パターンからのエリミネーターで海野を粉砕。試合としては妥当ながら海野の完敗ですね。試合後にバリカンで頭を剃ったのは自傷行為のような痛々しさがありつつも意外性があり、アイドルレスラーであるという仮面を自ら脱ぎ捨てたようにも思います。髪を切る挑発を繰り返していたのはオーカーンでありながら、特に賭けてるわけでもなく、最後の最後で自分で髪を剃ったのは最後のプライドだったのでしょう。結局のところ勝ったオーカーンに利はさほどなく、負けた海野のほうが注目を集めたわけで、結果的に試合に負けて勝負に勝ったなとも思います。

個人的に海野はある意味では棚橋や内藤よりも道は険しく、気の毒に思う部分はあり応援はしているのですが「ストーリー」よりも「試合」を見せて欲しいなという気持ちですかね。今のところは。ただ、周囲の受け入れられ方が変わり、当人の中で歯車が噛み合えば一気に化けるとは思います。

◼️第4試合 30分1本勝負
スペシャルシングルマッチ
タイチ vs SANADA

SANADAもまた評価が難しくなったレスラーの一人であり、至らない点は批判は多くとも、なんとか新日の顔役として頑張ってきた2022年を思うと、ヒールターンした今のポジションはレスラーの格的には後退しているようにも思えて、いまいち乗り切れないものがあります。しかしながら、ヒールSANADAとしてのリング上での振る舞いはかなり洗練されており、特に金的の使い方はかなり洒落ていて個人的には評価が高くなりましたね。デチューンして良くなったはずなのに、そのポジションでいいのかという不満はある不思議な立ち位置になってしまいました。

漫画でたとえると、不人気だった前作主人公が、挽回のチャンスが与えられると思っていた続編で無難なモブの脇役になったような残念さとでと言いますか……。同ユニット内にフィンレーとジェイク、さらにはHOTにはEVILがいるというのもあって、その面子を抑えてトップに立つ姿が想像できないという不安感もあるのかもしれません。ただ、今回の試合の謎の入場コスは驚くほどキャラクターが立っていて、やや薄味だったキャラクター面でひょっとしたら……の希望を抱かせてくれたのは良かったなと思いました。

試合内容は金的からの外道クラッチ、そこからのタイチのバックドロップホールドが実に良かったですね。今の新日はジャーマンの名手は多いのですがバックドロップは実のところ空き家というのもあってか、かなりのオリジナリティがあると思います。また、タイチは当人のキャラクター性もあって、裏切られる悲哀とヒールに肉薄する残酷さを出せるのが素晴らしく、そうした裏切り者に対しての制裁という意味でもかなりスイングした一戦だったように思います。

しかしながら最後はSANADAがポップアップ式の金的からのデッドフォールでタイチからダーティーに勝利。試合後はギターショットを見せるかと思いきや、ここで乱入してきたのは上村優也!アームホイップの連発からカンヌキスープレックスを狙いますがこれはSANADAがすんでの所で回避。そしてSANADAに対して上村の「踏み台」宣言!いやあ……素晴らしいですね。若干割れたマイクといい、上村優也の洗練されてない「いなたい」振る舞いって本当に90年代〜ゼロ年代の一昔前の新日のような空気感があるんですよ。そこに感じる安心感とヒロイックさ。これは大事にして欲しいですね。

それにしても、やや帰結点の見えなかった抗争が上村の帰還によって一気に意味を取り戻しましたね。タイチが露払いを務めて上村のためのお膳立てをして、そしてSANADAがその上村の壁となる。結果だけ見れば元メンバーと現メンバーの入り混じったJ5Gによる上村優也育成計画であり、そこに関しては隙がないなと思います。

◼️第5試合 60分1本勝負
IWGPジュニアタッグ選手権試合
藤田晃生&ロビー・イーグルス vs ロッキー・ロメロ&YOH

今大会のベストバウトの一つです。シングル戦の多い今大会のカードの位置付けとしては真ん中でありながら、試合内容は素晴らしく、何よりもロメロの介入のタイミングとコンディションの良さに驚かされました。藤田&ロビーはタッグチームとしてはカラーもスタイルもピッタリと合っていて申し分ないのですが、YOHとロメロもロッポンギならではのコンビネーションの良さは健在で、かつてのトレンドと今のトレンドが交錯する好勝負になっていましたね。

藤田の才気煥発ぶりもいいのですが、YOHもまた当人のキャラクター性がズバ抜けており、つまりは二人とも「旬」なのですよ。本来序列で言うならYOHとワトが主役になるはずなのですが、それを無視したのがDOUKIであり、さらには世代の壁を藤田がブチ抜いたことで、ヒロムとデスペに続く次の顔役を狙うために一気にJr.戦線が活性化したんですよね。そんな二人のせめぎ合いにベテランのロビーとロメロが関わる形だったのが好勝負になった理由だとも思います。やや「待ち」のシーンが多いのが玉に瑕ではありましたが、それでも合体技の精度だけなら完璧だったと思います。

最後は藤田が得意技の滞空式ジャーマンスープレックスからAbandon Hopeで藤田がロメロから勝利。往年のファンにはブラッククラッシュかショットガンかで印象が変わりますが、藤田が使うと印象はかなりシャープで技のイメージにも合ってます。このフィニッシャーもだいぶ定着してきましたね。地味に仕掛けるときに通常のブレーンバスターから入る形ではなく、ハーフネルソンから反転して技に入ったのがレスリングによるコントロールを主としたTMDKらしいお洒落ポイントだと思います。ヒロムとデスペが耕した新日Jr.の芽吹きをあますところなく感じた一戦でした。ちなみに今年のBOSJはYOH優勝予想です。相手はSHOかもしくは藤田のどちらかで。今の新日Jr.は間違いなく黄金期だと思いますよ。

◼️第6試合 60分1本勝負
NEVER無差別級選手権
KONOSUKE TAUESHITA vs ボルチン・オレッグ

今大会のベストバウトの一つです。ボルチンはその怪物的ポテンシャルに反してわりと丁寧に育成されており、起用方法を変えればすぐに無双できるだけの逸材ではあるのですが、やや難点を挙げるなら「凄い」けれど「凄味」に欠ける。つまりはボルチンに必要なのは怪物らしい「畏れ」であり、それを思うとどのタイミングで今の「優しい怪物」から脱却するかが見ものですね。あとボルチンの悩みは相手不在なことで、キャリアや技術での封殺はまだしも、その怪物的ポテンシャルを真っ向からパワーで潰せる選手は限られてくるわけで、それを思うと外来種の怪物である竹下に白羽の矢が立ったというのは理解できます。

単純なロックアップ、ショルダータックルの応酬だけでもド迫力であり、竹下の恵まれた体躯もあって真っ向勝負感が強かったですね。特に場外ロックアップは意外性がありつつもそれだけで沸かせたのは本当に凄いことだと思います。対する竹下もトップロープからブレーンバスターで投げ切るなど、体格やパワーで張り合うだけでなく技のインパクトで圧倒したのは素晴らしく、特にオカダ以後のシーンで流行り出した両者手繋ぎ状態でのエルボー合戦は竹下に呼応する形で互いにリミッターが外れてて最高でしたね。

最後はスタンディング式のフロントネックロックで長時間絞り上げたあと、落ちる手を抱えてのレイジングファイヤーで叩きつけて勝利。いやあ……竹下ヤバいですね。絵になる部分が「強さ」しかない。規格外すぎます。

試合後は大岩が次期挑戦者にアピール。竹下を倒したレスラーは何人かいるとはいえ、単独で新日相手の無双が目立つ竹下に対し、新日とNOAHのハイブリッドである大岩が挑むというのは燃えますし、世界の頂に対して箱庭での純粋培養の大岩が挑むという構図も面白さがあります。

しかしながら、個人的に海野の次に大変なのは大岩かなとも思っていて、期待感はあれどまだ周囲の目は「査定」止まりであるのを感じますね。ウチの選手を褒めてもらった手前、これを言うのは非常に心苦しくはあるのですが、僕はNOAHの大岩への評価は若干過大評価だなと思っていて、清宮戦の化学反応は素晴らしく、評価が高いのも頷ける話なのですが、あれは同門の師による実力以上のものが偶発的に出た産物だとも思っていて、個人的にNOAHだと対征矢戦や対ブリッグス戦あたりが大岩の本来の実力なんだろうなと思ってます。

特に新日帰還後で目立ったシングルは鷹木戦とYOSHI-HASHI戦ではありますが、どちらもインパクトを残せたとは言い難く、特にYOSHI-HASHI戦はお世辞にも超えたとは言い難い内容だったのもあって、これだと今は良くてもこのまま続けばすぐに評価が裏返る危険性があります。これはNOAHと新日のマットの違いもありますが、大岩はどうにも「キャッチー」さに欠けるんですよね。必殺技やファイトスタイル含めてどういうレスラーなのか、何をやりたくて何を伝えたいかの周知が上手くいってないように感じます。

色々と厳しいことを書きましたが、個人的にそれだけ大岩に対しての期待感は大きく、何が好きかってそのネーミングセンスなのですよ。抱え込み式足4の字、小川直伝の腕極め式キャメルクラッチのアーククラッチ、アナコンダスープレックスことテンザン・スープレックス。サイドスープレックスにドクターボム。技のチョイスとネーミングがいちいち絶妙で、ベーシックな基礎の土台を大事にするパワーファイターのイメージにもピッタリ合致してます。それだけにフィニッシャーであるTHE GRIPの微妙さと、その初動となるスリーパーの乱発ぶりが際立っているのは残念すぎますね。もう少しその辺りを整理して新日にアダプトできればすぐに化けそうなだけに、世界の竹下はそれを掴む意味でも期待したい一戦ですね。

◼️第7試合 60分1本勝負
IWGPタッグ選手権試合
ヤングバックス vs 内藤哲也&高橋ヒロム

内藤&ヒロムは内藤のコンディション悪化を補う意味と、ヒロムが一線引いての意図的な不在による他メンバーの新日Jr.の底上げという意味もあって、実にちょうどいい塩梅のタッグであると思います。そうした都合の部分以外でも、師弟タッグでありながら互いのその階級のトップである関係上、両者の格に差がないのがポイントで、それもあってかタッグチームとしてのまとまりは素晴らしいなと思います。

特にタッグ結成から開発、もとい「再発見」した技であるテンデデロはプロレス流行語大賞2025にノミネートしてもいいぐらいのネーミングで、口に出して言いたくなる感じがありますよね。名前のついてないオールドな技に名前を付けて息吹を吹き込んだのも去ることながら、この単純な技をこのタッグの名シーンにまで昇華させたのは二人のキャリアの成せる技でしょう。この二人がやるからこそこの単純な技にも意味がある。これはもっと評価されるべきことですよ。少なくとも自分が小学生のころに見てたら絶対マネしていましたね。

対するヤンバはまあはっきり言ってしまえば現状の新日のタッグで彼らに勝てるタッグは存在しません。あえて言うならTMDKぐらいでしょうかね?そう言い切ってもいいぐらいにタッグとしての練度はズバ抜けており、常に二人で空間を支配する様は本当に惚れ惚れしてしまいました。

日米悪戯小僧対決としての戦いは、ヒロムのアシスト付きのスイングDDTからデスティーノで内藤の勝利。最近のデスティーノは尻餅で回り切らず、やや横に流れるあたりにコンディション不安がつきまといますが、それを踏まえてのヒロムのアシストが逆に安心感がありますね。ヤングバックスが速攻負けたのは少し残念ではあるものの、1+1が100になるのがタッグの醍醐味であるならば、タッグで勝てないのであれば個の力で勝てばいいという道理は納得がいきますし、個としての格があるので個人的には勝ったのも納得の範囲です。てか、この方法以外に勝ち目がなかったなとも。それぐらいヤングバックスはタッグとしてはレベルが違いました。とはいえ、それでも内藤&ヒロムタッグはタッグとしては魅力的であり、このタッグは末長く見たいですね。

◼️第8試合 60分1本勝負
IWGP GLOBALヘビー級選手権試合
辻陽太 vs ゲイブ・キッド

今大会のベストバウトの一つです。新世代の中で現時点で最も評価の高い両者の激突であり、現世代の事実上のトップと言っても過言ではないこの二人の対決をこのタイミングで切る「鮮度」にまず拍手を送りたいですね。

「今しかない」ことが若者の特権ではあるのですが、それが奪われたのが二人のヤングライオン時代に直撃したコロナ禍であり、だからこそ辻やゲイブが口にする「オレたちの時代」には言葉以上の重みがあるのです。先の見えないコロナを経て、その絶望と地獄を共有したからこそ、新時代という、その先の「未来」を願って戦うことに価値がある。この感覚はその時代に青春期を過ごした人にしかわからない感情なのかもしれません。 

入場と同時に観客を煽るゲイブに対し、辻は逆光の中珍しいショートタイツで出現。この辻の格好、シューズのフリンジや鍛え抜かれた太ももと相まってアルティメット・ウォリアー感があってとても似合っていましたね。そして打撃や衝突のリミッター解除ぶりもこの二人かつ今の年齢でしか出せない出力であり、その中で繰り出した辻の張り手は印象深いシーンでした。それだけでなく逆エビを繰り出したのもヤングライオン時代を彷彿とさせましたし、何よりジーンブラスターを想定した腹部・腰攻めの一環としてもいい技だと思います。

対するゲイブも辻のスピアーをいなしてのコブラツイスト。ケニー戦と違ってしっかりとしたグレープバインに腕を極めるタイプのコブラでしたが、完全にモノにしましたし闘魂を背負うゲイブにこれほど似合う技もないでしょう。

試合が佳境になる中での互いに熱量を帯びる言葉。正直な話、単純な単語ならアピールの範疇でアリでも、それを超える試合中の言葉でのアピールは個人的には好まないのですが、この試合は何よりも「オレたちの時代」を「証明」する戦いでもあり、戦いだけでなく言葉からも熱が漏れたと解釈するならアリではありますかね。

この試合のハイライトはジーンブラスターを掬い上げるような形で切り返して放ったゲイブのパイルドライバー!武骨な試合の中でこの切り返しの妙がいいアクセントになってました。そして何度か右で打っていましたが、ここにきてゲイブのレフトハンドでの反転ラリアット!G1だとオーカーンからもフォールを奪ったこともある意外な名手なんですよ。張り手やエルボー、垂直落下式ブレーンバスターにパイルドライバーと原始的かつ古典的な技を使う中で、ラリアットを得意とするのは少々意外ではありつつも、古典技のレパートリーと考えれば納得の一撃ですね。

そして般若ニーストライクことO-KNEEを繰り出しますが、それをジーンブラスターで迎撃する辻。フィニッシャーを二つ解禁したゲイブに対し、一撃必殺のフィニッシャーを繰り出しながらもダウンする辻。きっちり決着をつけて欲しかった反面、試合を見ると両者KOも納得です。ゲイブの途中の遠吠えコールに、終わった後の新日本コールと、観客の熱量も素晴らしかったですね。

事件は試合後に起きました。倒れた辻に襲いかかるハウスオブトーチャーの面々。そして暗転から消息不明だったEVIL出現!無いとは思っていましたが、新日離脱の噂すら出た身であり、ロゴのない黒一色のTシャツで登場したりととにかく翻弄されましたが、辻をEVILで叩きつけると、抱き起こしたゲイブも成田がダブルクロスで一撃。ちゃんと「裏切り」のときに成田にダブルクロスをやらせるあたり素晴らしいなとも。

ハウスオブトーチャーはバレットクラブの枠から外れての独立宣言。しかし意外だったのが離脱ではなくウォードッグスのバレットクラブ追放であり、今までバレクラとはいえほぼ別働隊だったハウスオブトーチャーがいよいよ本格的に袂を分かちましたね。ここにきて大きく勢力図が変わりそうでワクワクします。

◼️第9試合 60分1本勝負
IWGP世界ヘビー級選手権試合
ザック・セイバーJr. vs 後藤洋央紀

文句なく今大会のベストバウトです。最後のIWGP挑戦が9年前。初挑戦から数えると18年。この"時"を待っていた人は多いでしょう。凱旋帰国当初こそ、間違いなく棚橋・中邑時代の次の王者として猛追していたのが後藤であり、その下に期待のホープとして存在していたのが内藤でした。当時の後藤は今だと辻のいるポジションが一番近いですかね。いずれIWGPを巻くだろうという期待は2008年のG1優勝を果たしたことからも分かる話であり、実はG1を優勝した選手でIWGPを戴冠したことがない選手はただの一人を除いて今まで存在しなかったのですよ。今日、この日までは。

ではなぜ後藤はIWGPを取れなかったのか?受難の時代を語るためには分岐点を考察する必要があります。凱旋帰国後、最初のつまづきはやはり2008年のグレート・ムタ戦でしょう。このときの入場シーンは抜群に格好良く、ムタの入場を壊したまではいいものの、その後にムタワールドに飲み込まれての惨敗。その年に初出場初優勝という快挙を成し遂げたG1優勝で多少は盛り返したものの、その後に王者であった武藤敬司に敗戦。勢いが消えたのは思えばこの時からでしたね。

その後のNOAHの杉浦貴相手の三連敗。後にリベンジこそしましたが、これも失速の要因として大きかったですね。凱旋当時のギラギラ感がすっかり消え失せたのもありますが、他団体の外敵相手に敗北を重ねたことによるファンの失望も強く、負けるたびに後藤叩きのダメ出しがとにかく激しかったのを覚えています。その後にNJCを何度か優勝してはいるものの、どちらかといえば格の保持であり、すでにG1優勝を果たした身としては格の落ちるNJCを連覇したところで再起とまではならず、これで一進一退の印象がついてしまったのも良くないポイントでしたね。この辺りは念願のIWGPを巻きつつも、長期防衛をすることなく落とし、陥落と奪取を何度も繰り返した天山を彷彿とさせます。ファンが見たいのはひたすら強い語頭であったはずなのに、途中から「耐える後藤」のイメージになってしまったのもツメの甘い脳筋なイメージに拍車をかけたと思います。

それを思うと昇天・改という技も、長年見てきた身としては若干忌まわしいイメージがあり、繋ぎ技でなくフィニッシャーとして戻すべきという意見は多いのですが、個人的には決まれば勝てた試合のカタルシスよりも、決まらなくて勝てなかった試合のトラウマのほうが強いのもあってか、いい技だけに納得はしつつも賛同しきれないものもあります。昇天・改の構えに入る→返されることが負けフラグになってしまった時代を見続けていたので、フィニッシャーの変更はそうしたイメージを塗り替えるためにも必要だったんですよね。

そんな感じで後藤に期待しつつ、時にダメ出しをしつつ、ヤキモキしていたわけなのですよ。後藤が変わるには柴田が鍵になる!と当時は思っていて、それは半分は正しかったものの、柴田との対戦もタッグ結成も後藤の覚醒やIWGP戴冠には繋がらず……。9年前のIWGP挑戦失敗の悪夢である白塗り後藤の黒歴史となった2016年あたりから、メインイベンターとして登場することもめっきり少なくなり、オカダ相手の敗戦という屈辱から、その軍門に下ったと思われかねないCHAOS入り。新日本の中心であり、王者がオカダである以上同ユニットの後藤にその機会は訪れない。これを低迷の原因とする声も多く、IWGP戴冠の可能性はないのか……と半ば諦めておりました。

風向きが変わったのは2024年のNJCでしょう。今でも本来の決勝は辻vsフィンレーだったのでは?と思っているわけですが、フィンレーの欠場から代打・後藤の決勝進出によってにわかに高まった後藤のIWGP待望論。このときは後藤への期待感が凄まじかったせいか敗戦はショックではあったのですが、よしんばここに勝てたとしてもIWGPで負けたら何の意味もなく、あくまで通過点に過ぎないと思って無理やり納得していました。

そしてその年のG1。ストップ・ザ・竹下を成し遂げた快挙もそうですが、後藤の試合はどれもクオリティが高く好試合連発だったんですよね。今年のニュージャパンランボーでの挑戦権獲得はわりと唐突で、棚ボタのような印象もあったものの、昨年の実績がちゃんと評価されて報われたことが一番嬉しかったです。実際のところ、その前のYOSHI-HASHIとタッグを組んでいたころも、後藤は目立たないながらもシングル戦のクオリティ自体はどれも落ちてなかったですし、今回の挑戦も単なる温情なんかではなく、間違いなく今が一番強く、挑戦者として相応しかったからなのです。いずれその機会が来たときのために牙を研ぎ続け、コンディションを整えて準備をしていたこと。簡単なようでいて最も難しいそれを、誰にも注目されなくともコツコツやってきたことこそが、今回の王座戦に繋がっていたのでしょう。

そんな後藤の相手がザックというのも不思議な話で、ピープルズチャンピオン同士の戦いという超ベビー同士の王座戦でありながら、後藤の戴冠を望みつつも、G1優勝にIWGP戴冠と夢を叶えたザック政権がこんなに早く終わって欲しくないという感情もあり、そういう意味ではどちらが勝つか読みにくく、負けたほうは失うものが大きいというのもあって勝負論はしっかりあったと思います。

試合内容はまさにスポーツライクな死闘であり、打投極に押さえ込みと隙のない完璧な王者であるザックの持ち味と、徹底的に耐えながら膂力と爆発力で突破口を見出す後藤の持ち味が綺麗に噛み合った一戦となりましたね。特にこの試合はザックの各種ドライバー技による「揺さぶり」が素晴らしく、まさに楔を打ち込むように、ザックドライバー、セイバードライバーと段階的に威力を引き上げつつ追い縋る後藤をその都度引き離してスタミナのチキンレースを仕掛けたのが印象的でした。序盤のネックツイスト連発でかつて後藤が得意とした首破壊の領域でも上回ったかと思いきや、後藤が苦手とする腕殺しによる搦手で翻弄し、終盤戦では二人の背景にいた柴田勝頼を互いの攻防で浮かび上がらせる……いやはや、本当にザックは「完璧」ですよ。後藤も序盤の早いタイミングで牛殺しを極めたり、後藤参式というザックの得意技である押さえ込みなどを仕掛けてギアを切り替えつつ挑みましたが、全体的にはザックの戦略勝ちという感じでした。王者経験の差……それが今回のザックの最大の武器だったようにも思います。

そんな後藤に残された武器は愚直なまでの頭突きとラリアット。業師であり器用な面も見せる後藤ですが、やはりこの強引なまでの突破力こそが最大の持ち味であると同時に、今のキャリアでこうした真っ向勝負の「熱さ」と「若さ」を出せるのが凄いんですよ。雨だれがコンクリートを穿ちやがては風穴を空けるように。柔のザックに対してはやはり剛しかなく、これが歩んできた道でもある。徹底的に腕を痛めつけられても、ひたすらにそれを振り抜いていったのが功を奏しましたね。

最後の猛攻は凄まじかったですね。頭突きの乱打にラリアット。昇天・改にGTR。そしてダメ押しの新技、GTR・改で後藤の勝利!GTRを喰らって崩れ落ちるザックの表情がとにかく最高で、最後のその時までザックは完璧な王者のままでした。

3カウントを聞いた瞬間の呆然とした後藤の表情も良かったですね。最初の挑戦から苦節18年での戴冠。ベルトをその手に抱いた瞬間に決壊した涙腺。ベルトの形や名称が変わっても、IWGPの頂はずっとそこにあったわけで、IWGP王者後藤洋央紀。この文字列を現実に見る日が来るとは……いやもう号泣するしかなかったですよ。

試合後に最初に出た言葉が家族への感謝というあたりに後藤の人柄が出てますよね。正直な話、後藤戴冠の機運は十分に高まっていたとはいえ、戴冠自体は予定調和でもなんでもなく、運もあったと思います。しかしながら準備ができていなければその運の機会さえ掴むことはできない。「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」そんな人間でないと、そもそもそれを巻く資格はないのです。後藤にその資格があるかはもはや言わずもがなでしょう。今までの選択が間違いではなかったと、ただそれだけを証明するために。

試合後に後藤は次期挑戦者に棚橋弘至を指名。かつてその背を追い続け、IWGP戦で何度も弾き返された身としては越えなきゃいけない壁なのですよ。そして棚橋からしても、引退前にIWGP世界ヘビーを負けるかどうかの瀬戸際でもある。後藤王者で棚橋相手の防衛戦。こんな日が来るとは思いませんでしたね。

最年長キャリアでの戴冠は時が戻ったと言われかねないですが、棚橋の次の永田といい、後藤が開いた歴戦の扉は世代やキャリアも無視した後藤のこれもまた「新時代」なのですよ。後藤政権、期待します!





いやはや……とにかく濃密だったせいかめちゃくちゃ長くなってしまいました……。こんな書き散らしでも多少なりとも反応があると嬉しいものです。神興行でしたね。今日はここらで筆を置きます。ではでは

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