2024.8.18 新日本プロレス G1 CLIMAX 34 東京・両国国技館 優勝決勝戦 試合雑感

もはや自分にとっては毎年の夏の風物詩になりつつあるG1公式戦の全試合完走なのですが、決勝戦になると終わりが見えてきて、連続更新の日々からの解放に安堵すると同時に、少しだけ寂しさが込み上げてきます。いやあ……終わってみると長いようで短く、興奮の連続でした。前置きもそこそこに、最後はワンマッチレビューでスパッと終わらせたいと思います。

◼️第8試合 時間無制限1本勝負
G1 CLIMAX 34 優勝決定トーナメント・ファイナル
辻 陽太 vs ザック・セイバーJr.

初顔合わせは辻のヤングライオン時代の対戦となり、その時は実力差もあり一蹴されたわけですが、凱旋帰国してから一年経つ今の辻はもはや別人であるせいか、AブロックとBブロックの頂上対決としての新鮮味があると同時に、どちらが勝っても初優勝というシチュエーション。これは燃えますよね。

辻は前人未到の春夏連覇を掲げ、上村の思いを背負っての新世代の代表として勝ち上がってきたわけではありますが、対するザックは自らを現世代と定義することで名目上は世代闘争の形になったわけですが、棚橋や内藤、SANADAが戦うのとはまた意味合いが異なるんですよね。ブライアン・ダニエルソンを倒してNo.1テクニカルレスラーの称号を得たザックはまごうことなき世界標準の1人であり、ザックの語る「現世代」は新日内の話ではなく、プロレス界を丸ごと含めた文字通りの「今現在」で、その最先端かつ最高峰へのチャレンジでもあるのです。

序盤は互いに手探りでの攻防。膂力に勝る辻が打撃で押せば、ザックはピンポイントで腕への一点集中で攻め手を挫きます。蝶野も解説で触れていましたが、辻は攻めてはいてもやや浮き足立っている印象もあり、竹下戦でもそうだったのですが、辻は場外に飛んだ後に即座に相手に追撃を入れず、変に間を取ってのアピールや鼓舞が目立っていた印象があります。新世代のトップランナーとしてひた走り、メインイベントを何度もこなした辻が初めて直面する、G1決勝という1.4のドームメインに並ぶ新日本の大舞台。そのことへのプレッシャーを如実に感じてしまいました。

これは辻が拙いというよりはトップレスラーなら誰もが味わう「重圧」という名の洗礼でもあり、一挙手一投足の全てが視線の暴力に晒されて刻まれるような緊張感とでもいいますか……。抜群の会場人気に加えてファンの支持率や期待感も高いながらも、さらにその先の一歩、ファンだけでなくそれ以外の「外」にまで届いたことによる、チラホラ出てきた辻の決勝進出や優勝予想に対する不満など、新日本の主役が辻でいいのか?という賛否の声。その全てが重圧となってのしかかっていたような気がします。これは外国人選手での優勝を狙うザックとはまた別次元の「顔」か「顔じゃない」かの査定でもあり、この重みは半端なかったと思いますよ。その声にヤキモキしながらも、個人的には棚橋オカダ内藤が味わって苦しんできたその領域に、ようやく辻も足を踏み入れることになったんだな……と思って、少し感慨深くなりましたね。

しかしながらそうしたカタさはありつつも、辻は持ち前の打撃でザックを追い込みます。昨年と比較して辻の腹部攻めはだいぶ貫禄が出てきましたし、ガットバスターを始めとするアバラへの一点集中だけでなく、要所要所で相手を跪かせるストマックエルボーは当人のキャラにも合っていると同時に、差し返しの攻撃としても見事ですね。この限りなくボディブローに近いストマックエルボーは棚橋の太陽ブローっぽさもあって僕はわりと好きです。それ以外にもバイシクルニーは当初よりかなりキレ味が増していて精度もかなり上がりましたね。ストマックエルボー、バイシクルニー、そして振りかぶってのヘッドバットは辻の打撃技の三種の神器になりつつあるのを感じますね。

辻の打撃に苦しんだザックでしたが、スパニッシュフライを哲っちゃんカッターの要領でスタンガンでロープに喉元を打ちつけると、ショルダーアームブリーカーで腕を破壊。そしてロープを掴む辻の腕に珍しいフットスタンプを見舞うなどのエグさを見せてきます。ザックはそのファイトスタイルのイメージに反して戦い方は立体的であり、それでいながら全ての動きが「理」に適っているんですよね。

辻のマーロウクラッシュにヨーロピアンクラッチを合わせたり、虎の子のジーンブラスターは一度は被弾したものの、アームロックで捕獲して三角絞めに移行したりと、一瞬の隙をついて間隙を縫うようなカウンター一本に勝負を絞ったのが素晴らしく、段階的なエスカレーションで攻防を過激化させていくことの多かった歴代のG1決勝とはまた違う、独特の緊張感があったのがとてもよかったです。

辻もそんなザックに対して、G1決勝用のスペシャルな大技、雪崩式セブンティーンクロスを見舞います。セブンティーンクロスはネームド技にしては辻の持ち技の中ではやや影が薄くもありますが、ここで雪崩式を実装したことで、吊り上げられる形で必然的に技の格が上がったのがいいですね。

さらに辻は上村からラーニングした思いを背負ったカンヌキスープレックスを放とうとするも、これはザックが腕へのオーバーヘッドキックで迎撃。そしてフロントハイキックで出足を止めると、ラリアットはハイキックで迎撃。辻のヘッドバットはカチ上げエルボーと完璧に読み切って、当身のように打撃で隙を作ると、ラリアットで倒しさらに走り込んでザックドライバーを狙いますが、これを辻が切り返してまさかの掟破りのザックドライバー!相手の技でもお構いなしに大技を畳み掛けるスタイルはザックの対極でもあり、とっ散らかっていようがここは辻の執念を感じました。ふと思ったのは、ひょっとしたら復帰した上村相手にもカンヌキをやるかも知れず、辻の技レパートリーの中に「掟破り」が入りそうなのも今後の注目ポイントですね。

そして辻はジーンブラスターを狙うも、ザックがバックロールクラッチホールドで捕獲。返されるとすかさず仕掛けたのは、先に引退表明した先輩である小川良成の4の字ジャックナイフ固め!いやあ……この瞬間は声が出ましたよ。昔から見てる人にはJr.ヘビーの体格であのヘビー級の秋山準を葬った小川良成の秘技であり、ここでこの懐刀を抜いてくるメッセージ性と餞別には感動してしまいました。

そしてサッカーボールキックからザックドライバーを狙うも、これをオスプレイばりのスタンドッグミリオネアで切り返す辻。そしてロープ往復で加速をつけてのジーンブラスターを放つも、これをジャストタイミングで三角絞めで捕獲すると、オモプラッタからクラーキーキャットに繋げるザック。抵抗する辻にポジションを変えて腕を両足でテコの要領で絞り上げると、残った足をマフラーホールド。そしてさらに両足をデスロックで固めて脱出不可能の複合拷問関節技に。ジムブレイクスアームバー、もといクラーキーキャットからマフラーホールドの複合技はわりと見せていましたが、それの応用ですかね。

ザックの関節技が素晴らしいのは、見た目のエグさと説得力に加えて、相手の態勢に応じて技を切り替えていくセンスなんですよね。無理に固執して体勢を崩れることを良しとせず、崩れたらそれを合わせてより深く極まっていく。31分04秒の激闘。命名は「クラーキーキャット G1 34 winner テッカーバージョン」相変わらず技名泣かせではあるのですが、語弊を恐れずに言えばザックのサブミッションの技名の難解さなんて瑣末な事柄なんですよ。大事なのはそこに至るまでの手順や所作や説得力。仕掛けるまでの動き含めたその全てが「必殺技」であり「ザック・セイバーJr.の関節技」として唯一無二のものとなっているわけで。そのサブミッションによるギブアップ=文字通りの服従は、ザックのテクニックの総体に対しての敗北を意味するわけなのです。獅子奮迅の奮闘を見せた辻でしたが、ここでギブアップを口にし、ザックの悲願の優勝が決まりました。

日本語で応援してくれたファンへの感謝と、小川良成への感謝の言葉を述べるザック。観客席を練り歩き、ユニットの垣根を越えてファンがザックの優勝を祝う光景には目頭が熱くなりました。新日への貢献度で外国人選手を語ることは僕は好みはしないのですが、それでもコロナ禍を経て日本に残り、異質なサブミッションと古典的なレスリングスタイルを今の新日本プロレスファンに浸透させた功績は非常に大きなものがあり、ザック•.セイバーJr.という男は間違いなくファンの価値観を変えた男だと思います。

現代プロレスの幅を広げ、新日のファンやNOAHのファンからも団体やユニットの垣根を越えて祝福され、オールドファンにも届くレスリングをやり遂げ、外国人選手のG1優勝という偉業を成し遂げて希望の星となる。ザック・セイバーJr.こそ、本当の意味でのグローバルでありボーダレス。それを慮ればG1優勝も至極当然の結果であり、挑戦することを諦めなければ祝福は後からやってくる。素晴らしかったです。

惜しくも敗戦となった辻陽太でしたが、春夏連覇の夢が途絶えても、NJCの優勝にIWGP世界ヘビーへの挑戦。そしてG1の決勝戦への進出と、王手に指がかかった状態であり、間違いなく昨年よりは僅差に迫っているんですよね。今年の悔しさは来年に晴らすしかなく、春夏連覇の夢が途絶えても、来年はNJC連覇からのIWGP戴冠。そしてそのまま王者のまま優勝して三冠を目指せばいいんですよ。時代は間違いなくもうすぐ変わります。ひょっとしたら変わっているかもしれませんが、辻陽太がメインイベンターであることにもはや何の違和感もない以上、彼は間違いなくトップレスラーで、新世代の主役なんだなと思います。

ザック・セイバーJr.のIWGP王座挑戦は10月らしいのですが、これはまた読みにくくなりましたね。過去の新日はそうだったので違和感はさほどありませんが、夏の時点で来年のドームのメインのカードが決まってないのは新鮮で読みにくさがありますね。しかしながらG1優勝を果たしたザックですからIWGP戴冠も時間の問題でしょう。今はただ、この認められた幸福感に浸りたいと思います。あらためて、ザック・セイバーJr.選手。おめでとうございます!





いやあ……最初はザック優勝は大穴の予想かつ一番願っていたことではあったのですが、いざ現実化するとこんな気持ちになるのですね……。こんな会心の気持ちはちょっとここ最近ではあんまり記憶にないですね。最初は夢かと思いましたwさて、長くなりましたがG1公式戦の全試合感想もこれで終了です。ありがとうございました。最後までお読みいただき、感謝しております。しばらくはのんびり過ごしますが、また次のビッグマッチでお会いしましょう。ではでは。

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