2024.8.4 新日本プロレス G1 CLIMAX 34 愛知・愛知県体育館 DAY10 試合雑感
◼️第4試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
ボルチン・オレッグ vs デビッド・フィンレー
開始早々のフィンレーのタックルをあっさり捌いてローリングするあたり、ボルチンのレスリングテクニックはハンパないですね。前の試合もそうだったのですが、上の先輩相手だとまだ胸を貸してもらうような意識があったものの、自分と同じ新世代枠相手となるとボルチンの意地が剥き出しにされるのがとてもいいですね。
対するフィンレーはヒールムーブでジワジワとボルチンを痛めつけます。キャリアの浅い選手に仕掛けるダーティーな攻撃って相手の拙さを露わにする印象付けの意味でも強く、こうしたあたりは本当に強かですよ。そして背骨の部位破壊のレパートリーの一つであるキャメルクラッチが思ったより似合ってて驚きました。リフトやスラムを多用するボルチンにこの攻めは理に適っていますよね。
ボルチンも持ち前のパワーで反撃するも、それを強制シャットアウトさせるアイリッシュカース。この技の使い所がフィンレーは上手くなりましたよね。そしてフィンレーのお株を奪うカミカゼ!これ単なる掟破りではなく、彼の父が使っていた技でもあるのですが、積み重ねていた腰攻めがあるからこそ危うさもあるという。ボルチンも腰の痛みで崩れつつもジャーマンスープレックスホールドや速射式のカミカゼで対抗するも、最後は投げっぱなしパワーボムからのオーバーキルでフィンレーの勝利。終わってみればフィンレーが一枚上手であり、上手くいなしきった印象がありますね。
◼️第5試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
エル・ファンタズモ vs 上村 優也
落ち込み継続中のズモに上村がシンプルな握手からの開戦。これはスポーツライクでいいですね。互いの持ち味を活かした軽快な幕開けから上村がヒップトスにアームドラッグを連発。そして逆水平連発で火をつけようとしますが、ロープに足が引っかかるようなデンジャラスなブレーンバスターで上村が沈黙。こうした「怖さ」をひと匙スパイスのように足すズモはやっぱり油断できません。序盤の軽やかで熱い攻防が一気に冷め切った感もあり、ズモの心境をそのままリング上に落とし込んだような、情調不安定ぶりを空気感として出してきたのは少し驚きました。
上村はアームブリーカーからアームバーとシンプルな腕攻めに。上村はこんな感じで腕攻めのパターンを増やして欲しいですね。ファンタズモも飛びすぎなトペから最上段から鉄柵超えのボディアタックへ。このスイサイドな感じ。やぶれかぶれさも凄まじく、ジェットコースターのごとき情緒が攻撃に上乗せされています。やる気がないなんて言われてますが、悲喜交々含めた感情表現は昨年より圧倒的に上なんですよ。その後のELPコールこそが、単なるエクストリームな技に対してのものではないことが伝わるはずです。
上村も野毛道場仕込みの腕ひしぎを仕掛けますが、ファンタズモも反転して意外性のあるアンクルホールドへ。上村もダブルアームスープレックスからの腕ひしぎでズモを悶絶させるなど、一進一退の攻防に。珍しいバックドロップとジャーマンの撃ち合いなど、スイッチが入れば熱いのがいいですよね。
上村はジャーマンを仕掛けるも腕で振り払おうとするファンタズモ。その腕を捉えてガッチリとクラッチしての高角度ドラゴンスープレックスはあわやという場面だったものの、これはギリギリでキックアウト。最後は上村が狙ったカンヌキスープレックスを反転してエビ固めで押さえ込んでの技アリ勝利。足を浮かせて体重ごと乗せていましたね。してやられた表情の上村に、最後はファンタズモから求めてガッチリと握手。終わってみれば爽やかな復活の兆しすら感じる好勝負の一戦でした。
◼️第6試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
ジェフ・コブ vs HENARE
同門での初対決ながら、ファイトスタイルへの信頼感がそのまま怪獣対決として期待感に繋がってるあたり、この2人への信頼感の高さが分かりますね。
いきなり幕を開けるド迫力の肉弾バウト。HENAREがストライカー気質ならコブはスープレックスモンスターであり、その持ち味が存分に発揮されていますね。どれだけ激しくぶつかっても壊れないアンブレイカブルな肉体同士だからこその削りあいの凄まじさがあるんですよ。
何度か書いていますが、HENAREは打撃主体のレスラーにしては珍しく、ありがちな格闘スタイルのレスラーではなく、ボディブローに縦肘、横肘、ニーにミドルといった蹴り技だけでなく、頭突きやセントーンといった体当たりまで含めた、プロレスで許される打撃技を全て備えたトータル・ストライカーなんですよね。まさに肉体全身凶器!対するコブは膂力だけなら恐らく新日マットNo.1であり、セカンドロープからの雪崩式ブレーンバスターは持ち上げて静止しての滞空式という脅威の一撃で、やはり投げに関してはコブに軍配が上がります。
コブも負けじとTOAボトムやバーサーカーボム、ランペイジなどのスラム技で対抗。HENAREが投げを見せれば、二往復からのラリアットで宙を回せるなどコブが打撃技を見せ、2人の意地が融和していきます。奥の手、F5000で振り回したあとにコブが起き上がるのを待って言葉をかけてからツアーオブジアイランドでブン回してコブの貫禄勝ち。外国人選手として新日で頑張ってきた2人だからこそ魅せれるプロレス。もう感情が爆発しちゃいますよ。これは。
◼️第7試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
後藤 洋央紀 vs KONOSUKE TAKESHITA
海外からの黒船。新世代の暫定トップ相手となると、後藤幕府による鎖国しかないですねwまた、やはりこれは擬似的な対抗戦の香りもあり、それだけに新日本を見せるとなるとキャリア最年長の後藤はある意味では最後の砦であるとも思います。そして竹下の口にしたメンター・中邑。これは同期の後藤からしては絶対に負けられないんですよ。なぜこのカードにこれほどまでに心を引かれるのか。最近はわりとボーダレスではありますが、やはり心のどこかで新日本は負けるわけにはいかないと思ってるからではないでしょうか。あとは最年長キャリアでの出場。後藤に対する期待感はロックアップの時点での後藤コールからも分かりますね。
序盤はスケール感の大きな竹下の攻めにに押されるも、こうした大技やハードな打撃戦は後藤の領域であり、ここで遅れを取るわけにいきません。しかしながらこの巨体でジュニア級の身体ポテンシャルがあるのが竹下の恐ろしいところで、カウンターのフランケンシュタイナーからノータッチのトペコンヒーロはやはり怪物感がありますね。
しかしながら勝負が進むにつれてエンジンの出力の違いがやはり響いてきており、後藤得意の切り返しも汎用性の高い竹下の重いエルボーで止められます。そして雪崩式ブレーンバスターを狙う竹下でしたが、ここで頭突きからの久しぶりの雪崩式回天!そしてGTRを狙いますが、人でなしドライバーからさらにホイールバロー式ジャーマンでブン投げられる! 竹下、やはりバケモノですよ。
さらなる竹下の追撃を身体ごとぶつける特攻ラリアットで倒すと、大・後藤コールの中、印ミドルをブチ込み、GTWと攻め立てます。虎の子のGTRは体勢を入れ替えられての垂直落下式ブレーンバスターで切り返されてダブルダウン状態に。やはり勘所でのカウンターが竹下の場合はどれも一撃必殺級であり、それだけに後藤の耐久力でも相当厳しいことは分かるんですよ。
そしてレイジングファイヤーvs昇天・改の展開に。ブレーンバスターの仕掛け合いはまさに互いのフィニッシャー級の技だけに緊迫感が凄まじいですね。そして昇天・改、敢行! これ……あの長身で受け切った竹下も相当なものですよ。これは惜しくもニアフォール。そしてGTRを狙いますが、再びこれをプレーンバスターで切り返して竹下はレイジングファイヤー狙い。これをなんとか着地し、間合いを取って咆哮。竹下のエルボーと後藤のヘッドバットの正面衝突。これはエルボーが当たる刹那、ギリギリで先に踏み込んだ後藤のほうが先に決まります。まさに剣豪同士の一騎打ち。西武のガンマンの果たし合いのような一幕で、この時の呆然とした表情で崩れ落ちる竹下と、後藤の鬼気迫る顔のコントラストが素晴らしいですよ。こうした絵力の強さこそ新日本プロレスの真骨頂かもしれませんね。
そしてグロッキー状態となった竹下をGTRで叩きつけて、後藤……激勝! 黒船に対しては後藤幕府による鎖国しかないんですよ。この時の竹下の一回ハネてのGTR受けっぷりが海外っぽいなと頭の片隅で思いながらも、後藤勝利のカタルシスでボロ泣きしちゃいましたね。考えてみれば中邑の名前を出されただけでなく、今日の解説は過去に付き人だった天山広吉だったわけで、そしてストロングスタイルの最後の砦としても絶対に負けるわけにいかないシチュエーションだったんですよね。
しかしながら改めて浮き彫りになったのは竹下のオーバースペックぶりであり、当人のスケール感のある攻めが目立ちますが、今回の相手は同じく猛攻の後藤だったわけで、それでいて余裕があったというのは凄いものですよ。蟻の一穴で勝てても、終始手綱から手は離さなかったな……とも。その仮面を剥ぐにはまだ至ってない。そんな心境です。これは後藤が弱かったとか勝たせてもらったとかそういう話ではなく、まだ竹下は「底」を見せてないなという感じですかね。いや、それにしてもここでG1ベストバウトを叩き出してくるとは……。後藤もまた今回のリーグ戦の試合のクオリティはすこぶる高く、単なるベテラン枠ではない意地を感じます。いやはや、文句なしに名勝負でした。
◼️第8試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
辻 陽太 vs 成田 蓮
入場での暗がりで辻の笑み、悪魔めいてて良かったですね。試合は成田の奇襲からスタートで大ブーイングでの幕開けに。鉄柵周遊で大きく間を取りながら、要所要所で足を痛めつけます。椅子を下に敷いての椅子での足狙いはレフェリーに防がれたものの、隙をついてその下の椅子を使っての攻撃。これ、ブラインドをつくアイディアが非常に面白いと思うのですが、やはり生観戦だと見えにくいのが難点ですかね。やや難のある成田の打撃も一点集中ならその欠点も隠れるわけで、この辺りの試合運びは本当に良くなったなと思います。
リングに戻った辻の左足を徹底的に痛めつけると、剥き出しのコーナーに一撃。垂直落下気味のブレーンバスターからのレッグロックは辻がボディシザースでのカウンター。それを両足で挟んでさらに絞めあげる成田。この辺りの細かな凌ぎ合いも新世代同士の意地があって素晴らしいです。辻のフランケンを足の締めが緩いことを利用してスカし、ヤングライオン時代の逆エビでの挑発も、これをいまだに使用し続ける辻に対して仕掛けるのは二重の意味で挑発になってていいと思います。
苦しい展開になった辻ですが、成田に仕掛けたエルボー連打は感情的でよかったですね。ショルダータックルにガットバスター、ブレーンバスターで反撃の糸口を掴みかけますが、逆エビは髪を掴まれ、突進はチョークで阻まれてブリザードに。この前のコーナーでのストンプも外されたわけで、辻のセオリーが徐々に崩されて成田のペースで進んでいきます。相手を潰しにいく。このあたりはストロングスタイルの息吹もまだしっかり感じるなと。
成田は地獄の断頭台を狙いますが、これをかわしてリバースの前方回転エビ固めで意表をつくと、そのまま高角度の逆エビ固めに。前回はヤングライオン時代を振り返るには早すぎると思いましたが、一転して今回は成田が闇落ちしたのもあってか、怨念めいた感じがあって随分印象が違いましたね。辻は強者としてゴリゴリに押していくのが持ち味ではありますが、意外とこうして追い込まれたときにこそ魅力が発揮されるなとも思います。これは実力や格が上の先輩では「胸を借りる」意識もあってか引き出そうとしても引き出せない部分であり、同世代に対する対抗心や嫉妬心がないとその余裕って消せないものなんですよ。つまりは新世代のトップランナーをひた走っていた辻に成田が肉薄するようになった証でもあるわけで、この相乗効果は互いにとっていい刺激になるんじゃないかと思います。
辻はマーロウ・クラッシュを狙いますが、成田はロープを揺らして崩します。成田はブリザードを狙うもこれはバックブリーカー、フェイスバスター、カーブストンプのコンボで辻が逆襲。この技の成田の受けがめちゃくちゃ綺麗で驚きました。しかし成田も負けておらず、ジーンブラスターは飛び付いての裏膝十字固めで返すなど、徹底的に辻に付き合わず成田は潰しにかかります。
そこからの中央に引き寄せての膝十字はスクールボーイで切り返すと、強引なヘッドバットとセブンティーンクロスで辻はペースを握り返します。しかしながらレフェリーを巻き込んで断頭台を決めると、成田は改造プッシュアップバーを手に。それはトラースキックでカウンターすると、辻も顔面を踏みつけてさらに膝蹴り。そしてマーロウ・クラッシュにいくも、かわしてたたらを踏んだところで、成田は再びレフェリーにぶつけようとします。そしてレフェリーが顔を覆った所にローブロー!いやあ……成田素晴らしいですよ。そして辻のお株を奪うようなマーロウ・クラッシュ式地獄の断頭台に。お前「程度」ができることは俺にもできる。辻のマーロウに被せるようにこれを出す。成田のヒールとしての意地が出ていましたね。
辻は怒りのエルボー連打から振り抜くエルボーに。成田のチョークは怒りのチョークでやり返し、ブレーンバスターボムへ。ジーンブラスターは金具へ激突させられ、さらに背後から裏膝エルボー。膝蹴りからダブルクロスを仕掛けられるものの辻は倒立で回避。これ、2人のこれからの試合の定番ムーブになりそうですね。今回は膝攻めもあったせいか無事な手で防ぐのは理に適っていますしね。そして尻餅状態の成田に対して膝蹴りを叩き込むと、そのまま成田の身体を浮かせるほどのジーンブラスター一閃。辻が勝利をモノにしました。
前の後藤vs竹下戦が実質メインと言ってもいいほどの激闘の名勝負だっただけに当初こそ不安がありましたが、蓋を開けてみればメインに相応しい一戦となりました。昨年のG1でのドローははっきり言えば凡戦であり、格下を引っ張るほどの力量がまだ辻に備わっていなかったのと、成田の実力が絶対的に足りていなかったわけではあったのですが、今回の試合は成田の仕上がりっぷりと急成長ぶりが素晴らしく、試合展開に「淀み」が一切なかったんですよね。
個人的に目を引いたのは辻のセオリーのムーブをことごとく成田が潰していったことで、いい意味で「付き合わなかった」んですよね。新世代の面々はわりと皆スマートなせいか「いい試合をしよう」という気負いを必要以上に感じることも多く、こうした昔の新日本らしい「潰し合い」はあまり見えなかったような気がします。それ故にこの2人でそんな側面が見えたことに唸らされました。普段とペースの狂った辻が持ち前のポテンシャルの発揮と感情の発露を見せたのも素晴らしかったです。
いやあ……それにしても成田、急成長ぶりがヤバいですよ! 柴田勝頼と鈴木みのるからストロングスタイルの薫陶を受け、ヒールターン以後はディック東郷や金丸義信から悪の授業を受ける。考えてみれば師匠に非常に恵まれていて、それを思えばこの一年での急成長ぶりも頷けます。ストロングスタイル時代から多人数タッグだと影の薄さがあり、ヒールターン以後も他のメンバーのアクが強いせいか小物のような印象がありましたが、それを払拭するために介入によるサポートがほぼなく、一人でメインをやり切ったあたりに成田への信頼が窺えますね。あとはシングル適性が非常に高く、ようやくそのセンスが開花しつつあるなと思いました。
辻もメインイベンターはもはや違和感はなく、新世代の括りとはいえ現状はベルトに王手をかけた大関クラスの選手だと思います。それだけに今回のリーグ戦での決勝トーナメント進出は使命であると同時に、一度敗北した竹下をトーナメントで超えることこそ直近の目標であると思うのですよ。ここは是非トーナメントを突破して、念願の初優勝を成し遂げて欲しいですね。セミに負けないぐらい、今回のメインもメインに相応しいいい試合だったと思います。G1、最高ですね!
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G1も折り返しとなってきましたが、一つ個人的な発表を……。今回の記事でnoteの投稿200回記念となりました。僕の書いているものは基本的にはX(旧Twitter)で書ききれなかった文章の置き場であり、プロレスブログ未満の、単なる感想文に過ぎないものではあるのですが、それでも細々と気ままにこれまでなんとか続けてこられました。クリエイターサポートも含めて、いつもありがとうございます。また次のG1の感想でお会いしましょう。ではでは。