2024.8.7 新日本プロレス G1 CLIMAX 34 東京・後楽園ホール DAY12 試合雑感
◼️第4試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
ボルチン・オレッグ vs ジェフ・コブ
怪物vsオリンピアン。こう書くと神話みたいですよね。開幕早々レスリングの差し合いからテイクダウンに持ち込んだのはボルチン。もう少し長く見たかった気もしますが、こういうのをちゃんとやってくれるあたりに安心感を覚えます。
コブは打撃に切り替え、ボルチンも応戦しますが、スーパーヘビー級同士だけあって重みがあったのがよかったですね。先にシェイクを見せたのはコブですが、サイドスープレックスで持ち前のパワーで強引に振り回します。負けじとボルチンも自分の名称付きというボルチンシェイクを見せ、意地を見せました。こうして見るとリズム感としてはボルチンのほうがわりとスムーズだった気もしますが、コブは力の流れを強引に切り替えてる印象で、アスレチック・プレックスやツアーオブジアイランドと同じ系統になってるのも興味深いポイントです。
コブが無双っぽいスラムで叩きつければ、ボルチンも助走なしのカミカゼ。最後はラリアットの撃ち合いに勝つと、ツアーオブジアイランドで綺麗に旋回し、叩きつけて怪獣対決を制しました。勝因はやはり試合の幅と攻めの選択肢の数ですかね。コブにF5を決めるシーンは見たかった気はしますが、これを許さなかったあたりに壁の厚みを感じるな、とも。この対決はまた見たいですね。
◼️第5試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
エル・ファンタズモ vs KONOSUKE TAKESHITA
ファンタズモ、完全復活!電飾ジャケットの輝きだけでそれを印象付けたのは素晴らしく、また ELPの身に降りかかった不運はリアルだっただけにその落ち込みもそこからの復活もわりと時間がかかった印象があります。プロならメンタルを整えるべきというのは確かにその通りではありますが、プロレスはその人生も幸も不幸も全てを曝け出せる場所であり、そうした感情表現の分野でいえばG1のこのファンタズモの見せたものは一級品であったと自分は感じます。個人的にはわかりやすいストーリーとしての復活ではなく、迷いつつも徐々に立ち戻っていったのが回復としてリアルだな、と。
まあそれも納得の話であり、相手は禁断の扉からの因縁がある竹下であり、間違いなく一番の強敵かつ、即ちベストバウトの可能性すら視野に入った一戦なんですよね。気合いの入りっぷりが凄まじかったです。
竹下のハードな打撃に負けじと強いエルボーを打つファンタズモ。やはり竹下の攻めはダイナミックでありながら、空中戦ならファンタズモに分があり、両者共客席に雪崩れ込むトペに、さらに鉄柵超えのケブラーダなど、高さの部分でスケール感を増してきたのが素晴らしいです。観客席で歓声を受けるズモ、カリスマ性ありましたよね。
わりとこの試合、竹下は場外弾のダメージもあってかかなり防戦一方となりましたが、人でなしドライバーのテーブル葬で戦況は一変。ファンタズモの背中からの流血するほどの一撃で一気にイーブンに戻します。この辺りのダメージの調整は竹下はかなり厳格というか、米マットの薫陶を感じますね。
ファンタズモはサドンデスを挟みながら優各種押さえ込みで揺さぶりつつ一気に仕留めにかかるも、竹下は持ち前の膂力で弾き返します。ド迫力の膝蹴りに豪快なラリアット……。やはり打撃の重さは半端ないです。そして最後はレイジングファイヤーで竹下の勝利!あと一つの決め手の差。絶対的フィニッシャーの差。全体火力の差。ここでまたしてもリアルを突きつけてくる新日本プロレスに脱帽です。そしてここに至るまでほぼ毎回高水準のマッチクオリティを叩き出してる竹下の怪物性。いやあ……ここまでくると単なる勝ち負けの話ではないですよね。げに恐ろしきことに、彼はこれでもまだ余力あるんですよ。
ファンタズモは惜しい敗戦で、新日ファンとしては悔しいのですが、この作品を残せただけでも今までの迷走もお釣りがついて返ってきたとは思います。全てはこの試合のために。そしてこれでも負ける衝撃。ファンタズモのエレジーとしてこれ以上ないぐらい完璧な一戦でした。文句なくG1のベストバウトです。
◼️第6試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
辻 陽太 vs HENARE
全身凶器のHENAREの打撃に苦しむものの、辻は小技やルチャ殺法などで撹乱。それでいながらもエルボーでしっかり打撃でも張り合っていくあたり、辻も自身の強さを押し付けていますよね。途中のブレーンバスターの仕掛け合いは空中で止まった辻を強引に叩きつけるHENAREのパワーもまた凄まじく、強者ムーブの目立つ辻を強引に強さで突破するHENAREは矛と矛の激突のようなわかりやすさがあっていいと思います。
HENAREも石井のようにスーパーアーマーで辻のエルボーを受け止めた姿はアストロン状態で動いているような反則さがあって面白かったですね。そして新日随一の威力を誇るミドルも解禁。ショルダータックルの衝突合戦にマシンガン掌底の撃ち合い。前者はともかく後者は珍しく、こうした辻のガムシャラさは意外とない側面だったので見れたことに喜びを感じます。マウスピースを飛ばすほどの膝蹴りを叩き込んでもHENAREは止まらず、虎の子のヘッドバットも得意とするHENAREに返される。万事休すかと思いきや、HENAREの突進を前転でかわすと、ロープワークから交差法でのジーンブラスター一撃で辻の勝利。カウンターでも相手の突進力を利用して仕留められるのがスピアーという技の汎用性の高さですね。
かなり苦戦した印象がありますが、辻は苦戦すればするほど地金の魅力が見えてくるというか、強さを欲しいままにして振る舞ってきた男が追い詰められた時こそ本当の強さを見せるものだと思っています。こうした同格に近い勝負を今後はもっと見せて欲しいですね。
◼️第7試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
上村 優也 vs 成田 蓮
上村にとってのデビュー戦の因縁がありながら、気持ちとしては凱旋帰国後の実質初対決という気持ち。かつてストロングスタイルを自称し、それを捨てた男からすると、あとで拾ってそれを唱える上村は非常に腹立たしいものがあるでしょうし、上村がいくらストロングスタイルを言った所で、その薫陶を受けてレガシーがあるのは成田のほうという。こうした捩れもあるせいか、二人のファイトスタイルにしては前哨戦の時点で殺気を感じる、結構ヒリヒリした一戦となっていました。
成田の鉄柱を利用しての足殺しのパターン、本当に多いですね。足を攻められれば攻められるほど上村のヒロイックさが際立つというか、表情がとてもいいですね。しかしながら得意のアームドラッグにドロップキックと反撃は単発に終わりがちで、成田の膝十字でさらに苦しい戦いが続きます。
飛び技を一度は金丸の介入で防がれるものの、二人まとめてのプランチャにダイビングクロスボディと、痛む足に負けじと飛びかかります。ドラゴンスープレックスはしっかり決めるも、カンヌキスープレックスはレフェリー利用で防がれ、ローブローからのニー、そしてダブルクロスで成田の勝利。
うーん……悪くはないのですけれど、前哨戦に仄かに感じた殺気はさほど感じず、当初期待したよりは普通の試合に収まってしまったというか、上村の星の後半の失速がそのまま試合のテンションにも作用してしまった印象があります。カンヌキの腕を極めて振り回すの、体勢を崩す意図はわかりますが、その動きが二度に渡って切り返され、そのまま敗因に繋がったというのは手痛いですね。あとやっぱり成田は上手いですよ。ストロングスタイルの「匂わせ」は結構良かったですし、そうした成田の感性がハマってきた部分に対し、植村の感性がやや天然めいててズレてる所の差が浮き彫りになった気がします。ストロングスタイルを語るのであれば、成田の見せたそこの部分にもう少し上村が呼応してくれたらな、とも思いました。介入アリが一応のミソで、この二人の次戦に期待したいですね。
◼️第8試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
後藤 洋央紀 vs デビッド・フィンレー
GOATスレイヤー、サベージキング、ザ・レベル。フィンレーの異名はどれもカッコ良すぎて選ぶのに迷いますね。NJCで生じたかすかな因縁もあり、後藤とのマッチアップは気になる一戦でもあります。
後藤にとってのG1はすでに過去に戴冠した栄光であり、何よりもIWGP王座を欲する身からすると、G1優勝はIWGP挑戦権への片道切符の意味合いが強かったのですが、今回は棚橋含めたベテラン勢やパートナーのYOSHI-HASHIが不参加で、最年長参加かつ最年長優勝の記録更新という明確な実績が見えてきたのもあって、元よりあった期待感が凄く高まっているのを感じます。そもそもほぼノーマークかつ、偶発的なNJC決勝進出で盛り上がった後藤再びの期待感。その実績でG1に出られている現状、ファンの後押しと運命が追い風となり、彼の背中を後押している気もするのですよ。冗談抜きで今の後藤は会場人気No.1と言っても過言ではないと思います。
フィンレーと相対するとそのベビー感がより強調されて感じますし、ベテランならでの重厚感もありますよね。フィンレーも関節をピンポイントで狙うストンピングに指を齧る邪悪さを見せ、後藤もフィンレーの得意とする切り返しの領域で牛殺しを決めるなど、得意領域での勝負では譲りません。エルボー合戦から後藤は切り返してリバースGTRを決め、そのまま即座にラリアットに。このリバースGTRのデチューンして小技として使うの、わりと好きです。
フィンレーもGTRを切り返してINTO OBLIVIONを決めると、コーナーパワーボムから投げ捨てパワーボムの人体破壊コース。これはギリギリで返し、後藤も大技、昇天・改で叩きつける!フィニッシャーじゃなくなったのが残念である反面、強敵相手に解禁することで逆にプレミア感が増したというか。この技は本当に凄いですよね。
そして外道の介入。バレクラの介入とHOTの介入って同じようで微妙に差異をつけていて、外道介入は派手な乱入や2vs1ではなく、基本的にアシストかレフェリーブラインドなんですよね。そしてシレイリ攻撃はノーモーションヘッドバットで迎撃し、シレイリを捨てての印ミドル。そしてGTWでさらなる追い討ち。GTRをトドメを刺そうとした所をバックスライドでフィンレーが切り返すとここからオーバーキルに。この膝をガッチリ受け止めると、エルボー連打にも怯まず、フィンレーのローリングエルボーに対して竹下を沈めた至近距離のヘッドバッド一閃。これ、右腕のエルボーだと死角の左側から入るので説得力あるんですよね。そしてなおも抵抗するフィンレーの腕を固めて、リストクラッチ式GTRこと新技のGTR改で叩きつけ、後藤勝利!いやあ……わりとプロテクトされてる印象のあるフィンレーに勝ちますか後藤洋央紀。これは……これは、ひょっとすると、ひょっとするかもしれませんよ!
振り返ってみれば、フィンレーの最大の才能の一つである切り返しのセンスで上回った、というのがわかりやすいストロングポイントとして機能していたのがこの試合のいい所で、単にベテランだから、昔から応援されているから、みたいなヌルい理由で勝たせてもらった試合でないのがいいんですよ。コブ戦に竹下戦と、試合のクオリティは高く、誰もが納得し、誰もが願う優勝だからこそ、後押しを受けての勝利。これに勝るカタルシスはないですね。
そしてリングサイドに座った息子と娘に勝ち名乗り。「お父さん勝ったぞー!」こんなの泣きますよ。「お父さん今日がんばったから、明日から勉強頑張れよ」と言いつつ、安堵の涙を流す娘に「怒ってないからな。怒ってないよ」と言うパパ、後藤。家族愛は尊いものです。日々戦い、働くお父さんは一番カッコいいんですよ!いやあ……これはもう優勝以外ないですね。このまま突っ走って欲しいです。
とはいえ先は長いんですよ。リーグの星取りは3人突破とはいえまだわからず、それを抜けても突破しなければいけない決勝トーナメントの存在があり、そして最後には決勝戦がある。よしんば優勝したとしても、その先には悲願であるIWGP戴冠のための王座戦があるという……。後藤の覇道のロードマップは極めて長く、まだまだ戦いの道は果てしないわけです。キャリアとしてはもう後がなく、これがそのきっかけを掴む最後のチャンスという可能性すらある。新世代の優勝を望みますが、後藤に限っては時代の針を巻き戻してもいいんじゃないかと思います。それは単なる思い出作りなんかではなく、今この瞬間は、後藤が最強であるという証明のためだけに。その瞬間が来るまで、待ち続けていたいですね。