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2024.7.25 新日本プロレス G1 CLIMAX 34 香川・サンメッセ香川 DAY4 試合雑感

例年通り、地元での開催ということもあって今年も行ってきましたよ、現地観戦!今回の会場であるサンメッセ香川は個人的には同人誌即売会のイメージがあったのですが、プロレス会場にもなり得るというのは地元民からしても盲点でした。

昨年の高松市総合体育館と比較すると一長一短で、電車やバスといった公共交通機関のアクセス面では前の会場のほうが良かったと思いますが、駐車場は非常に限定的かつ会場も狭かったわけで、それと比べると車社会の田舎住まいの身からすると今回のサンメッセ香川は非常に車でのアクセスがしやすく、また会場も広かったため、県内での集客を考えるなら総合的にはこちらのほうが上だと思います。

今回は2階席がなく、個人的な席の好みは2階席最前であり俯瞰で見るのが好きなのですが、仕方なくロイヤルの5列目を購入。この点だけなら前回の会場のほうがよかったわけですが、会場自体が広いというのは非常にありがたく、物販の購入やサイン会の待機列含めてとにかくスムーズかつ移動しやすかったため、やはり利便性には勝てないなという結論に。久しぶりのロイヤル席は臨場感があってこれはこれで良かったですね。

サイン会はゲイブ・キッド。悪辣でありながら紳士的で、そしてドン底からの復活と昨年の清宮戦でのブレイクからその人気は留まるところを知らず、人気だけならほとんど売れ線のベビーフェイスと変わりませんね。そんな今一番ホットな男のこの表情!いやあ……普段はあまりサインを貰わないのですが、これは本当にいい思い出になりました。根底にある新日本プロレスへの偏愛に共鳴できただけでも嬉しいです。

さてさて、前置きはここまででとして。いつも通り現地観戦の生々しさをできるだけ込めつつ、公式戦を中心にピックアップしていきましょう。

◼️第5試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
後藤 洋央紀 vs ボルチン・オレッグ

まずボルチン入場の時点で期待感に満ちた歓声と声援が沸き起こっていたことに驚かされました。参加選手の中ではニューカマーではあるものの、ユニット分けの色が付いてないのもあってか満遍なく皆がその怪物ぶりと成長を見守る感じになっており、かといって判官贔屓のような感じは微塵もなく、純粋に実力一本で支持を得ているのが伝わってきましたね。

対する最年長選手である後藤は今となってはかなり貴重な日本人パワーファイター枠ではあるのですが、そんな後藤ですら押し負けるほどにボルチンの規格外のパワーが目立つわけで、そこを歴戦のキャリアによるテクニックで切り崩していこうとする展開が一つの見所ではありましたね。手四つで押し込まれるのを反転して手首を極めて返したり、当たり負けしたと見るや否や、上半身ごと倒れ込むように体重を乗せてぶつかっていくラリアットなど、細かな部分で力と勢いだけではない部分を後藤が見せていたのが良かったです。

ボルチンはファイヤーマンキャリーの体勢からの派生技がフィニッシュであるカミカゼ、ハリケーンドライバー、バーディクトと3パターンあるわけで、今回チョイスしたのはハリケーンドライバーだったわけですが、すでにファイヤーマンキャリーの体勢に入っただけで悲鳴が起こるようになっているのは周知が行き届いているのを実感します。

そこからの展開は見事の一語で、カミカゼを高角度の前方回転エビ固めで切り返した後藤。これは得意とする雪崩式回天やベースにあるメキシコ修行を思えば納得の押さえ込みであり、二度目のスリーパーから再び押さえ込みレパートリーの一つである後藤弐式へ。この辺りのリズムの付け方は流石といったところで、パワーで勝てないならこれで決着かなと思っていたのですが、これが返された時点でやや勝負は読めなくなってしまいました。

最後はヘッドバッドから渾身の印結びミドルキック。このミドルキックって開発当初から技の格の位置付けが非常に曖昧なせいか、いい意味でこれで決まった!感が出にくく、それがかえって勝負の読めなさに拍車がかかった気はします。しかしながら今回はしっかりと正調GTRで後藤がボルチンを粉砕しました。

いやあ……終わって出たのは歓声よりも安堵であり、今年の後藤のG1は最年長出場かつ落選したメンバーもいる中で、試合内容は抜群によくとも全敗に近い成績で踏み台になってしまうんではないかという不安に苛まれていたわけですが、ここで数々のベテランを葬ってきたボルチンをベテランの最後の砦として勝った意味はリーグ戦の星取の一戦以上に重い価値があると思います。バクステで語ってきた噛ませ犬じゃない発言は転じて壁となるベテランの意地の決意表明であり、最初の公式戦でありながら、試合が終わった後の周囲の大歓声と燃え尽きた感は生観戦が終わった今でも忘れられない一瞬でした。



◼️第6試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
ジェフ・コブ vs 成田 蓮

成田のダウナーな入場曲と雰囲気、いいですね。こちらは先ほどのボルチンに反して周囲の反応はやや鈍く、不人気とまでは言わずとも試合内容の著しいクオリティアップに反して観客の反応がまだ追いついていない気がしてもどかしいですね。

最初に仕掛けた場外乱闘からの椅子へのスープレックスはハイライトの一つなのですが、自席から見えず。現地観戦の醍醐味の一つとして見えなくても雰囲気でヤバいことがどよめきとして伝わってくる楽しみがあるのですが、大技に反してリアクションが芳しくなかったのは1階席のみだったというのも大きいかもしれません。

コブのその場飛びムーンサルトを自爆に誘うと成田は膝攻めを開始。この辺は明らかにディック東郷や金丸義信の薫陶を感じます。かなり手慣れた感じがあって昨年と比較すると明らかに上手くなってて淀みが一切ないのですが、東郷や金丸のヒールテクニシャンぶりは「ベテラン」という技術への敬意という側面で見られているのに対し、成田は枠としては「新世代」であるため、こうした老獪な戦術を巧みにこなしたとしてもキャリアや実績の裏付けがない以上、観客にはいまいち響かないのかもしれません。最近の試合内容を見ても明らかにそっち方向に流れつつはあるのですけど、評価されない理由は貫目が足りないというのは今の頑張りを思うと些か厳しい話に思います。

話はやや逸れますが、この日の前哨戦で海野の試合を見たときにパフォーマンス先行のように思われる部分がありつつも、そのパフォーマンスの部分だけで言うならすでにかなりの領域にいることを改めて感じ取ったんですよね。単純に華がありますし、入場のときにどこから入ってくるのか目で追うだけで海野の空気になっているのを感じます。本間が攻めているときに「ガンバレー」と本間の声マネで笑いを誘ったりと余白があり、そうした観客とのキャッチボールができているわけです。比較するわけではないのですが、それを思うとキャッチーなシーンや分かりやすい盛り上がりがないぶん、現地観戦による補正が成田の場合はいまいち効きにくいのかもしれないなというのは新たな発見でした。今の成田、マジでいいんですけどね。過小評価されすぎですよ。

そしてシンプルなトーホールドからレッグロックへ。ここが分かりやすい足4の字固めや逆片エビとかではなく、ユニットのストロングスタイル時代に培った技術をしっかり活かした古典技かつベーシックな技なのも推せるポイントです。そして膝の痛みをこらえてコブの反撃ターンになる。これもシームレスで素晴らしいですね。

そして足攻めで踏ん張りを効かせなくしてからのブリザード狙い。これもヒールターンしてからも愛用してる技の一つであり、その寒々しい名前と貴重な投げ技枠として大事にしてるのが伝わってきますね。これで投げられないと見るや、すぐさま裏膝十字固めに。これにはやや反応が鈍かった観客からも流石に驚きの声が上がりました。先ほども書きましたが、こういう局面でこういう技をチョイスするのがストロングスタイル系ヒールの真骨頂なのですよ。成田以上にキャリアと系譜を大事にしている新世代もそうはいないと思います。そして膝頭を蹴るなどの決して派手ではない小技。これで試合構築できているだけで本当に大したものなのです。

苦しい展開が続く中、コブは今までの劣勢を跳ね返すような大技であるF5000で成田をブン投げます。成田が小技が目立つからこそコブの大技が光る構図が素晴らしく、この技は生で見る価値は大きいですよね。そしてレフェリー衝突から改良プッシュアップバーを取り出すもコブが奪い取り、一撃を加えようとする中レフェリーに止められる。その凶器によるレフェリーとの押し問答の一瞬の隙をついて成田がコブにローブロー。ヒールの面目躍如ですね。そして顔面へのニーリフトからダブルクロスという流れるような連携でコブからピン。非常に理にかなった動きであり、それでいて凶器は使用しつつもトーチャーのお家芸である介入をほぼ使わないあたり、一人で試合を任せても問題がなく、また試合内容を見てくれという強い意志を感じますね。

お通夜のような雰囲気ではありましたが、それも含めて立派なヒールらしい試合でしたよ。ヒールに固定ファンがついたり、逆にベビー以上の歓声を呼んだりするヒールがいたりする今の新日マットで、ひょっとしたら成田だけがれっきとしたヒールの道を歩んでいるのかもしれません。今の成田の試合は面白いですよ。間違いなく。


◼️第7試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
エル・ファンタズモ vs 辻 陽太

地元・香川もご多分に漏れずロスインゴのファンは多く、この日も辻の人気は凄まじいものがありましたね。元々のロスインゴ人気に加えて新世代への期待感の相乗効果も上乗せされているせいか、辻への歓声は止まる気配が見えませんでした。

ファンタズモは相変わらずハートブレイクのままであったものの、憐憫による感情移入の度合いは加速的に高まっており、入場曲のノリやすさが「励まし」となっていたのが良かったですね。何よりあの入場曲は現地で聴くとやっぱりめちゃくちゃいいんですよ。ズモの試合は昨年と比較すると今年のほうが面白く、それはGODとの別離という行き先不明の迷子感というリアルなストーリーが背景にあるのが大きいのですが、やはり感情移入によるドライブ感はいいスパイスですよね。このロンリーハートかつローテンションの表現をリング上に落とし込みつつ試合のクオリティは落としてないのは特筆すべきポイントで、哀愁はありつつも精彩を欠いていることへの焦ったさや立場が定まらない迷走感がないのは何気に凄いことだと思います。

そんなズモの持ち前の軽快さは必死であり足掻きでもあり、そうした動きに合わせられるのがルチャベースの辻の強みでもあるんですよね。大歓声もあってやや分かりにくかったのですが、辻はわりとふてぶてしさを全面に出しており、試合におけるスタンスとしてはややヒールめいていた印象があります。痛ぶるような張り手に、足を痛めたのを確認してからの雪崩式ドラスクといった残虐めいた足殺し。その中で出したゴリラクラッチは少しクラッチに手間取っていたものの、わりとスタイルにも合ってて良かったですね。辻は突進技、飛び技とあるので関節技系のフィニッシャーが一つぐらいあるとバランスが良くなる気もしますし、今後ジーンブラスターとマーロウ・クラッシュに続く第3の矢が放たれるのを期待したいですね。

足を攻められて攻め手の一つである飛び技が封じられるという絶望の最中、辻の挑発で「怒」の感情が引き出されるファンタズモ。やはり全ての感情の根源には怒りがあるというのは非常に新日らしい気がします。勝負は一気に加速してズモの押さえ込みの連発から辻も前回の試合で決め手となったマーロウ・クラッシュを放つもズモは回避してトルネードDDT。辻もブレーンバスターボムを放って一歩も引きません。

虎の子のジーンブラスターはリープフロッグで返すとズモはCRⅡへ。しかしカバーが遅れてカウント2。サンダーキス'86は剣山を突き刺されて万事休す。辻はそのまま押さえ込みますが、それをさらにファンタズモが持ち前のボディバランスを活かしてさらに押さえ込みによる切り返しを見せ、そのまま3カウントで薄氷の逆転勝利。勝った瞬間にあれだけ大きかった辻への声援が一気に静まり返ったのが印象的でした。

それでも全敗の可能性すらあったズモの貴重な一勝、加えてリベンジ達成は素直に喜ばしく、歓喜してるファンも多かったことを付け加えておきます。辻への大歓声に負けない中でずっとズモコールをしていたファンの声はしっかり耳に届いてましたし、歓声面で絶対的にアウェーの中で勝ったのは本当に凄いことだと思いますよ。

◼️第8試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
HENARE vs デビッド・フィンレー

NEVER無差別級王者vsIWGP GLOBALヘビー級王者の一騎打ち。シングルタイトルホルダー同士の一戦は否応なしに熱が高まります。両者共にそのスタイルは「破壊的」の一語であり、非常に危険な一戦でありながらその手の合う噛み合わせの良さに驚きました。

直情径行かつ真正面から粉砕にかかるHENAREのほうに打撃戦や当たりの強さでは分がありつつも、ヒールらしい手練手管から迂回するように骨を重点的に攻めるフィンレー相手はかなり苦しく、アルゼンチンバックブリーカーで鉄柱へぶつけたのを皮切りに、アイリッシュカースやチンロックなど、背骨を重点的に攻めるのは打撃の軸ということを考えても非常に合理的であると思います。喉笛へのダブルチョップなど、フィンレーの技は人体急所が多く、それがこの荒々しいえげつなさを表しているんですよね。

対するHENAREはゴールデンレフトばりのえげつないボディブローで反撃。今の新日基準で考えると重すぎるミドルキックと合わせてこれは相当に効いたようで、こういうプロレス的な打撃技はHENAREは本当にバリエーションが多くて上手いですよね。

しかしながらランペイジをピンポイントで切り返すフィンレーのセンス。この切り返しに限定された異常な速度と才能の片鱗は間違いなく歴代バレットクラブリーダーの中でもNo.1であり、攻め手を潰すパーミッションなようなジェイとはまた違っているのが面白いですよね。

フィンレーがカナディアンハンマーやパワーボムを見せればHENAREもTOAボトムにランペイジと豪快なスラム系の技で対抗しますが、ヘッドバットから突進したところをオーバーキルでピンポイントで切り返されて敗北。やはり勝負のポイントとなったのは切り返しで、センスとテクニックの部分で差がついたというのは悔しいですね。王者同士として負けるわけにはいかなかった。そんな一戦だった気がします。

◼️第9試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
上村 優也 vs KONOSUKE TAKESHITA

今大会のメインイベント。棚橋やオカダといった自身の好きな選手かつアイコンの不在の中で、それでも観戦を決めたモチベの九割はこの試合にあったと言っても過言ではありません。

まず驚かされたのは竹下に対する声援の多さで、構図としては新日vs他団体の外敵であり、ここに至るまで竹下は無敗の全勝街道をひた走っていたわけなのですが、そのことによる対抗心めいたブーイングがほとんど起こらなかったことが意外でした。昨年の清宮のときは団体間の因縁もあるせいか一部からブーイングが飛んでいたのを確認したのですが、竹下の場合はそのあまりのモノの違いや、頂点捕食者たるジ・アルファの畏怖もあるせいか、純粋に怪物レスラーを生で見たいという欲求のほうを感じましたね。当然、上村が不人気だったわけもなく「ユーヤ!」という上村への声援もしっかり響いていたのですが、侵略者竹下に対する殺伐感も特になく、思った以上にクリーンな雰囲気で、どちらかといえば竹下のプレミア感に期待する空気のほうが強かったですね。時代の流れを感じます。

ゴングが鳴って開始早々、リング中央に陣取る竹下。格上感の強調であり、巨漢の嗜みの一つであり、相手からするとやりにくさがある。この辺りはよく分かっていますよね。体格差を活かしてロープに追い込んでのクリーンブレイク。自分でも意外だったのですが、生で見ると思った以上に宇多丸の造語で言うところの「ヤダ味」を竹下に感じたのも事実で、海外からの野心あふれる侵略者。モンスター級のポテンシャル。新日に対しての挑発という様々なベールに包まれていても匂い立つものはあるんだな、と。

そしてリストの取り合いに。回転して逃れようとする竹下を追いかけるように上村自身も回転し、手首を極めてテイクダウンした所には惚れ惚れしてしまいました。野毛道場のプライドとしてレスリングで遅れを取るわけにはいかず、また一階席の会場というのもあって観客の脳裏に浮かぶセオリーを外す形で、竹下の体格差に負けないようにリングを大きく動いていったあたりのセンスは素晴らしいです。そこからのアームブリーカーもフィニッシャーであるカンヌキスープレックスに繋がりますし一貫性がありますね。巨漢相手の末端攻めは理に適っていますし、こうした竹下の強さを削ぐ意味でも効果的だと思います。

蟻地獄のような上村のねちっこさから逃れるように竹下はロープワークからのド迫力のタケシタライン。ショルダースルーはトーキックで防がれるも、上村のプランチャをエルボー一発で迎撃すると花道での垂直落下式ブレーンバスター。ダイナミックな技で一気に存在感を消しにかかりましたね。こうした無鉄砲さはDDTの血縁で、序盤の攻防の時点で出自の違いが明確になっていますね。カウントギリギリで戻った上村にダイナミックなセントーン。この前の観客煽りで沸いた歓声からも分かる通り場内の竹下人気は相当なもので、そこに侵略者に対する拒絶感はありません。ド派手な技は観客の心を掴みやすいですね。

そして捻じ切るようなフェイスロックから肩固めに。上村も逆水平や張り手で応戦するも竹下はジャンピングニーで一蹴。フィジカルによる全ての技が規格外。このスケール感こそ世界標準なんですよ。上村もフライングフォアアームで活路を見出すと得意とするアームドラッグで反撃。この時、手を叩いたのが竹下なのが面白く、そこからの上村のドロップキック含めてリズムがとても良かったです。そしてブルドッキングヘッドロックは止められてバックドロップで返されそうになるものの、後ろに着地し代わりに上村がバックドロップ。上村のバックドロップってブリッジを活かして弧を描き、鋭角に突き刺すバックドロップではなく、一度跳ね上げて背中から急加速で落とすタイプで、アメリカンな香りがあるのがとても好きです。

続いてコーナーに上がった上村でしたが、ここは竹下が静止。そしてコーナー最上段に登って観客の悲鳴が交錯する中、トップロープからの雪崩式ブレーンバスターへ。これ、後ろに倒れながら投げるのではなく一度しっかりと垂直に抱え上げてからの一発で、竹下のパワーと体幹の強さを感じると同時にその衝撃音はこちらまで響いてきましたよ。そして間を置かずにノータッチのトペコンヒーロ。いやあ……絶句するしかないですね。

空気が変わったのはこの直後の鉄柱への竹下のエルボーの誤爆で、僕のいた席からだと見えなかったのですが「どこやった?」「腕!」「やばくない?」みたいなザワつきが波のように伝播してきたのが印象的でした。先ほども書いたのですが「見える」だけが生観戦ではなく空気の「体感」も含めての生観戦であり、よく見えないけどヤバいことが起こった、というのは事故現場の人だかりを目撃したかのような現実に根差した生々しさがあり、この臨場感は現地観戦でしか味わえません。見えること、見やすいことはとても大切なことですが、見えることだけが全てじゃない。この「ザワつき」の受動喫煙はこの席に座ったからこそで、ここにプロレスの奥深さがあると思います。

序盤の左腕に続き、エルボー誤爆と鉄柵に絡めての攻撃で竹下の両腕が死ぬと同時に、カンヌキスープレックスの布石が生まれました。そして密かに両腕を痛めることでガードが下がって胸をしっかりと張れなくなり、あれほど効いていなかった上村の逆水平が今度は効くようになってくる。この時の腕をダラリと下げた竹下の表現力は素晴らしいものがありますよ。

そして上村はダイビングクロスボディから間を置かずに腕ひしぎ逆十字固めに。竹下がクラッチを解かずに押さえ込むも、スイッチして今度は左腕に。新日における腕ひしぎって野毛の血を感じて僕は好きです。フルネルソンからのドラゴンは堪えて竹下のパックエルボー。上村も負けじと竹下ばりに当たりの強いエルボーで反撃しますが、竹下はバイシクルキックで止めるとリバースフランケンシュタイナーへ。スーパーヘビー級のリバースフランケンは反則ですよ(笑)上村もすかさず急角度の投げっぱなしジャーマンで技の帳尻を合わせて叩きつけるも竹下は豪快なクローズライン!上村もドロップキックで猛追!ダブルダウン!竹下の怪物性と上村の負けん気の強さが真っ向から衝突しましたね。

竹下は二段式ジャーマン狙いも互いにバックの取り合いに。そこから竹下は凄まじい回転数のブルーサンダーへ。レイジングファイヤーを狙うも上村は着地してリストコントロールからクローズラインを捉えての高角度のドラゴンスープレックス!ややクラッチの甘さは気になるもののスープレックス系の技のブリッジはやはり素晴らしく、竹下の巨体を投げ切ったのも大したもので、カンヌキスープレックスに続いてこれもフィニッシャーに昇格してもいいと思うんですけどね。

そして上村は意外性のあるマッドスプラッシュを敢行するもこれは自爆。オーバーヘッドキックから腕をフック。竹下はエルボーで抵抗するも腕の痛みの隙を捉えての閂固めへと持ち込みました。この閂が極まるか極まらないかの攻防って非常に古めかしく、現代プロレスでこれで沸いたのは凄いですよ。フィジカルで解くと竹下は重すぎるエルボー一閃。たまらず上村は一撃でダウンしました。

竹下は両の腕でエルボーを放つもどちらも痛みのせいか顔を顰めます。この時の腕が動かない感じは故障で動作がままならないモビルスーツっぽさがあって良かったですね。そして腕がダメならヘッドバットへ。クローズラインを狙うとカウンターのフランケンシュタイナーへ。足を抱えるタイプのフランケンはフランケンというよりウラカン・ラナのイメージなのですがより強く押さえ込むことに意義はありません。これはなんとか竹下は返すも、続く刀で飛びつき腕ひしぎ逆十字固めに。足をバタつかせるような必死感はないものの、ロープ間際でのブレイクで九死に一生を得ましたね。

そして上村は再びマッドスプラッシュへ。先ほど未遂に終わった一撃ですが意外性は持続している反面、現地観戦だと攻めの流れとしてやや違和感があったのも事実で足攻めで立てないならまだしも腕攻めからだと少しシーンとして浮いている印象があったんですよね。まだ技の格の位置付けが曖昧というのもあるかもしれませんが。あと投げが得意な選手が膝を壊しかねない飛び技をレパートリーに加えることに若干の心配の余地があります。ただ高さやフォームともに申し分なく、序盤〜中盤のダイビングクロスボディに続く終盤の大技の飛び技レパートリーとしては悪くはないと思います。

そしてカンヌキスープレックスを狙うも竹下は二段式ジャーマンに。これを堪えて前方回転エビ固めで押さえ込もうとするも竹下はクラッチを解かず、諏訪魔のラストジャーマンのようなホイールバロー式のジャーマンスープレックスで上村を叩きつけました。

勝機と見るや否や、エルボーパッドを外して竹下は色んな相手を黙らせてきた生肘によるエルボーを狙うも、それをドンピシャで捉えての上村の逆さ押さえ込み。そこから後藤を葬ったカンヌキスープレックスを狙いますが竹下はヘッドバットで抵抗。上村は閂を極めてそのまま離さず、コーナーに押し込んでぶつけて上体を起こすと、その反動を利用してカンヌキスープレックスホールド!竹下は足をバタつかせて抵抗するも完璧なブリッジで上村は3カウントを奪いました。

ストップ・ザ・TAKESHITAが誰になるのかは最注目事項だっただけに上村からすると値千金の勝利であると同時に、完璧な3カウント勝利というのがデカいですよね。まだ竹下は余力はあったようにも見えますが、完全グロッキーにして動けないからフォール勝ちできるのではなく、動けようがどうしようが相手の自由を奪い、その生殺与奪を握ること。そこにフォールの醍醐味があります。それは単純明快で派手なKO勝利よりもプロレスにのみ許された格式高い美学のある勝ち方であり、これで上村が勝ったことに嬉しさしかありません。新日、ナメんな!と思っちゃいましたね。たとえどれだけ人気があろうとも、だってこれは対抗戦なのですから。

試合後のマイクは配信で見るとやや声が割れていたようにも思いますが、現地観戦だとよく聞こえていましたし飾りのないマイクが心に刺さりました。「ストロングスタイルの救世主は必要ない。俺がストロングスタイルを守る」いやあ……これを言われちゃ新日ファンとしては虜になっちゃいますよ。上村がストロングスタイルか?と言われると、どちらかと言えば無我寄りなイメージでそうではないと思うのですが、しかしながらストロングスタイルの原風景にいたとしても違和感はないんですよね。そうした一昔前のプロレスの楽しみが上村にはあるわけで、何よりも他団体相手に遅れを取らないこと。それこそがストロングスタイルなんですよ。いやあ……これは推せますね。「上村、主人公だよね」という声が聞こえてきましたが、その言葉には全面同意です。三銃士が目立ちますが、三銃士の主人公は三銃士ではなくダルタニャンなのですから。上村はこれでいいと思います。

上村は方向性が明確な目的やルートが決められているわけではなく、マイク含めてやや不明瞭で洗練されてはいないものの、それが逆に心に響きますしその魂はとても熱いですね。語る夢はとにかく壮大で、それもまた主人公らしいと思います。これは現地観戦した甲斐がありました。全勝通過が当然とさえ言われた海外の大物相手に新日本の選手が新日本を見せて勝利する。これ以上の喜びはないですよ。第一回のG1の蝶野のようにほぼノーマークからの決勝進出もあり得るんじゃないかとさえ思いました。





一年ぶりの地元での生観戦というのもあってか、書く文章にも熱が入りました。今日だけは感想文じゃなく観戦記だと胸を張って言えます(笑)おかげで睡眠時間を生贄に捧げる羽目になったわけですが、プロレス見終わった後ってどうしてこんなに昂るんでしょうかね。これこそがプロレスノチカラなのでしょうか。今日はこの辺で。また土曜日の試合の感想でお会いましょう。ではでは。

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