2023.7.18 新日本プロレス G1 CLIMAX 33 DAY3 試合雑感

◾️第1試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
清宮 海斗 vs チェーズ・オーエンズ

第一試合らしくわかりやすい勧善懲悪の試合でした。オーエンズのテクニックはやはり素晴らしいものがあり、清宮に対してのバレクラの洗礼を浴びせていきます。バレクラ=反則というイメージは根強いものの、その方法論は多岐に渡るわけで、ちゃんと見ていけば選手によってアプローチは全然違うんですよね。

目を引いたのは半身だけロープ外に出た清宮に対してのスタンディングでのシーソーホイップで、それ以外でも抱え式でコーナーに頭を打ちつけておいての低空バックドロップ、ロープの反動を利用してのスパインバスターからのデスバレーなど、立体的な攻めが面白かったですね。

その背景でキャリアで勝るもまだ若者の括りにあるオーエンズが清宮の頭を踏み躙るなどして、清宮に自身の「若さ」を押し付けるような感じでグリーンボーイ扱いしたのがよかったですし、それに対して物おじせずに堂々と団体エースとして振る舞った清宮の返しも見事でした。こうした攻めでやられるとどうしても「若さ」や「青さ」が顔を出すわけなのですが、リングにいたのは相変わらず主人公オーラ満載の、悪に対して挑む勇者の姿であり、そこにはオーエンズの能力を全て引き出しつつ乗り越えようとするNOAHらしい矜持が垣間見えます。

変形タイガードライバーこそダメージが足りず返されたものの、続く変形シャイニングで清宮が勝利。当分は周知も兼ねてこのコンボでいく感じですかね。オーエンズの魅力を存分に引き出した上での元GHC王者らしい貫禄の勝利。第一試合らしくキャッチーでわかりやすい「上手さ」を見せたオーエンズも素晴らしく、背景の心理戦めいた暗闘もありつつ、満足感の高い一戦でした。この二人の清宮海斗もオーエンズも素晴らしい選手です。

◾️第2試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
グレート-O-カーン vs KENTA

リング上でグラウンドで圧倒するオーカーンに対し、リング下に逃れてダーティーファイトへ誘おうとするKENTA。互いに「引き摺り込む」攻防だったのが黒星同士らしいヒリヒリ感がありますね。

何とか凶器攻撃でペースを握ったKENTAでしたが、場外でオーカーンも変則的な玉座で煽り、互いの意地がぶつかります。余談ですが、オーカーン相手だとブサイクへの膝蹴りが昔のような煽り性能の高い技として機能するのが面白かったですね。

レフェリー誤爆から王統流正拳突きを連発し、制裁するオーカーンでしたが、エリミネーターをフロントネックロックやフランケンなどで二度に渡って切り返され、最後はロープを掴んでそのまま押さえ込んだKENTAがからくも勝利。どちらも負けたら少しザワつくものがあるせいか、勝負論もあった一戦でした。

◾️第3試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
ヒクレオ vs ゲイブ・キッド

開幕早々襲いかかるゲイブ。以前も書きましたがこうした「狂犬」ぶりは立場こそ違えどやはり元狂犬レスラー柴田勝頼の血が色濃いように感じてしまうのですよ。ヒクレオのような巨人相手だからこそよりその無謀さが際立ちますし、逆に戦術としての正しさもあります。言い方は少しアレなのですが、メンタルヘルスの問題と戦い、乗り越えてきたからこそこうした破天荒さに凄みが生まれますし、プロレスはやはり人生なのだなと痛感します。それに意外とこうした往年の柴田のような「特攻」スタイルって新日だと空き家な気もしますしね。

しかしながら肉体そのものが凶器なのがヒクレオであり、椅子の上へのショルダースルーはびびりましたが、ゾッとしたのは投げっぱなしの超高高度ジャーマンで、あれにはビビりましたね。ビッグショーの張り手やチョークスラム、高山のロープ跨ぎやジャーマンなど、往年の巨人系レスラーを踏襲してるヒクレオではあるのですが、まさかジャーマンをやるとは思えず、それだけに「怖さ」を感じました。怪物です。

しかしながらゲイブの負けん気はそれを上回り、起死回生のシンプルなフェイスロックで膝をつかせたシーンは否応なしにLA-DOJOのバックボーンを感じましたし、最後のレッグトラップパイルドライバーも実にシンプルで「らしい」技ですね。怪物として覚醒したヒクレオを無理やり特攻スタイルで貫いたゲイブ。いやはや、見事です。やられました。

◾️第4試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
タイチ vs タンガ・ロア

タイチのベルト姿、似合いますよね。タンガ・ロアもすっかり角が取れた晴れやかな笑顔を見せています。先ほどの壮絶かつハードな空気と比較してやや弛緩した空気こそ漂いましたが、タフマン同士の打ち合いを仕掛けた時点で一気に重厚さが漂いました。

しかしながらパワーで勝るのはロアであり、不利と見たタイチが膝狙いへとシフト。これが効いたのか、ロー一発でダウンさせての外道クラッチは良かったですね。最後はJ5G入りから頻発し出したオコーナーブリッジ式のタイチ式外道クラッチでタイチが勝利。手を焼きましたが、王者らしくしっかりとした勝ち星をモノにしていますよね。


◾️第5試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
成田 蓮 vs 辻 陽太

竜頭蛇尾。一言で言えばそんな試合です。最初、期待の若手同士らしい野毛仕込みのレスリングで始まったのはとてもよく、ここまで変則的な試合が多かっただけにここでオーソドックスさは出してきたのは安心しますね。辻は柴田の胡座を見せ、行動でも「柴田の真似事野郎」と成田を挑発したわけですが、そんな辻をリング下に放り出したのは色々と面白かったですね。

当初は自分から放り出しておいて追撃にいかず「来いよ」は合理性がないように思ったのですが、戻ろうとした辻を何度もリング下に蹴り出したことで挑発への意趣返しになっていたのはとてもよかったです。存在感やインパクトではどうしても辻が勝るわけで、立ち姿が「絵」になるのも辻だからこそ、成田は仁王立ちを崩さずに長い時間リング上を占拠することで存在感で張り合ったのは素晴らしい選択だなと思います。

ただ……よかったのはここまでで、試合時間が削られていき、引き分けが視野に入り出したあたりから綻びが目立ち始めました。厳しいのは攻めてる辻が自分でやったヘッドバッドでダブルダウンになった点や、残り1分を切ったタイミングで唐突に雪崩式の攻防に行くなど、二人とも引き分けに対して明らかに「理」のない行動を取った点ですね。これは本当にダメですよ。理由もなければリアリティもありません。どっちがダメとかではなく、はっきり書きますが二人ともダメです。

全体的な被弾率が少なく、技のオリジナリティやダイナミズムは辻に軍配が上がるからこそ、成田と比較してかえって瑕疵が目立ちにくいだけで、能動性に欠けるというか、最初の場外で激昂して早く戻らなかったり無駄なダブルダウンであったりと、要所要所で空気を読み違えたシーンがありましたね。辻視点で見ると成田の不甲斐なさとテンポの悪さが目立ちますが、自分のターンのイケイケぶりに反して、いざ取り返す場面になって本来仕掛けるべきポイントを外していたのは個人的にはいただけないですしキャリアの浅さが露呈したようにも思います。あの笑みも表情としてすこぶるいいだけに「崩れる」ところがやはり見たいわけで、終始ニヤつきっぱなしなのも引き分けという結果を見るとどうかなとは思うんですよね。

成田に関しては難しいですね。美麗なスープレックスを武器に、打撃や関節、レスリングテクニックと、そのまま基礎ステータスを伸ばすだけで口に出さずともストロングスタイルの雰囲気は出てきたとは思います。しかしながら、その御題目を敢えて名乗ってしまった以上は、どうしても「そういうもの」として厳しく見ざるを得ないという……。

技術体系としてのストロングスタイルを語ると非常に長くなりますが、ざっくりと大別するなら必須条件は「殺気」と「レスリング」であり、今の成田にはどちらも欠けてるものです。ただ、そうした御託を抜きにして、シンプルに語るのであれば「弱々しい」のはダメなんですよ。ストロングスタイルを名乗っているのに「弱い」のがダメなんです。ストロングスタイルは何よりも「強く」なければいけませんし、実際の強さと強く見られることの双方が必要だと思います。成田には「怖さ」が圧倒的に足りないんですよね。

しかしながら、成田にそういう方向性でのストロングスタイルの濃さを求めていいのか?求めるべきなのか?と言われると僕もいまだに答えが出ません。成田のスタイルはホールドを大事にするテクニカル系のスープレックスの使い手であり、スラム系かつパワータイプのスープレックスモンスターはそれなりにいましたが、こういうタイプって先達があまりいないんですよね。敢えて言うなら馳浩ぐらいでしょうか。わざと他の同期と差のある扱いにして、ストロングスタイルの負の精神面である怨念や情念を醸成しようとしたり、柴田の影を追い、鈴木みのるの薫陶を受けさせるというのはストロングスタイルの道としては正しくても、全部が全部成田の本質やそのスタイルに合っているのかと言われたら疑問が浮かぶわけなのですよ。守破離はまだ先の話とはいえ、ストロングスタイルの香りはありつつも、今は囚われすぎな気もするのです。

いやあ……期待しただけにこの結果と試合内容には落胆してしまったわけですが、こうした試合もまた糧になるものですし、こうした試合があるのもまたG1の醍醐味です。プロレスは楽しいことばかりではなく、時にダメなこともあり、決して100%の満足を約束するものではない。だからこそ面白いとは思うのですけどね。

◾️第6試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式
YOSHI-HASHI vs ウィル・オスプレイ

YOSHI-HASHIが勝てるビジョンが見えないほどにオスプレイは強大なわけですが、それが逆にYOSHI-HASHIのアンダードッグ性を高めてるわけで、マッチアップとしては面白いですよね。

覚醒したYOSHI-HASHIが対等に渡り合えてることに違和感がないのは成長したなと思う反面、そんなYOSHI-HASHIを嘲笑うオスプレイのポテンシャルモンスターぶりたるや。最後はコークスクリュー式のセントーンという、自身の肉体の限界を語ったとは思えない飛び技でのフィニッシュ、いやあ……オスプレイ、憎らしいほどに強いですね。

◾️第7試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
SANADA vs 海野 翔太

辻vs成田のガッカリ感と比較すると、こちらは凄く普通というか、期待してたメシ屋がハズレで意気消沈したあとに、仕方なく入ったチェーン店で食べる定番メニューのような、そんな安心感がありました。

成田は周囲の評価はともかくとして、いい意味でも悪い意味でも今の年齢、キャリアに相応しい妥当な試合をしていると思います。才を感じる将来有望の若手。その括りから抜けてないままですが、たとえば前の海野vs成田にしたって、棚橋vs中邑の初戦と比較してもクオリティにそう差があるように感じませんし、こんなものなんですよね。辻や成田のように逸脱している部分はなく、逆に言えば今のキャリアで足りないものも特にないという。強いて言えば以前書いた通りの技の格であり、大事に使っているのはいい反面、まだ印象深くはないですし出すべき場面で出している感じで、使用であって愛用とまではいかない気はします。ただこれらは時間をかければ練度が上がるのであまり心配はしていませんが。

SANADAも同じ正統派であり、一見するとこの試合はボヤけがちな感もあったのですが、やはりそこは若手vsベテランとしての構図が機能していたからこそ体裁は保たれていたような気はします。ただ、一つ引っかかったのは時間制限による引き分けの懸念を引っ張り過ぎた気もしますし、決めれた場面でサッと決めたほうがより貫禄勝ちという感は出たように思います。逆に言えばそう思うということは海野が追い込んだ印象に欠けるということで、つまりは技の格の問題になるのかなと。海野は頑張って欲しいですね。

◾️第8試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
オカダ・カズチカ vs エル・ファンタズモ

王座陥落以降、久しぶりにオカダらしい試合を見た気がします。乳首をつねるコミカルさがありつつも、ファンタズモの本来のスペックは周りのファンが想定している以上に高く、この試合でも立体的な攻防を皮切りに存分に発揮されていましたね。

公式戦の一試合でありながらビッグネーム同士の対決という豪華さが損なわれることなく、メインらしい激闘を繰り広げたことに安堵の気持ちがあり、興行の締めって大事なんだなと改めて思いました。最後の変形ツームストンからのレインメーカーという定番フルコースも、型が決まっているからこそこういうときにしっかりと満足感が出るものなのです。いやはや、いい試合でしたね。

オカダの三連覇の可能性はあるようなないような……。三度目となると批判の声も多そうですが、僕自身は過去の記録を塗り替えていくのは賛成ですし、昨年あれだけ叩かれながらも決勝でベストバウトを叩き出して周囲を黙らせた実績があるオカダだからこそ、三連覇はあっていいような気もします。G1、まだ三日目なのに盛り上がりと熱量がハンパないですね。ではでは、今日はここまで。また明日お会いしましょう。

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