2024.10.14 新日本プロレス KING OF PRO-WRESTLING 2024 東京・両国国技館 試合雑感

お久しぶりです。もるがなです。G1以降はプライベートが忙しくなったのもあって中々note執筆の時間が取れず、更新も遅くなってしまい申し訳ありません。それでものんびりマイペースに続けていきたいと思います。では前置きもそこそこに、早速やっていきましょう。

◼️第1試合 30分1本勝負
スペシャルシングルマッチ
高橋 ヒロム vs ミスティコ

トップクラスの選手同士によるオープニングマッチとは思えない豪華さでしたね。ヒロムがここ最近使用しているスタンディングのゴリラクラッチのようなアーム式足4の字固めはいい技ですね。元々、腕を極めての変形のドラゴンスクリューを得意としているヒロムでしたが、この技の実装によって足殺しが一本の線として繋がった気がします。キャリアが円熟期に差し掛かっての関節技は味わい深さがある反面、ヒロムの勢いや年齢を考えると現時点でこうした技を使うのはやや早すぎる気がしないかな?と思わなくもないです。ライガーのフライングボディシザースドロップのような晩年感が若干あるというか。ただ、その技の位置付けはどちらかといえば名もなきヒロムロールのほうかなとも思いますし、それに加えてアーム式足4の字固めと合わせて、パワー一辺倒ではない、レスラーとしての奥行きは出てきたかなと思います。

一度やられてるのもあってか、ミスティコのラ・ミスティカを徹底ガードするヒロム。最後はアーム式足4の字固めの「第二形態」となるMTH(マキシマムザホールディング)でミスティコからタップアウト勝ち。テキサスクローバーホールドのような感じでしたね。TIME BOMの進化といい、ヒロムは持ち技をどんどん上位技にシフトしてブラッシュアップしていくタイプで、そのエスカレート感は一昔前のプロレス感があって面白いです。

それにしても、以前の敗北があるとはいえ、ラ・ミスティカが一度も極まらないとは思わなかったですね。ミスティコと言えばラ・ミスティカであり、それが見れなかったというのはローリングストーンズがサティスファクションを演奏しなかったようなものですよ。それぐらいラ・ミスティカは特別な技であり「銭の取れる」技である以上、キッチリ決まった形が見れなかったことは非常に残念ではあるのですが「決まらなかったこと」が逆に特別感を際立たせているというか、つまりは安っぽくないんですよね。それはそれでよかったかなとも思います。

◼️第2試合 60分1本勝負
IWGPジュニアタッグ選手権試合
ドリラ・モロニー&クラーク・コナーズ vs ケビン・ナイト&KUSHIDA

モロニー&コナーズのタッグは完成度がズバ抜けて高く、キン肉マンの2000万パワーズ級と言っても過言ではないと思います。タッグチームって並んだ姿が映えることが個人的な絶対条件ではあるのですが、そうしたビジュアル面は容易にクリアしているだけでなく、ファイトスタイルや持ち技、互いのキャラクター含めて相性が良すぎるんですよ。今回の相手であるKUSHIDAははっきり言って現新日Jr.の中ではレベチな相手ではあるものの、タッグチームとしての完成度はウォードッグスのほうがやや上かな?と思いますし、その練度で持ってしてKUSHIDAを止めにかかったのは1+1が10にも100にもなるというタッグの妙味が詰まっている気がしますね。対するJET SETTERSは試合の拡張性があり、特にケビンはやや精度に難がある部分はあるものの、それを補って余りある跳躍力が素晴らしく、その荒馬感溢れる若々しさをベテランのKUSHIDAが上手く調律してバランスを取っている気がします。

最後はかなり追い込まれはしたものの、KUSHIDAが耐え抜き、ケビンが一瞬の隙をついてジャックナイフ式エビ固めでフォール勝ち。JET SETTERSが新王者となりました。いや、この試合は本当に互いのチームの連携が良かったですね。

◼️第3試合 60分1本勝負
IWGPタッグ選手権試合
シェイン・ヘイスト&マイキー・ニコルス vs ケイブマン・アグ&バッドラック・ファレ

久々にファレを見ましたが貫禄ありますね。あとパートナーのアグが素晴らしく、ほぼ初見の人が多い中、キャラクター性もファイトスタイルともにキャッチーだったのがよかったですね。こうしたスーパーヘビーの怪物タッグ自体今の新日だとわりとレアであり、よもや秒殺の予感すら漂っていたことには驚きました。

しかしながらそんな噛ませ役で終わらないのがTMDKであり、まさに「強きものはくじけない」を地でいく奮戦ぶりでした。最初は秒殺か!?大丈夫か!?と思ったのが、試合が進むにつれてシーソーが傾いていき、終わってみれば王者組の盤石感が出ていたことには脱帽しました。掌に乗せられていたんだなと。完成度が高すぎますね。

試合後に現れたのはオーカーンとHENARE。スポークスマンであり直近のIWGP世界ヘビー級王座への挑戦者だったオーカーンに、NEVERで一気に格を上げたHENAREの二人がタッグ戦線に挑むのは面白いですね。昔は新日がさほどタッグ戦線に力を入れていないのもあってか、タッグはタッグで戦線が固定化していて名タッグはいても数は少なく、世界観の広がりをあまり感じなかったのですが、シングルで活躍した実績をこうしてそのまま持ち込むことによって活性化するのは喜ばしいことです。

◼️第4試合 60分1本勝負
NEVER無差別級選手権試合
鷹木 信悟 vs 大岩 陵平

新日生まれノア育ちの異名に思うところのある新日ファンはいるものの、それが唯一無二かつ彼の個性であることに疑いの余地はないですね。他団体への武者修行がかなりのレアケースでありつつも、普通にABEMAの無料中継などで成長を目にする機会が多かったこともあってか、凱旋後のベールを脱ぐような秘匿感はあまりないのですが、新日の選手でありながらも外敵の定期参戦のようなゲスト感がちょっと漂っていたのは面白いなと思いました。

この試合、凱旋後の大岩の査定マッチでありつつも、裏テーマとして互いが得意とするラリアット対決があり、大岩が新日マットで披露したスリーパーからのローリングラリアット「THE GRIP」vs鷹木のパンピングボンバーの真っ向勝負になりましたね。ノアで培ってきたものだけではなく新技を引っ提げて帰ってきたあたり、修行の成果らしさは漂ってはいたものの、ラリアット系列の技をフィニッシャーに定めたことでレスラーの方向性としてはまた少し変わった印象があります。小川道場仕込みのレスリングテクニックからするとラリアットは一番「遠い」技というのもあるのですが、それ故に「変化」を最も感じやすい技であるともいう。この技をどう調理するかが見ものですね。

大岩にとって新日では初めてといっても過言ではない大一番ではあったものの、試合内容としては中々のものでしたね。こうしてみると鷹木は出自がドラゲーとはいえ、新日「らしい」試合だったというか、ノアはわりと大岩のスペックを限界まで引き出して伸ばすように戦っていた印象があります。たとえば名勝負との評価の高い清宮戦は大岩のポテンシャルの高さが前提にあるとはいえ、清宮とはキャリアでも実績でも差があったわけで、そこをタッグを組んでた故の手の内が分かる相互理解の深さと、同じ師匠を持つ同門、清宮の王者としての受けの深さと大岩の爆発的成長の掛け合わせで奇跡的に実力が釣り合ったような感じがありました。いや……あの試合は本当に素晴らしい……。奇跡や魔法のような一戦だったと思います。話が逸れちゃってすみません(笑)

それと比較すると今回の鷹木戦は同じように引き出しつつも、どちらかといえば「試す」印象が強い、獅子の子を千尋の谷へと突き落とすまごうことなき「潰す」試合であり、ことごとくパンピングボンバーで薙ぎ倒していたあたりにそれを強く感じましたね。受け止めることと潰すことのバランス感覚がとにかく巧みで、やはり鷹木は凄いなと思いました。

大岩も抗いましたが、ことごとくブロックされたTHE GRIPはやはりまだ発展途上の印象が強く、レインメーカーと同じ組み技初動の打撃技というレアさはあるものの、仕掛けがスリーパーからなのでどうしても読まれやすくはあるんですよね。ただ、悪い技というわけでもなく、そもそも始動となるスリーパーが大岩の太い腕も相まって説得力が凄まじく、まさに大蛇……つまりは「アナコンダ」なのですよ(笑)まだたらればの域になりますが、ここからスイングスリーパーへ派生したり、スリーパースープレックスだったり、そもそもローリングラリアットにいかずに絞め落としたりと、展開予想に幅がありますし、その空白の部分こそが成長要素かつ楽しみであると思います。

最後はラストオブザドラゴンで鷹木の完勝。まさに玉砕といった感じで、凱旋から一気に飛躍して欲しかったですが、そこまで甘くはなかったですね。大岩のノアでの戦績をみるとタイトルホルダーでもある鷹木相手の敗戦は、新日内だけではなくプロレス界全体を通してみた格や序列の面でもさほど違和感はなく、結果としては妥当であったと思います。いや、超新世代ですので妥当であっては困るのですが、それを踏まえてものびしろがあるのでまだまだこれからでしょう。

大岩、試合全体を通して気になったのはノアで戦っていた頃からなのですが、どうにも顔を伏せ、耐える場面が強いあたりにややもどかしさは感じます。しかしながら新日ファンとノアファンの期待感を双肩に背負うことによる感情移入のドライブ感はずば抜けており、この支持率は間違いなく武器ではあるものの、団体ファン同士が対立してる現状だとかなり危ういバランスだなとも思います。大岩に対する挑発がそのままNOAH育ちであることへの弄りに繋がるので戦う側もヒートは買ってもヘイトは買わないようにかなり神経使うでしょうね(苦笑)「大岩、ノア修行のわりにまだまだ大したことないな」と思われる危険性もあれば、今後の足踏みや試合内容次第によっては今度は「大岩を存分に活かせない新日の体質が悪い」ともなりかねないという。大岩はその経歴もあってか新日とノアの架け橋としての役割が非常に重く、当人の活躍如何によっては論争の火種になる以上、そうした声に潰されないように頑張って欲しいと思いますね。「新日生まれノア育ち」は唯一無二のオリジナリティであると同時に大岩当人のアイデンティティの問題も深く孕んでいると思うのです。

◼️第5試合 15分1本勝負
NJPW WORLD認定TV選手権3WAYマッチ
ジェフ・コブ vs 辻 陽太 vs 成田 蓮

3WAYマッチは相変わらず見る側の感性や慣れの部分が大きいせいか、試合形式自体に賛否はあるものの、このぐらいの格のタイトルと試合順であれば、気楽に肩の力を抜いて見れるせいかさほど荒れないですね。WORLDに加入しているとあまりピンとこないかもですが、TV王座は常に無料公開という大きなアドバンテージがあり、そうした意味でも一度に選手を紹介できる3WAYとの相性は極めて良いと思います。

それでいながら15分という特殊ルールの時間制限もコンパクトで見やすく、変に間延びせず攻防が濃密になりやすいのが最大の利点ですね。裏を返せば15分以内に現王者であり超パワーの持ち主でもあるコブを仕留めなきゃいけないわけで、そうした意味で挑戦者のハードルはべらぼうに高いのですよ。だからこそ王者を介さずに勝つことのできる3WAYという方式がまた絶妙で、王者にとっては不利かつハンディキャップマッチに等しい試合形式ではありますが、王者がコブだからこそすんなり受け入れられるルールでもあるのでしょう。

若手優先のベルト、というコンセプトからすると辻はNJC優勝かつG1準優勝という実績からするとやや外れてる印象もありますが、コブとの相性が良いことに加えて、トップに挑戦しつつ王手をかけつつも、あと一歩の所で弾き返されてきたという立場からしても、わかりやすいシングルタイトルの奪取は地固めの側面もあります。あとやはり試合内容が派手でキャッチーであるため、こうした試合形式でも期待感込みで埋没しないのは強みですね。

個人的に一番目を引いたのはやはり成田で、G1での試合巧者ぶりは記憶に新しい所ですが、HOTというヒールユニット所属なのもあってか反則ばかりに注目が集まり気味でやや過小評価されてる気もするんですよね。ユニットとしてのストロングスタイル在籍時はこうした多人数戦だとやや影に隠れがちで埋没していたのですが、二人まとめてのバックフリップなどの規格外のパワーを見せるコブに、そのパワーに張り合いつつ、要所でカーブストンプを突き刺し、ルチャでいなして軽快さを見せる辻の激突。それに対して成田のダーティーワークによる描き回しが光っていたように思います。

特にコブに「武器」として使われて辻に叩きつけられたときにすかさずフォールを奪う貪欲さや、ジーンブラスター狙いの辻をコーナーで捉えたスリーパーなど、位置調整と空間把握がズバ抜けて上手く、最後も振り回された勢いを利用してプッシュアップバーを回収しての一撃。そしてダブルクロスで現王者のコブから王座奪取を果たしました。この技はショーン・ウォルトマンのXファクターを体感してる身としては懐かしさもあるのですが、同ユニットのEVILの一撃性や絶望感と比較するとまだほんの少し神通力が足りない気がしますね。あと、成田は試合運びはまるで問題がないものの、リング上での振る舞いという意味でのキャラクター面でのSHOとの差別化に難しさを感じていて、以前から言われていた小物感からの脱出を図りつつ、それでいてダーティーワークをやる、という「身振り」の部分で少し苦労してるかなとも。HHHではないですが、残忍な知能犯路線をやって欲しくはありますね。まあそれはそれでスマートバスタードであるジェイクと被りそうな気もするのですが……。

総括すると成田はキャラクターイメージがまだ浮ついてる部分があるのでここを固めるのが今後の課題ですかね。そこさえクリアできれば完成と言ってもいいぐらい、今の成田の実力は若手の中で飛び抜けていると思います。


◼️第6試合 30分1本勝負
棚橋弘至デビュー25周年記念試合
エル・ファンタズモ&海野 翔太&棚橋 弘至 vs 金丸 義信&高橋 裕二郎&“キング・オブ・ダークネス”EVIL

グラディエーターⅡのコスチュームで登場した棚橋と海野とズモ。特に棚橋はプロモーションでわりとこうしたコスをやってるせいか着こなしに衒いがなく、金髪の長髪と相まってサマになっているのを感じます。

試合内容は分かりやすい勧善懲悪からの棚橋のハイフライ弾でフィニッシュ。25周年記念試合を勝利で飾ったわけですが、特筆すべきはやはり試合後に棚橋によって落とされた爆弾で、このマイクこそがこの試合における一番のトピックだったと思います。

2026年1月4日。再来年の1.4東京ドーム。そこを棚橋弘至の「ゴール」と定める。IWGP戦線から遠のき、G1に出られなかったあたりから薄々予感はしてましたが、とうとうこの日がやってきましたね……。棚橋弘至の引退試合。棚橋弘至にとっての「エース」とは即ち「ゲッシュ」でもあるわけで、現役の最前線かつ最先端を走り続けるからこそ意味のあるものです。その言葉が形骸化してしまうことを何より嫌うのは棚橋自身であり、ここ数年言われ続けてきた「動けなくなった」との言葉は、心配にしろ揶揄にしろ、葛藤はあったことでしょう。その言葉に殉じるのであればこのタイミングはむしろ遅いぐらいであり、コロナ禍さえなければもう少し早く引退のときは訪れていたのではないかと思います。

それでもなお戦い続けたのは人間・棚橋弘至としての足掻きでもあり、一つの挑戦でもあったわけです。刻一刻と迫る限界の中、そう簡単に諦められるはずもなく、その歩みを止めるということに悔いがないわけがありません。しかしながら社長就任という現状の立場に加えて、猪木以後の現代プロレスをを象徴する歴史的アイコンとして、時代のうねりの中で身を引くことで一つの幕引きを図るその選択に、ファンとして異論があるはずもないのです。デビュー当時から応援していて、高校や大学も彼の活躍とともに新日暗黒時代をくぐり抜けた身としては、非常に悲しく、そして感慨深いものがあります。残された猶予であるこの一年を、棚橋とともに悔いなく過ごしていきたいですね。

最後になりますが、棚橋が引退しようとも僕は新日を見るのをやめるつもりはありません。たとえ棚橋がいなくなっても、棚橋の愛した新日を愛し続ける。それがファンとしての一番の贈りものですかね。


◼️第7試合 60分1本勝負
IWGPジュニアヘビー級選手権試合
DOUKI vs SHO

まさかの秒殺劇!いやはや……驚きです。SHOはこうした役回りができるというのが最大の強みですね。DOUKIのハーフマスクの下はマスクマンの素顔と同じぐらいのタブーではあったわけですが、外した後の「道鬼」化はインパクト大でしたね。DOUKI王者による新風景は見る側もかなり新鮮ではあり楽しみなのですが、こうした形で今の新日Jr.の主役はDOUKI中心なのだとストーリーで示してくれるのはありがたいものです。こうした二面性があるのもレスラーとしての幅の広さを感じますし、TJPのアスワンvs道鬼とか、実現するなら見てみたいと思いました。

◼️第8試合 60分1本勝負
IWGP GLOBALヘビー級選手権試合
後藤 洋央紀 vs デビッド・フィンレー

G1での後藤の活躍は記憶にも新しく、形式的にはYOSHI-HASHIの仇討ちではあるものの、最前線でまだ十分に戦えるコンディションと気迫を示したのは非常に大きいですね。時代の移り変わりに新世代の台頭。ベテラン勢の重用よりも未来への投資と新陳代謝を重要視する現新日の中で、IWGP戴冠という夢の果てに向かって抗い続ける後藤の姿は何よりもリアルであり、かつてあった不甲斐ない後藤へのダメ出しの空気が、最前線で戦い続け、年齢を重ねるにつれてファンの思いが祈りになり、そして後藤と同じ願いを共有する空気へ変わっていったのが肌感覚で分かります。もはや後藤一人の願いではなく、それは夢を見せた人間ならでの重さであり、責任なのですよね。

「耐える後藤」のイメージがあまりにも強すぎたせいか、数年前はどうにもやられ姿のほうばかり印象についたのですが、今回の試合はかなりの押せ押せムードであり、躍動感がありましたね。鉄柱に向けての村正や一人消灯など、リングを広く使った盛り上がり所もあり、何より真っ向勝負を繰り返していながらも、昔と比べても膂力そのものは衰えてないというのが今の後藤の一番の魅力であるとも思います。以前と比べて弱々しい場面が少なくなった。ここは大きなポイントだと思いますよ。正直な話、後藤は何よりもIWGPが優先でGLOBALは二の次ではあるのですが、それよりもこうして重要な役割を任されていることのほうに安堵の気持ちを覚えます。

かなり押されたフィンレーではありましたが、普段の荒々しさと違ってやられ役としてのヒールの振る舞いも見事としか言いようがなく、そこに加えて切り返しのセンスも抜群であり、はっきり言って文句のつけようがないですね。敢えて文句を言うとしたらその実力に反した現状の立場にあり、GLOBALヘビーですら言葉通りの役不足だと思います。もうとっくにIWGP世界ヘビーの常連となってもいいポテンシャルがあり、その才能からすると意外なほどに実績の積み方が堅実だなと思います。

この二人……立場こそ違えどファイトスタイルは微妙に似通ってるポイントがあり、凱旋帰国当初の後藤は完全な首破壊を軸とした破壊者であり、フィンレーもまた頸椎や脊椎といった部位を徹底的に狙う破壊者なんですよ。それにしてはえげつなさやエスカレートする大技に振り切れすぎることはなく、その根底には互いに業師らしい技巧比べがある。

最後はGTRを逆さ押さえ込みで切り返すとOVER KILLでフィンレーの逆転勝利。娘さん……号泣していましたね……。これはちょっと個人的にショックだったというか……あまりにも可哀想すぎましたよ。

プロレスはいいことばかりでなく、当然悪い結果に終わることもありますし、キングオブスポーツである以上、家族が見ていようが常に勝利が約束されているわけではありません。前回のG1のときは感動的な勝利に終わったというのもあり、今回の敗北もバランスが取れているとは思うのですよ。道徳的な批判をするつもりは毛頭ないです。仕方ないことです。ただ、そうした容赦のない現実は、小学二年生にはあまりにも厳しすぎますよ。子供にとって父親の姿は我々大人が思う以上に大きなもので、世界の全てと言っても過言ではありません。それが眼前で粉砕されるというのは非常にショッキングであり、しっかりケアをして欲しいですね。とはいえ、それでも親がやられて泣く子供を泣き真似で煽る残虐さを見せたフィンレーは本物のプロですよ。ちょっとエンタメとして消化するのに抵抗を覚えるほどには、今宵のフィンレーは極悪だったと思います。

次期挑戦者はタイチ。ユニットリーダーを期待されつつもSANADAのJ5G加入以降はサポート役に徹することが多く、ヤキモキしていた身としてはこの挑戦は大歓迎ですね。G1出場できたかどうかは関係がなく、今のフィンレーのいる場所が最前線であるならば、ここに挑むのはトップになることを諦めていないことの証でもあるのです。そして見方を変えればフィンレーにとってはこれもまた世代闘争の一環でもあり、位置付け的にはNo.2のベルトとはいえ、防衛ロードがしっかりとした形になりつつありますよね。役不足と言いはしましたが、フィンレーの成長とベルトの箔付けがリンクしている現状はそんなに悪くはないのかもしれません。



◼️第9試合 60分1本勝負
IWGP世界ヘビー級選手権試合
内藤 哲也 vs ザック・セイバーJr.

例年通りの王者vs覇者の大一番が1.4を待たずに行われたわけですが、権利証がないのであればこのタイミングが流れとしても自然ですよね。G1が王座への挑戦者決定リーグでしかないという声は昔からあり、権利証とドームメイン込みでG1クライマックスの地位と権利を向上させたのがこの10年の試みだったわけなのですが、G1ブランドの価値が上がった反面、真のトップを決める戦いが年明けというのはやはり熱の持続が難しかったように思います。

そうした流れもあってか今回の王座戦はわりと読みにくく、勝負論はしっかりあったように思います。要因としては、まず1.4のメインは日本人vs外国人か日本人vs日本人が固定観念としてある以上、その慣例に習うならザックが戴冠したなら相手は日本人が確定するわけで、そうなると今のザックの向こうを張れる日本人選手が格や期待感でも見当たらなかったというのが理由の一つとして挙げられますかね。

もう一つはドームメインの価値を上げたことによるネームバリューの問題があり、棚橋が社長就任で一線を退き、オカダ退団もあって残された同格と言える選手は内藤だけで、たとえコンディションが悪くとも内藤でやらざるを得ないのでは?という予想があったわけです。ザック戴冠を望みつつもどうせ内藤では?という諦観と、ここで陥落したら内藤のドームメインにピリオドが打たれてしまうため、ただ見守るしかない祈りのような心境がないまぜになった、恍惚と不安の入り混じった独特の空気感がありましたね。

そんな感じで幕を開けた一戦ではありましたが、試合内容としては苦手と言いつつもやはり手が合うのかわりと好勝負ではあり、内藤のコンディション不安がありつつも個人的にはそこまで気にはならなかったですね。Twitterにも書きましたが、内藤の試合内容に現状満足してるか?と言われたらNOではあるのですけれど、それはそれとして肉体の限界と加齢による儚さのある色気。新世代に追われる孤独な立場かつ、ファンの代弁であった舌鋒の鋭さが、逆に自分に向きつつある今の立ち位置はわりと魅力的に感じているのです。あれだけ権威に反逆し、言いたい放題してきた内藤が、今度は言われる立場になってしまったというのは皮肉と断じるには残酷な運命にも感じますし、それでいながら権威にしがみついてるわけでもなく、肯定も批判も全部飲み込んで、ついてくるファンのためにひたすらに身を削る。試合をする以上評価がつきまとうのは仕方ない話ではありますし、そこに手心を加えるのはプロに対しての失礼に当たるので厳しいことを書くこともありますが、それはそれとして今の内藤の「あがき」には目を奪われてしまいますね。

内藤がザックのグラウンドにしっかり付き合って対応すれば、対するザックもまた内藤の領域へと足を踏み入れます。辻戦で見せた小川良成の4の字ジャックナイフ固めは語り草になりましたが、この試合で繰り出したのはまさかのゴッチ式パイルドライバー。単なる拝借でもそこに軽薄さはなく、あくまでザックが使用しても違和感のない、言ってしまえば「価値観が同じ」技なのですよね。それと同時にこの大事な場面でそれを繰り出すということは、彼が非常に「ルーツ」を大事にしてることの証でもあり、それ即ち彼がこの頂きに辿り着くまでの栄光への道筋でもあるという。

内藤も仕掛けに不安がありつつも、カウンターのみならかつてのキレ味を取り戻せるカウンター式のデスティーノに、晩年に差し掛かった今のタイミングで会得したスワンダイブ式首固めなどで必死に追いすがります。そんな内藤をザックドライバーで真っ逆さまに落とし、それがカウント1でキックアウトされたら続いては旋回式のザックドライバーことセイバードライバーで叩きつけます。この直下式の連発でも仕留められないとみるや、最後は足をロックしてのセイバードライバー(you’ve been tangoed special)で叩きつけ、ようやく内藤を沈黙させました。ゴッチ式と合わせれば終盤戦で放ったのは都合4度の頭から落とすドライバー技であり、一気呵成の畳み掛けではあるものの、この直下式の連発は彼のイデオロギーからするとかなり異例であり、ザックらしくない試合展開であるとも言えます。それは明らかに内藤の得意とするエクストリームな領域での技であり、その領域で内藤を超えて戴冠することに大事な意味があるのでしょう。途中タップアウト寸前まで追い込んだ蟻地獄のような複合関節技を経たからこそ、最後の目まぐるしい展開は読めずに手に汗を握りましたし、セオリーやイデオロギーを多少曲げても、ベルトであったり内藤への敬意であったりといった「より大きなもの」を取ることを選んだ。その選択ができることが、ザックの尊敬できる部分なのかもしれません。

最後のザックの歓喜とリスペクト。そして終わった後の内藤の憑き物が落ちたような晴れやかな表情には感極まってしまいましたね……。あの表情だけでも今までの全てが報われた感じがありますし、ようやく未来に託して王者の重荷を降ろせたのだな、とも。いやはや、素晴らしい王座戦でした。

そして試合後に姿を現した3人の挑戦者。SANADA、鷹木、海野。一気に混沌としてきましたね。SANADAは王座陥落以降はどうにもパッとしない感じではあるのですが、昨年の新世代を迎え撃った新時代の王者像はさほど悪いとは思わなかったですし、恐らくですが彼は徹底して受け身型の王者像であり、内藤相手に自己発信を求められたのは本当に酷だったと思うのですよ。1.4の試合はよくても後のリマッチが彼の評価を不当に落としたとも思っていますし、能動的に話題を作るタイプでなく、話題性のあるシチュエーションや皆に挑まれる立場を作り込んでこそ真価を発揮するタイプだと思います。

SANADAに関してはそのぐらいで、驚いたのは海野が姿を現した瞬間にブーイングが飛んだことで、以前からチラホラその予兆はありましたが、ここにきてとうとう表面化してしまいました。

彼にとって酷なのはブーイングを乗り越えた先駆者として棚橋と内藤の二人がいますが、裏を返せばベビーを貫くルートもヒールターンでアンチヒーローとしての人気を得るルートも、どちらもすでに開拓済みであることで、物語が残されていないんですよね。もちろん、海野の辿る道は二人と同じというわけではないのですが、同じでないからこそ比較され、一度こうした形で「ブーイングを飛ばしてもいい」と存在として認知されたら最後、目立った変化がない限り中々認められることはありません。単にいい試合をしました、好勝負をやりましただけでは観客は簡単に納得しないんですよね。残酷な話ですが……。

ただ、これだけ言われるのって彼の存在がどうにも鼻につくからで、逆に言えば何をやっても視界に入ってしまう存在であるとも言えます。それは間違いなく彼の個性であり、その華はまさに才能の片鱗だと思うのですけどね。

鷹木に関しては言うことがないです。いつでもIWGP世界ヘビーを狙いにいける立場であり、またザックとの試合相性で言うなら残り二人と比較しても大きなアドバンテージがある。1.4メインでも十分に納得できるカードであるでしょう。若干やりすぎた組み合わせでもありますが、約束されている名勝負数え歌を持っているのは強いですよ。さて、このIWGP世界ヘビーを巡るザック包囲網がどうなるのか。今後の成り行きを見守っていきたいと思います。





久しぶりに全試合レビューを書いたというのもあって12000文字超えというべらぼうに長い内容になってしまいました……。いやはや、もう少し短くまとめられるようになりたいですね。ではでは、今日はここまで。

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