2024.9.1 プロレスリング・ノア ABEMA PRESENTS N-1 VICTORY 2024 決勝戦 試合雑感

お久しぶりです。もるがなです。ここ最近はずっと新日のG1にかかりきりで中々時間が取れず、それが終わった今はゆっくり休もうかとさえ思っていたのですが、そうさせてくれないのがプロレスの魔力の恐ろしい所であり……。語りたくなる試合が出たら書きたくなるのがプヲタの業です。それほどまでに今回のN-1決勝の大会が素晴らしかったんですよね。前置きもそこそこに、さっそくやっていきましょう。

◼️第6試合
ジョシュ・ブリッグス vs 稲村愛輝

凱旋帰国からの活躍を連勝街道を期待された稲村でしたが、N-1の戦績はやや振るわず、試合内容は良くとも何よりも欲しいのは結果と箔であり、このあたりは応援してる身としてはややヤキモキしますね。しかしながら持ち前の膂力と身体のブ厚さはシェイプした今でも健在であり、黄金時代のNOAHのイメージが色濃く残る大技ラッシュの日本人パワーファイターは非常に貴重な存在で、そうした意味でも期待感は大きいのですよ。

2メートル級のジョシュ・ブリッグスとの大激突はロックアップ一つとってもド迫力であり、一切当たり負けしていないのはいいですね。しかしながら冷静に見ると、稲村が戴冠できないのも少し納得してしまうというか……。試合全体としてどうにも「耐える」場面が多く、後の大爆発のカタルシスがあるとしても、やや展開が一辺倒かつ、中盤は相手がペースを握って攻める姿が目立ち、稲村の反撃も単発に終わりがちな印象が強いです。なんでしょうね……「支配力」とでもいうべき部分に課題を感じてしまうというか……。

とはいえ、この劣勢時の「耐える」稲村の姿に魅力を感じてしまうのも事実で、端的に言って顔がいいんですよ。このときの燃え上がる表情と見る側の爆発を期待する感情移入のインフレ具合だけなら団体の中で間違いなくトップであり、それは王者の資質があると言っても過言ではないと思うのですよ。ただ、そうであるが故にそこに縛られすぎているきらいもあって、扱いの不遇さに不満はありつつもそうならざるを得ない納得があるというか。「剛」だけではない「柔」の部分も見てみたいという欲求があります。

対するジョシュは流石に手慣れてる印象があり、鉄柵でのフェイントからのアピールや、稲村を起こす所作一つとっても爪先を踏みつけるなどの小技が効いていて、一見粗雑に見えても硬軟織り交ぜた攻めが素晴らしいんですよね。それでいながらパワーはやはり一級品で、腕を掴み、髪を掴み、強引に引きずり起こしてのチョークスラムはフォーム、威力共にまさに「巨漢の嗜み」であり完璧な一撃でした。最初からタイツを掴むのはテイカー式で、膝をついて落ちる勢いを増すのは初期のビッグショー式で、ジョシュのチョークスラムは往年の名手のあいのこ感があって僕はかなり好きな一発です。

二発目のチョークスラムは振り払って遠心力を活かしながら相撲のぶちかましのように稲村がラリアットを振り抜きます。やはり大型選手を吹き飛ばすだけの説得力がありますね。そしてN-1での征矢学戦などでも見せた、ロープの過剰な往復で速さと重さを増してのぶちかまし。これは凄まじい一撃で稲村にしかできない技ですね。そしてエルボーの乱打戦でも引けを取らず、相撲の張り手をボディへとブチ込む稲村。当たりも強く、大型選手とこうして殴り合えるのが一番の持ち味ですよ!これが見たいんですよねえ。

しかしながらこれをビッグブーツで距離を取ると、なおも突っ込む稲村をコーナーで回避すると、走り込んでのラリアット。轟音とともに一撃で稲村が宙を舞い、フォールを奪われてしまいました。クローズラインフロムヘルに等しい重さのある一撃で、これは納得するしかなかったです。試合結果としては残念ではあるものの、真正面からパワーでぶつかっての玉砕は致し方なく、負けはしながらも凄まじい奮闘ぶりだったと思います。同じ試合ができる日本人選手、いますかね?

試合後はN-1での戦績不振とジョシュへの敗北を悔いての再び世界を狙う宣言。うーん……色々事情があるにせよ、無期限遠征からの帰還。そして再び海外での出直しはどうしても迷走のイメージがついてしまいますね。とはいえあの武藤ですら、スペースローンウルフでのつまづきの後に二度目の海外遠征に行ったわけですから、前例がないわけでもないんですよ。ただ稲村は年齢的にもパワーファイターとしては脂の乗った時期であり、多少甘やかしてでもトップのシングルタイトルを巻かせてからでいいのでは?と思ってしまいます。艱難辛苦を乗り越えて捲土重来を期する苦労人ではなく、皆が見たいのはひたすらに強い「稲村無双」だと思うのですが……。まあ仕方ありません。見守るしかないですね。少なくとも今より弱くなるわけではないのですから。稲村のさらなる逆襲を今はただ期待して座して待つのみ、ですかね。

◼️第8試合 GHCタッグ選手権試合
丸藤正道&杉浦貴 vs 齋藤彰俊&モハメド・ヨネ

清宮&拳王が率いる今のNOAHをプラチナ期とするならば、これはかつての黄金時代のNOAHのカードであり、そこにノスタルジーはありつつも激しさは微塵も衰えがない好試合でしたね。

丸藤&杉浦はやはり分断と連携が非常に巧みで、互いのサイズ感や剛と柔のスタイル、キャリアも含めてちょっと穴の見つからないタッグチームだと思います。杉浦、ヨネ、齋藤と打撃に定評のある中で、丸藤の幻惑めいたトラースキックのバリエーションは花を添えていましたし、やや受けに回りがちな齋藤&ヨネ組は、熱く受ける齋藤と、冷たく受けて怖さを見せるヨネのコントラストが素晴らしかったです。

「杉浦、立て!」と一喝しての齋藤と杉浦のエルボー合戦が個人的ハイライトの一つであり、この横殴りのエルボーはやはり三沢の蒔いた遺伝子であり、あの時代を共に過ごした選手たちが全員これに拘りを持っているのがたまらなく嬉しいのですよ。そしてこの齋藤の一喝で、今まで優勢だった丸藤&杉浦に一気に「後輩感」が出てくるという味わい深さには舌を巻いてしまいました。そして壮絶なエルボー合戦からロープワークで走り込んできた杉浦に放ったカウンターのスイクルデス!この斜め上から鉈のように振り下ろす切れ味は相変わらずです。そしてハーフダウンの杉浦に対して見舞った走り込んでのスイクルデス。このパターンも久しぶりに見た気がします。

そしてデスブランドで一気に試合を決めにかかった齋藤でしたが、これをドンピシャのタイミングでフロントネックロックで切り返す杉浦。タップアウトをせずとも意識の糸を断ち切って、丸藤&杉浦が勝利を収めました。オールドタイマーの試合などではない、重厚感のある怖さのある試合でありながら、往年のファンにも刺さるいい試合でしたよ。この試合における齋藤の「眼光」の鋭さは本当に息を呑むぐらい凄くて、鮮烈な印象を残しましたね。

◼️第9試合 GHCジュニアヘビー級選手権試合
AMAKUSA vs ダガ

ダガの入場、完全に真島の兄さんで笑いました(笑)ダガの高貴な色気がこんな感じでハマるとは予想外でしたね。これに対してAMAKUSAのコテコテなキャラが負けていないのは何気に凄い所だと思います。

試合は開幕からノンストップ。ハイスピードのルチャの攻防の中で、場外で相手の腕を掴んでリングインしつつの鉄柱攻撃や、ジワジワとした腕殺しなど、とにかくダガは「完璧」の一語です。スティンガーで受けた小川の薫陶がここでも闇の光を放っていて、これはちょっと手がつけられないですね。

そんな中でAMAKUSAの輝きも負けず劣らず。ダガがセカンドロープから抜けるトペコンを見せれば、AMAKUSAも負けじとトペでのブエロデアギラを見せるなど、難度の高い空中戦で全くひけを取らないあたりが素晴らしかったです。腰へと重点的にエルボーを放ち、450°スプラッシュも腰へと被弾させて軸を攻めるAMAKUSAに対し、トラースキックを腕へ打ち込んで腕攻めの手を緩めないダガ。ネックブリーカーを挟んだ変則的なファイナルカットに、かと思えばすかさず腕ひしぎを決めるなど、ダガは暗殺者めいた手抜かりのなさがありますね。

AMAKUSAも前回同様、バリエーションのある押さえ込みで幻惑し一気呵成に攻めますが、同じ轍を踏まないのがダガの恐ろしい所であり、最後はディアブロウィングスでAMAKUSAを粉砕して再びのダガ政権に。初防衛失敗の悪夢でありながらも、試合としてはここまでノンストップで走り切ったこのスピードとスタミナには脱帽するしかないです。そして納得の結末でしかない、陥落してても再び取り返すダガの絶対王者ぶり。いやはや……百獣の王は伊達ではないですよ。ちょっと戦う相手を探すほうに難儀しますね、これ。

◼️セミファイナル GHCジュニアヘビー級タッグ選手権試合
近藤&Eita vs HAYATA&YO-HEY

近藤&Eitaというドラゲー色の強い強豪タッグに対して、ラーテルズという鈴木軍の暗黒時代以降のNOAHの近代史とでもいうべきユニットの絆をアピールするHAYATAとYO-HEY。一度は裏切りという決裂を迎えつつも、それがあったからこその恩讐を超えた感じがあって面白いですね。

流石にHAYATAとYO-HEYのタッグはキレッキレのコンビネーションを見せるものの、誤爆を誘うEitaの悪辣な知能犯ぶりは素晴らしく、近藤がリング上で分断すると、その間隙を縫うように場外で毒蜂のように荒らし回ったりと、その働きぶりには頭が下がりますね。

ザ⭐︎オリジナルをリバースDDTで切り返すと、 YO-HEYへとタッチ。 YO-HEYの陽気質はこういう時には心強く、寡黙なHAYATAが持ち得ないオーラの一つであり、これで雰囲気がガラッと変わるのは心強いですよね。Eitaの妨害に負けじとHAYATAとの連携で近藤を攻め立てます。しかしながらEitaが温存させていただけあってパワーとスタミナは十分に残っている上に、KUBINAGEで2人まとめて蹴散らすなど、パワーはやはりJr.離れしていますね。ちゃんと強豪タッグとしての「理」があるのが凄いですよ。

圧巻だったのは近藤&Eitaのスーパーパワーボムで、これ一発でYO-HEYの明るさを消し飛ばすだけの凄まじさがありましたね。完全に場外でグロッキーになったYO-HEYを尻目に孤立したHAYATAを痛ぶる近藤とEita。孤軍奮闘するも、ダブルのバックエルボーを挟んで股裂きで上半身を起こすと、続け様に放ったダブルのドロップキックはラーテルズに負けないぐらいのドンピシャで、ここで連携面でもほぼ互角であることを思わせるのは絶望的すぎますよ。いやはや、強いですね。

しかしながら相手を踏み台にして放ったHAYATAの反撃のスイングDDTはかわされつつも、続くキングコングラリアットをEitaに誤爆させたのは大きく、相手の力を逆利用することにかけてはHAYATAは天才ですね。そしてHAYATAの攻撃の隙間を埋める形での YO-HEYの奇襲がEitaに刺さりますが、近藤も同じ手でキングコングラリアットで逆襲。ホイップしてのインペリアル・ウノの連携がブッ刺さるも、これはギリギリで YO-HEYがカット。このスーパーパワーボムのダメージが残る中で限られた体力でアシストするのはめちゃくちゃ燃えますね。

Eitaのトラウマはキドクラッチの要領でHAYATAが切り返すも、これは近藤がカット。 YO-HEYが近藤をオーバーザトップロープのリングアウトに誘うと、一回転式のドロップキックをEitaの顔面に突き刺し、続いてHAYATAが403インパクトでたたきつけますが、これをなんとか返すEita。手を緩めずにHAYATAはヘデックとさらに畳み掛けて逆転。これでようやく粘るEitaから勝利しました。

いやあ……素晴らしい。相手は格上のタッグでありながらも、タッグの力は1+1=2ではないことをしっかり証明した試合でしたね。そして試合後は YO-HEYのアピールに誘われる形で原田大輔がリングに。早すぎる引退は残念でありながらも、マネージャーやスポークスマンとして表に立つことで、かつての4人の伝説だったラーテルズが、さらに新しい歴史を紡いだことで、ユニットしてさらに厚みを増したような気がします。金髪夫婦を祝福する原田は仲人めいてて面白かったですね。

原田大輔の推薦により、新メンバーは道頓堀プロレスの菊池悠斗。これは期待大ですね。何よりラーテルズのユニットメンバーとしての加入で違和感が全然ないことに驚きましたし「立ち姿が絵になること」がユニットとして一番大事なことだと思います。華やかさと獰猛さを兼ね備えた新生ラーテルズ、めちゃくちゃ期待します!


◼️メインイベント N-1 VICTORY 2024優勝決定戦&GHCヘビー級選手権試合
清宮海斗 vs 拳王

N-1の決勝が新顔ではなく、今のNOAHの柱のこの2人であることや、オールリベリオンのユニットとしての方向性、リーグの決勝戦がタイトルマッチになることなど、随所に思う所はありつつも、節目節目で組まれる清宮vs拳王は毎回しっかりと意味があるのは素晴らしく、いざこの2人でなってしまえば、それ自体が歴史であり大きな意味を持つのですよ。

拳王の入場。失恋モッシュの字幕付きは笑いました。これは配信ならではの特権というか、こんなコテコテの入場でも違和感がないどころかサマになっているところに拳王の凄みがあると思います。対する清宮は爽やかさが天元突破していて、観客とハイタッチをかわしながら進む姿はまさにエースそのものを体現してると言えますね。

開始早々エルボーでのハイテンションなド突き合い。いきなりのシャイニング・ウィザードからの足4の字固めは解説の小川良成に苦言を呈されながらも、鉄柱とエプロンを使っての徹底した足狙い。これに苦悶しつつもドラスクを前転して外すと、清宮を場外へと追いやり、足を叩いてプランチャと見せかけてセカンドロープをすり抜けるドロップキック。それにしても小川の解説、賛否ありますがわりと面白いですね。ザックの感謝をスカすのは明らかに照れだとわかりますし、偉業を成し遂げた弟子を「飲み友達」とサラリと語るのはめちゃくちゃ大人の雰囲気があると思いますよ。いや、脱線してすみませんw

場外戦でダーティーさを見せた清宮ですが、拳王も負けじと鉄柵へのゴードバスターの要領でフットスタンプへの布石となる腹部攻め。そして腰へのエプロンドロップキックからリングに戻ってのダブルニードロップ。そして背中にハードな蹴りを連発。激昂する清宮に対して激情の拳王と、熱量がハンパないですね。互いにドロップキックを撃ち合い、互いにネックスプリングで起き上がる。意地の張り合いもこのカードの魅力の一つだと思います。

清宮はドラゴンスクリューから正調シャイニングを狙うもこれは拳王がアンクルホールドで捉えます。ここから得意の腹部へのキックを狙うも、清宮が逆立ちからの着地。いや……身体ポテンシャル素晴らしいですね。しかしながらすかさず拳王が危険すぎる投げっぱなしジャーマンで清宮を肩口から突き刺します。足払いから背中へのフットスタンプ。そして背中への膝蹴りと、しっかり両面焼きのように清宮の胴体を攻め立てる拳王。清宮はカチ上げエルボーで反撃するも拳王もミドルキックで猛攻。輪廻に対して清宮のドロップキック。拳王は蹴暴。清宮はシャイニングと互いの得意技の乱れ打ち!打撃に感情が乗っているんですよ。

一点集中では拳王の先手を奪われたものの清宮は低空ドロップキックでペースを握り返します。そして再びの足4の字固め。やはりここも小川の苦言がきこえますが、本来は膝裏で足首をフックする所を清宮の左足が浮いててかかりが浅くなっているんですよね。謂わばポイントがズレた状態であり、これは仕方ない気もします。膝裏を狙ってさらに低空ドロキを積み重ねるものの、ロープに走っての一撃は拳王がフットスタンプで突き刺しての迎撃。低空ドロップキックに対してのフットスタンプの相性は面白いですね。

清宮はフランケンシュタイナーを狙うも、これを拳王が抱えてアンクルへ。そしてガラ空きの腹部を蹴り上げる!この拳王の一連のムーブ、オリジナリティがあって好きです。そして蹴暴!拳王はアピールからPFSを狙うも清宮が追ってトップロープの危険領域へ。これは未遂に終わり互いに崩れますが、清宮は走り込んでエプロンに立つ拳王に対し、トップロープ超えの断崖フランケンシュタイナー!いや、これは素晴らしい!フランケンは武藤ムーブの一つとはいえ、歳若く身体がほぼ万全な状態の清宮が放つことによるアップデートされた凄みがあります。まさに天才の閃きですね。

清宮はシャイニングウィザードを狙うも、これを即座にかわすと拳王は高速ドラゴンスープレックス!そしてトップロープからの雪崩式ドラゴンスープレックスというさらなる危険技に。拳王もフィニッシャーであるPFSを狙いますが、これをかわした清宮がフランケンシュタイナーで押さえ込みに。拳王も返してスピンキックを放つも清宮もジャンピングニーで返すと、背後を取っての変形タイガードライバーで叩きつけますが、これもカウント2!

そして清宮は三角飛びシャイニングことブーメランシャイニングウィザードをヒットさせます。そして変形シャイニングを狙うも、再三にわたって拳王はブロックし、オモプラッタからの拳王スペシャルへ。拳王のシャイニング対策の手札も多いですね。そして清宮の腹部に突き刺すPFS!拳王の体が清宮の身体の上で反動で浮き上がるほどの威力ながら、これはなんとかカウント2。拳王は奥の手である炎輪を放つも、これをかわした清宮が対角線から走り込んでの変形シャイニングウィザード!ガチャガチャとパズルを組み替えて型にハメ込む武藤の緩急のあるシャイニングと違い、清宮のシャイニングは流動的かつスピーディーで、たとえるなら「柳」なんですよね。同じ技でもほんの少しの変化、使い手によってイメージは変わるものなんだなと実感します。

清宮は正調シャイニングを放つも拳王が両手でブロック。シャイニングの切り返しパターンの一つでありながらも腕を犠牲にする防御法であり、また自身の得意技に繋げるパターンではなく、汎用性の高いこれをやるということは、即ち返せる手札が尽きかけてることの表れでもあるんですよね。何度も執拗に仕掛けることで自身のリズムを作ってテンポを上げ、対応する相手の手札を枯らしていく。足攻めで膝をつかせるだけでなく、腕攻めをやればガードが下がる……。つくづく思いますが、シャイニングウィザードほどプロレスの論理性を感じる技はありません。

左腕を痛めてガードの下がった拳王に再び正調のシャイニングウィザードを撃ち込む清宮。やや閃光魔術を出しすぎかな?と思わなくもないのですが、シャイニングウィザードってフィニッシュ級の技にしては一撃必倒がそこまで美徳にされておらず、例外的に乱発が黙認されている技でもあります。これは元祖の武藤が乱発しまくってたというのもあり、週プロの巻頭カラーなどで閃光魔術○連発!みたいな文字が躍っていたのを覚えておられる人も多いでしょうね。この要所要所で突き刺して自身のリズムを作っていく流れは、後の膝系の技の流行に繋がっている気もしますね。なんというか、呪術廻戦ネタで申し訳ないのですが、連発するたびにゾーンに突入するというのは早すぎた黒閃だな、とも(笑)いや、本当に面白い技ですよね。

そして清宮は拳王を引きずり起こすもここで拳王による戦慄のハイキックが清宮に襲いかかります。勝彦がいなくなった今となっては、この技の「怖さ」は拳王が担保しており、今のNOAHマットでも何度かKO劇があったせいか、終盤でのこれはやはりゾッとしますよね。清宮はこれで朦朧とするも、二発目のハイキックはなんとかかわすと、一気にバックロールクラッチホールドへ。

これをロープを掴んで防いだ拳王でしたが、走り込んだ所をカウンターの巻き投げから押さえ込んで清宮の逆転勝利!決まり手はアームドラッグという意外すぎる結末でありながらも、互いに手札が尽きたからこそ、最後に残ったのは基礎の技であり、そして基本は奥義でもある。前述のシャイニングウィザードで痛めた拳王の左腕をしっかり手繰って仕掛けたというのがミソですよね。

最後が「丸め込み」で終わったことによる唐突感を覚える人も多いと思いますが、大技を撃ち合う試合展開だったからこそ、幕引きはさらなる大技や絶技を期待するというのは期待感としては理解できる話でありながらも、もっと派手なものが見たいという願望の逆算に過ぎず、実のところはプロレスの見方としてはかなりメタな見方なんですよね。互いに出せるカードを出し切ったのなら、次に出すカードのどれで終わってもおかしくないのが普通なわけで、そういう意味では僕はかなり緊迫感を持って見ていましたし、それこそが戦いなのですよ。故にこの結末も納得しかないです。

先ほどはあえて「丸め込み」と書きましたが、鉤括弧付きで言ったことからも分かる通り、便宜上その言葉を使うことはあっても、僕はこのnoteでは一貫してこれらの技術は「押さえ込み」という呼称で統一させています。何度も書いたことではありますが、もう一度書きましょう。

プロレスの勝ち方は千差万別なれど、3カウントを取れば勝てる勝負である以上、それを最短ルートで狙いに行く技は、足元を掬う「丸め込み」などではなく、文脈としては「一撃必殺」に近いものです。格闘技では当たりどころによっては一撃必殺のKOとなるハイキックに呼応する形で、プロレスにおける一撃必殺である押さえ込みを出してきたのがというのが今回のポイントでしょう。この幕引きに「唐突すぎる」という意見もあって、それは一応理解できなくてもないのですが、仮にハイキックでのKOならば唐突感があっても納得する人は多いでしょう。ではなぜ、同じ一撃必殺でも直接ピンフォールを取るやり方には抵抗を感じるのか?それはやはり無意識的にフォール狙いを下位に置いてるからだと言わざるを得ません。

グロッキー状態の相手に単に覆い被さることだけがフォールというわけではないのです。押さえ込みも立派な技術の一つであり、言語や慣習が違ったとしても、昔から変わることのない唯一絶対のルール。それがピン・フォールであり、レスリングの原点でもあります。てこの原理などの身体力学や盲点をつく心理学なども込みで、相手をスマートにコントロールし、関節を取るも自由、殺すも自由で、それでいて相手の行動を完全に封殺している状態。KOを擬似的な殺人、ギブアップを降伏と捉えるのであれび、フォールは謂わば「生殺与奪」であり、相手を技術面で完全に掌握した状態です。レスリングにおいては最上位の勝ち方であると同時に、これ以上の完全勝利はありえません。だからこそ若手がこれで勝てば大金星になるわけですし、これで格上が負けるのは不覚になるというわけなのですよ。「丸め込み」という呼称の響きからも分かる通り、昔からこうしたフォール軽視の偏見は根強いものを感じますし、そうした過程がすっぽり抜け落ちて、押さえ込み自体が勝ち星を掠め取るようなスカした印象になってるのは個人的に非常にいただけないですね。丸め込むのがダメ、というわけではなくて「そうした文脈で」使うこともあるというだけの話で、そんな時は大抵金的や凶器攻撃、第三者の介入に気を取られるなどのダーティーワークがセットになっているのでここを見逃してはいけませんよ。押さえ込みという技自体の価値基準を大きく下げて、セコい勝ち方という風に定義する風潮には断固としてNOを突きつけていきたい所存です。まあ人それぞれ好みの勝ち方はあるのでしょうけどね。しかしながら清宮の最後の巻投げ、本当に美しかったです。

今年のN-1は色々と波瀾万丈でトラブル続きではありましたが、終わって見れば覇者で王者の二冠王の結末となり、清宮はより磐石になった気がします。反面、小川良成の苦言はとにかく手厳しかったですね。これは色々と難しいところで、こうした部分を表に出しちゃうのは新規ファンの開拓を思えばマイナス面のほうが大きく、公共の解説で語ることには向いているように思えません。どちらかと言うよりは、専門誌のインタビューとかマニア向けのムック本で言う内容だとは思うんですよね。しかしながらレスラーによる他レスラーの忖度抜きの評価というものはプヲタとしては非常にそそられるものがあるのも事実で、この発言の是非や内容だけで居酒屋で夜通し語れるぐらいには面白いものだとも思うのです。昨今はこうした批評めいた言説がどうにも避けられがちな中で、そこから逃げずに向き合ってくれることに安心感もありますし、個人的には小川の苦言には納得する部分が多かったのでそれを否定する気にはなれませんでしたね。なので間を取って解説を切り替えてのオーディオコメンタリーとかで毎回やるのはどうですかね?小川解説で振り返るNOAH名勝負集とか。需要あると思うのですけど。

……さて、いい機会なのでもう一つ。解説でも触れられており、終わった今でも語られている清宮の武藤モノマネ問題。いい機会なので書いておきましょう。これに対して批判が巻き起こるのはいくつかの理由があるとは思います。あくまで持論かつ半分は考察めいたものになってしまうのですが、お付き合い頂ければ幸いです。

まず、一つ目の理由としては武藤敬司引退から清宮への王権譲渡が間を置かずにシームレスに行われたことによる弊害ですかね。継承元である武藤敬司の引退が2023年と直近だったというのもあってか、オールドファン、新規ファン含めて周囲の武藤敬司の記憶があまりにも新しすぎるというのがあります。仮に武藤の引退が10年以上前に行われていて、遠い過去の記憶となっていたのであれば、これほどまでに言われることもなかったようにも思うのですよ。

二つめは、単純に清宮当人の模倣力が群を抜いて高すぎることですかね。単なる猿真似ではなく、たとえばシャイニング一つにしても、正調シャイニングの精度は数多いる使い手の中では随一ですし、ジャンピングニーとスタンディング式シャイニングをきっちり使い分けられるセンス。さらには三角飛びのブーメランシャイニングやフィニッシャーである変型シャイニングといった新しいパターンまで編み出したわけで、これって継承者として見るとあまりにも理想的「すぎる」んですよ。優等生すぎると言い換えてもいい。技の継承、進化、発展まで含めて高い次元で会得しており、それは技だけに留まらず、仕掛ける間やタイミング、さらにはプロレスLOVEアピールまで含めて憑依に近いレベルで完コピしてしまっているからこそ、より観客に武藤敬司の記憶を鮮明に喚起してしまう。そして武藤ではなく清宮だからこそ「これじゃない」感が際立ってしまうという。

三つ目に、これは上記二つを合わせた総論めいたものとなるのですが、武藤敬司及びグレート・ムタというレスラーはサンプリング元としての影響力が絶大すぎるせいか、オマージュ、パロディ含めてその技の使い手が他のレスラーと比較しても非常に多岐に渡っており、その中で正式継承を謳うことの正当性や困難さが挙げられます。たとえるなら、海賊版が出回ってもはや普遍的なものとなってしまった中で、公式が改めて正当な後継を打ち出した所で、すでに広まっている上に、既存顧客への新規性や独自性はアピールしにくく、転じてそれらが「清宮はオリジナリティがない」と過度に借り物感を強調してしまっているのかもしれませんね。パクリという批判の半分は武藤ムーブの目新しさのなさに集約されているのだとも思います。

個人的には、清宮は武藤の真似だとまでは思っておらず、あくまでそれは表面的な部分であり、あれはどちらかといえば武藤エッセンスを拾い集めての再構築だと思っています。武藤超えからの伝承というドラマ性込みの華やかかつキャッチーなコーティングが目立ちますが、それだけでなく、その内面は時にダブルアームロックや今回のアームドラッグといった古典的な技を愛するオールドマニアも唸る技を繰り出すレスリングの深みがある。それは常に星4以上をマークし続けるクオリティの高い清宮の試合を見れば分かる話でありながらも、何度も切り取られ、繰り返し語られる部分が花形である武藤ムーブである以上、武藤の技を使い続ける限り逃れられない業であるとも言えますね。それが出ただけで「冷める」観客がいるのも無視できない事実であり、ここをどう向き合って克服していくかが今後の課題となるでしょう。でも心配はあまりしてないですね。だって清宮海斗は天才なのですから。思い出と戦っても勝てないなら、新たな思い出を作ればいい。清宮海斗の今後に期待します!

いやあ……稲村の去就や小川の苦言、リーグ決勝戦がタイトルマッチであることの是非、アームドラッグによる決着、清宮の武藤の真似と、終わってなお出てくる問題の数々。これにスッキリしない気持ちを抱く人も多いかもしれません。でも……これって楽しくないですか?いいも悪いも含めて、色々と語っていく。NOAHのいいところって、こうした感じで毎回自身のプロレス観を問われて浮き彫りにされる感じがあり、人によって感想が違うことなんですよね。それが「語ること」の楽しみであり、それこそがプロレスの楽しみの一つでもある。こうした空気は本当に懐かしく、毎回終わるたびに自身がプヲタであることを実感します。最高の夏でした。





とりあえず感情のままに思いつくままに書き殴りましたが、まさかの10000文字突破……!自分でもびっくりです。単に長すぎてまとまってないだけかもしれませんがw語ることを恐れずに。皆さんもどんどん語っていきましょう!それでは今日はこのあたりで筆を置きます。ではでは。

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