2024.7.21 新日本プロレス G1 CLIMAX 34 大阪・大阪府立体育会館 DAY2 試合雑感
◼️第1試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
SANADA vs カラム・ニューマン
昨日はジェイク相手に瞬殺という衝撃の結果に終わりましたが、見方を変えればジェイクのプロモーションとしては元IWGP王者というのは格としては申し分なく、またそうした意識は皆無でしょうが実質的に清宮の仇討ちになったというのもあって結果としては衝撃はありつつも納得感がありました。短時間決着の勝負としての驚きもあり、敗者としてインパクトを残したのは埋没するより良かったと思います。
勝負論で考えても初戦のつまづきは厳しい反面、体力的にはしっかりと温存できており、そういう意味ではアドバンテージすらあるわけです。加えてSANADAの格があの敗北でも下がっていないあたりに今までの積み重ねが生きているわけで、やはり王座戴冠経験は伊達ではないなと思いました。
試合は血気盛んなカラムをいなすようにコントロールし、最後はオスカッターを捉えてドンピシャのデッドフォールで貫禄勝ち。前回が瞬殺なら今回は一蹴といった感じで、そうした勝ち負けが非常にスマートなSANADAらしく、また安定感がありますね。
◼️第2試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
ボルチン・オレッグ vs HENARE
今年ブレイクした二人によるフレッシュな真っ向勝負の激突で、ヘビー級らしいド迫力の戦いになりました。純粋な膂力やパワーならHENAREすら上回るのか……!と驚かされましたが、ぶつかり合いで引けを取ると見るや否や、得意の打撃にシフトチェンジしたあたりにHENAREの王者らしい老獪さを感じましたね。
ボルチンシェイクはコミカルなせいか、一見するとネタ技のようにも見えるのですが、高回転のベアハッグのようなものと思えばなかなかの拷問技であり、腹部攻めの一環としてはいい技だと思います。
この試合でしっかりと得意のカミカゼを決めたボルチンでしたが、一撃必殺のフィニッシャーというわけではなく、ヤングライオン上がりからまだ間がないからこそ技の神通力が備わっておらず、故に返されても違和感はさほどないのはいい塩梅だなと思います。フィニッシャー固定の新日だからこそ返されることに衝撃があるのは利点であり、また繋ぎ技としての使い手が多いカミカゼという技の性質を考えても納得ではあるんですよね。助走なし&ダメージ蓄積なしでは返されてしまうあたりにリアルさがあるわけです。そういう意味ではハリケーンドライバーやF5といった大技ありきで成り立っている技であるとも言えるわけで、思った以上にボルチンの試合は説得力にはシビアなんだなと。
最後はHENAREがStreets of Rageでボルチンから勝利。単なる贄ではなくしっかりと王者として壁になったのは良かったですし、このマッチアップはまた見たいと思わされる一戦でした。
◼️第3試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
グレート-O-カーン vs ゲイブ・キッド
前回に続きこれもまた一風変わった試合で、オーカーンは分かりやすいキャラの反面、試合はわりと独特で、そこは結構面白いなと思います。今年のG1のオーカーンは開幕からレスリングの動きをしっかりと見せており、格闘要素強めと見せかけ、それに反するような場外戦の多さがいい意味で違和感があるんですよね。何が出るか分からないびっくり箱のような面白さ。
ゲイブは先日の敗戦での苛立ちをぶつけるような全力突貫ファイトでありながら、その残虐性に反してカウントアウト寸前でのオーカーンと合わせての顔芸は笑いました。コミカルとシリアスを両方やれるのは超一流の証です。カウントは本当にギリギリでしたが、あれはもうご愛嬌ですかねw
リングに戻ったら一気に投げの仕掛け合いから、最後は互いに走り込んでのロープワークの攻防から交差法でのラリアット一閃でゲイブ勝利!この攻防は棚橋vs小島のG1決勝戦を思い出します。公式からリンクを貼っておきますね。意外なフィニッシュではあるのですが、前のめりにロープの反動を利用して振り返ってのラリアットはゲイブが得意とする技であり、以前は被弾率がやや低かっただけに当たれば3カウントが取れる技だと示せたのはデカいですよね。
よく見ると、最初に仕掛けたゲイブのラリアットは右腕での通常のラリアットであり、フィニッシャーとなったのは伝統的な振り向きざまでの左腕でのラリアット。右と左でのタイミングの違いや事前の背中を預けるのではなく前面を預ける独特のロープワークもあって、コンマの差で決まったという納得感があります。
ゲイブの使う技ってレッグトラップパイルドライバーに通常のパイルドライバー、バックドロップに垂直落下式のブレーンバスター、張り手にエルボーに踏みつけといった、原始的かつ古典的な技を軸としているわけなのですが、確かにラリアットは立派な古典技であり、そういう意味でも突飛なフィニッシャーではなく解釈も一致するわけです。打撃に定評のある選手のラリアットは僕は大好きですし、これは大きな武器となりますね。
◼️第4試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
エル・ファンタズモ vs 成田 蓮
この試合、ストーリーテリングの妙に感服してしまいました。GODとの離別から孤独を引きずるズモ。戦いの中で希望を見つけるが結果は出ず。今回も飛び技でテンションを上げようと画策しますが、コーナートップからのムーンサルトアタックは自爆し、それを見て成田の地獄のような足攻め開始。ズモも持ち前のボディバランスで足一本で頑張るもののかなり厳しく、途中の成田の膝十字にはかつて捨てたストロングスタイルの息吹が感じられます。それでいてヒクレオとのタッチを堂々とアピールしてヘイトを買う悪辣ぶり!これも素晴らしいですね。
そこからのズモの怒りの攻撃はかつてのヒール時代を彷彿とさせ、ブッシュアップバーを手に取ることでの闇落ちのフラグ。なんとか正気に戻り、成田のダブルクロスを倒立して返したシーンは素晴らしかったですね。最上段からの雪崩式フランケンにサンダーキス'86は返されたものの歓声は凄まじく、しっかり一試合で練り上げたストーリーが結実したのを感じさせます。
そして最後は痛めた足を膝裏から狙い、膝蹴りを挟んでのダブルクロスで成田の勝利。いや……めちゃくちゃいい試合でしたよ、これ。戦いの中に物語性があり、成田のダウナーな勝利曲と暗転する会場の雰囲気の中、ズモの苦難はto be continuedとして続く。いやあ……最初から最後まで完璧です。新日の練り込みと底力を感じさせる一戦でした。
◼️第5試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
ジェイク・リー vs “キング・オブ・ダークネス”EVIL
先日に続いて悪vs悪の果し合いとなった一戦です。どうせHOTの試合は全部茶番なんだろ?と思わせつつこうした変化球を投げてくるのは侮れませんよね。
試合は交友を図ろうとするもジェイクが速攻で裏切って試合開始。事前から散々周知してる通りの裏切りキャラらしい幕開けです。怒りのEVILは反則殺法で応酬しジェイクにHOTの洗礼を浴びせます。マイクで詐欺師呼ばわりしたのはジェイクの「信用できなさ」を改めて印象付けた感じがあります。
面白かったのはスポイラーズチョーカーを投げ渡してジェイクが仕掛けたエディ・ゲレロばりのライ・チート・スティールで、これはキャラクターに合ってて良かったですね。NOAHマットのジェイクと比較すると慇懃無礼なキャラクター像は概ね変わってはいないものの、新日だとよりそのキャラクター性を全面に押し出しており、そうした違いを見るのも楽しいですね。
しかしながら最後はコーナーマットを剥がした先にFBSを誤爆させ、パウダー攻撃、そしてEVILでジェイクからフォール勝ち。詐欺師が集団にハメられるという構図が素晴らしく、悪の連携で上回ると同時に現新日の洗礼を受けた形にもなりましたね。
◼️第6試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
後藤 洋央紀 vs 上村 優也
上村のプロレスは一昔前のプロレスを見ているような安心感と馴染み深さがある、と前回書きましたが、今回は相手がブシロード以前の旧世代の元G1覇者である後藤というのもあってか、より如実にそれを感じましたね。
後藤の攻めはベテランらしい厳しさに満ちており、特に蹴りのハードさには目を見張りました。上村のダブルチョップで火がついたのか、無理やり引き倒しての振り抜くサッカーボールキック。そしてコの字になる腰を落とした逆エビ固め。長州と同じ最年長優勝の可能性があるせいか、少しだけ立ち振る舞いが長州とダブった気もしました。「重み」が違いましたよね。ストロングスタイルの必須条件の一つは何を隠そう「殺気」であり、ヤングライオン時代は闘魂の象徴である赤タオルを巻いて入場してきたこともある後藤は、こうした空気感を出すのって意外と上手いんですよ。
こうした先輩からの厳しさって昨今はあるようでなかった事柄であり、また後藤がこの試合における自身の役割と今までのキャリアで伝えられることをしっかり痛みとともに伝えてきた感じがありましたね。何より動きの機敏さで血気に逸る上村に少しも引けを取らなかったのが素晴らしいです。
対する上村は銭の取れるアームドラッグからのチェンジオブページがとにかく上手く、どんな試合であれ、必ずこれを出せるというのはデカいですよね。あとゴツゴツバチバチからは距離を置いてはいるものの、加速をつけてのダブルチョップやドロップキックなどの当たりの強さで後藤と張り合おうとする気概は素晴らしく、こうした熱血さは他のスマートな新世代にはない持ち味の一つであるとも思います。後藤のミドルを喰らいながらも受け止めたシーンは一つのハイライトで、あれだけで魅せられるのは中々のものですよ。
最後は後藤のGTRをドンピシャのタイミングで逆さ押さえ込みで切り返し、返されるや否やその態勢のままフックしてのカンヌキスープレックスホールドで上村の勝利。後藤の猛攻と攻め手に数に反して上村の反撃の手数は少なく、どちらかというと逆転勝利のような気もしますが、そう思わせなかったのは気迫を全面に出したのが大きかったのと、ヤングライオン時代から大切に使い続けているカンヌキスープレックスホールドの神通力があるのでしょう。あれは本当にいい技です。
◼️第7試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
海野 翔太 vs 鷹木 信悟
この試合は鷹木と海野で比較したのはパフォーマンスの質であり、両者とも過剰なぐらい多いのですが、毎回ブツ切りになりがちな海野と違って鷹木のそれは波に乗っているんですよね。そういう意味では海野への批判ポイントがそのまま裸になってさらけ出されたような苦しい試合であり、かなりの難敵だったように思います。
しかしながら本調子でなかったカラム戦と比べて鷹木戦のほうが試合のクオリティとしては高かったのは一安心しましたね。元々、以前のオスプレイ戦のようなわりと格上相手の試合は海野はそれなりに仕上げてくるわけで、そういった部分はやはり主人公気質なんだなと思わされます。当然そこには千両役者たる鷹木の上手さがあるからなのですが、そこの部分を差し引いても頑張ったほうではないかなと。あと今の海野は全体的に当たりの強さは増していますよね。加えて、鷹木の熱さに呼応する形で熱さを出せたのが非常に良かったです。色々言われてますし自分も言ってはいるのですが、やっぱり彼は主人公なんですよ。
最後はクイックのデスライダーで海野が金星を上げましたが、ここは賛否ありそうですね。借り物かつ、技の神通力が備わっていないのと、テンポ感が早すぎるのもあって受け付けない人もいるかもです。これ、ようはモクスリーのダーティーディーズこと現パラダイムシフトで、師匠は高角度式がデスライダーになっているため呼び名がちょうど真逆になっているのですが、海野の使うクイック式のこれはわりとこなれており、パンピングボンバーを切り返す形でかなり鋭角に突き刺さっていてこの速度と角度は大したものだと思います。個人的にはこちらのほうが好きですし、磨き上げていけばそれこそガンスタンのように決まった感じが出ていくのではないかなと。
総評として、カラム戦よりは明らかに上であると同時に、試合内容はかなり良かったと思います。あとはこうした試合を積み重ねていくことが大事ですね。
◼️第8試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
内藤 哲也 vs ザック・セイバーJr.
5年ぶりの鷹木戦がイマイチ奮わず、IWGP世界ヘビー級王者としての敗北の重さや付き纏う限界説もあってかなり厳しいスタートとなった内藤なわけですが、ここで当たるのが一番の難敵であるザックという。これは毎回そうなのですが、膝のこともあってか対ザックはヒヤヒヤしますね。
そんな心配を他所にスイング式首固めで短期決着を図る内藤。のらりくらりやりながらではあるものの、動きは前回ほどには悪くはなく、ゆったりとした独特のリズムがザックと噛み合って心地よかったです。
この試合で光ったのはザックの「揺さぶり」であり、中盤で唐突に決めたザックドライバー。そしてクライマックスの押さえ込みの連発と、急発進に急加速、急停止で内藤のリズムを乱すと、ヨーロピアンクラッチこそギリギリで返されたものの、続くジャパニーズレッグロールクラッチホールドで完璧に押さえ込んでザックの勝利。内藤は手痛い2連敗となりましたが、不思議と同じ負けでも昨日よりは爽やかで、してやられた感がありましたね。
試合が決着するやいなや、一目散にIWGP世界ヘビー級王座を奪い取ってアピールしたザックが本当に素晴らしいです。ザックの王座戴冠への期待の声は日増しに高まっていますし、今日がその予告編であることを願いますよ。
◼️第9試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
辻 陽太 vs デビッド・フィンレー
今年のNJC決勝戦予定だったカード……と僕は頑なに今でも信じているのですが、新世代のベビーvsヒールとしてどんどん発展しそうな好カードの一つですよね。辻の怪物的ルチャムーブvsフィンレーの人体破壊は華麗vs壮絶という感じでカラーが明確に分かれているというのもあって非常に見応えのある試合でした。
会見でのプリンを粗末にした件は個人的な信条としては受け付けないものがある反面、ヒールのいる場所に差し入れを持っていけばそりゃそうなるしかないよなという納得感もあって複雑な気持ちです。まあそれは置いておくとして、このプリンがまさかの伏線として機能しました。
ヒールターン後に足りなかった大技の枠を埋めるために多用している投げっぱなしパワーボムですが、この試合でも火を吹いたそれはまさに拷問パワーボムと言ってもいいレベルでしたね。線の細いフィンレーからするとややイメージにそぐわない力技ではあるのですが、何度か書いた通り、脊椎という身体の中心軸を攻める破壊技が多いのがフィンレーのスタイルで、それを思うと合っているとは思います。
しかしながら対角線の一発こそ未遂に終わったものの、ヘッドバットを皮切りに、走り込んだフィンレーをかわすと最後の余力を振り絞ってロープワークからのジーンブラスター発射。これもド迫力ではあったのですが、最後はプリンの名を冠したマーロウ・クラッシュで宙を巻いフィンレーを踏み潰して勝利。NJCから使い始めたこの技も、立派な準フィニッシャーの一つとして昇格しましたね。
単なるプリンの恨みを晴らしただけではなく、この技のチョイスはわりと理に適っており、ジーンブラスターは対角線やロープワークとわりとどこでも仕掛けられる万能技である反面、被弾した場所によってはロープ間際になってしまう位置取りの弱点があったわけですが、そこをコーナーからの飛び技であるマーロウ・クラッシュで補うことで終盤戦における技の間合いが飛躍的に広がったわけなんですよね。ロープ付近からマーロウ・クラッシュに切り替えればいいわけで、ジーンブラスター後にマーロウ・クラッシュを出したというのがこの試合における一つのポイントでもあるわけです。ようは技の格付けとして同程度に並んだということの証左でもあり、当分はこの二刀流が光るのではないかなと。
最後のマイクもドスを効かせた力強い春夏優勝の宣言。辻はその風貌に反して声がやけに高く今まではやや上滑りしていた印象もあったのですが、この発声はレスラーらしくてとても良かったと思います。新日本の新世代のトップランナー、そしてメインイベンターとして堂々たる振る舞いでした。リーグ戦を勝ち上がって、恐らく同じように勝ち上がるであろう竹下への一夏のリベンジマッチ。期待したいですね。