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小生もるが考えたことを書いてみた-2024年12月


窓の外を覗けば、ひっきりなしに車が行き来している。その多くはトラックだ。北の地に必需品を輸送しているのだろうか。それとも、農産物を輸送した帰りで空荷だったりするのだろうか。出航の時刻まで、まだ少しある。

そう、今私は船に乗っている。札幌に所用があり、ならば、時間と体力のある学生の内に船で北海道へ行こう、そう思い立ったのである。船上では、地上からの電波はほぼ届かないと聞いた。Wi-Fiも無い。そういった環境で研究を進めるのも良かろう。ただ、もう今日は日も暮れた19時過ぎ、船というノスタルジックな空間で、少し物思いにふけたい気もした。

人の記憶と言うのは、月日を追うごとに薄れていってしまうものである。ただ、文章に残しておけば、その言葉の節々から、当時の感情を思い出せたりもするのだ。大切な想い出は、どこかのタイミングで言葉にしておきたい。ここ数年12月は物書きをしていることだし。そうだ。

私はTechours Finalの動画をダウンロードし始めた。ダウンロードしてしまえば、後はお酒を片手にパソコンをカタカタとするだけである。いいことを思いついたと満足しながらこのイントロダクションを書いていると、出航目前を知らせるアナウンスが流れた。本編を書き始めるのは後にして、出航の様子をデッキで見ることにしよう。

デッキに「艏艫ラインレッコー」の号令がかかる。

出航だ。



Chapter.1 はじめに


Techours Final LoveLive! (以降、Finalと略称するし、Te Finalとも書くかもしれないし、Techours Finalと書くかもしれない。)は、2024年3月10日に東京工業大学(今は東京科学大学と名乗っているらしい)の70周年記念講堂で行われたライブイベントである。メディアミックス作品、『ラブライブ!サンシャイン!!』に登場するスクールアイドルAqoursのコピーダンスユニットであるTechoursが、7年間の集大成として行ったFinalライブだ。その様子は、一応今のところYouTubeで見ることができる。

https://youtu.be/Lr65daSeSuY?si=Mma7pXsuT861gvpO

これから書くのは、このTechours Final LoveLive!の、もる(@flypg_titech___)視点の振り返りである。本当に自由に書くつもりだ。そのくせして、語調はいつもの回りくどいやつである。多分、読まない方が良い。自信をもって、ブラウザバックをお勧めできる。自分が、この大切な思い出を忘れないように、いつでもあの時の感情を思い出せるようにするためだけに書く。でも、あのTechours Final LoveLive!で、2時間のライブ空間のために、奔走していた人たちがすげぇやつらだったと声を大にして言うためにも書く。本当の物好きだけが読んでいけば良い。




Chapter.2 3月8日 本番前々日


Techours Finalの思い出と言った手前、拍子抜けするかもしれないが、準備日から書き記すことにした。すべての準備があの2時間に、ステージに繋がっているからである。この準備において活躍した人もまた、あのステージの盛り上がりをつくるのだという考えが根本にちゃんとあるのがTechoursだと思う。(し、そうなるようには頑張ってきた。)

なら、2年前からTechours Final計画はあったんだからそこから書けよという突っ込みはわかる。なんなら、私もそこから書きたいが、そんなことをしていると年が明けてしまうので、ひとまず、本準備が始まるところから終わるところまでを書くことにしたのである。


本準備は8日(本番2日前)の夜から始まった。タイムズカーで貨物車を手配し、本番で使う演出機材をお借りしに行くのである。

Techoursにはかねてから優秀な専属ドライバーがいた。Leoもとい、兄様である。普段から、メンバーの家に押しかけては連れ出し、楽しい時間を過ごさせる人だ。AsTeでも活躍した彼は、Techours Finalの準備における、様々な車輸送を担っていた。

大岡山近くのステーションから出庫し、一度東工大に寄る。そのタイミングで私は、お見送りをした。本来なら、私も輸送に参加すべきだが、ダンサーということで(これは後で詳しく話す)、事務側の4人(兄様・すえ・がみ・やる)にお任せできることになった。本当に頼もしいし、ありがたい。その労いと、意気込みも込めて、TechoursのLINEに勝手にこう送った。

「輸送人員が大岡山出発しました
 Final Live 本番設営スタートです!」

と。


8日の私は、広報まわりのとある案件を当日の案内勢と相談したり、輸送周りの連絡でてんやわんやしていた。かなり、メンタル的にもナーバスになっていたと思う。こうやって私はいつも迷惑をかけるのである。反省しなきゃだけど一向に治らない。そんななかでも、むーみん始めいろんな人が手掛けてきたマニュアル(情報をまとめたもの)やタイムテーブル(どの時間になにをやるかの表)があるおかげで、相当楽になった。


なんとか、タスクをこなした後は映像や練習動画の最終確認をしていた。明日は準備もあるし、最後のリハーサルなわけで。本番で新しいことをすると、失敗するハメになるので、「ここをこうする」的な最終確認はこのタイミングでしかできないのである。3/7に講堂で練習した分の動画を見ながら、コメントをつけていった。

見ていくうちに、できてないところはあれど、「お、ここ良いな」と思う部分があって、いつのまにかハイになっていた。煽るように、良いところを、自分が失敗したところを、てく垢に動画や写真で投下していった。ダンサーに対しては、今までムチを打ちまくっていたので、明日のリハからはアメ……ではないけども、自身を持ってパフォーマンスしてほしいところがあった。でもこれは事務さん向けでもあって。「事務さんが支えてるライブ、こんなになるんだよすげぇよな!」といった意味合いもあった。「や、まじでこれステハン君かっこいい」と、近未来前のステハンの映像とともに叫んでいた。


もうそろ寝ようとした頃、聞きなれた車の音がする。窓を開け、丁度良く車から降りてきたドライバーから物をもらって任務完了。ここまで10秒。爆速である。


その後は、明日のAMにかけてとある準備をしていた。



Chapter.3 3月9日 本番前日


今日の流れは、概ね、午前中に設営、昼下がりで機材周りの確認、夕方からリハーサルといったものだった。


朝から事務さんみんなが動いていたが、ダンサーは14:00集合ということになっていた。Techoursでは異例である。これは、ダンサーの身体的負担をかけないようにという、とても寛大な配慮があったのである。これに関して、(あくまでも自分目線の視点だが)補足しておきたい。「ダンサーが偉いから」14:00集合にしてもらえたとは、自分は捉えていなかった。

ライブパフォーマンスはチームで創るモノで、誰が偉いとかいうのはない、みんなすごいパフォーマーだという論をこれからちょっとする。ライブの中で、確かに、お客さんの目に一番とまるのはダンサーである。これは、ダンスのライブという形をとっているから、変えようのない事実だとは思う。だが、そのパフォーマンスの後ろに、土台に、事務スタッフの動きがあるということを、ダンサーは忘れてはいけないと思う。

会場の入口までくると、本物さながらの案内スタッフが場内まで誘導する。その裁きは、ごたごたしてムッとならないし、ライブ空間というハレの場(ハレとケのハレね)――日常と切り離されたところ――に入ったと実感させるのも彼らの役割だと思う。影ナレ(影ではない)が橋渡しをすれば、開場は徐々に暗くなっていき、客席の温度と呼応するように、音量が上がっていく。ライブが始まっていけば、それぞれのダンサーのダンスをより魅力的に表現できるように、光が置かれる。考えられた音響は、淀みなく、心地よく、客席へと伝わる。衣装やメイクアップによって、魅力が何倍にもなったダンサーには、時に、ダンサーのパフォーマンスを途切れさせない、完璧なタイミングで旗やマイクが渡される。

ダンサーのパフォーマンスは、案内・照明・音響・ステージハンド・衣装・メイクさん、それぞれが創り上げてきたもの、いわば“熱”のようなものを、最後に受け取って、お客さんへと送り出すところにあるものだと、私は思っている。比喩が下手で申し訳ないのだが、ユーザーインターフェースのようなものなのかもしれない(この表現には満足いっていないので後で書き直すかもしれない)。

事務もダンサーもパフォーマーである、というのはこういうことである。別に、どっちかが偉い訳でもない。どっちもすごいのである。ちなみにTechoursは、“熱”をたらふく放出するうそのすげぇやつらの集まりだよ。自分は凡庸ですごくないから恐縮なんだけど。

だから、事務とダンサーで呼称をわけているのも、ダンサー贔屓だというわけではない。ライブパフォーマンスをする上で、当日の動きや気を付けるべき点を鑑みると、集合的に(AかつBみたいな話ね)、そういった分け方で呼称したほうがスムーズに話が進むというだけだと私は捉えている。


だいぶ遠回りをした。ダンサーの集合を遅くしてもらえた話だったか。


(当時は我々)ダンサーは、事務さんがまとめ上げてきた“熱”を、ダンスという身体パフォーマンスを使って、お客さんに投げる係なのである。他の係と決定的に違うのが、身体のコンディションによるパフォーマンスへの影響が大きいというわけだ。明日は都合上早起きになってしまうので、前々日だけでもしっかり睡眠を取れるようにと言った理由で、ダンサー集合を遅らせてもらったのである。これは、Techoursの事務勢がここまで増えて頼もしくなったおかげでもある。「お前らは休むのが仕事だここは任せとけ」的にしてくれてるんだと、当時はポジティブに考えていた(精神的なところも、ダンス表現に出てしまうのでね)。振り返れば、本当に頭が上がらない。


9日は、よく眠らさせていただいた。ここ1週間はコンディション重視で生活していたけれども、やはり睡眠は大切だと実感する。起きてからは、昨日寝る前にしていたとあるモノの準備を再開していた。Techoursの人はわかると思うが、こんな時間にアレ作ってたんなら、準備手伝えよと思われるかもしれない。ごもっともである。ごめんなさい。


昼下がりに、よいこらせと講堂へ重役出勤をすると、そこには、Techours Finalのステージができあがっていた。やはり、本番前の設営風景は感動モノだなと思う。

シーバーをつけると、各所で調整や検討の会話が飛び交っていた。このシーバーはTechoursのライブで必須品だ。たしか、2019年のTechours 3rdExの時から使っていたと思う。ライブという現場において、一番適している情報伝達手段だからである。なんといっても、その速達性だろう。人間、こうやって文字に起こすよりも、しゃべった方がはやいのである。単位時間あたりの情報伝達量が大きいとも言い換えられるだろうか。加えて、伝達可能距離もまた一つの理由だ。今回、音響卓と照明指示卓は会場客席の上手最後方に設置されているが、講堂自体の照明操作盤は上手ステージ脇にあった。卓と操作盤間の情報伝達に、シーバーが一役買っている。というか必須である。これはあくまでも一例で、
・全体への伝達事項・Notification
・空いているバイト君探し
・ダンサーの準備情報
など、挙げればキリがないが、各個人が各場所が動いている中で、情報を用意に伝達することができるシーバーは、ある程度以上の規模のライブを円滑に進行するには必須なのだ。その価値を侮ってはいけない。だからこそ、Techoursでは、全事務スタッフ分を用意している(全員分というのもきわめて重要)。それに、なんか、ホンモノ感が出てカッコイイ。事務スタッフとしての誇りにもなりうるだろうか。なお、ダンサー分は1台のみである。ダンサーはほぼ固まって動くし、ダンス中にシーバーを聞いている必要も余裕もない。これら、シーバーは陽炎さんが手配してくれた。「え~○○○○、了解。」


自分視点の話に戻そう。ダンサーは、講堂に到着後、身の回りのモノの整理と準備体操をしたのち、リハ前の最終確認をした。まぁ、ここまでの話を聞いてわかるとは思うが、私はダンサーだったので、正直なところ、前日準備およびライブ当日、事務さんたちが奮闘していた様子をほとんど見ていない。本番で最高のパフォーマンスをするためやむないことではあったが、とても悔しいことではあった。

シーバーを持って、いつも通り外で練習をする。幾度となく、Techoursの活動でしてきたことだ。9日は風が強く、3月だというのにわりと寒い日だった。これでは、コンディションを落としかねないということもあって、外での練習を所定の時間よりも早く切り上げて講堂のステージで調整させてもらった。こういうときにもシーバーが役に立つ。

最終確認の中では、数か月の練習でずっと苦労している所や、ここ1週間で大急ぎで修正していたところの確認、2日前の講堂での練習の映像を見て確認すべきところを総ざらいしていった。昼前に、日程調整係のらいにゃが、各曲の曲責に確認したいところをまとめておくように指示していて、それ通りに確認が進んでいった。各曲、差はあるものの10分くらいだった。

「僕らの走ってきた道は…」(以降、僕道)の最後では、音が取りづらいところで全員の振りのタイミングを合わせる必要があった。ritがかかっていて、カウントにのっていないのである。リズムキープを練習してきたとはいえ、それを合わすのは難しい。こういう時には、Techoursは、カウントが取れるところのリズムをその後も続けることでタイミングをあわせてきた。僕道では、「曲を覚えよう」でなんとかやってきたものの、講堂のような環境ではやはり難しいと2日前の練習でわかったので、結局タイミングをあわせることにした。

バスドラムのところならカウントが取れそうだ。それで、いこう。あとはカウントを覚えればいいのだが、そこでまた、Techoursダンサーの必殺奥義が発動される。言葉にしてタイミングを覚えてしまおうというものだ。例えば、
・Fantastic Departure! サビ→「たまごっち」
・Deep Resonance ラスサビ最後→「(事務の真名)」
・MIRAI TICKET 1サビ後間奏→「支点力点作用点」
みたいなのがあげられる。補足にはなるが、もちろん、とる音がきちんと合っていることが大前提である。指定が音にのっていない、リズムをとれていないと大惨事になるので注意が必要だ。

さて、僕道の最後はどうしたかというと、結局のところ
 「もるのかねでじょじょえんたべたいな!」
になった。誰が言い出しっぺだったか。わけわからん。それでやってみたら、揃ったんだから本当にわけがわからない。そんなことより、○○さん焼肉お願いします。


ダンサーが戻ってきた理由にはもう一つある。照明やステハンとの調整だ。がみを筆頭としたうちの優秀な照明チーム(がみ・のえる・ゆほ・ゆきひろ)が、照明案を考えてきてはくれているものの、最終的にはダンサーがステージに立って、その光の当たり方を見て調整していく必要がある。ステハンに関しても、本番と同じ設営をした上で、すべきことがぬかりなくできるかの確認が必要だ。がみとまどか(演出班リーダー)の指示で、次々と場に立ったり、踊ったりしていった。ここまで詰めたダンサーである。「ここ」と言えばたいていすぐに動いて配置につけるものだ。とはいえ、ダンサーの詰めが遅かった故に、1月や2月にできなかったところがあり、その分、前日の調整は時間を要した。ここは、ダンサーの長としてがみに迷惑をひどくかけていると痛感していた。(そのくせしてなにもできなかったのだから)申し訳ない。


予定があり、遅れて合流するダンサーの到着を待ち、夕方、日が暮れたくらいで最終の通しが始まった。

あまり記憶が残っていないのだが、私の感触的には、微妙、ちょっと悪いくらい、であった。いざ、明日!と何もかも振り切って進むわけには、まぁ、いかないよね…くらいの。リハ後、各所で反省と検討が始まった。ダンサーと事務感との確認も次々となされる。事務とダンサーが対等(にしようと努力はしていたが、真実はどうかはわからない、たぶんできていない)な関係性があるからこそ、スムーズに行っている部分もあるのだろうか。「失敗から反省する、こういうところがTechoursの強いところだよな。」ふと、一息ついた時に周りを眺めてそう思った。


気づけば、講堂の使用可能時間のエンドが近づいていた。話合いを進め、明日への覚悟もできてきた頃合いだったと思う。そんな雰囲気があった。この後は、今日使う広報写真を撮る手筈になっていた。

Techoursのライブ直前の広報は、カウントダウン企画を恒例にしている。毎回何かテーマを決めていたが、色々と話した結果、Finalはダンサーそれぞれ好きにやろう、プラス、事務の(痛烈な)たこ紹介にしようということになった。事務→ダンサーの順番だが、ダンサーの順はダンサー加入の若い順ということになった。これを提案された当初は、私が最後になるということもあって、「こんなヤツに最後やらせていいんですか…?」と反対したが押し切られてしまった。まぁ、確かに、それだけTechoursを見てきたし、Finalのカウントダウンなら、まぁ、そうなるか、と。補足だが、根には持っていない、ただ単に、こんな自分でいいのかよとツッコミをいれていただけである。でも、前日自分で閉めるのは流石にしゃくだったので、前日は前日準備での写真を使うことにして2日前を私が担当ということにしてもらった(という経緯だった記憶がある)。あっきーありがとう。無理を言ってすまなかった。

おう、とあらば、2日前と前日、うまくつなげられたらいいな、そう思ったのである。2日前をステージから見た写真、前日の写真は2日前の同じ構図で、皆で撮ろう。WBNWの匂わせ的にね。そういう提案をしたら、「いいねそれ」と採用していただいた。


9日の記述に戻る。「明日が、集大成の本番。Final。」そんな覚悟をしたかのような、雰囲気が醸成される中、皆一列になって並ぶ。残念ながら教授(ハンネ)は沖縄にいたので写れなかったものの、ここまでやってきた22人で写真を撮ることができた。ちなみに、この写真はだいてつさんにシャッターを押していただいた。ここでもだいてつさんには頭が上がらない。この写真も、お気に入りの1枚になった。

むーみん周りに全員集まって、手短に明日の流れを確認する。そうして、最後、解散となる……直前に、今日の午前中まで準備していたあるモノを手渡した。

無責任にもリーダーを放棄した私からのプレゼント……いや懺悔といった方が正しいかもしれない。あの後、リーダーを降り、各所にコメントするような立場になった。無論、良いものをつくるには、そういったコメンターは必要である。時にミクロに、時にマクロに、プロジェクトの進行を見て、穴を早期に発見し対処する、そんな役割なのである。しかしながら、私は、言葉の能力と相手の感情をはかる能力に大変疎かった。ナイフみたいな言葉でしか、伝えられなかった5か月だった。おそらく、多くの人が嫌な思いをしたであろう。自信を無くしてしまったかもしれない。ムチが当たった傷がずっと酷く痛んでいたかもしれない。

でも、その言葉を飲み込んで、考えてくれたことで、Finalのライブは、集大成のライブは、ここまですごいモノになった。あまり振り返ってこなかったかもしれないけど、自分が積んできた、Techoursみんなで積んできたモノを見返して、いま周りにある場、そしてこれからやろうとしていることの価値を高くもってほしかった。それを成し遂げてきた自分に対して、Techoursの中の自分に対して、そしてTechoursそのものに対して、自信を持って明日のライブに望んでほしかったのである。完全に懺悔だ。

そういうメッセージが込められた、あるモノをそれぞれに、勝手だけど、手渡した。

本当に勝手だったと思う。モノを渡して、皆がどう思ったのか、今も私は知らない。悪影響だったかもしれない。罪の意識は多いにあった。今、振り返れば、幕引を考え始めたのも、あのタイミングだったかもしれない。「自分は、罪を犯しすぎた」と。

あるモノの一つには、皆さんにお見せできるものがある。Techours Final LoveLive!のメンバーパス(AAAの意味を含む)である。通常のライブ現場で言うスタッフパスだ。でも、先述の通り、Techoursは事務もダンサーも同じパフォーマーで、皆に配る手前、スタッフパスと言うのはちょっと違う。ならメンバーパスにしようといった算段だ。素材は布地の貼パスとまったく同じもので、デザインは僭越ながら(まぁサプライズではあるので、誰にも言えなかったが)自分でやらせてもらった特注品である。自分でも満足いくものができた。今でもPCに貼り付けて、こそっと盛大に見せつけている。

なにはともあれ、前日はこれにて解散となった。


ここで補記しておくが、前日から当日にかけて、心身を削って最終調整に励んでいた者がいた。勝手に紹介すると迷惑そうなので伏せておくが、これがあったからこそ、翌日の本番のライブ空間をより鮮やかにしたのだと振り返る。その人には、散々迷惑をかけた。リーダーとしてできなかった部分も多々あった。でもこうして、最後、自分の責務を全うしたその姿には、なんというべきか、感謝しかない、いや感謝以上のなにかがある。小生の稚拙な言葉では表現できなかった。


家に帰り、風呂を浴びる。ダンサーたるもの、コンディションを明日には最高にしたい。早く寝よう。そう、色々準備を急ぐ。

さて、と。布団に入ってTechours周りの最終確認をすると、リーダーむーみんが過去イチのはかいこうせんをTwitterにぶっ放していた。流石だわ。だてにTechoursのこと見てきてないんだな。この人にも、頭が上がらないや。ありがとう。

こうして、前日の夜が更けていった。



 Interlude -1


漆黒の太平洋を船は行く。おやすみのアナウンスが流れてどれくらい経ったか。気づけば、時計の短針はゆうにてっぺんを回っていた。お酒も夜食もすっからかんである。そういえば、明朝の日の出を拝もうと考えていたのだった。ここから書いてもおそらく、しょうもない文章になってしまうだろう。ここから先は、また明日書くことにしよう。

(時間が空いて)

眼下には白い絨毯が広がっている。翼の先では、ひとつ、明かりがついていて、ウィングレットに描かれた熊のキャラクターを照らしていた。

船上で物書きをしてから2日、今度の私は空を飛んでいる。いやはや、北海道はやはりいい所だ。一息つく暇もなく時間が過ぎていった。現在時刻は23:30。昼頃から降り始めた雪の影響で、私の乗っている飛行機は1時間遅れていた。東京国際空港の到着予想は24:30。さて、どう帰ろうか。まぁいいか。機内サービスのほたてスープを片手に、物書きを再開することにした。北海道の翼、AIR DOはいいぞ。



Chapter 4. ライブ当日の朝


聞きなれたサウンドトラックで目が覚める。昨日セットしておいた、2期のサントラだ。『起こそうキセキを!』。携帯をつけると、各々が起床報告をしていた。「あぁ、本番当日なんだな。」そう実感する。むーみんさんが、「起きていなそうな人いるかな」とつぶいていたので、某106のアカウント名だけ載せるクソリプをしておいた。今日は早い。8:00集合だ。朝食をかきこみ、講堂へと向かった。


メイク等の時間も考えると、当日朝にダンサーがステージで確認できる時間は20分ほどであった。だから、最終リハーサルは昨日やったのである。講堂へ入るやいなや、テキパキと各曲の最終確認を始める。飛ばす曲もありながら、一つ一つ進めていった。ライブ当日、本番前の時間というのは、なんどやっても体感時間が短い。あっという間に予定時間になった。

ここからは、各員がそれぞれの場所でそれぞれの準備をしていく。同じライブをつくるけども、散らばっていくということだ。終演後まで、集まれる最後のタイミングである。むーみんがステージ上で集合をかけた。なお、教授さんは空の上である。かつて、285km/hの新幹線で当日来た人はいたが、空を飛ぶ飛行機には流石に負けるだろう。過去イチの速度で向かってきていた。


ここまで来ると、確認事項もほとんどない。これまで、何回も事前検討を重ねてきたからである。やるべきことは一つだけだった。円陣だ。

これはいつも欠かさずにやっていた。事前練習だったり、当日だったり、タイミングはバラバラで必ずしも全員が揃うわけではなかったが、なるべくたくさんの人が参加できるところでやっていたと思う。もちろん、全員でだ。理由は…もうこれまでさんざん話してきたことなので省略する。リーダーがちょっと話して、掛け声といった流れだ。

むーみんが今回の流れを軽く前置きする。「今回は、『0から1へ!1からその先へ!』のあとにいつものをやります。」 それぞれうなずいたり、「はーい」と返事をする。空から遠隔参加の教授は…電波が悪いようだ。流石に機内Wi-Fiでは厳しいか。どうも直りそうにない。申し訳ない。事を進めることにした。

各々の手の形をL(エル)にして輪をつくる。ここまで多いと、綺麗な輪にするのも一苦労だ。「ねぇ、ここ低い~。」もみじがいつもの感じで指摘する。
「場所作ってあげて~。」
「もうちょっとそっち側に…。」
「中入って」
「その辺をもうちょっとこっちに」
「あ~いたいたいた」
こんなようなことを、各々がガヤガヤとしゃべりだす。このわいわいとした感じがいつも好みだ。とはいえ、そんなに時間もかからず、丁度いい輪ができあがった。みんながリーダーの発言を待ちわびていると、むーみんは言葉を紡ぎ始めた。

いつもは、高揚感と緊張でごちゃまぜになる、ハイな感覚なのだが、今日は違った。みな、少し重厚な、覚悟が入り混じったような、そんな空気だった。

と、切れかかっていた教授との電話がついに切れる。
「あぁ…」
「教授は合成だね。」
一人分開けておくことにした。教授の編集技術をもってすれば、自分の手を追加するのも容易いだろう。そんなことも、皆の共通理解だった。


「0から1へ!」
みな、Lを1に変える。


「1からその先へ!」


「Techours!」


「Sun……shine!!」


それぞれの手が講堂の天井を指さした。次みな会う時は、ライブが終わった時だ。笑顔でまた会えるかな。不安と期待と、高揚と、そして覚悟が入り混じった、そんな顔をみんなしていた。私もその一人だっただろう。


準備を整え、メイク室へと向かった。


外はビュービューと風が吹いている。昨日に引き続き、強風の日だった。昨日よりはマシか。メイクのためのお部屋は3~4分歩いた所に用意してあった。普段、非公認の団体でも気軽に予約できる部屋があったのだが、当日は建物自体が閉館。やるが大学側と交渉して、別の部屋を用意することができたのだ。無論、非公認なので、色々工夫した部分がある。こういう事前の努力が、投資が、当日のダンサーとメイクさんのパフォーマンスをブーストするのだ。


ここから2時間半はほとんどこの部屋に缶詰めとなる。お世話になるのが、Techoursのメイクさんのお2人、ふなと米粉だ。ここもスケジュールが決まっている。とは言え、進捗がずれやすいので臨機応変に対応しながらといった具合だが。

メンズ陣は最初にメイクされることになっていた。レディース勢はある程度までご自分でできるというのもある。急いでベースメイクを済ませる。ところで、当の私、1年前はメイクのメの字も知らなかったレベルだった。これも両名に教えてもらった。講習会や相談会を何度も開いてもらったのである。メイクも事前情報と実験が大切らしい。OKをもらうと、米粉にベース以外のメイクを施してもらった。目線を下に落とすと新しいハイライトが置かれていた。数日前に発売された、約1万円のものらしい……お前……。ご注文の爆盛り曜ちゃんができあがりました。

この1年でメイクの有効性はだいぶ身に染みて、理解できたつもりである。我々ダンサーは、時に顔周りの仕草・表情・シルエットで表現することがある。時にというが、アイドルダンスとあればしょっちゅうか。例えば、流し目とかだろうか。ダンサー的には首の角度・動的質感で表現するのだが、アイメイクがしっかりしていると、その動きにブーストがかかるのである。ダンサーが頑張ってきた表現があれば、それをメイクが掛け算されてその魅力が増幅するのだ。掛け算は恐ろしい、とてつもなく増えるからな。

ある程度、メイクが終わっていくと、部屋を閉め切ってレディース勢の着替えの時間帯となる。無論、らいにゃ、もる、そして男を勘違いさせて傷つけることで定評のあるふなの3名は講堂の控室でメンズ陣の調整をすることとなった。ちらっと、ステージを見る。ちゃくちゃくと、本番に向けてステージができあがっていた。特に照明陣がキビキビと最終調整を行っていた。ムービングライトの中で、昨日からご機嫌ナナメの子がおり、今日はすこぶる期限が悪いらしい。Techoursの照明技術師がみが頭を抱えていた。本番までにどうするか、そういう判断もちゃんと照明陣やリーダーむーみんと話しこんでいるようだった。

上手1番に立って、2時間半後の本番を想起する。こうしておくと、いくらか最初の曲の緊張、こわばりが和らぐのだ。「Finalか……。」やはり、その覚悟からくる重さがあった。


再びメイク部屋に戻る。106さんの話になったので、「起きてるかな?」とモーニングコールをした。演者からのモーニングコールだぞ。喜べ。鞠莉役のそだふろが「今日はヘリで来た」とか言っていた。1各々がツッコミを入れたり笑ったりしている。本番へ向けての高揚も高まりつつあるんだろうな。たぶん、本番のお顔やヘアメイクができつつあったというのも起因しているんだろう。ねものハーフツインが完成する。ねもがアイドルになってこれやったらイチコロだろ。もみじやひーだってそうだ。もみじは目が強い(メイクしたときの魅力度的に)と思っていて、それがパフォーマンスにも実際活きている。一方のひーのビジュは逮捕者がでる。実際、教授と私が無事AZALEA組によって逮捕された。指定暴力団め。

時々、お手すきの事務陣が部屋から動けないダンサーのために飲み物を買ってきてくれた。当日は、シーバー一つ入れればこうやって届くバックアップ体制なのだ。


開演は12:30、講堂の舞台袖はまだ冷えるだろうと予測、メイク部屋で準備体操をした方が良いだろうということで、1時間前の11:30頃からは各自準備体操をするように促した。各自と言っても、直前の確認やウキウキで蔑ろになりがちなので、口酸っぱく言及する。身体をストレッチしておくことと同時に温めておくことは、1曲目でコケないための、とても大切な準備だ。1曲目で嫌なコケ方をすると、その後もずっと響くからな。毎日のようにステージを経験しているわけでもない、プロではない我々ならなおさらである。それに、毎回の練習では同じストレッチをしていたので、ルーティンにもなっていてくれたのなら嬉しい限りだ。


ふと、ダンサーの一人が部屋の外から焦った顔をして戻ってきた。聞くと、脇下の部分が派手にほつれてしまったらしい。実物を見てみるとかなりの崩壊具合で、これでステージには出られないなとだれもが思うほどであった。至急、講堂の人たちに向けてシーバーを飛ばした。いくら、衣装班やダンサー本人が気を使って対策をしていたとしても、確率論的にこういうトラブルは起こるものだから、誰かの責任という訳ではない。だが、本番まで1時間を切った状況で、自分の衣装が壊れるというのはだいぶ焦るだろう。メンタル的にも良くない。

「マズい。雰囲気的にも、崩れる。どうにかならんか…。」そう思った時、部屋の扉が開け放たれる。そこには、裁縫キットを抱えたゆほの姿があった。

この時のゆほの登場シーンは今でも目に焼き付いている。ダンサー陣のピンチに颯爽と現われてみせたのだった。裁縫キットを腕に抱えて持ってきたその姿は、まるで映画『アルマゲドン』のクルーである。♪Don't wanna close my eyes…♪脳内でエアロスミスの歌声がガンガンと流れていた。ヒーローの登場にダンサー陣とメイク2人が沸く。「良かった。」そう思うと同時に、改めてTechoursの強さを感じたシーンでもあった。幾度となくトラブルにも巻き込まれてきたTechoursだ。実のところ、彼女は、唯一、事務班を掛け持ちして実務をこなしていた人なのだ。(むーみんもそうだが、リーダーで俯瞰的立場でもあったことを附しておく。)その強さが存分に発揮されたシーンであった。


開演30分前、シーバーが慌ただしくなり始める。その声は案内チーフのあやせあまねの声だった。
「それでは整理番号順にご案内いたします。1番の方、2番の方、…」
各所へお客様の入場状況を伝えるために、こうしてシーバーに案内音声を流すのだ。この情報を元に、本番の開始判断をしたりする。ただこれは、講堂から離れた場所にいるダンサー陣が、お客さんが会場へと入り始めたと実感する証拠でもあった。少しばかりか緊張が走る。
「続いて、20番までの方、30番までの方、…」
いつもの呼び方だ。ある程度、慣れてきたら10番毎に呼ぶのが通例だ。Te4th以降の箱ライブではいつも、番号と客を1対1対応させている。今回は、番号さえ聞けば受付が即時完了するような体制を準備していた。事前にもる―あまね間で検討の上、番号の確認、いわばもぎりを2人体制にしていたこともあって、受付スピードの向上が図られていたのである。10番毎に呼べるのは、そのかいもあっての話だ。あまねが呼び、兄様・陽炎が確認、やる(気さくなお兄さん)が配布物をお配りして会場内へと促すのだ。会場内ではitsukiが巡回し、質問対応や案内をしていた。後でわかった話だが、場内地図等をかぶって対応していたらしい。

案内の質もまた、ライブの満足度に大きく影響するものだと思う。普通に受付されるのなら、何かの説明会と同じになってしまって特別感が無い。ライブ空間はハレの場で、日常とは一線引かれた空間であるものだと思う。案内をくぐった先に見えるステージを見て、「あ、ライブに来たんだ。これから楽しむぞ。わくわく。」そう思わせるのである。その一線を、空間的な境界を演出しているのが彼ら案内メイツだと私は捉えている。そのためのスキル等もあるので、尊敬すべき立派な技術屋でもあるのだ。テキトーに投げて蔑ろにしてはならん。そんなメッセージも込めて、案内計画を立てていた節がある。

開場中(開場から開演までの間を指す)のBGMもそうだ。人間、何か音楽がかかっているとちょっと(人/曲によってはとても)高まるもんだし、あの開場中のざわざわ感も創出される。ライブ現場に行かれたことのある読者の方ならおわかりかもしれないが、なんか小さい音量で流れているアレである。一気に音量が上がって、そして「見知った/楽しみにしていた」音楽が流れ始める本番の頭との対比としても重要なのだろう。ここのBGMは導入当初から兄様に担当してもらっていた。とは言え、当日は手が空かないので事前収録ではあるが。ちなみに、なるべくLoveLive! Sunshine!! の曲は使わないようにしてもらっていた。対比効果がある上、「この曲使わないんだ」とか深読みされたら嫌だしね。その上で、そのライブに合わせたテーマで創るのだ。今回の開場中BGMのテーマは「Signal A2G」だそうだ。

そんなことを考えながらふと我に戻ると、「180番までの方…」とシーバーが流れる。「え…?早すぎでは…?」部屋にいたダンサー陣+メイクさんが困惑した。早すぎんだろ。結局、約200人を8分で入れきってしまった。やりすぎだ、もっとやれ。(誉め言葉)


準備体操も十分にできたので、身体を動かして冷やさないようにしながら、水分を多めに取りながら、自分でまとめていた確認用のドキュメントを見る。これは、いわば研究用ノートのようなものだ。というか、コピーダンスは研究のようなもんだから同値かもしれない。前日に、ここだけ確認するという所をハイライトしてある。少なくとも私は記憶力がよくないので、直前につめこんでもすぐ忘れる。ここは絶対という所を絞ってあったのだ。絞っておけば焦ることも無い。

12時1N分、移動開始予定時刻から数分押していた。準備にもう少し時間のかかる子がいたので、メイクさん2名を分け、2団に分けて講堂へ向かうこととした。メイクさんは本番直前からは、主にダンサーの身の回りのこと、例えばメイクやアクセサリーの調整や、話の聞き相手などのためについてくれていた。元々、特に新入生や2年目勢の相談相手になっていた人達だったので、精神面的にも適任なのである。そして、2人いたからこそ、こうやって2団に分けることができた。

私は先発隊で講堂へと向かう。サポートにはふながついていた。元々、講堂の裏を通るルートなので、移動中にお客さんに見られる可能性は低かった。ただ、衣装は当日のお楽しみにしていたので、ハラハラドキドキ~♪ポイントではあったのだ。まぁそれも、爆速入場のせいで(おかげで)杞憂になってしまったのだが。おもむろにスマホを取り出してインカメを起動する。本番直前の、こういう風景を残しておこうと思った。集団の前を歩いて、スマホをうえに掲げる。ふなが「あ~」と口を大きく開けてアピールしていた。他のダンサー陣も笑顔で答える。こういう、直前のコミュニケーションはメンタル的にとても大切だ。ふなに相当言われてきたことであった。


さぁ、Finalのステージだ。

楽屋口から講堂へと踏み入れると、そこには熱気にあふれていた。

そして、頼もしい事務陣の姿が合った。安心した。



 Interlude -2


「師走は忙しい」と歌うアイドルがいるように、12月は何かに追われてせわしない日々を送るハメにあう。今年も例によって。修論に忙殺された。北海道から帰るととりまとめ作業に追われ、気づけば2024年も残り3日となっていた。

なんとかして年内には書き上げたい。再開するか……。

とはいえ、振り返ってみれば、ここからは本番なので、あまり考えていたことはないなと気づく。厳密にはいろんなことを考えていたのだが、基本的にはキャストを落とし込んで、その曲を表現することに注力しているので、その曲の歌詞や音に合わせたことを考えている。

蛇足が多くなりそうだ。



Chapter.5 開演


後発隊のダンサーが到着ギリギリになってしまうと連絡が入る。むーみんと掛け合って、5分押しでの開演とすることが決まった。各所へ連絡が入る。BGMを1曲分伸ばしてもらった。(たしかHarmony 4 Youだった気がする)結局は、開演予定5分前には着いたが、焦らず、12:35開演の方向で進められた。


[M00] Awaken the power (Off Vocal)

M0が流れ始める。Techours内でM0と言うのは、本編開始前の事前アナウンス(影ナレ)のBGMのことを指す。M0に関してはLoveLive! Sunshine!!関連楽曲のOff Vocalを毎回使っていた。オタクに準備体操してもらうためでもある。

今回の選曲はアニメ2期より、「Awaken the power」であった。皆が好きな曲だったし、「TechoursのライブでもSaint Snowを披露していた歴史があったんだよ」という歴史を伝えるという意味でも選曲された。Finalで披露できないからこその選曲でもあった。とあるステージの伏線でもあった……のだろうか。上手最前Yブロックが高まってくれたらいいなって言うのもあった。

影アナは例のごとく、最後もあやせあまねに担当してもらった。「あやせあまねが適任。お前しかおらん。」と無理を言って担当してもらっている。影アナなのに、ステージに出たら“影”アナじゃないじゃんというツッコミも受けたが、押し切った。彼が出てくと大きな歓声が上がった。人気のある影アナマンである。

「本日は「Techours Final LoveLive!」にご来場いただき、誠 にありがとうございます。」

アナウンスが始まる。会場内での注意事項について、一つ一つ丁寧に伝えていった。広報班の会議でレギュレーションが取りまとめられるので、それに合わせて原稿をつくった。(毎回私が作っている。)

「周りの方のご迷惑にならない範囲で、ご自由にお楽しみください。」

これは、近年必ず入れているフレーズだ。我々がやっているのは、ダンスパフォーマンスのライブイベントである。極端に見えづらくなってしまうもの(例:改造ペンライト)や、会場利用の条件として禁止のもの/コト(例:飲食物/リフト)、公序良俗に反する発言や名誉棄損につながる発言、これらは禁止している。明らかに周りの迷惑になるからである。それ以外はOKだ。身体を動かして楽しむもよし、最前に座ってじっくりとパフォーマンスを楽しむもよし、後方からステージ空間を楽しむもよし、それぞれのやり方で楽しんでもらえばいい。「俺らは良いパフォーマンスをお届けするから、後は勝手に楽しみな。」という気概で私はやっている。「オーディエンスはいたっていなくたっていい。」承認欲求でやってるわけじゃない。ライブしたいからしているだけなのだ。だから、そんなライブに来る物好きのオーディエンスには自由に楽しんでほしいのである。

「ご案内は以上となります。レギュレーションを守りながら、愛と思いやりを持って本公演をお楽しみください。」

これは106さんの時から引き継いできたフレーズだ。開演が間近に迫っていることを暗に示す。盛り上がっていくボルテージに合わせるように、M0はラスサビからはOn Vocalにしてある。それに合わせて、飛んだり、身体を手で叩いたり、自分の身体を再度温め始める。すると、

「それでは、Techours final LoveLive!、まもなくの開演となります。今しばらくお席でお待ちください。」

1段、いや2段テンションが上がったあまねさんのナレーションが聞こえてくる。と、同時に、M0-めざぱのラスサビが終わる。タイミング完璧かよ。心が沸々と昂ってきた。徐々に音量が上がっていく。また1つ、身体と心の温度が上がる。音響のすえんごも完璧である。ステージへつながる扉から、あまねさんが帰ってきた。あとは任せたと、(確か)ハイタッチ。支えてほしいタイミングで応援してくれるのが本当に彼らしい。目線を扉のステージへやれば、徐々に照明が落とされていった。最前列のオタクのものと思わしき、歌声が聞こえてくる。どうせ肩組んでなにかやっているのだろう。ちょっと緊張が溶けた。


[BGM1] Main theme of LoveLive! Sunshine!! (short)

ほどなくして、ブラスのファンファーレのようなメロディが流れる。ここから1分半も立たない内に入場となることを理解していた。1曲目と2曲目の要注意ポイントを思い出していく。うん、大丈夫。目線をまわりのダンサーに向けた。こういう時に励ますのが、上級生の役割だ、と言わんばかりにTe6thの舞台袖で新入生に話かけていたのを思い出した。最初に入場する6人は、ちょうど1年目勢と長老の合わせだ。「大丈夫。笑顔、笑顔ね。あとは楽しくやろう。楽しんでこう。」そんなアドバイスを拙いながらもしたような気がする。

何度目だろうか、慣れたタイミングでステージへと踏み出す。入場順は6人の中で最後だ。天井にはつぶつぶのようなGOBOが投影されていた。「これ、うぉたぶの伏線なんだよなぁ……」とニコニコしながら視線を落とす。そしてそこには、2年ぶりの講堂の光の海が広がっていた。

前下から正面に拡がる光の平面、そして4年ぶりの歓声が飛んでくる。

あぁ、この瞬間のために、ダンサーやってるんだよな。

その景色は、何度見ても感動するものだった。多分、それまでの準備がつくる感情だろうから、慣れるものじゃないのだろう。それに、この景色は事務陣がここまで積み上げてきた土台の上にあるものだから、感謝もしなければ。


[M01] 僕らの走ってきた道は…

心に語りかけるようなピアノの音色が響く。同時に、上下のスポットに照らされる。少し上を向いて、その音と光に浸っていた。思い返した今までの道筋を大切に抱えながら、そんな質感を込めて、流し目をしながら移動を始めた。

最初は千歌のパート、もみじのソロパフォーマンスである。新入生ながら、この曲の曲責を任せた。Finalのド頭の曲を任してしまったので、負担が強かったかもしれないが、それをはねのけ、見事なオープニングに仕上げてみせた。この思いの力強さがパフォーマンスにもあふれ出る。そんなところが魅力なんだよなぁ。年長者のなぐと私で見守るような2年生ソロでもあった。

1年生組の方を見ると同時に舞台が明るくなる。エモい表現をする我々とは違って、1年生ズはとにかく可愛い。可愛いもんである。楽しそうだなぁと眺めた。

サビの頭の振りは本当にTHEATER JAZZだなぁと思う。求められている質感が、だ。アームスのポジションに気を付けながら、広く空気を呼び寄せる感じで。お客さんをステージへと引き込むように。

2番へと移ると、3年生が入ってくる。入ってきた3人が若干しんみりしていた。舞台袖で何があった。とはいえ、いつも一緒にいる人ならかろうじてわかるくらいなので、パフォーマンスが始まれば明るい空気になった。2Aに目を合わして、ハイタッチ(ハイではない)する振りもあったから、ここでちゃんと9人の想いを合わせて2サビに向かうことができた。

間奏のLOVELIVE!の振りは、毎回左右を間違えていて成功率が比較的に低い(それでも80%以上にはちゃんと仕上げてきてはいるのだが)ので、ちょっと緊張した。直前の移動中に頭の中で反芻して、最終確認。大丈夫だった。ちょっと危なかったが。

この曲は、「ようこそ、ライブへ!」というのが伝わるようなパフォーマンスを心がけようという共通意識があった。サポートダンサーとして、練習やゲネを見てきたふなの言葉でもある。セレモニーになるように、ようこそ!と曲のラストを踊った。(だーんだーんば~~~~ちゃん!のとこね)

もるのかねでじょじょえんたべたいな!

知らんがな。


[M02] 青空Jumpimg Heart

暗転した後、次の配置へと動く。何の合図(照明・人・音etc.)で動き出すか、誰の後ろ/前を通るか、誰を待って配置につくか、全部決めて合って構成表にも書いてある。こういうところがごたごたするだけでも、案外、ボルテージが落ちてしまうものである。良いパフォーマンスをするのも大切だが、マイナスの部分を埋めるというのもとても大切なのである。そういう所を蔑ろにしないのがTechoursのパフォーマンスなのだ。

後ろ向き一列で並ぶと、背後から(特に上手寄りから)声の圧を感じる。流石に、このスタートの構成は有名だよね。とはいえ、その声の大きさに少し笑ってしまった。オタクくんさぁ……。

僕道が「ようこそ!」のセレモニーなら、青ジャンは「じゃあこれから、楽しむぞ!」の合図だと思っていた。夢の軌道、追いかけようじゃないか。1年生、3年生と順に、最後に振り向くと、その先の青ジャンの明るさを期待するような、お客さんの顔があった。この振り向くタイミングが、ダンサーからみる青ジャンの醍醐味だ。そんな風に、調子に乗っていたら、指定で揃える部分をミスった。「追いかけて~」はタタンと飛ばずに駆け出すようにという指定だったのだが……気づけば飛んでしまった。曲責のなぐさんへ、ごめんなさい。急いでその場の重力加速度を1.2倍くらいにしてなんとかした。

1A、最初にもみじと目を合わせる、練習では時々ふざけてたのでどうなるかなと思いきや、Final本番は真っ当に笑顔だった。バタバタと振りむいてまどかの笑顔も確認しておいた。こういうシーンが、ライブ中の幸せの一つなのだ。

サビの中間、渡辺曜のパートには毎回ターンが入っている。朱夏さんが毎回、華麗なターンをなんなくやるところだ。重苦しい、ごたごたしては、メンツが立たない。ターンは技術なのだ。まぁ、これは2年前に力を入れて練習していたところなので、余裕でクリアできた。むしろ、この余裕があるからこそ、ターンの前後もブレずに仕草などを入れられるのである。この後も話すことだが、伊達にこのパートをやってきていない。所々のパフォーマンスにはプライドがあった。「すげぇだろ、うちの渡辺曜。や、朱夏さんを踊るってこういうことだよな?」まぁ、そんなのをわかってくれるのも、Techoursのメンツくらいだった。世間の評判は違うらしい。

間奏はお客さんを煽りに行くパートだ。「俺らは楽しいけど、お前らは?」と、まさに煽りに行った。そういう、熱の交換ができるパートが2曲目にあるのもいいなぁと思う。楽しんでたら、Cの頭をちょこっとミスった。この曲結構ミスってるな。Cの簡単なパートをこなしながら反省する。反省の後に聞いた、ラスサビ前のオタクの叫びは、何を言ってるのかわからんかった。とある人物の真名だったことにしておこう。北大体操でもやってろ。

ラスサビも変わらず、右→左→前→上と指さしていく振りをこなす。ここは、その速度について、特にそろえてきたとこだった。反省したので、気を付けながら振っていく。それでも、やっぱり楽しい。


[MC①] MC:もる

最初のMCは自分の担当なので、早々に呼吸を整える。ねも親衛隊の声が響いていた。ルビィ役には親衛隊が付きがちなのだ。事前に示し合わせたポイントで陽炎さんからマイクを受け取る。ライブをやる楽しさを共有したいので、目立たない程度にステハンさんの目を見るようにしていた。

「みなさーん!こんにちはー!私たち、東京工業大学スクールアイドル、Techoursです!よろしくお願いします~。」

いつも通りの挨拶。なんだかんだ、Te4thから11回目だ。慣れっこである。とは言え、Te4thや5thのMCのグダグダは目も当てられないほどだったので、これほど回数を重ねてきて、なんとか聞いていただけるレベルまでにはなった、というのが実際のところである。上手のオタクがうるさい(ありがとう)ので、うまく拾っていきながら話題を進めた。

ここで、話したかったのはTechoursのDanceたる部分と、照明・音響である。特に後者は、ちゃんとMCで触れておきたかった。

この会場のメインの照明は、あまり、ライブイベント向きの設備ではなかった。ほとんどがON/OFFのゼロイチなのである。ゼロイチのものが2種と、上下のスポットライト(これはしぼりがある)、お借りしたムービング3機であのライブの空間をつくっていた。会場常設のライトは、全てマニュアル操作である。この凄さはあまり伝わらないかもしれないが、実際のところ、とんでもないことである。基本、巷のデカ箱の照明はほとんどが自動化されているもので、マニュアルの部分もわかりやすい操作盤で制御できるようにしてある。ところがどっこい、大学の講堂の照明盤は、ライブ演出を考えられたものでなく、非常に苦労する配置になっているのだ。それを、曲に合わせて一つ一つON/OFFしていったのが、上手の長、のえるである。私個人としては、やってみたいが、たぶん大失敗を重ねてライブを台無しにするに違いない。ピンスポも、照準のついていないごくごく簡素なものだった。その扱いはゆほとゆきひろが担当していた。その感覚をつかんでるものだからすごい。ムービングは、照明技術師がみが、ここまでものすごい時間をかけてプログラム(厳密には違うのだが)を組んできた、力作のものである。光の基礎をのえるが作り、その上で雰囲気をピンスポ2人が醸成、表面の味付けをがみが行う、そんな体制だったと私は勝手に思っている。ライブの空間をつくる上で、照明はとっても大切なもの、そう感じた1年でもあったということを付け加えておこう。

音響については、東工大FSCさんに機材をお借りし、すえの監修の下でつくられた。無論、既存の音響システムが講堂には存在するのだが、客席やステージで聴くと左右の時間差が発生してしまうのだ。Te5thのFantastic Departure!をご覧いただければわかるかもしれない。これが、音響装置の問題なのか、反響特性の問題なのか、確定したわけではないが、両方に問題があることは、以前のTechoursのライブや、Finalに向けた調整で判明していたことである。そこで、音響機材をお借りし、一から音場をつくろうとしたのだった。ダンサーの聞こえ具合や、客の入りを考慮した調整が、事前に行われていたのであった。これまた、専門技術・知識が必要で、すえの存在無しには実現しなかった。Finalだからこそ、良い音で踊ろう、良い音を届けよう、そんな願いが叶ったFinalでもあった。ダンサーとしては、気兼ねなく、思う存分音にのることができたので感謝しかない……のだが、彼曰く、音の質としては客席で聴く方がさらにイイらしい。ちょっと体験してみたかった。叶わぬ願いである。

そんな魅力が、このFinalライブにはあるんだと、声を大にしていわなければ、あまり伝わりづらい。そんな思いもあって、MCでちょっと触れたのであった。普通に目を合わせるのも緊張和らぐってとこもあるんだけどね。

とはいえ、おしゃべりしまくってはならない。あくまでも我々はダンスパフォーマンスのライブをしている。予定通り、早々に切り上げて、次の曲へと送った。


[M03] 君のこころは輝いてるかい?

誤字注意曲。“こころ”は平仮名だし、“ているかい”ではないのに注意。広報目線の話である。

君ここはGenre Aqoursの基礎が詰まった曲だなと思う。ツーステ、1A「きっかけは」にみるカーブのシルエット、ターン、細かい音取り……詰めをやると、毎回新入生がどこかしらで躓く曲だった。逆に言えば、苦手を把握して、それに対して理論で直してみようというTechoursの考え方を十分に発揮していた曲でもあった。ちなみに私はカーブのシルエットが非常に下手だった。Te4thの時に散々指摘された記憶がある。

円の配置につく。ここでもオタクが騒いでいた。どんだけ配置に詳しいんだ……流石物好きが来るライブである。曲がスタートすると、一人ずつ手を前に差し出していく。目を合わせるところもあるところだ。そういえばこの曲は、新入生が声を上げて、その位置付けの大切さに気付かせてくれた曲だった。秋ごろの話だ。ちゃんと考えて、自分のやりたい事をちゃんと言う、そんな姿勢は素晴らしかった。責任を持つべき側、反省すべき側の人間なので、そんなことを言える筋合いは1ミリもないが。

間奏の跳び箱は余裕だった。「飛べるかな……」と見ている人に心配させた時点で負けだと思っていた。ここでもプライドが許さなかった。

落ちサビは、特等席で「うちのちかりこ」を見れるところだった。君ここに関しては、梨子役はずっと変わらず、千歌役は2人の千歌を見てきた。感心したところで、ほいほいと立ち上がり、2人とハイタッチを交わす。ここで本気を出すと怒られるので、ここでは腕を短くしていた。


[M04] 冒険Type A, B, C!!

満2年温めた…………!!!最初の振り入れは実は2022年の3月であった。様々な事情で披露を先延ばしにしていた曲であった。

もしかするとマイナーソングかもしれないが、Genre AqoursをやっているTechoursとしては是非とも披露しておきたい曲だった。本当にAqoursっぽい振りが各所にでてくるのだ。それに、歌詞をみてもらうと、本当に良い歌詞なのだ。それに、この曲は本家2019の脱出イベントでは講堂で披露された曲だった。そういう意味でも、講堂で表現できてよかった。わかる人はわかる。それくらいでいい。

Genre Aqoursっぽいとは言ったが、ダンスとしては、だいぶ細かい音取りで、普段からリズトレをしていないとまともに踊れない曲だった。Techoursお得意ソングなわけだ。ギターに合わせた音取り、16ビート、アップダウン、ダンスの基礎に立ち返って振り入れた曲だ。らいにゃとそだふろが共同で曲責を担当していた。

1サビが終わるとわちゃわちゃ大移動が始まる。楽しい。最後にまどかと目を合わせてから2Aに入る。ここも楽しい。2Aの真ん中では、2連ポーズを決める。ここの質感も楽しい。斜め前を向けばねもが釣り上げられていた。えぇ……の微困惑の顔つきになるのもわかる。

2サビは1サビと変わり、客側を指さす振りが追加される。上手にいるので、上手Yブロックにいるであろう、106さんを指さそうと決めていた。ただ、本番実際にやると、106さんは違うところを見ていた。おい。

間奏では、オタク観察のタスクがあった。前々から、某オタクがUSBケーブルを持ってきていいか尋ねていたのだ。今回、やっとこさパフォーマンスするので、そのオタクの準備の成果を見届けなければと思っていた。もちろん、パフォーマンスは崩せないので見れるタイミングは限られるのだが、なんとか3種確認できた。USB Type Bをちゃんと持ってきていたのには感動した。自分はType Bが刺さる機材を持っていないもので。

冒険には 夢と希望とトラブル!?

Aqours『冒険Type A, B, C!!』 作詞:畑亜貴 作曲:倉内達也

そうだ。いままでライブを創ってきた日々は、こんなだった。この想いは、後で、キセキヒカルで回収する。

よしもっともっと遊ぼうよ!

Aqours『冒険Type A, B, C!!』 作詞:畑亜貴 作曲:倉内達也

Finalとはいえ、まだまだ踊っていたい。最後?しらん。楽しむぞ!!

踊っているとき、基本は、歌詞や音の雰囲気から想起されることが脳内にあるのだ。裏を返せば、身体に構成移動や振りがほぼ身についているからこそ、そういった歌詞や音、雰囲気の表現に集中できるのである。そこまでやるというポリシーは先代から引き継がれた時、電話か電車の車内だったかで話してくれたものだ。


[BGM2] 今しかない瞬間を

この後はユニットパート、ダンサー目線的には大休憩ゾーンである。ステージからハケた後、水分補給とエネルギー補給を行う。これも立派なタスクだ。水分補給にはCCDという、エネルギーも補給できるドリンクを用意してあった。これは、ロードレース(自転車ね)の密着ドキュメントをYouTubeで見たときに知った。

陽炎さんがM05で使う椅子を設置しに行く。なぜか声援が上がる。「陽炎!ブレイクしろ!」笑った。「陽炎、踊って~」か、わかるなぁ。もう少しよく聞くと、麻雀の誘いもあった。ライブ中にするな。


[M05] Deep Sea Cocoon
[M06] Guilty Eyes Fever

Photo:@ITF_ProfF

一応、この文章は本番の備忘録なので、あまり、事後に抱いた感想は書き込まないようにしてある。他ユニットのパートは練習でいいモノをいつも見ていたので、本番は休憩に専念している。とはいえ、身体を冷ましてはならないので、適度に音楽ノっていた。そういう意味でFeverは良かった。

Deep Sea Cocoonのダンサーの陰を使った照明、Feverのらいにゃのハイキックは、良いポイントだと思っていたので、そのタイミングは舞台袖からちらっと覗いていた。


[M07] 卒業ですね
[M08] トリコリコPLEASE!!

Photo:@ITF_ProfF

「卒業ですね」は、教授さんがダンサーと合わせながら作った渾身の背景映像付きである。毎回AZALEA組は良いものを用意してもらっている。ちぇ、いいな。指定暴力団め。

客席の雰囲気を見に行きたくなったので、舞台裏の3階へ向かった。ここは、客から目立たない位置(明るさ的にほぼわからない)で、ステージとお客さんの様子が見える。「うお、思ったより人がいた。」やはり、ステージからみるのと、上から除くのでは見え方は異なるのだ。

しゃろんの1曲目は、客席の一番後ろからのスタートだ。トリコリコの1サビが終わったら、しゃろん組は移動することになっていた。小道具を各自確認して、下手2階にある裏通路から正面入り口へと向かう。しゃろん組は新入生2人なので、私がなんとかしなきゃである。「しゃろんは笑顔が一番!!楽しむぞ!!!」なんてことを話していたと思う。空元気だったらすまん。

待機は、一番後ろの椅子に隠れるというものだった。ただ、客席が暗い時に、客席最後方の扉を開けてしまうと、光が入ってバレてしまう。バレなくても、その差し込んだ光が演出上のノイズになってしまう。なので、入るタイミングも決めてあって、トリコリコラスサビの客降りが始まったタイミングだ。ここは、客電をつけるし、Techours初の客降り(いままでコロナ禍でできなかった)なので、注目もステージを降りてきたAZALEAに向くだろうから、こっちには気が付きまい。

客席への扉前で待機する。実は外のウッドデッキからは丸見えなのである。その事実に3人で笑っていた。実は扉にのぞき窓がついているのだ。美しきAZALEAのパフォーマンスを、小っさい窓で3人で眺めていた。


[M09] サクラバイバイ

椅子下で待機する。横を向くとにやにやしている2人がいた。拍子抜けさせて、桜吹雪をばらまいてやろうという魂胆だろうか。手元にはもみじ謹製の可愛いリボンが付いたバスケットがあった。

オルゴールの音(これはすえにつくってもらった)の後、ムービングライトがこちら側を照らす。そこに、ヒョコヒョコと飛び出した。

イントロのパフォーマンスを3人でやると、各所に散らばっていく。バスケットから花びらをつかみ、下手広報の客席に振りまいていった。1Aの後半はソロ。下手側のS列7番の座席を封鎖し、机を展開しておいてもらったのである。そこに、バスケットを置いた。

本当は追いかけて行きたいよ でも見送るよ

CYaRon!『サクラバイバイ』 作詞:畑亜貴 作曲:高田暁

ここの歌詞にあった朱夏さんの質感は大好きなところだ。少し寂しさが入り混じる感情を、アームスと指先ののびやかな動きで表現する。その後は、やっぱり元気な部分を表現する。力の出力特性を変えると、質感が変わっていく。もうこの質感はだいぶ身に染みた。とおもったら、振りの手順の前後を間違えた。まぁ、なんとかなる。仕草でうまくリカバリーした。

ただ、そのミスで焦ったのだろうか、ヨーソローした時に左手がバスケットに当たってしまう。バスケットはコロッ…とS列7番の座席前の床に落ちていき、花びらをばらまく。あちゃ……。そんな様子をチラ見するも、さすがに振りが続いているので対処できない。その後、素早くバスケットを拾うものの、中身はほぼすっからかんだった。あ~やべ~。この後の配分を考えながら1サビの位置まで向かった。

実際、その後は何とかなった。2Bが曜とルビィのソロなので、ばらまく時間はそこまで残っていなかったのが功をそうした。楽しくなったので、(もちろん、朱夏さんが披露した記憶のあるうちの1パターンなのだが)ドドドとその場で足踏みして、ねもの様子をうかがいながらその後一気に近づいて行った。「な、なにしてるんです?」という表情をしていた。あ、すまん…。

2番の構成移動が意外と好きなのだ。お客さんがいる中に突っ込んでいく2サビ前、「きっと」と少し寂しさを一瞬だけ見せた後に、煽りを入れながらステージへ向かう2サビ後、歌詞や音の意味と自分の中の想いがだいぶリンクしていた記憶がある。実は、座席に目印をつけておいたので、存分に表現に集中できた。煽りで楽しんでいたら、ステージ上に間に合わなくなりそうになった。咄嗟の判断で2段飛ばし、何とか所定の位置に間に合った。これは、場数の功だろうか。


[M10] 近未来ハッピーエンド

サクラバイバイ中、ステージ真下、観客には封鎖された最前列に視線を落とせば、3人ステージハンドが居た。Itsuki、陽炎、やるの3名である。サクラバイバイの後は、旗を使ったパフォーマンスのある近未来へ直接繋ぐのだ。そのために、実は、我々が客席後方で桜の花びらをばらまいて視線を捕えている内に、旗スタンドをステージ上に設置しておいてもらっていた。そして、すばやく最前列に移動し待機。曲開始とともに、事前に用意しておいた旗を我々しゃろんに渡すという算段があった。旗はむーみん謹製の黒布で隠してある。渡すときも、黒布で直前まで隠し、我々しゃろんが引き抜くとバッと現れるように出してくれていた。その時に旗がぐしゃぐしゃにならないように、綺麗になるようにじゃばら折で畳んで黒布にしまっておいてあるのだ。用意周到だ。だからこそ、本番、正面から見ると、地面から旗が生えてきたように、自然にかつダイナミックに見せたのである。「ステハン君、カッケー!!!!」案件だったのだが、どれだけの客が気づいただろうか。生えてくる旗からしか得られない養分がそこにある。

誰が誰に渡すという点に関しては、ちょっとエモい決め方をした。私はitsukiからもらう手筈になっていた。2019加入のTechours同期なのだ。MCの時のマイクと同じように、や、パフォーマンスの時なのでそれ以上の笑顔で、itsukiと一瞬目を合わせ、受け取る位置を示し合わせて、そして取りやすく出された旗を大胆に引き抜いてやった。ちなみに、ルビィ役は、先代ルビィ役がステハンしていた。エモ。

近未来は、4年前にここで披露した曲だ。懐かしいな。あの時は、近未来で緊張が完全に解けて、その後うまくやれたんだったっけか。その時の気持ちも思い出しながら、元気全開に踊った。ふと、また目線を落とすと、ステハン勢がニコニコしながら眺めていた。あ、そこ特等席なのね。なるほど。いいなぁ。

Photo:@ITF_ProfF


[M11] スリリング・ワンウェイ

近未来はいつも盛り上がる。まぁそういう曲なのだ。「でも、止まんないんだよなぁ。このあとスリワン飛んできて、すぐにイタリア扉パッカーン!して9人出てくるぞ。客席動物園になるぞみておれ。」と、にやにやしながら近未来のラスポを維持する。

そして流れてくる、スリリング・ワンウェイのイントロ、旗を斜めに、自慢げに掲げる。素早く旗をitsukiに渡すと、イタリア扉から飛び出してきた6人と合流し、ユニゾンの振りに入る。楽しみすぎてあまりお客さんを見れなった。ここの盛り上がりはどうだったんだろうか。

スリワン、一般に言う“強い”楽曲である。ただ、個人的には「スリワン来て嬉しい!」という感想をもらったら負けだと思っていた。その感想は、ただ単に「スリリング・ワンウェイ」という曲が、Aqoursの歌唱が強いだけの話なのだ。(指差し確認だが、それ自体はとても良い話なのである。問題はそれを、コピーとして踊るときに生じる。)我々はダンスパフォーマンスをやる団体だ。その曲、オタク盛り上がるからいれとけ、かもだけど、ダンスパフォーマンスにそのクオリティはあるのかい?ってのはTechoursが追ってきたことだった。だからこその、この盛り上がり。曲に、セットリストに負けないパフォーマンスがあれば、「スリワンのダンス、強くて迫力やばかった」なんて感想が来るはずなのである。そして、その“セットリストに負けないパフォーマンス”を裏付けるのが、ダンスの技術である。この曲、パワーでなんとかなる、って思われがちだけど、ただ力入れて踊ると、身体固まった動きになるだけなのだ。初心者感にもつながる。そこに対して基礎練をしてきたつもりだ。

とはいえ、AsTeにも披露したこの曲だが、ダンサー的には悔しい思いをした人が大多数だった。ちゃんと技術を身につけて、Finalで再度挑戦した、リベンジの曲でもあったのだ。特に新入生ズの成長がみられたら嬉しいなと踊っていた。

曲中の感想?知らん。燃えに燃えまくってた、その1点だけだよ。本番テイク、落ちサビはめっちゃよかった。気分がノリにノってた。


[MC②] MC:なぐ&ねも

新入生に3曲連続直後のMCをやらせるという鬼畜をしてしまいました。にもかかわらず、ちゃんとこなしていく。偉いなぁ……。

「なんか、留年って書いてある……。」

あっ……。いいとこ、拾うじゃん、、、笑 オタクの扱いもちゃんと学ぶ新入生であった。

「こえがちいさいっ゛!!」

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

なぐさんのMCが抑揚をつける。いいねぇ。

「もりあがって~~~いきましょう!!」

ヨーソローをしておいた。MC最後は毎回その次の曲っぽいポーズをしておいた。


[M12] Aqours Pirates Desire

明るく盛り上がっていた会場に、突如嵐が訪れる。海賊の到来のような音楽、Aqours Pirates DesireのOff Vocalだ。本家さんのLOST WORLDを参考にした(とはいってもあれは曲後の演出だったが)。入りハケの歩きの質感も一気にスイッチを切り替える。一度、上手にハケ、ダンサーが小休憩と小旗の準備をしている間にステハン総動員でスタンドを配置する。そして、悠々と入場していくのであった。

Photo:@ITF_ProfF

この曲は、個人的には悔しい思いをした、ぐずぐずしていた曲だった。個人的に朱夏さんの質感をめちゃくちゃ頑張った曲なのである。Jazz Hiをやったのはこのためでもあった。ダンスは「バトル」だしな。海賊の曲であることをいいことに、「ここまでやってみぃ」という威嚇の想いも込めて踊ろうとしていた。特に、イントロのユニゾンの振りの直前、その目にはかなりそんな想いを込めていた。

1サビ・2サビは力強く、ヤンキーに。音取りの質感もしっかりやりながら。楽しかった。

落ちサビには大旗をぶんぶん振りまわすパフォーマンスがあった。この旗は、デザインはAiでトレースして作成、棒部分はホームセンターに出向いて素材を探した。おそらく、本家さんは塩ビ管のような軽い素材なんだろうと思われる。ただ、実際に回してみると剛性が足らずふにゃふにゃしてしまった。これでは満足できない。結局本番は、アルミパイプを使っていた。2mをゆうに超えるサイズ、おそらく1.5kgは超えていただろう。

むーみんから旗を受け取る。ナイス位置。すっとパフォーマンスに入れた。HP 0だったはずなのに、ぐぅおおおと復活していく、そんな力強さを込めながら身体を起こしていく。そして、空へと掲げ、ぐるぐると回していった。前にはこれまでずっと踊ってきた、頼もしいダンサー、その先にお客さんの光の海が広がっていた。いいぞ、お前ら、ダンスでみせつけてやれ。爆音音響でお客さんには伝わらないかもしれないが、私の位置では、はっきりと揃った力強い8人の足音が聞こえていた。最高の位置だ。

ラストポーズがだいぶ懸念点だった。流石に、旗の挙動まで完璧には理解できず、運が悪いと、顔の前にかかってしまう恐れがあった。そうなるとみっともない。なるべくそうならないようには練習していたが、不安要素としてはのこっていたのだ。音が止まり曲が終わる。同時に旗を持ち上げ、頂点に達したタイミングで少しスナップを効かせて、旗を後ろへとゆらがせる。どうだ……。耳の後ろでヒラッと旗が掠める感触があった。やった。完璧だ。

ところで、先ほどのMCから、腰と脚に違和感がある。さっき、一旦ハケたときにストレッチをしたが、短時間だったので入念にはできなかった。そして今、その違和感が痛みにかわりつつあった。まずい。太ももがつっている。腰も危ない。


[M13] Daydream Warrior

間髪挟まずに、いつものイントロが始まる。このイントロを絶望の中聴いたのは初めてだったかもしれない。これまでデイドリで戦ってきたTechours、おいしいところで使ってあげたはずだった。しかし、今となっては、自分の身体にさらなる危機を生じさせようとしていた。

後ろ向きのポーズで、あまり目立たないようにしつつも、なるべく太ももを伸ばすように意識する。マイナスをしないにしても、痛みを増やさない効果はあった。プロフェショナルではないにしろ、自分の身体のことは4年間踊ってきたので、長時間のライブも何度か経験してきたので、ある程度わかる。どこの動きが今日は調子が良いか、そして、どこで限界が来るか。まずい。この瞬間、十数分を、パワーをかけて踊るだけの耐力は残ってないと判断できた。この後、MCの休憩はあれど、裏に下がることはできない。Daydream WarriorとDREAMY COLORをこの身体で踊らなければならない。悔しいが、Daydream Warriorはパワーを節約しながら踊ることにした。

幸い、デイドリは個人のパートが多く、休める部分が多い。休憩できるところはシルエットだけちゃんと保って、辛い側の脚の荷重を抜く。右脚がやられていたと思ったら両足キツくなってきた。

2サビまで、幾度となく踊ってきた振りをこなしていく。意外とうまく行ったところもあった。(まだまだ初心者の域を超えていないとはいえ)技術はある程度ついてきたんだから、それを信じて軽くやっても、というか、そっちの方が上手に表現できるところもあるのかもしれない。

しかし、この後のパートは甘いこと言ってられない状況である。間奏のダンスブレイクは、初手3人の方(SNAKE組といつも呼んでいる)なので、特に足腰に負荷をかける。回避できない。耐えてくれ……。出力を戻して、踏み切った。

両足から腰に鈍く振動が伝わる。腿が悲鳴を上げた。ただ、ここさえ耐えれば、荷重をあんまりかけることはない。動きさえすれば、後は上体の表現で何とかできる。バチバチの照明の下、自分の身体と闘っていた。

何とかクリアして、WAACK組に渡す。ポージングで止まっているが、この姿勢は辛い。つっている状態を我慢する時間が辛かった。その後の膝立ての姿勢がまた辛い。「落ちサビへの立ちは、満身創痍の戦士が最終決戦へ向けて再び立ち上がる的なイメージで」と伝えてはいたが、イメージせずともそんな雰囲気になってしまった。

Photo:@ITF_ProfF

もう、記憶が無いまま音のままに踊っていた。


[MC③] MC:もみじ

新人にMCを任そう、そんな話もあった気がする。良いMCをするもんだ。これまでの2曲のコメントなので、Piratesの旗の紹介もある。再びむーみんさんから受け取った。もみじが「デカい渡辺曜」とか言うので、ドヤってやった。106さんが「天井破壊しなくて偉~い」とかヤジってきた。うるせぇ。

旗を返すと、もみじのMCを聞くターンだったので、ばれないように足のストレッチをそれとなくしていた。本当はあんまりよくないが、この後の曲のパフォーマンスがダメになるくらいなら、ここで少し失礼させてもらう。


[M14] DREAMY COLOR

このMVが出た時から、Techoursの課題曲だと思っていた。2022に振り入れをしてみたが、うまく戦えず。JAZZをやろうと思い立った曲でもある。まぁ、必要だったのはcontemporaryだったのだが。冒険Typeと同じく、温めた曲だった。

その分、Techours流の詰めをめちゃくちゃやってきた、高難易度の曲でもあった。技術も勉強しながら、それを伝えてきた曲だった。細かい所はだいぶ頑張ったが、元々の取る音が揃っていたところから毎回スタートするレベルまで、新入生や2年目勢が成長していた。Techoursの凄いところだなとは思う。

波音が聞こえてくる。この身体でどこまで戦えるか。そもそもこの曲は力まないようにしなきゃいけない曲なので、その点は優しかった。曲責までやったこの曲。質感頑張る。空気を大きく掴んで。

2サビが相当きつかった。横っ飛びの時、脚が思うように動いてくれない。動く筋肉でなんとか食らいついていった。もうここは、脊髄反射だった。

本来は、ダンサー最年長の私がダンス的に引っ張るべきところだが、ここは皆のパフォーマンスの流れをお借りすることにした。自分事で集まってきた9人。「やりたいから、ここでやる。ここで、踊る。踊ってほしい。」そんな想いを伝えてきた仲間だ。そのうち半数以上がダンス2年目の人たちである。それがここまでの揃いを、表現を、高難易度の曲でできるようになったのだ。本当に頼もしい。そう思うと、嬉しい部分もあった。

課題曲を、長時間ライブの中で披露してみせた。


[BGM3] ALL FOR ONE

下手へハケる。即座にストレッチに入った。ドリンクもがぶがぶと飲む。余計くらいに。脚がつってるときは大抵、水分不足なのだ。落ち着いたストリングスの音色が心と身体の緊張を和らげてくれる。

ライブ中に使う劇伴を提案する立場にはあった。高3の受験勉強の時にLoveLive!シリーズ(当時は無印とSunshine!!の2つしかないが)のOSTをBGMにしていたので、比較的知見があった方なのだ。ここの選曲は、2期の12話から引っ張ってきたい。この次の曲がWATER BLUE NEW WORLDだったから、そこは外せない。通常のWBNWの前は、「0から1へ、1からその先へ!」だ。ただ、後述の理由で3分ほどの時間が欲しいのと、一息呼吸を入れて、じっくりと衣装曲に入りたいという条件があった。少し長いが、ALL FOR ONEを提案することにした。みんなが、一つのライブに向けて、自分事で目指す。あの空間を作りに行く。そんなメッセージも個人的には。

ここは、本来、本家さん3rdのようなスモーク演出をしようと考えていた。しかしながら、スモークマシンの施設での使用許可が下りず、ドライアイスでの演出を検討していた。近くの氷問屋に連絡を取って取り寄せ実験を重ねていたのが1・2月だった。ただ、広い講堂では、雲の海足るまでの演出をするには相当な経費と手間が必要だということが分かったのだ。無念ではあるが、ドライアイス演出は諦め、別の要素に力を入れよう、そう決定がなされた。それ故に、ここは時間がとってあったのだ。一応、お姫様ティアラ勢(梨子・花丸・鞠莉)のスカート取り付けの時間でもあったが。

舞台を眺めると、ムービングライトの光が空間を青く染めていた。そういえば、今日の講堂には素晴らしき照明アーティストがいたのだった。自分の痛みと、楽曲にめり込みすぎて、なにも考えられていなかった。気づけば、残りの披露楽曲は4曲になっていた。この空間でみた風景を、しっかりと目に焼き付けよう。気持ちを落ち着けて、青に満ちた空間へと入っていった。


[M15] WATER BLUE NEW WORLD

衣装曲。そして、個人的にも大事な曲。Aqours知った最初からずっと1番大好きな曲だ。新入生の時に、一番頑張って、ここで披露した曲だ。4年の月日を経て、ここに戻ってきた。また、セットリストの中の位置づけは、「イマからミライへ。」というメッセージにあった。工大祭から引き継いできた意味はそこにある。

鞠莉のソロから始まる。なんか、明らかに場の空気が、ダンサー陣の雰囲気が違った。どこで覚えた感覚だっけか……や、あの時の覚悟の雰囲気だ。工大祭の時は、final発表後で気持ちが崩れてしまい、アニウンでは不完全燃焼で終わった。でも今は、ちゃんと、ミライにむけた気持ちでいられている。良いね。ONE FOR ALLで一呼吸置いたあの時間が、そして今天井に映し出されているゴボが、気持ちを落ち着けてくれているのだろうか。その一粒一粒に今までの思い出が埋め込まれているような気がした。

Techoursでは計6回、WBNWを披露したのだが、最後の披露で初めて、衣装を身にまとってのパフォーマンスだった。先述のように、ティアラ勢が豪華なスカートを身にまとっている。これを1サビ前で、取っ払ってぶん投げるのだ。昨日やったら、客席の4列目か5列目まで、お客さんが本番いるところまで飛ばしてしまった。本当は本気でぶん投げたかったが、さすがに落ち着いて、そこそこの力で投げ飛ばした。綺麗に飛んでった。やった。失敗確率の高いところだったが、あまり緊張してなかった。

そして、1サビへ。

MY NEW WORLD新しい場所 探すときがきたよ 次の輝きへと海を渡ろう

Aqours 『WATER BLUE NEW WORLD』 作詞:畑亜貴 作曲:佐伯高志

そうか。もう、次へのスタートの時なんだな。

夢が見たい想いは いつでも僕たちを つないでくれるから笑って行こう

Aqours 『WATER BLUE NEW WORLD』 作詞:畑亜貴 作曲:佐伯高志

夢、か…。私が追い続けてきた夢ってなんだったんだろう。

2ABではコロコロとムービングライトの色が変わる。白、青、白、青、と。今のままでいたい気持ちが青、未来に向かわなけれいけない気持ちが白、その間で揺れている所は、青と白が混ざっているそうだ。がみがそう言っていた。思えば、この空間の色がだんだんと白になっていった。そうか。「イマからミライへ」なんだ。

お得意のロンデターンを決めると、2サビへ。

MY NEW WORLDまたココロが躍るような日々を 追いかけたいキモチで海を渡ろう

Aqours 『WATER BLUE NEW WORLD』 作詞:畑亜貴 作曲:佐伯高志

今までの日々がそうだったな。でも、先に行かなきゃ。

夢は夢のように過ごすだけじゃなくて 痛みかかえながら求めるものさ

Aqours 『WATER BLUE NEW WORLD』 作詞:畑亜貴 作曲:佐伯高志

この曲の一番好きな歌詞。ホンキは簡単じゃない。痛み、夢追う心持ち、そんなところを手の質感に込めていった。手を差し出すと、それを追うように、青いムービングライトの筋が先へ先へと向かっていった。すげぇ。ダンサーのパフォーマンスが、光と音に載せて、9人じゃ届かないところまで飛んでいった。工大祭7thで感じた“風”って、そういうことだったのか。鳥肌が立った。これがTechoursの集大成ライブだ。

間奏は千歌→2年生→9人全員と、踊り広げてゆく。新星センター、もみじ。「この先も踊り続けてほしいな」そんな想いもありながら、彼女の後ろ支えをするように踊っていった。

我々しゃろんのソロが入ると、ラスサビへ。客席が明るい。

ココロに刻むんだ この瞬間のことを 僕らのことを

Aqours 『WATER BLUE NEW WORLD』 作詞:畑亜貴 作曲:佐伯高志

9人が横一列で自分の事を指す。でも、ここは23人で立ってる気がした。さっきの“風”のおかげかもしれない。そういや、昨日、この並びを23人(マイナス教授)でやってたわ。覚悟ができた、あの瞬間。我々は、23人で1つのライブをつくっている。それぞれが、1つのライブのために、この2時間のために、積み重ねてきたことを自分なりに見てきているのだ。Techoursはとんでもないものをつくってきたんだ。アンチテーゼかもしれない。でもそれでいい。僕らなりにライブをやる。すげぇもんになる。Techoursの集大成、伝説になるくらいまで、刻み付けてやる。そんなメッセージが伝わるように、自慢げに、大きく振ってやった。


[Encore]

なにか、吐き出してきた気がした。覚悟の下にあった想いかな。脚や腰の痛みはいつの間にか消えていた。

ほどなく、Techoursを呼ぶコールがかかる。アンコールは勿論用意しているが、アンコールありきでいろいろ考えてはならない。アンコールをいただけるというのは、大変ありがたいことなのだ。

お客さんを待たせるのも違う。3分で再開する。そう、決めてあった。

それぞれがアンコールに向けて準備を始める。開演直前やユニットパート中にあった高揚が、舞台袖からはほぼ消えていた。とても静かだ。もうここはイマじゃないのだろうか。少し不思議な雰囲気に包まれながら、下手へと向かった。


[EN01] Brightest Melody

壁のロゴが消えたら入る。そう、上手側の先頭のなぐと示し合わせてあった。シーバーであと何秒とタイミングを伝えてくれる。ロゴが消えた。行こう。ステージへ入れば、向こうから残りの5人が入ってきた。

円形で並ぶ。君こことは違って、ここでは皆が円の中心を向いて向きあう。泣きそうになっている人もいたが、それでも、みんな笑顔だった。そうだな、楽しいよな。役に、パフォーマンスに入り込めるというのはこういうことだ。ダンサーの準備、そして事務さんがつくってきた土台があるからこそである。

なぐさんがちらちらと私の後ろを見ていた。そこは、壁では?一瞬疑問に思うが、すぐに思い出す。あぁそうだ、教授の動画が後ろで流れてるんだった。この映像が完成したのは直前だったので、ちゃんとは見てなかった。いいなぁ、そっちの人は見えるんだ。いいもん、こっちは9人の笑顔と光の海が見えるもん。その先に、事務スタッフ陣も見えるもん。東工大の本館が映ったのだろう、客席からは歓声が上がった。

曲が始まる。学年ごとに手を差し伸べていく。うわ。自分も泣きそう。笑顔、笑顔。顔の前で一つ手をまわして、飛び出していった。


① 映像が決まった音に合わせて作られている
② ダンサー9人が決まった音で飛ぶ
③ カメラマンが決まった音で打ち抜く
この3条件が合わさったからこそのこのお写真
Photo:@ITF_ProfF


なぜだかわからんが、この曲はとても揃いやすい。Te3rdExのときも、Finalもそうだった。

2Aが自分のソロだ。

だいじね したいんだ みんな汗かいて 頑張ってきた日々を

Aqours『Brightest Melody』 作詞:畑亜貴 作曲:光増ハジメ (FirstCall)

Te3rdExで刺さったこのフレーズ、また刺さってしまった。2Bの構成移動で明るく、まどかとハイタッチした。

ラスサビ前半、1・2年生組が固定、3年生組のパフォーマンスを見守る形になる。今の3年生組は、Techours加入から2・3年目の人だった。新入生と上級生の間で、中間管理職的な辛さを負担させてしまったかもしれない。でも、ここまで、本当に強くなったな。この人達がいなきゃ、(事務陣も含め)新入生ズがついてこれなかったと思う。止まっている間、そんなことを考えていた。


[MC④] MC:まどか

WBNWを披露したので、やっとこさ衣装のご紹介をする。回ってと言われたので爆速で回ってやった。

「我々Techoursは6年間、このFinal ライブに向かって走り続けてきました。さまざまな迷いや葛藤もありましたが、諦めなかったからこそ、こうやって、見ることのできた景色がここにあります。」

次の曲への振りが始まる。この想いをちゃんと表現しなければ。


[EN02] キセキヒカル

本当に好きな曲のひとつ。同時に、この曲をやるということには相当重みがあるのだ。「生半可なもん出そうもんなら……。」そんな心持ちで曲責を担当した。

この曲は本家さんではセンターステージかAqours Ship上でしか披露されていない曲。それを、メインステージのみで表現するにはどうしようと、結構試行錯誤した。円形のフォーメーションは、円形であることと、360°どの方向も正面向きでお客さんがいることのどっちが重要か (どれくらいのバランスなのか) ちゃんと考える必要がある。例に1番AB。3組にわかれ、各列前から2年生、1年生、3年生と並ぶ。これはどういうことだろうか……。一考すると、「3列であること」よりも「3人数別の方向を向いていること」が重要なのではという結論にたどり着く。故に、上手と下手の列の向きは、お客さんがいる範囲で斜め外に振った。

その後の展開まで考えよう。1番は別々の向きを向いてた個々が、2ABで学年ごとに同じ向きをむいて、2サビの頭でついに一つになる。なるほど、そうなのか。キセキヒカルの曲責をして初めて、この曲の良さを改めて分かった気がした。だからこそ、それを意識して構成を作成した。

ダンスもまた、厳しくコメントした曲だった。普段のTechoursでは、音取りの揃いや技術的なところを全面に詰めるやり方だったが、この曲だけは、感情メインの伝え方をしていた。この振りには、歌詞には、音には、どんな感情があるのだろうか。振り入れの中で、そう問うていた。無論、感情を表現するための技術は考えたが。

まどかのMCにもあった「迷いや葛藤」から見出した笑顔、そんなものを、この曲では表現したかった。そして、自分事で踊ってほしかった。それぞれの「迷いや葛藤」のカタチはまったくもって違うものだからだ。それ故に、揃わないことを是とした。

珍しく、MCから音先で始める。そのために、MC④の照明がピンスポだったのだ。照明がつくった空間のおかげで綺麗にキセキヒカルが始まっていった。

少し、呼吸をおいてからトコトコと上手へと歩く。今までの思い出をなぞりながら。

いつの間にか来たね こんな遠いところまで ああ 空はいつもの青い空

Aqours『キセキヒカル』 作詞:畑亜貴 作曲:加藤達也

歌詞を噛みしめる。あの工大祭を見てからがむしゃらに走ってきたつもりだけど、集大成をつくるとこらえて決断してからFinalをつくってきたつもりだけど、いつのまにか、こんな大きなものをつくることができる、その思いを共有できる場所にいたのだ。でも空は変わらないのか。そうか。いや、夢見た工大祭で広がっていた、あの青空は本当に素敵だったな。

あきらめないことが 夢への手がかりだと

Aqours『キセキヒカル』 作詞:畑亜貴 作曲:加藤達也

嫌になりそうな時もあった。あきらめかけたことは幾度となくあった。辛かった。でも、それがあったからこそ、いまの風景がある。


2番の頭で2年生組と合流し、そして、2番のサビで全員が1列になる。

投げ出したい時こそ 大きく変わる時さ

Aqours『キセキヒカル』 作詞:畑亜貴 作曲:加藤達也

その振りで、投げ出したい想いを、それぞれの想いをこめてやってみろ。ホンキで。そう、振り入れや詰めの時に熱く伝えておいた。横目で右隣りにいるひーの素振りを見る。彼女らしい、投げ出しをていた。客席から見れば、たぶん、この振りはバラバラに見えているだろう。どこか泥臭い部分も見えてしまったかもしれない。でもいいのだ。それが目指していたことだったから。

間奏はまさに、個々の感情を爆発させてほしいゾーンだった。まんま、迷い・葛藤の所だ。横のなぐさんと共に、ステージ前方へと駆け出し飛んでいく。左、右と何かを探す素振り。

そしてまた別の場所へとかけていく。ステージ後方の壁へと向かって駆け出す。踏み出した2歩目、左脚の設置感がおかしい。ズボンのすそを踏んでしまった。それに気づくと同時に、バランスを崩す。この大本番でコケそうになったのだ。

台風ですべてが真っ白になった初年度の工大祭、それぞれの想いを汲み取れなくなり辛くなったTe5thの後、衝突にやつれていった2022年の初夏、自分の賞味期限切れを悟ったこの前の秋、それぞれのライブを創ってきた日々で、こんなふうに毎回コケていたなと思い出す。最後の最後まで私はコケるような人なのか。笑わせてくれるじゃねぇか。

やってやる。踏み出した右足で何とか耐えた。耐えたが、勢い余り、数歩よろけて上体が倒れる。こうなっては、もう、決めていた動きはできない。

瞬時に、どこかのGenre JAZZのレッスンの振りを思い出した。あれも、抱えた悩みから希望を見出す振りだったっけか。右の手のひらをを掲げた。

ヒカリ ユウキ ミライ 歌にすれば

Aqours『キセキヒカル』 作詞:畑亜貴 作曲:加藤達也

その右手を、遠くの大切なものを胸にしまった。

曲は進んでいく。ピアノで始まったこの曲は、今や壮大なオーケストラの音になっていた。ラスサビを壮大に踊る。音に合わせて。音にも感情があるのだ。その高まりを表現する。苦しみを抱えた笑顔で、目の前の何かを、掴んでやった。

夜が明けた空には 太陽…

Aqours『キセキヒカル』 作詞:畑亜貴 作曲:加藤達也

自分が丸く、空気を囲むようになぞったその先には、自分の好きな、ライブ空間が広がっていた。


[BGM④] 起こそうキセキを! (Short)

全部、吐き出してきた。Finalで表現したいことを出し切ってきた。後は、最後を見届けるだけだ。上手袖にハケてきて十数秒後、聞きなれたピアノのメロディーが流れてくる。

『起こそうキセキを!』 

Techours 1stのOpening、Techoursのはじまりの曲の1つだ。

壁には自分の作った動画が流れている。自分には映像編集の技術は無いが、でも「素材に込められた意味を捕えて繋ぐ」ということが好きで作ってきた部分がある。6年間半、私がTechoursで見てきた風景を、想いを、全部突っ込んだ。ただ、我々は本家さんではない、コンテンツではないので、そこに注意しながら。

1stの円陣の映像が映し出される。「うあ゛っ、嘘っでしょ…」客席から叫び声が聞こえてきた。まぎれもなく、106さんの声だった。そうだよね、106さん、ここの写真、好きだもんね。しめしめ。

1stの映像が映し出される。ちょっとざわついた。OB・OG陣の若かりし頃の映像である。頭抱えないでね。私は好きだったんだから。

時系列順にライブ映像が並べられていった。確かに、いろんなライブ作ってきたなぁ。そう振り返る。だいぶ前に完成させてなので、リハでは何回もみんなで見たが、それでも、本番となると気持ちが昂る。泣かない。そう、決めていた。でも心の中は泣いていた。

いわゆるサビに移ると、今までのライブシーンが走馬灯のように、矢継ぎ早に流れていく。順番はぐちゃぐちゃにしておいた。記憶の思い出しってそういうもんだから。好きなシーンを選んでおいたので、また自分の感情が高揚していく。ステージから飛び降りた1stの映像が流れた瞬間は、袖のみんなも、客も笑っていた。懐かしいね。

AsTeのシーンが流れる。このタイミングで入っていくと決めていた。これで、この曲で終わるんだ。心の中の涙を振り切り、ステージへと駆け込んでいった。

千歌と果南の間、決まった位置、いつもの位置に立つ。最後の音が終わると同時に、映像が暗転し、間接照明がついた。おそらく、影で、このV字の構成が見えているだろう。

後でいろんな事務から聞いた話だ、ものすごいお客さんの声の圧だったという。
でも私は、ここに立つ感動で胸いっぱいで、その声は聞こえてなかった。

「まってた、まって゛だ!」

ちょうど、真ん前にいる106さんが叫んでいたのが聞こえてきた。106さん、それはずるいって。気持ちのボルテージが200%を超えてしまった。そうだよな、そうだよな。


よし、最後だ。

派手にやろう。


はじまりだ。



Chapter.6 未来 -祝砲のあとで-


[EN03] 未来の僕らは知ってるよ

デイドリがTechoursの十八番なら、みら僕はTechoursを見守ってきてくれた曲だと思う。Techoursをしめるなら、この曲しかないとだいぶ昔から思っていた。

みら僕に始まり、みら僕に終わる。Techoursのライブストーリーはここでおしまいだけど、その夢はこの先、もっと広がっていく。未来の曲だ。

皆の感情が振り切れていたのは、もはやバレバレの話であった。感情120%で踊ることになりそうだ。でも、ダンスの揃いは崩さない。だって、†ダンスに真剣†だもの。最後まで、貫く。

曲が始まる。両腕を水平まで上げてきて、二度突き出す。感情に身体を任せたら、この後突き出す右腕が振りかぶっていた。いつもの2倍くらいのエネルギーが溜まっている。あちゃ…。もう遅かった。右手がとんでもないスピードで飛んで行った。(流石に腕は切れなかった。)これ、指摘されてたのに……。ごめんなさい。ちょっと、さすがに自粛しよう。反省した。

今までは、技術が微塵もなかったもので、120%、いや95%で踊っても、雑な踊りになってしまっていた。ただ、5年も踊っていたもので、120%で踊っても、それなりにちゃんと見えるようになっていた。頑張ってきてよかった。

イントロの音取りは明るい賑やかに引き込むような質感でまとめた。最後は派手にやるんだ。こんなステージへと来てくれたお客さんには、君には、ついてきてほしかった。

味方なんだ 空もこの海も

Aqours『未来の僕らは知ってるよ』 作詞:畑亜貴 作曲:光増ハジメ

2年生組の2人と目線を合わせる。やっぱり、この2人も楽しそうだ。

遠くへ 遠くへ 声が届くように

Aqours『未来の僕らは知ってるよ』 作詞:畑亜貴 作曲:光増ハジメ

お客さんへと近づいていく。ここは、すぐ近くのオタクを見れるポイントなのだ。座った後に差し出した左手には、目を合わせずとも、ピタと、鞠莉役のそだふろの手が添えられた。

もっと大きく 夢を叫ぼうか

Aqours『未来の僕らは知ってるよ』 作詞:畑亜貴 作曲:光増ハジメ

夢を叫ぶ、か。盛大にやってるな。今。

1サビのグリコを決める。ちなみに、グリコとは左右対称である。そんなネタも昔から話してたなぁ。サビの途中で元気にジャンプした。その後ブレずに前に指さすところは、技術的な見どころでもある。もう、寝ぼけてても踊れるので難なくやった。

1サビ後の間奏への移動は大好きだ。リスタートのようなメロディと共に構成を前後で入れ替える。後ろに下がってくる4人も相まって、グウォンと出ていくその動的な風景が好きなのだ。

「ぜったい晴れる!」と信じてるんだよ

Aqours『未来の僕らは知ってるよ』 作詞:畑亜貴 作曲:光増ハジメ

2Aの自分のパートである。屋外か屋内か、会場にあわせて向く角度を変えていた。朱夏さんもそうしていたのである。今踊る意味を考え、フル元気ver.の振りをやった。横を向いて、なぐさんと目を合わせる。その横にみんなの姿が視界に入ってくる。やっぱり、皆楽しそうだ。良いね。その後も、下手側にいる人たちと対面しながら踊っていった。とてつもなく、楽しかった。

あたらしい青空が 待ってるよ 待ってるよ!

Aqours『未来の僕らは知ってるよ』 作詞:畑亜貴 作曲:光増ハジメ

後ろ歩きでの移動だがこれもなれたものだ。もはや縦バミリもほぼ見ていない。それでもちゃんと合うレベルだ。いつものタイミングで、ひーが自分の右を追い越していった。

2サビ後は勝手に横のらいにゃとキモいバランス勝負をしている。うーん、AsTeの時の方がうまく決まった気はする。まぁいいか。ドタバタと前に出て行って、2エイトの振りをこなす。上手と下手のメンツで踊り方がわりと違うのだが、仕様である。ステージ上手端をぐるりと回り込む。楽しい。

I live I live LoveLive! days!!

Aqours『未来の僕らは知ってるよ』 作詞:畑亜貴 作曲:光増ハジメ

心の中で叫んでしまった。もちろん、振りがブレないように、でも感情は振りにのったと思う。

ホンキをぶつけたら 叶うんじゃないかな…夢!

Aqours『未来の僕らは知ってるよ』 作詞:畑亜貴 作曲:光増ハジメ

いつの間にか落ちサビまで来ていた。急に終わりを実感する。振りで上を向くと、舞台袖の2階・3階で見守る事務陣が見えた。笑顔だった。祝砲…頼むぞ…。

ラスサビで銀テが飛ぶことになっていた。操作はスポットライト横で、ふなとむーみんが担当する。決まったタイミングで発射するので、みら僕を踊ってきたことのあるサポートダンサー勢が良いだろうという判断だったと思う。ただ、機械の調子と相性で、ある程度失敗する確率があった。リハーサルでの失敗を踏まえて、チェック事項(時間)を綿密に考えていた。それでも、ふなとむーみんが本番前結構心配していたのを思い出す。

プレッシャーになるので、あまり言わないようにしていたが、この銀テがうまく決まるかで、集大成がまとまって明るく先に進めるか、決まるもんだと感じていた。運勢を占う銀テと表現してもいいかもしれない。(と、私個人は思っていた。指差し確認)頼むぞ。ふな、むーみん。

千歌のソロパートが進んでいく。
振りむくような形で前を向く。

サビが始まると、404に広がっていく。いつもは606だが、銀テが飛んで来た時の見えを意識して狭くしたのだ。やはり意識は銀テに占領される。お願いだ。飛んでくれ…。

決まった振り通り、右手をグーで突き出す。
右足、左足と2歩踏んで、
そして、踏み切る。

スローモーションのように、視界が開けていった。客席がよく見える。飛躍は最高点に達した。まだ発射されていない。一瞬、不安になった

その時、

左右からキャノン砲の駆動音が聞こえる。
同時に、視界の上側に両方から金色のテープが飛び込んできた。

やった。飛んだ…。
飛んだぞ。飛んだぞ!

感情が爆発する。完璧だ。完璧な飛びだ。いつも、しょうもないところでコケるけど、ここ一番ではちゃんと持ってるのがTechoursだ。最後まで、派手にやってくれた。


Techoursの今までの道筋とこれからの門出を祝うかのような、
Techoursの終わりと始まりを告げる、祝砲だった。


Photo:@ITF_ProfF

感情爆発のエネルギーは身体全体に伝わってしまった。ツーステの体勢が崩れる。落ち着け、落ち着け。数歩で元に戻していった。最後まで、気を抜かない。パフォーマーとして、やり抜く。一つ一つの音を丁寧に、明るく取っていった。

未来の僕たちは きっと答えを持ってるはずだから
ホンキで駆け抜けて チャンスをつかまえて

光る風になろう We got dream

Aqours『未来の僕らは知ってるよ』 作詞:畑亜貴 作曲:光増ハジメ


[Ending] 未来の僕らは知ってるよ (Off Vocal)

みら僕のオフボが流れてくる。ラストポーズで座っていたところから、ゆっくりと立ち上がった。さて、最後だ。Techoursのライブストーリーを終わらせなければ。その号令の役割は私にあった。

ここまで、楽しんできた、そして守ってきたTechoursのライブ空間。愛おしい空間。それに終止符をつけるのか、泣きそうに……

なりそうなところでふと右を向く。もみじがボロ泣きしてるではないか。ここ、泣いちゃうの私じゃなかったっけ。立場的に。おい。私の涙返せ。

考え直せば、ここまで新入生3人は全力でぶつかってきてくれたのだ。わからないことばかりで辛い思いを飲み込んで。今や、新世代のスターだ。そんな内の1人のもみじに涙を渡すのも、なんか粋だなと思った。理由は、たぶんない。そんなことを考えてたら、笑ってしまっていた。慰め・尊敬・信託、そんな想いのこもったような。

終わるぞ。そんな想いを込めて、右手をもみじに、左手をまどかに差し出す。その手は左右へと繋がっていった。左右を見渡して、らいにゃとそだふろまで、そのリレーが繋がり切ったことを確認する。まどかがぶんぶんしてきていた。

終えるぞ、いいな?自分に向けて問いかけた。まだ心の中が落ち着かない。一つ、深呼吸を入れた。よし。整理がついた。

大きく息を吸い込む。今までの感謝を精一杯吐き出せるように。
「本日は、誠に…」
整理したはず、はずなのに、その瞬間、いままでの6年間がフラッシュバックしてしまった。夢見たあの日、新しい仲間が加わっていったあの日、良いものを創ってきた日々。間違ってないはずの未来を信じて、ただひたすらに駆け抜けてきた日々。その思い出とともに、想いが声に溢れ出ていった。
「あ゛りがとうございましだっ!!」

大きく頭を下げる。ダメだった。最後の最後で、ちょこっと泣いてしまった。だが、遅れて、達成感から来る幸福に包まれた。腕をぶんと振り上げ起き上がる。その時には笑顔だった。

ここまで満足できたのは、本当に久しぶりである。渡辺曜/朱夏さんパートとして受け入れてくれた、そしてそのプライドと(無い)技量を (運営面とかも) 唯一認めてくれていたTechoursで踊り切った。最後の渡辺曜/朱夏さんパートのステージが、ここ、Techours Finalのステージだった。その事実を大切にしたくなったのだ。しばらく、渡辺曜/朱夏さんのパートで、ステージに立つことは無いだろうな。じゃあ、ステージからは、引退か。老いぼれだしな。

それなら、最後に思いっきり目に焼き付けておこう。ぶんぶんと手を振っておいた。自分の中にある、役に対しての指令塔もそう指示していた。

上手Yから叫び声が飛んでくる。
「あしたも、来るからなぁ!」
嘘だろお前。

上下に示し合わせて、ハケ始めた。空間の隅々まで見回す。この風景を撮りこぼさないように。そして、上手袖が近づく。最後、全力で渡辺曜やっておこう。ヨーソローをかましておいた。じゃあな、ステージ。通路を抜けて上手袖のスペースに戻ってきた。


冷たいコンクリートの上に赤いマットが敷かれている。右手には既存音響のオペレーション機材がある。向こうには楽屋口につながる扉がある。そんな空間の真ん中までとぼとぼと歩いていった。


おさえていた感情があふれ出す。


「おわった、おわっちゃったよ。」


そう泣き叫びながらしゃがみ、うずくまっていた。自分の背中にまだ残っていた、抱えていた荷重が、砂になってザーと落ちた気がした。


リーダーをやめると言ってから2年と3ヶ月、リーダーの立場でありながら、メンバー全員に散々な迷惑をかけた。工大祭に再び立つというわがままも叶えてもらった。新しい仲間も増えた。そんな、中で決めた、集大成Finalの計画。勝手に、ずっと、「7年も続いてきた団体の最後の1年は派手にやってやろう。最後のステージは、メンバー全員が満足できる集大成にしよう。いや、そうしなければならない。そういう立場だろ?お前は。」と言い聞かせてきた。そのくせして、できないことはたくさん、改善されない問題ばかり、新入生にも悲しい思いをさせてばかり、その上勝手にリーダーを降りた。責任と罪悪感でいっぱいだった。でも、Finalさえできれば、Techoursが未来に向けて、また一歩踏み出せるようなFinalになれば、針の穴を通すルートだろうが、自分が悪者になろうが、倒れようがよかった。そして、今、そのゴールに最高な形でたどり着いたのだった。

嬉しかった。安心した。やり切った。良かった。寂しかった。愛おしかった。いろんな感情がごちゃまぜになっていた。しばらく起き上がれなかった。


波のように溢れ出た感情をひとしきり出して、顔を上げる。あたりを見回すと、あちらこちらで涙がこぼれていた。袖2階から降りてきた人もまた、涙目である。ステージから帰ってきた人も、袖で待っていた人も、役職関わらず、だれもが満足そうに泣いていた。そして、笑顔だった。


「報われた気がした」と泣きついてきたやつがいた。そうだよな、その立場、辛かったよな。俺も結局はそうなった。また、感情が溢れる。大喧嘩したけど、やっぱりこいつ(匿名)は、私のTechoursでの相棒だったと思う。ありがとう。お前(匿名)がいなきゃ、Techoursはここまで大きくならなかったよ。抱き合いながら大泣きしたのは、本当に久しぶりだった。


舞台袖からステージをみると、あまねさんが影ナレをしていた。そうだ。ここにちゃんとメッセージをこめてたんだった。聞こう。舞台袖近くまで寄っていった。

「以上をもちまして、Techoursの全公演を終了とさせていただきます。」
ここは、「全公演」にしておいた。ちゃんと区切りをつけたかったからね。

「本日の感想は是非、#Techours でツイートしていただけると幸いです。」
そうね、刻みつけたモノが、どんどん広がったらいいな…。いや、いいや別に。わかる人で分かり合えればいいや。

「記念撮影までのお時間をお借りして、Techoursよりご挨拶申し上げます。」
「自分たちの満足のいく精度まで、「単なるコピーとは言わせない」クオリティを目指してきました。」
「ダンスから始まったクオリティへの追求は、年を追うごとに広がり、ライブパフォーマンスに関わるあらゆる面をとことん突き詰める団体へと変わっていきました。少し、カッコつけた言葉にはなりますが、まさにそれがTechoursスピリッツだったのだと振り返ります。」
そうだそうだ。Techours Finalはその結晶なのだ。バケモンみたいなライブだっただろ。いいだろ。Techours。俺はそんなTechoursが好きだよ。


[Ending-2] Thank you, FRIENDS!! (Off Vocal)

「さて、Techoursという名前でライブパフォーマンスをお届けするのは、本日で最後となります。ただ、これが終わりではありません。Techoursに携わってきたメンバーで構成されるコミュニティを通して、枠にとらわれない様々な活動ができればと考えております。また、Techoursメンバーそれぞれが、様々な場所、分野で、ノウハウを活かしながら、十人十色の活動をしていくことになると思います。」
そうなのだ。さっきの祝砲が終わりと始まりを告げるものだったように、これが全ての終わりじゃない。われわれやりたいことはまだまだたくさんある。反省だってどうせ出るだろう。Finalなのに?当然だ。そういう人たちなのでね。これからも派手にやっていく。それを可能にするための、プラットフォームは作ろうと、2年前から考えてたのだ。期待しろ、全世界。

「てk、あっ、スp…」
あ、マイクの電池が切れた。このタイミングかいな。くすっと笑ってしまった。即座に優秀PAすえんごからシーバ―が飛んでくる。
「失礼しました、少々おまちくださ~い!」
むーみんがすっと、替えのマイクをあまねさんに手渡した。しょうもないことでコケるのも、それをちゃんと皆で支えるのもTechoursスピリッツらしい。あれ、さっきまで、あまねさん泣きそうになってなかったか?
「Techoursスピリッツの息のかかった作品を、この先も是非お楽しみいただければ幸いです。」

「こうして、ライブを通して作品をお届けできるのも、ひとえにTechoursを応援していただいた皆様のおかげでございます。長い間、ご愛顧いただきありがとうございました。」
ありがとうございました。ぺこり。

「巷には、我々の他にも素敵なパフォーマンスをする団体が数多くございます。「いってみたい」と感じたライブには、是非、足をお運びください。」
これは、ラブライブコピユニに限った話でもないし、プロ/アマどちらもである。もちろん、集団力/財力や機材の有無でできることは変わってくるかもしれないが、大切なのはそこじゃない。一つのライブに向けて、チーム一丸となって、迷いや葛藤を是として、取り組んでできたモノこそ、素敵なパフォーマンスが見れるものである。そしてそれは、生でしか感じ得ないのだ。そういった、姿勢・価値観が広がってほしい。そういう意味合いだった。
「こんな、ダンスパフォーマンスの魅力が、ライブ空間の魅力が、この先も続いていくことを、Techours一同、切に願っております。」

「改めまして、本日はご来場いただき誠にありがとうございました。」
ありがとう。あまねさん。やっぱりあなたに頼んで正解だったよ。あなたしかいない。

ステージからあまねが帰ってきた。これにて、プログラムはほぼ完遂だ。やりきった。心が充足されているのを実感する。みんなも、出すもの出したようで、満足いった所、ミスった所、しゃべり合い始めた。あぁ、いつも通りだな。


結構時間が経ってしまった。この後は演者とお客さんとの記念撮影だ。黙って待たせるわけにもいかないので、ステージへと戻ろう。ある程度、ダンサーが集まったことを確認して、再度ステージへとむかった。

ありがたいことに拍手で迎えていただいた。やっぱりここからみる景色は好きだな。

無計画で出てきてしまったことに気づく。らいにゃやまどかが「どうする?」と声をかけてくれた。え~と、ひとまず、カメラマンを呼ぼう。あとは…マイクか。再び袖に戻りマイクを受け取ってきた。PA卓に向かってにマイクの番号を指で示す。優秀な人がそこについているので、すぐさまONになった。

「はい、お待ちいただきありがとうございます。ということで!えーと、ダンサーと皆さんで記念撮影したいと思います!」
これも慣れたフレーズだ。
「え~と、」
どう説明していこうか、一考しようとしたとき、BGM流れてきた。これは…終演後のBGMか。兄様さんがつくったやつだ。いつもセトリはシークレットだ。でもたしか、
「完璧な1曲目の選曲思いついたわ。これしか無いわ。」
とかこの前言ってたな。え~とこの曲は…

m.o.v.e.の楽曲、『Rage your dream』だ。TVA『頭文字D』のエンディングである。兄様さんの選曲の意図が一瞬でわかった。崩れ落ちてしまった。


【注:ここから、『頭文字D』のネタバレを含みます。】

このアニメは峠の走りやの若者たちを描いた作品だ。1998年から始まり、2014年に最終話を迎えた。基本は1期前半エンディングだが、Final Stage(最終シリーズ)最終話のエンディングにも使われたのだ。その内容を引用しよう。

主人公の拓海は作品の途中から、Project Dというチームに所属し、数々のバトルに無敗で買ってきた。神奈川エリアの最終戦(最終シリーズで描かれているバトル)、ギリギリのバトルが展開され、無敗の主人公がついに負けに転じそうな場面で、主人公の車が回るはずのない回転数までオーバーレブし、その差で勝利を決めたのだ。ただ、実際には、主人公の車(呼称:ハチロク)はゴール直前にエンジンブローしてしまっている。Project Dに関しても、そのバトルを持って活動終了となる。次に紹介するのは、その後日談的なシーンの話だ。

「寂しいけど、最高の引き際と言えるんじゃないかな。この車は、今まで拓海の手足となって、数々の伝説を打ち立ててきたんだ。負けることなく静かに消えていくのが、この車にふさわしいのかもな。」

TVA『頭文字D』FInal Stage 第4話

「すでにいくつかのProチームから、オファーがあったんだ。」
「本当ですか、すげえ。この2人が羽ばたいていってくれれば、俺たちにとっても良い刺激になりますよね。 」
「夢は終わらないよな。 」
「 本当の意味でのプロジェクトDはこれからも続くんだ。な、そうだろ、涼介。」

TVA『頭文字D』FInal Stage 第4話

「この群馬の峠から、世界に通用するドライバーを育ててみたいと思ってい
るんだ。ここから羽ばたいていく、そんなダイヤの原石を、これからも見つけ出して育てて送り出していきたい。それが、プロジェクトDのイニシャル、Dreamに込めた俺の夢だから。」

TVA『頭文字D』FInal Stage 第4話

この後、Rage your dreamが流れる。そして、最後には、こんなメッセージが画面に映し出されたのだった。

「今日もまた若者たちは走り続ける。ひたすらに…夢に向かって…」

TVA『頭文字D』FInal Stage 第4話


【ネタバレ終わり】


そうか。僕らはTechoursというプロジェクトのなかで、“夢”を追いかけてきたのか。そしてその“夢”はこれからも、それぞれの道で続いて行く。“夢”ってそういう単語だったのか。ライブ中に様々な曲の歌詞で拾った“夢”、これはなんだろうという答えが、終演後のDJの選曲で落ちてくるとは思いもよらなかった。兄様……さすがだわ。DJの選曲でここまで感動したのは初めてだった。客席にいる兄様を探して(上手扉)、Thums upを送っておいた。

お客さんをほっておいて崩れてしまっていた。まずいまずい、記念撮影の準備の様子を確認する。ちょうど、ゆきひろが脚立をもってきてくれたところだった。もうそろ準備できそうだ。ナイスタイミング。

その後はいつも通り、記念撮影を進めていった。L字、Techoursポーズの2種で撮った。Techoursポーズに関しては素敵な掛け声で撮った。ほにゃららのの苗字はほにゃららだね。ありがとう。あなたも、Techoursがここまでたどりついた、立派な立役者だと思っています。

#Techoursでの感想を促した後、交流会について軽く説明していく。もうこれが終われば、アナウンスすることもまったくなくなる。ただのオタクが集まった空間になるのだ。ダンサーがスマホを取りにいったん戻るかと思ったら、らいにゃはすでに持っていた。メンズ勢のボトムスにはポケットがついているのだ。偉い。

気づけば、DJは次の曲になっていた。UNISON SQUARE GARDEN『101回目のプロローグ』である。これは来ると思っていた。選曲の意味も容易にわかる。

君だけでいい 君だけでいいや こんな日を分かちあえるのは
きっとつたないイメージと でたらめな運命値でしか描き表せないから
君だけでいい君だけでいいや いたずらなプロローグを歌ってる
約束は小さくてもいいから よろしくねはじまりだよ

UNISON SQUARE GARDEN『101回目のプロローグ』 作詞曲:田淵智也

さっきも言ったことだ。大衆迎合的にならなくていい。わかるやつらと、その価値を分かち合えればそれで幸せなのだ。そうだね。はじまりだね。


その後は交流会となっていった。2時間くらいやっていたと思う。非常に多くの方にご来場いただいた。その2時間、ずっと誰かとお話していたと思う。言葉も稚拙な小生にこんなにもお声がけいただけるとは、嬉しい限りである。

途中では、Techours OB・OGも含めた記念写真を撮る機会があった。これからは、OB・OG分け隔てなく、ファミリーとして、コミュニティにいてくれれば嬉しいな、まぁ常駐しなくとも、どっかで、長い目で関わっていきたい方々だと思っているので、そういう仲間でお写真を撮れたのは個人的にとても嬉しかった。

その後は、交流会と平行してユニット別、年齢別のお写真撮影会が始まった。ユニットはもちろん、しゃろん。アイドルっぽくしてやった。俺は女の子じゃねぇぞ。年齢別は、Dooomがお時間の都合上で既に会場を後にしていたので、らいにゃとのツーショットだった。Techours的には1年後輩だが、その世代は皆Techours同級生だと思っていた。遠慮なく色々相談できた。らいにゃは同じ東工大生で年齢も同じなので、特に迷惑をかけたし、お世話になったかな。お互いのダンスジャンルっぽいポーズで、そしてそれを交換して写真を撮ってもらった。後者は酷い出来である。HiphopとJAZZだからな。そりゃそうだ。その後のひとつ下の代は、すえんごが女の子たちに囲まれていた。イケメンめ。両手に花ってか。よく見てみると、ちょっと困惑というか、謙虚というか、タジタジとしていた。可愛い。

交流会前後の行動でずっと後悔している事がある。音響・照明卓を始め、事務勢ともう少し、話しておけばよかったと思っている。事務もダンサーもパフォーマーだと豪語しているにもかかわらず、ライブ終了直後にスタッフ勢に感謝や想いの共有をしに行かなかった。そういう所こそ、尊敬を示すべきところだったのに、である。実際、音響・照明卓のメンツに話に行ったのは、ある程度時間が経ったあとだった。ここのスタッフのかっこいいところを、もっと交流会で豪語すべきだった。申し訳ない。


16時を過ぎると、できるところから片付けを開始していった。17時から貨物車を借りているので、それに合わせた動きだ。これにはダンサーも順次できる範囲で加わっていった。お客さんが全員帰られると、片付けの動きは一気に加速していった。

わいわいとした感じはあまりなく、とても静かだった。アドレナリンが切れたのもあるし(それで倒れちゃった人はいた)、悲しさが襲ってきている部分でもあった。数か月前から検討して、1・2月にたくさん実験して、昨日今日と準備してきたこの空間を、一つ一つ、元ある状態へと戻していく。バミリをはがし、広告物をはがし、コードを巻き、ゴミを片付けていく。片付けという作業をすることで、「終わった」という事実を突きつけられているような気がした。

片付けの後半は、抜け殻になっている人も多かった。輸送計画の一端を担ってきた人なので、ぼーっとなるわけにはいかない。ムチ打って、振り分け等のきついタスクを淡々とこなしていった。

夜になると、大方片付け終わり、後は、今日お返ししに行く荷物を車に積み込むだけとなった。各自がバラバラの場所にいる時間が少しあって、そのタイミングでは、舞台袖の個室で昔話をしていた人たちもいた。記憶が定かではないが、この段階で解散前のひとまずの集合といただいたお土産の配布をしていたと思う。ごはんを食べてなかったことに気づき、エネルギーになりそうなお菓子をたらふく食べた。この後、再度みんなで集まる予定は合ったので、別れを寂しく思うことは無かった。


今日お返しに行く荷物の輸送は、その昔話の顛末でむーみん・もるのリーダー陣2人とドライバー兼メンターの兄様で行うことになった。決定したときのむーみんは、テンションというか思考過程がおかしかったと思う。ライブ後の「もう、なんでも楽しくなってきた」になるアレのように、私目線は見えた。

みんなが大荷物で駅へと坂を上がる中、我々3人は車で講堂を後にした。車内で話した記憶は、残念ながらあまり多くを覚えていない。本番の話、昔話、リーダーの苦労話だったと思う。リーダー両名とも、リーダーとしての自信がなくて兄様が頭を抱えていたし、なぜか話の顛末で全員泣き出していたと思う。返却後にコンビニで買ったサラダチキンが、とてつもなくおいしかった記憶ははっきりとしている。空腹に空腹だったのだ。

自宅前に送り届けてもらったのは午前1時半ごろだった。ドアを開けて助手席から降りる。このドアを閉めれば、自分ひとりになってしまう、そして家に入れば、Techours Finalがあった3月10日が終わってしまう、そう思ってしまった。ドアをパタンと閉じる。兄様さんの車のドアがここまで重く感じたのは初めてだった。


玄関の鍵を開けて中に入る。玄関には、片付け中一度帰った時に、投げていった荷物が散乱していた。これを乗り越えれば、自分にとってTechours Final当日が終わってしまう。そう思った。5分か10分くらい、それを飲み込めずに立ち尽くしていた。あれだけ満足したとしても、やっぱり、心の奥底では寂しい部分があったのだ。

意を決して乗り越える。振りかえればまだそこに荷物の山はあった。でも、今は夢の跡の様に見えた。そうか、今日は終わったんだな。自室のベッドへ一度腰掛けると、そのまま倒れるように寝てしまった。そういえば、自分の身体は満身創痍だった。



Epilogue


時計を見る。「2024年12月31日 4:59」と表示されていた。こんなにも時間がかかってしまった。Techours Finalの記憶容量がここまでだったのかと痛感する。

とはいえ、結構忘れてしまっている部分も大いにあった。今年の3月中に書けば1.25~1.5倍くらいのボリュームになっていたことだろう。これからは、自分が思ったこと、思い出はその都度ちゃんと書き起こして残しておこうと思った。大切なことだ。なお、このサイトは後から編集できるようなので、思い出したことがあったら追記することにした。

そういえば、
「もるさん、Techoursで卒論・修論書きましょうよ」
としきりに言ってきた人がいたんだったっけか。Techoursで考え、実行してきたことについてまとめてみろ!という意味なのだと思う。それなら、これは修論レベルになっただろうか。4万8千字と少しの文量になっていた。出来事から、自分の考えていたロジックもちゃんと附しておいたので、おめがねに適うものになっただろうか。

こうやって書き起こしてみると、どれだけ自分がTechours Finalに熱心になっていたのかがよくわかる。実際、3月からのこの1年(正確には9か月)、Techours Finalの動画を見返しては、その時の感情を思い出して、力をもらっていたようなことをしょっちゅうしていた。当分抜け出せそうにはないかもしれない。そういう性分なのである。

その中には、エゴだなぁというものもたくさんあった。今回はオブラート無しに、自分の想いを、考えをちゃんと書くと決めていた。指差し確認だが、これはTechoursの公式見解ではない。一個人の考えに過ぎない。もう一つ指差し確認、ここであげたロジックは、自分が是としているものであって、社会的にも正しいとは限らない。むしろ、外れ値の人間なので、正しくない方が多いかもしれない。なので、冒頭で、読みたいやつだけ読めばいいと注記しておいたのだ。

最後に、一つの歌詞を引用して、この文章をしめることにしたい。Techours 2023年度のPV(2021から毎年、私的に、団体の皆向けにPVを勝手に作っているのだ)で使った曲、UNISON SQUARE GARDENの『harmonized finale』である。

harmonized finale 星座になる
沢山の願いを乗せて
誰かを愛したいとか 君と笑っていたいとか
光に包まれる街で
理由のない涙もあるけど
想い続けていればきっと会えるから
大切な言葉今ヘタクソでも言わなくちゃ
誰かと誰かを繋ぐ空の下
ありがとうありがとう ここからまた始まってく
今日が今日で続いていきますように

UNISON SQUARE GARDEN『harmonized finale』 作詞曲:田淵智也

実は、言いたい事、全部この曲にまとまっていたのだ。田淵、恐るべし。


それでは。


2024年12月
もる


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