見出し画像

【ユニセフ】子どもの権利条約実施ハンドブックを読んでみよう③〜日本のチェックリスト〜

前回前々回と、ユニセフが子どもの権利条約の周知のために発行しているハンドブックの9条(親子不分離の原則)を読んできました。今回は最終回で、章末にあるチェックリストを使って、日本の履行状況を判断してみたいと思います!

■第9条章末チェックリスト

ハンドブックの各条解説の後に、導入チェックリストがあります。今回は9条のチェックリストのうち、重要と思うものを抜き出して日本に関してチェックしてみたいと思います。

スクリーンショット 2021-09-30 2.21.08

スクリーンショット 2021-09-30 2.22.04

スクリーンショット 2021-09-30 2.22.36

スクリーンショット 2021-09-30 2.23.00

■ポイント1:加盟国は親子の別離が「子どもの最善の利益に反する時のみ」行われることを確保しているか?

この最初のポイントで、日本はいきなり違反しています。

日本が採用している単独親権制度は、「子どもの最善の利益に反する時」でなくとも必ず一方の親が親権を失う制度です。親権を失った親は子どもの成長に関わる権利を失います(親権を獲得した親が許可した場合のみ、子どもの成長に関わることができるようになります。したがって、次のポイントにもあるように「父母間で意見の相違がある場合」の調整機能が存在しないことにもつながります)。

・日本では司法が関与することなく子連れの別居や協議離婚が可能であるので、「子どもの最善の利益に反する」かどうかと関係なく、いつでも一方の親と子供が引き離され得ます。

■ポイント2:子どもの居住地や親子交流について父母間または親子間で意見の相違があった場合に、子どもの代理人として司法介入できるような国内法があるか?

ありません。
・日本では司法関与なく子連れの別居や離婚が可能であり、その際に父母間・親子間の意見の相違があった場合に、国家はそもそも検知すらできていない。

・父母間、親子間で意見の相違があった場合に、父母のどちらかが裁判所に調停を申し立てない限り国家は仲裁機能を果たしていない。調停の多くの場合が、既に子どもの居住地や親子交流に関する意見の相違が表面化し、一方の親が実力行使でもう一方の親を引き離した後に行われています。司法の判断よりも引き離しが先に行われているので、順番が逆です。

・一方の親が同意なく子供を連れて別居を開始した場合に、国家(警察)はそれを取り締まっていません。連れ去りが発生した後に、「連れ戻し」をする場合だけは取り締まられていますが、そもそも最初の「連れ去り」は全く取り締まられていません。最初の連れ去りが未成年者略取誘拐罪で告訴受理されたというケースは散見されますが、実際に逮捕・起訴に至った例はないようです。

■ポイント3:子供が児童養護施設や里親等の下にいる場合でも、子どもの利益に反しない限り最大限の両親との交流を加盟国は確保しているか

この点も日本は守れていません。
・児童相談所に保護された子供は親とほとんど会えない問題が、ニュースなどで報道されています。
・里親に出された子供は、ほとんど実親と会えることはありません。

■ポイント4:親子を引き離す根拠となっている子どもの最善の利益を判断するための手続きは、あらゆる差別や固定観念から自由なものになっているか?(例えば子供は母親と一緒にいる方が良いなどの固定観念や、国籍や貧困に基づく差別)

これもなっていません。
・近年まで、日本の司法における親権者の決定基準において「母性優先の原則」があり、子供は母親といるべきであるという偏見に基づいて親権者が決定されてきました。この原則が以前ほど重視されなくなった今も偏見は色濃く残り、日本で親権者になるのは女性が9割程を占めます。

・日本の司法における親権者の決定基準において大きな比重を占める「継続性の原則」も、「今子供と一緒にいる親がいい親であり、環境を変えない方がよい」という偏見に基づくものです。その証拠に、親権者の決定時に行われる家庭裁判所の調査官調査は、本来両親両方の育児環境を調査して比較検討するべきですが、多くの場合既に子供と居住している親側の調査しか行われません。

参考:「離婚」の調停成立又は調停に代わる審判事件のうち未成年の子の処置をすべき件数  親権者別  全家庭裁判所
https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/313/009313.pdf

親権と母性優先
https://www.saitoyutaka.com/2020/06/4144/

■ポイント5:親子の引き離しを行う判断は全て、権限のある当局によって行われているか?

行われていません。これも明確にNOですね。日本では子供がいる場合でも協議離婚が可能であり、司法当局の判断はそもそもなく、勝手な親子の引き離しが当事者間で行われています。

■ポイント6:これらの手続きはスピーディに行われているか?

スピーディではないです。日本では、この監護事件の審理に平均して9ヶ月弱もの期間がかかり、その間の親子の交流は全く保証されていません(次項で述べる通り、審理後も保証されていないのが実態ですが)。

スクリーンショット 2021-10-04 0.51.57

■ポイント7:国内法は、いかなる時でも子供は両親と可能な限り定期的に交流を持つべきであるという原則を謳ったものになっているか?

全く謳っていません。日本では親子の交流を確保するような国内法は存在しません。民法766条で、離婚後の面会交流を「協議する」ことにはなっていますが、実際には行われなかったり低頻度であることがほとんどであり、権利としての保護は全く行われていません。最高裁判所は、2021年7月に「面会交流の権利は憲法上保障されているとは言えない」と判断しています。条約は憲法と同格のはずですが、その条約が「親子の交流」を確保することを求めていることとは完全に逆行する判断に思えます。


★「定期的な交流」は原文だと(Regular contact)となっています。この部分の和訳は誤解を招くもののように思います。Regularの意味を英和辞書で調べると、
 - 1. (間隔などが)規則的な, 一定の, 均等な
 - 2.定期的な, 定例の
 - 3. 常連の, よく…する〈人〉; よく起こる; 頻繁な
 - 4. 通常(通り)の, いつもの(usual)
 とあります(ウィズダム英和辞典。5以降省略)。親子の不分離を謳い、条文の他の部分では可能な限りの親子の接触を重視している第9条においては、"Regular"は3や4の意味で翻訳するべきなのではないでしょうか?つまり、「定期的な交流」ではなく「頻繁な交流」と翻訳するのが、本来の条文の意図ではないかと思います。今後、子どもの権利条約成立時の議事録などから調べてみたいと思います。

■結論:子どもの権利条約9条「親子不分離の原則」について、日本はダメダメのダーメ

筆者のような一個人が勝手に判定しても意味がないかもしれませんが、素人目にここまで見てきて、親子の分離を防ぎ頻繁な交流を促進するような国内法が全く存在しない日本は、かなり根本的なレベルで子どもの権利条約9条を守ることができていないように思います。
今回細かく見ませんでしたが、児童相談所による親子の引き離し問題も、子どもの権利条約9条に照らして、問題点が多く指摘されているようです。
それが故に日本は、海外から非難されたり、国内でも親子断絶を防がない政府に対して国賠訴訟が多く提起されていますね。


いいなと思ったら応援しよう!