【論文紹介①】共同親権のほうが単独親権より子供に好影響
日本でも離婚後の共同親権制度の導入が取り沙汰されるようになって来ています。ネットの議論を見ると、共同親権は危ないとか単独親権がいいとか色々な意見が出ていますが、どれも印象論が多いような気がしています。法務省が各国の法制度を調べているものの、『共同親権にすると子供のためになるのか』『子供には両親がいた方がいいのか片親で良いのか』『離婚後両親にどれくらい会わせるのが良いのか』という子供の発達面への注目が十分ではないと思っています。そこで、そのような論文が海外でないか、調べてみました(海外は早いところだとアメリカのように1970年代から共同親権制度になっており、多くの情報の蓄積があります)。
1万字ありますが見出しだけ読めば結論が分かると思います。
■本日ご紹介する論文は、これ
『共同身上監護 vs 単独身上監護:60件の研究から見た、親子関係、収入、高葛藤の影響を取り除いた子供への影響』
著者:リンダ・ニールセン (米ウェイク・フォレスト大学教授)
雑誌:Journal of Divorce & Remarriage
発行:2018年4月11日
(2022年11月24日追記)
上記論文は法制審議会で関西学院大学の山口亮子教授も引用されています。対人論証にならないよう論文の内容自体を精査するのが第一ですが、一定の信用のできる論文と言って良いかと思います。
法制審議会家族法制部会第5回会議(令和3年7月27日開催)
山口参考人提供資料
https://www.moj.go.jp/content/001354871.pdf
■共同親権の方が、単独親権よりも子供に良い。
このレビュー論文でニールセン教授は、過去の60件の先行研究をまとめて共同親権と単独親権の子供への影響を比較しています。他にも単独親権と共同親権を比較したレビュー論文やメタ分析はありますが、ニールセン教授の論文の顕著な点は他より多数の60件の研究を網羅的にまとめているという点と、2018年と比較的最近にまとめられたものという点です。
その結果は、60件のうち大半の研究において共同親権の方が単独親権よりも子供にとって良い効果が見られたというものでした。表にすると次の通りです。
60件中48件の研究は、共同親権の方が、子どもに全項目または一部項目で単独親権よりもよい効果があったと報告しています。『良い効果』の意味合いは、研究ごとに調査項目が異なりますが、学業成績や認知能力、心身の健康、問題行動の少なさ、親子関係の良好さなどです。それぞれの研究はサンプルサイズや調査国、調査項目等が異なるので単純比較出来る訳ではありませんが、逆に様々な観点から見ても結論が同じであったという事は、共同親権の方が子供にとって良いものであるという結論を集合的により補強するものといえます(社会科学領域で "Convergent Validity[収束的妥当性]" と言うそう)。
特筆すべき点として、全体として数十〜数百人程度の児童を調査した研究が殆どの中で、共同親権が子供に好影響であったと報告した研究には、サンプルサイズが大きく信頼度の高いものが含まれている事が挙げられます。例えばスウェーデンでの4万5000人の児童を対象とした研究(共同親権約1万5000人、単独親権3万人)や、WHOによる欧米36カ国の児童2万8000人のデータを元にした研究(共同親権2,200人、単独親権2万5500人)のように、数万人規模の児童を対象とした研究も共同親権が児童に対して有意に好影響であったと報告しています(Bergstrom 2015、Bjarnason 2011)。
※正確には、後述しますが共同親権の要素のうち、共同身上監護(離婚後も三分の一以上を両方の親と生活すること)についてこの論文ではレビューしています。
■共同親権の方が、単独親権よりも子供に良い。たとえ親子関係が悪かったり、収入が低かったり、高葛藤であっても。
共同親権の方が子供にとって良いという話が出る場合に、よく見る反論として「収入が高い父母が共同親権だったから偶然そう見えただけ」「親子関係が良かったり親の子育てスキルが高かったから偶然そう見えただけ」「高葛藤の場合は共同親権は良くない」というものがあります。それについても、ニールセン教授はまとめています。
①高葛藤でも、共同親権の方が良い
両親が離婚してもまだいがみ合っているような場合(いわゆる"高葛藤" 案件)では、共同親権にしてしまうと子供が板挟みになってマイナスの影響があるので、単独親権の方がよいという意見を言う人は多くいます。感覚的にはなんとなくそうかも?と納得する面もある意見です。しかし全60件のうち19 件の論文では、夫婦間の葛藤レベルを補正して共同親権と単独親権を比較しています。これによると、直感とは逆の事実が見えてきます。たとえ高葛藤であっても、共同親権で両親に会えた方が、単独親権よりは子供には良い影響が見られたのです。
「共同親権で子育てできているのは葛藤が少なかったからだ。高葛藤では無理だろう」と想像する人も多いと思います。しかし実態はそうではありません。例えば、ニールセン教授は2017年にも類似のレビュー論文を書いていますが、それによると7件の研究において共同親権の家庭と単独親権の家庭で父母間の葛藤のレベルは同じであり、共同親権になった父母の3割〜7割は当初共同親権に反対した高葛藤ケースだったそうです。そのような高葛藤ケースを含んでもなお、7件全てで、共同親権の方が子供に良い結果が見られたとの事です。(そのような高葛藤父母がどうやって共同親権に至ったのかは不思議に思います。おそらく、ガイダンスで共同親権の子供へのメリットを理解したり、或いは司法が共同親権を推すなどの働きかけがあって渋々始めたのだろうと思います)。
例えばBuchananらの1996年の研究では、51人の共同親権家庭の子供と455人の単独親権家庭の子供を4年半追跡した研究において、共同親権家庭の8割の父母は当初共同親権にすることに反対し、中には子供まで巻き込んだ高葛藤ケースまで含まれていましたが、それでも共同親権家庭の方が単独親権家庭よりも子供にとって良い結果であったそうです。
また、上記の2017年のニールセン教授の論文では、別居直後と一定期間後の夫婦間の葛藤レベルを調べると、共同親権であっても単独親権であっても、数年後の夫婦間の葛藤レベルは変わらなかったそうです。
この事から、葛藤が下がったから共同親権が続けられると言うことでもなく、共同親権にしたら元夫婦がまた仲良くなるという事でもないようです。これらから見えてくるのは、高葛藤で父母は嫌々ながらの共同親権であっても、子供にはプラスであるということです。
②両親の収入に関係なく、共同親権の方が良い
親が経済的に豊かである方が子供の生活にゆとりがあり、発育に良い影響があるであろうことは誰しも容易に想像できます。すると、「共同親権にしている家庭にたまたま高収入の家庭が多かったから、共同親権がよく見えただけなのでは?」という疑問が当然湧いてきます。(実際、高収入・高学歴の親は共同親権を自主的に選ぶ割合が多いそうです)。
この疑問に答えるような、両親の収入レベルを補正して共同親権と単独親権を比較した25件の研究の結果が、下記の通りです。収入の影響を除去してもなお、共同親権の方が子供に良い影響があることがわかります。
面白いことに、カナダのDrapeauらの研究では、共同親権の家庭の中で比べると高収入な親の方が確かに子供は内面的な問題が少なかったのですが、単独親権家庭では収入が高くても子供の内面的な問題は減らなかったという結果が出たそうです。「お金で幸せは買えない」と筆者は述べています。
③親子関係の良好さや育児スキルの高さと関係なく、共同親権の方が良い
最後に、親子関係が良かったり、親の育児スキルが高い方が子供にとって良い環境であることもほとんど誰も異論はないでしょう。では「共同親権で子供に良い影響が出たのは、たまたま親子の仲が良かったり、親の育児スキルが高かったからではないか?」という推測も成り立ちます。この点についても、育児スキル(しつけ、監督、指導的子育て)や、親子関係の良好さ(愛されていると感じるか、安心感、気楽に話せるか)を補正した上で共同親権と単独親権を比較した9件の研究が、答えを教えてくれています。それをまとめたのが下表で、親子関係や育児スキルを考慮してもなお、やはり共同親権の方が子供にとって良いと言う結果が出ています。
ちなみに脱線しますが、「指導的子育て(Authoritative Parenting)」とは、教育学上の子育てスタイルの一つで、4つのスタイルの内で最も子供に良いとされているそうです(下図)
→Here’s what makes ‘authoritative parents’ different from the rest
■では、収入や父母間の葛藤や親子関係は、どうでも良いのか?
もちろんそんなことはありません。子供にとって親の収入が高いことは基本的に良いことですし、両親の葛藤が少ない方が良いですし、親子関係が良くて親の育児スキルが高い方が、当然子供にとっては良いです。取り上げられている60件の研究でも、これらの条件が良い方が子供に好影響であることは見出されています。しかし、これらの条件が同じならば、共同親権の方が、単独親権よりも子供のためになると言うことです。これは私の理解ですが、イメージ図にすると下の図のようなことだと思います。共同親権の方が、同じ条件ならゲタを履いていて有利なんですね(※あくまでイメージ図です)。
■いやいや、共同親権の方が劣っていた研究も6例あるではないか。そこはどうなの?
共同親権の場合にマイナスの効果を報告したものも6件ありました。共同親権が完全無欠ということはないでしょうから、これらの結果を踏まえることも重要です。以下にその6件の概要を紹介します。個人的には、そこまで大きなマイナスではなかったり、かなり特殊な状況でだけ発生するマイナスに思えました。
(1) Lodge & Alexander, 2010
・105人の共同親権家庭の子供 vs 398人の単独親権家庭の子供(12〜18歳)
・共同親権の男児は他人と打ち解けにくい(女児では見られず)。
・他の項目は差がない
(2) McIntosh, Smyth, Kelaher, & Wells, 2010
・191人の単独親権の乳児 vs 22人の共同親権の乳児
・6項目中2項目で共同親権が劣る(①タスクの継続力②母親を見つめるか)
・共同親権だと問題行動が多い(母にしがみついて離れない、食事を食べない)
→有意差ではない上に、"それって問題ですか?"という著者のつっこみ
(3) Vanassche et al 2013
・385人の共同親権児童、545母親単独親権、92父親単独親権
・共同親権と単独親権で大差なし
・離婚後8年も夫婦間高葛藤だと、女児は共同親権で悪影響
・父と関係が悪いと共同親権だとより鬱が多い。親権というより親子関係次第
(4) Sodermans et al 2014
・単独親権児童400人 vs 共同親権児童104人
・総合的には鬱や生活満足度では同等
・共同親権だと、生真面目な性格の子供がより鬱になりやすい。
・共同親権だと、外交的な性格の子供が、人生がうまくいっていないと感じる
(5) Sandler 2013
・単独親権の子供74人 vs 67人の共同親権の子供(いずれも高葛藤、思春期)
・共同親権で、かつ両親への評価が低い子供は問題行動と感情問題が多い
(6) Tornello 2013
・子供は0〜5歳
・両親が貧乏、都市居住、8割の父母は未婚で同居もしていない、両親の投獄、
薬物中毒、暴力、劣悪なメンタルヘルス
・そのような両親の場合、年50日父と宿泊するより昼にだけ父に会う子の方が、
母親との親密さが強い
・それ以外に共同親権と単独親権で差はない
■そもそも、共同親権とは : 十分な時間両親と会えることが重要
ここまで、通りが良いかと思い「共同親権」という言葉を使ってきましたが、論文中での正確な言葉は、『共同身上監護権(Joint Physical Custody)』です。
日本の親権の説明でよく出される下図でいう身上監護権、これを父母が共有するのが「共同身上監護権」です(アメリカと日本で身上監護権の内容にも違いがあると思われますが、ここでは深入りしません)。ようは、「親子が親子として過ごす時間を父母共に持つ」という事です。
しかし、この割合が父母で偏りすぎている場合は、『共同』とは呼ばないのが、海外でのスタンダードのようです。共同身上監護(Joint Physical Custody)とは、現在一般的になっている定義では、
です(昔は25%でも共同身上監護と呼んだそうです)。
例えば毎週土曜9:00〜日曜17:00まで離婚後も父親と暮らしたら日本だと凄く多いと思われるかと思います。しかしこれでは月720時間のうち18%にしかなりませんので、共同身上監護とは呼ばれません。日本で「共同親権」と言った場合に、身上監護の部分について海外と同じ定義である「三分の一以上の時間を両親と過ごす」を指しているのかどうかは意識的に確認するべきでしょう。この論文での「単独身上看護」には、月三分の一に満たない共同養育も含まれています。そのうえで、「共同身上監護」の方が「単独身上監護」よりも子供に好影響があったということですので、三分の一以上を過ごすようにしなければ「共同身上監護」の子供へのメリットは享受できないということです。
Baudeら(2016)によるメタ解析では、共同親権の家庭の内でも、月の50%を父親と過ごす家庭(つまり完全50:50共同監護)は、35%〜50%を父親と過ごす家庭よりも、効果量(Effect size)が5倍も大きかったそうです。このことから、もちろん養育の「質」も大切なのですが、それは最低限のラインを超えてからの話であって、まずは三分の一以上できれば半々の時間を過ごすという「量」が大切になってくることが分かります。
ここから示唆されることは、
の順で子供にとって良い影響があるようであるということです。
■その他、興味深い事実
★Nilsenら(2017)のノルウェーでの研究では、再婚しても、単独親権家庭の子供の感情面の問題は改善しないと報告されています。398人の共同親権家庭の子供と、212人の再婚シングルマザー家庭の子供、1011人の独身シングルマザーの家庭の子供を調査したところ、共同親権家庭の子供は感情面の問題が少なく、また再婚シングルマザー家庭では再婚しなかった場合と比べて改善は見られなかったようです。
★Havermansら(2017)のベルギーでの研究では、学業や学校内での行動について、「もっとも良好な結果を出したのは、親が高学歴な子供ではなく、親とのーー特に父親とのーー関係が良好な子供であった」と報告されています(註:これはちょっと意外に感じました。知能は遺伝によるものの割合が高いと聞いていたので離婚問題とは関係ないかと思っていました)。また、「両親の二つの家を行き来すると子供に負担であるという意見があるが、共同親権の家庭の中で、週に何度も親の間を行き来する子供と、一週間交代で親の間を移動する子供とで結果に差がなかった事は特筆に値するだろう」と述べており、両親の家を行き来することは子供の負担にならない(少なくとも共同親権のメリットを打ち消すほどではない)ようです。
★子供のジェンダーによる離婚の受け止め方の違いもあるようです。例えばVanasscheら(2013)の395人の共同親権家庭児童と1045人の単独親権家庭児童を比較した研究では、離婚後8年間しても元夫婦間での高葛藤が続いたような激烈なケースでは、男子は共同親権の方が良く、女子は単独親権の方が良い結果が出たとあります。またBuchananらの研究では、離婚後4年経っても高葛藤が続いたケースでは、共同親権か単独親権に関わらず、男子の方が女子よりも抑うつ状態にある傾向がありました。(解釈が難しいですが下図のようなことでしょうかね......?)
★Carlsund 2012は、ニールセン教授は「JPCがSPCより優れていた」という点しか触れていませんが、概要を見る限りだと主眼は「普通の二人親家庭よりJPCは劣っていた」という点のようなので、「婚姻二人親家庭>共同親権>単独親権」のようです。
★共同親権と単独親権との差が比較的差が出にくかったのは学業・認知能力で、共同親権の方が好影響という研究もあるものの、同等であるという研究の方が多数であったようです(学業・認知能力を比較した研究10件の内、3件で共同親権が優位でしたが、7件では同等でした)。逆に、共同親権の効果が一番大きく現れるのは、ある意味当たり前ですが親子関係の良好さで、23件の研究中22件の研究で共同親権が優位でした。
これは、日本だと元財務官僚・世銀副総裁の日下部元雄氏の研究で、「離婚後父親と接触が少ない子供は、精神的問題や非行・薬物・失業・離婚が多いが、専門的な職に就く可能性は少し増える」という結果と整合するかもしれません。
■論文の内容についてもう少し詳しく
ニールセン教授のレビュー論文で調査された60件の研究について、以下でまとめておきます。
○先行研究の抽出方法
3つの論文データベース(PsycINFO, Social Science Citation Index, and ProQuest Social Science.)を「joint physical custody, shared parenting」等のワードで検索し、共同親権と単独親権を比較した定量研究を抽出。その結果60件がヒットし、バイアスを避けるために全件を調査に含めた。うち53件が査読論文で、7件はオーストラリア政府による報告だった。
○集計方法
60件の研究は、調査した子の福祉「well-being」に応じて5種類に分類された。この分類は過去のレビュー論文でBausermanやBaudeも用いたのと類似の分類であった。
(1)学業および認知能力
(2)感情および心理学的側面(うつ、不安、不満、自尊心)
(3)問題行動(家や学校での不品行、多動、薬物、タバコ、アルコール)
(4)身体の健康・ストレス起因の身体症状(不眠、消化不良、頭痛)
(5)親子関係(コミュニケーション、心理的距離)
さらに、全60件のうち44件の研究は、父母の収入(Income)、父母間の葛藤(Conflict)、親子関係の質(Parenting)による影響のいずれか又は複数を考慮し、これらとは独立して「共同親権と単独親権」の違いが子供に与える影響を調査していた。
○60件の研究の一覧表
このレビュー論文のコアである、対象研究60件の一覧表です(著者による表を日本語化しつつ、調査国・報告年の欄を加えるなど若干手を加えてあります)↓
記号の意味
C(Conflict):両親間の葛藤、I(Income):収入、P(Parenting):親子関係及び育児スキル
=:等しい、>:JPC家庭の方が大きい、<:JPC家庭の方が小さい、*:統計的にその因子の影響を調整、C+:特に高葛藤のケースを含む研究、無印:当該属性を考慮に入れた研究(だが統計的手法ではない?)
○このレビュー論文(と引用されている論文)の限界
(a) 相関関係の研究であり、因果関係の研究ではない
(b) 60件の研究は品質がバラバラである
(c) 効果量(Effect size)が小さめで、Small〜Moderateである
↓(参考)効果量の目安
■バイアスのかかった他研究への言及
この論文の中で、ニールセン教授は、オーストラリアのスミス教授やアメリカのエメリー教授の論文に対しての批判を行っています。ニールセン教授とスミス、エメリー両教授は親権のあり方に関する立場が反対の論敵のようなので、ニールセン教授の主張だけでどちらの言い分が正しいか判断するのは危険ですが、以下にまとめておきます。
○スミス教授やエメリー教授による恣意的な引用と曲解
というように、エメリー、スミス両教授は原論文の内容をかなり歪めて伝えているようで、本当ならばかなり悪質ですね(上記の論文は今回読めていません)。エメリー教授は自分の論敵のことを「学者によるアドボカシー(学者兼ロビイスト)」と批判しており、反対にニールセン教授は相手のことを「Woozling(存在しない事実を何度もいうことにより実在する問題かのように錯覚させる手法)」と批判しています。互いに相手のことをデマだと言い合っているようです。
○スミス教授らの都合の良い研究のピックアップ
このFehlberg, Smythや Trinderの研究について、ニールセン教授はバイアスがあると指摘しています。この疑義のついている論文が、法務省平成26年12月「各国の離婚後の親権制度に関する調査研究業務報告書」で小川富之教授により引用されています。小川富之教授はオーストラリアの新聞からオーストラリア家族法について誤認識を指摘されてもいます(こちら)。日本の法務省は中立的な視点で調査を行なったのか、確認したいところですね。
■結論:
ニールセン教授のレビュー論文で取り上げられた60件中48件の研究が、全て又は一部の項目で共同親権の方が子供に好影響であったと報告していました。差がないのは6件で、さらに残り6件が一つの項目で単独親権の方が良いが残りは同等または共同親権の方が良いという結果でした。逆に、単独親権の方が全面的に優れていると報告した研究は一件もありませんでした。
ここまでみてきた通り、両親の収入・高葛藤・親子関係の良好さや育児スキル、この3つのいかにも子供の健全な成長に影響しそうな要素を取り除いてもなお、共同親権の方が単独親権よりも子供にとって良いーー学業や心身の健康、精神疾患や薬物中毒、親子の円満な関係といった評価項目で上回っているーーということがわかります。
■雑感
共同親権は子供に良いと、多数の研究で指示されていることがわかります。悪く作用する場合もあるようなので、デフォルトは共同親権にしつつ、特定の場合には単独親権に切り替えたり、公的なサポートを入れるなど柔軟な制度にしていくのが良いのかなと感じました。また、形式的に共同親権にしても意味がなく、「1/3の時間をちゃんと両親と生活すること」が大切なようです。
ニールセン教授は共同親権制度に好意的な立場のようなのでバイアスに注意する必要はあるだろうと思います(逆に豪スミス教授や米エメリー教授はゴリゴリの反対派のようなので彼らの研究もバイアスに注意する必要があると思います)。60件もの研究をまとめているのはすごいのですが、CashmoreとPearsonの研究でReferenceに記載が無く、どれを指しているのかわからないものが3件ありました。一項目しか調べていない研究を「全ての項目で共同親権の方が良かった」に分類してしまっているものもありそれはどうなのかなとも思いました。
また、同じ著者のものが複数含まれたり、調査国としてもWHOのものを除くと8カ国で、北欧、アメリカ、カナダ、オーストラリアばかりです。他の欧州主要国やアジア諸国の結果も見てみたいところです。多分そういう国は研究が少ないか、あっても自言語の発表が主で英語の論文ジャーナルには載ってこないのでしょう。
とはいえ、大勢として共同親権の方が子供に良い影響があるということは揺るがないだろうと思います。
以上