【離婚前に】【結婚前にも】養育費算定表を読んでみよう!②〜金額ヤバイ編〜
今回は、本当は怖い養育費と婚姻費用の話をしたいと思います。
唐突ですが私の友人Aは養育費を月11万円払っています。元奥さんはそれと各種補助金を併せることでほとんど働かずに賃貸暮らしが出来ています(たまにお金が足りなくなると追加でお金を要求しにくるそうです。離婚したのに)。しかしA本人は埼玉北部の実家から2時間かけて都内の会社通いをしなければならず、小遣いもほとんどなくて生活に自由がありません。何故そうなるのか?それは、現行の養育費・婚姻費用という制度が、真面目に働いている方が馬鹿を見るような超高額になっているからです。しかもAの場合は子供に会えていません。以下、払う側から見れば、今の養育費・婚姻費用は高すぎるという話をしたいと思います。
■算定表、既にかなり高額
養育費・婚姻費用は裁判所が定めた算定表で決まります。算定表の見方は前回こちらで書きましたので、ご興味の方は見てみてください。
この算定表を色分けしてみると、以降の図のような感じになります。高額でびっくりすると思います。
算定額は基本的に父母の収入と子の人数、年齢のみで決まります。いくつか例を上げて見てみましょう。
①まず、中学生以下の子供が二人いる場合の養育費
左は養育費の金額、右はそれを手取り月収に占める割合にしたものです。オレンジは手取りの2割以上、赤は3割以上、茶色は3割5分以上を表します。この時点で、養育費が相当な金額なのがわかると思います。特に、相手側が専業主婦・主夫の場合、手取りの3割以上を支払う必要があります(図の左側の赤部分)。子供一人の場合はこれより少なくなり、三人の場合は増えます。いずれにせよ、重い金額ということには変わりありません。
②高校生以上の子供が二人いる場合の養育費
子供の年齢が上がると、養育費の金額は上がります。明らかに、手取りの3割以上(赤)の支払が増えており、どんなケースでも手取りの2割以上を取られることが分かります。払う方はこれとは別に自分の生活費も必要なので、とても重い負担です。
③高校生以上の子供が二人の場合の婚姻費用(離婚前)
さて、ここまでは離婚後の話。少し遡って、離婚前の別居時はどうでしょうか?離婚前は婚姻費用といって、子供だけでなく配偶者の生活費も支払う必要があるので、月々の支払額はさらに多くなります。それがこちら↓です。もうほとんどの場合で、手取りの3割以上を支払わなければならないのが分かりますね。有責自由が無い場合は別居してから離婚までに3〜5年かかったりしますので、その間この金額を払い続けなければなりません。婚姻費用が原因で貧困生活になる人の話は後を絶ちませんが、それもむべなるかなです。なお、婚姻費用で貯金が底をついても、財産分与で別居開始時点の貯金の半分を取られるので、実質的に全てのお金を妻(夫)側に取られるという事も珍しくありません。
■手取りの2〜3割を取られる事の恐ろしさ
「子供のためなら養育費なんていくらでも余裕で払えるだろ、クズ男!」
というヒステリックな書き込みが、養育費関連のニュースには付けられていることが少なくありません。私も養育費を払わない人間は最低だと思いますが、「余裕」かどうかは疑問符が付きます。手取りの2〜3割というのは、生活が立ち行かなくなる可能性のある超高額です。フィナンシャルプランナーさんのHPを見てみると大抵どのページでも、
「住居費(住宅ローン)支払は手取りの2割までに抑える事、最悪でも3割まで」
ということが書いてあると思います(↓下記参考リンク)。
養育費と住宅ローンの違いはありますが、手取りの2〜3割の養育費支払いというのは、破産しかねないギリギリの高額ということなのです。3割を越してくると、銀行も住宅ローンをそもそも組ませてくれません。養育費算定表の金額は、子供の養育以前に、自分が破産して暮らしていけなくなりかねない金額なのです。いくら子供のためと言っても、支払いする側の生存を脅かす金額を払わせるのはおかしいでしょう。裁判所は、算定表を直ちに改定して、養育費・婚姻費用の金額が最高でも手取りの2割を越えないようにし、貧困を防ぐべきだと思います。
■手取りからそんなに取られたら生活できない
怖い話はまだ続きます。
手取りの2〜3割以上の養育費・婚姻費用は住宅ローンのMAXギリギリ、破産ギリギリみたいなものなんですけれど、でも住宅ローンの人はまだ救われます。住む家があるんですから。養育費や婚姻費用で2〜3割払っている人の場合は、ここからさらに自分の住居費や生活費を出さないといけません。これに加えて塾代や習い事代も請求されたり、昔一緒に住んでいた家のローンはさらに別腹で払わないといけない場合もあります。養育費・婚姻費用を払う側は、二重苦、三重苦の支払に悩まされ、この時点で貧困生活に陥る可能性が非常に高いです。つまり、
状態なのです。冒頭の、私の友人が実家暮らしを余儀なくされている理由がわかっていただけると思います。「裁判所が決める養育費・婚姻費用は、払う方の貧困が確定しているような、非常に高額に設定されている」のです(もちろん、子供の人数や年齢、相手方の収入によっても変わります)。
■そもそも扶養義務のレベルから逸脱しているのでは?
なぜ婚姻費用や養育費を払う必要があるかというと、その根拠は民法にあります。
夫婦や親子は「生活保持義務(自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務)」があるから、養育費や婚姻費用を払う義務があるのです。でもですよ、冒頭のA君などは自分の生活を台無しにして、元妻と子供の生活を維持しています。これって、全然同等では無いでしょう。元妻の方がいい暮らししてるじゃん!!と私などは思ってしまいます。また、養育費・婚姻費用の算定は夫婦の収入額しか見ないため、妻がアラブの石油王の娘で収入はゼロ円だけど資産は1兆円あるような場合でも(※前回参照)、支払うのは夫です。あるいは元妻が裕福な実家で働かずに悠々自適の暮らしをしていたとしても、支払うのは夫です。扶養義務が自分と同じ生活を相手にも保持させる義務なのだとしたら、この場合むしろ夫の方がお金をもらえて然るべきでしょう。算定表に基づいた養育費・婚姻費用の支払が、扶養義務の範疇を超えているケースは、実は多いのではないでしょうか。
■養育費算定表は既に十分高い。高すぎる。
「貰う方は安いといい、払う方は高いという」
世の中の常と思いますが、養育費・婚姻費用についても同じですね。よくニュースで、養育費が貰えない、養育費を貰っても生活が苦しいという話が特集されます。しかし、ここまで読んでいただければお分かりのとおり、今の養育費・婚姻費用の金額は非常に高額で、払う側にとっては貧困確定レベルの恐ろしいものなのです。人によっては、養育費・婚姻費用を払うために家を売ったり解約し、実家に身を寄せてやっとこ払えるという場合も多いと思います。全く払わないのは論外としても、算定表の額を払わせるというのは非常に重いことです。しかも日本の場合は単独親権で、ろくに会えない子供に対して払う事になります。それなのに貰う方の話ばかりがクローズアップされ、払う側の苦難は無視されるのは、バランスを欠いていると思います。
■働かないと貧乏なのは当たり前
ここまで、払う方が如何に苦労するかという話をしました。一方、貰う方が、養育費だけ貰って働かなければ生活が苦しくなりがちというのもおそらく真実でしょう。普通のサラリーマンが月に何万円・何十万円も養育費を払うのは非常に苦しいですが、かと言って数万円で生活するのが無理なのもその通りです。
少し考えればわかることですが、根本的な問題として、普通のサラリーマンに一馬力で家を二つ持てるほど余裕があるような人はほとんどいないのです。別居・離婚すると家が二つに分かれ、家賃その他の固定費が倍になりますから、ただでさえ合計の出費は増えます。それなのに収入を増やす努力をしなかったら、一馬力では支払えるわけがありません。貧乏になるのは当然。
テレビでは食事もままならないシングル家庭の話が、悲劇的なBGMと涙ながらの訴えとともにセンセーショナルに伝えられます。それは本当に可哀想で同情してしまいます。そして、もっと養育費の金額をあげようという声につながっていきます。こうした貰う側のストーリーが語られる時、養育費を払っている側の苦労は省みられる事がありません。元配偶者も同じく貧困に陥っていたり、子供に会えなくて鬱病で仕事を失っていたりすることは、殆どの人が知りもしないのです。
シングル家庭の問題を解決するために、養育費・婚姻費用の相場を上げていけば良いのでしょうか?答えはNOです。既に払う側は限界まで払っています。これ以上引き上げれば、別の貧乏家庭を作るだけです。むしろ裁判所は直ちに算定表の金額を手取りの2割が上限となるように引き下げるべきだと思います。そして、別居・離婚した以上は、元夫婦はそれぞれが自分一人で暮らしていけるよう稼がないといけないのです。その覚悟と準備なしに離婚して、既に困窮している元夫(元妻)に「もっと養育費・婚姻費用を寄越せ」と言っても、出せないものは出せません。DVからの緊急避難や配偶者の急死など、就労の準備を進める時間もなく止むを得ないケースもあると思いますが、そのような場合は国の生活保護などを利用するのが筋だと思います。また、どんな事情があるにせよ、失業保険でカバーされる期間と同じ期間の後には就労をしているべきであり、していない場合は就労の努力を怠っているとみなすべきだと思います。
シングル親家庭への援助として養育費の話ばかりが出ますが、それよりもちゃんと働いて稼ぐように意識改革と制度整備していかないと、根本解決はしません。