【一般人でも分かる】大井川鐡道 列車分離事故
【問題】あなたは列車に乗っています。もし,あなたの乗っている車両の連結器が外れてしまったとき,あなたの乗っている車両は止まるでしょうか?それとも……
連結器が外れた!列車分離事故
2023年11月28日,大井川鐡道で機関車と客車を繋いでいる連結器が外れる事故が発生しました。
さて,鉄オタとしては色々語りたいところですが,一般人向けとして要点を掻い摘んでお話しします。
どんな事故だった?
ちょっと特殊な列車。
今回の事故を起こした車両は,普段目にする電車とは異なる,ちょっと特殊な車両でした。私たちが普段乗っている列車は,乗客が乗る客車の下にモーターが付いていますが,今回の事故にあった車両は先頭に付いた機関車が後ろの客車を引いて走る「客車列車」でした。
客車列車の大きな特徴は,折り返し駅では機関車を付け替える必要があることです。そのため,一般的な列車よりも連結器を操作する回数が増え,このような事故が起きる確率も増えるわけです。実際,機関士(機関車の運転士)は発車直後に後方を振り返り,客車が付いてくることを指差しで確認します。
連結器について
そもそも連結器って?
連結器は車両どうしを繋ぐもので,用途に合わせたいくつかの種類があります。日本の機関車では一般に「自動式連結器」というものが使われることが多くあり,今回の事故も例外ではありません。
連結器の仕組み
自動式連結器は,ナックルと呼ばれる前の爪の部分どうしが引っかかることで握手をするように繋がる連結器です。
連結の際は解放てこを引っ張り,止めている「錠」を抜いて爪を開きます。この状態で相手の連結器に押し当てることで連結が完了します。そして連結を外すとき(解結)も同じように解放てこを引くことで連結器が外れます。
つまり,この金属の棒に全列車の重量が掛かっているというわけです。今回の事故では,この機構に何か問題が生じた可能性が高いと考えられます。この記事の執筆時点では事故に関する詳細が不明ですので明言は出来ませんが。
さて,連結器の話はこれくらいにして,次は最初の質問の答え合わせです。
【問題の答え】急ブレーキがかかる
最初のツイートを見てもお分かりかと思いますが,連結器が外れると列車には自動で急ブレーキがかかります。
鉄道のブレーキの仕組み
ブレーキについて詳しい記事を書こうと思うと軽く10本は越えてしまうので,今回は要点だけ。
空気を入れて緩み,抜くと掛かる
鉄道のブレーキは空気で操作します。そのため車両の間には空気管が通っており,これが外れるとブレーキ操作ができません。そこで,万が一はずれても急ブレーキがかかるように,加圧することでブレーキを緩めるようになっています。こうすることで,もしホースに穴が開いたり,今回のように連結が外れたときに急ブレーキがかかるわけです。
このような万が一の事態が発生しても安全な方に落ち着くような設計思想をフェイルセーフといいます。
過去には大事故も…「石狩峠」
今回は大事故には至りませんでしたが,今日のようなブレーキシステムが使われていなかった過去には,同様の事案による大事故が発生しました。1909年2月28日,北海道を走る根室本線の石狩峠で最後尾の客車が外れる事故が発生しました。乗り合わせていた鉄道院(JRの前身の国鉄のさらに前身)の長野政雄がハンドブレーキを操作し止めようと試みますが最終的に転落・殉職する事故が発生しました。のちに三浦綾子によりこの実話をもとにした小説「石狩峠」が記されました。
というわけで,今回は大井川鐡道 列車分離事故のお話でした。大井川鐡道・国交省から詳細が上がり次第,詳しい記事を書こうと思います。それではまた。