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アフリカの歌姫、ウム・サンガレ 〜西アフリカ・ワスルの魂を歌う女性〜

私の友人、モロッコのグナワマスター Maalem Younes Hadir が「彼女は本物のアーティストだ」と尊敬を込めて語ったアフリカの歌姫、それがウム・サンガレ(Oumou Sangaré)です。グナワ音楽の世界でも彼女の存在は知られており、同じくアフリカのスピリットを音楽で表現する者として、Maalem Younes も彼女の音楽に共鳴しているのでしょう。そんな彼が教えてくれたことをきっかけに、私はウム・サンガレの音楽を知ることになりました。

ウム・サンガレは「ワスルの歌姫」として知られ、伝統的なマリのワスル音楽を現代に蘇らせながら、女性の権利や社会問題を力強く歌い続けているアーティストです。その歌声はただ美しいだけでなく、強いメッセージ性を持ち、多くの人々の心を動かしてきました。

ワスル音楽とは?

ウム・サンガレの音楽は、マリ南部のワスル地方に根ざした「ワスル音楽(Wassoulou)」というジャンルに属します。ワスル音楽は、狩猟民族の伝統音楽を起源とし、打楽器、弦楽器(コラやンゴニ)を中心としたリズムが特徴です。その響きは力強く、ダンスを誘うビートと独特のメロディーが融合したものになっています。

ウム・サンガレが訴える現代社会の問題とは?

彼女の音楽の根底には、アフリカ、特にマリ社会における女性の立場や社会の不平等に対する強い問題意識があります。彼女は、単に音楽を楽しませるだけでなく、人々に考えさせ、変革を促すアーティストなのです。

① 多妻制(ポリガミー)と女性の権利

ウム・サンガレのデビューアルバム Moussolou(1989年)は、「女性たち」という意味のタイトルが示すように、マリ社会の女性の置かれた立場を鋭く描き出しました。特に、西アフリカの一部で根強く残る 多妻制(ポリガミー) に対する批判は、彼女の楽曲の重要なテーマです。

マリを含む多くの西アフリカ諸国では、男性が複数の妻を持つことが合法とされています。しかし、この制度の下では、女性の意志が尊重されることは少なく、経済的・社会的に弱い立場に追いやられることが多いのです。彼女の代表曲のひとつ「Diaraby Nene(恋の病)」では、多妻制によって傷つく女性の苦しみが表現され、当時のマリ社会に大きな波紋を呼びました。

「女性が自立できなければ、本当の自由はない」と彼女は語ります。そのため、彼女は音楽を通じて、女性が経済的にも精神的にも自立し、自由に生きることの重要性を訴えています。

② 児童婚・女性の教育の遅れ

ウム・サンガレは、マリの農村部で多くの少女たちが若くして結婚させられる現状にも強く反対しています。マリでは、貧困家庭が娘を幼いうちに結婚させることで家計の負担を減らそうとするケースが多く、結果として少女たちは学校を途中で辞めざるを得ません。

彼女の楽曲の中には、「女性に教育の機会を与えなければ、社会全体の発展はない」というメッセージが込められています。また、彼女自身が貧しい家庭に育ちながらも、音楽の才能で自らの道を切り拓いた経験を持つため、若い世代へのエンパワーメントにも力を入れています。

③ 貧困と農業の未来

ウム・サンガレは、音楽だけでなく、ビジネスを通じても社会の変革に取り組んでいます。彼女は 農業の発展と食料問題 に関心を持ち、自ら米の生産事業を手掛けるなど、マリの人々の生活向上に貢献しています。

アフリカの多くの地域では、気候変動の影響や経済の不安定さから農業の衰退が進んでいます。彼女は音楽を通じて、農業が持続可能な形で発展する必要性を訴え、人々が自らの手で未来を切り拓くことの大切さを説いています。

④ アフリカ文化の誇りと西洋化への警鐘

ウム・サンガレは、グローバル化が進む中で、西洋の価値観がアフリカの伝統文化を脅かしていることにも懸念を示しています。彼女は、アフリカの音楽や伝統が正しく評価され、次世代へ受け継がれていくことを強く願っています。

彼女の音楽には、ワスル音楽の伝統的なリズムと現代的なアレンジが融合しており、伝統と革新のバランスを取ることができることを示しています。「私たちの文化を誇りに思い、受け継いでいくことが大切」と彼女は語り、アフリカの若者たちに向けたメッセージを発信しています。

彼女の歌声を日本で聴きたい

ウム・サンガレの音楽は、単なるエンターテイメントではなく、社会を変えるための力強いメッセージが込められています。日本においても、女性の権利やジェンダー平等、文化の多様性の尊重といった課題がある中で、彼女の歌声は私たちに大きな示唆を与えてくれます。

もし彼女の音楽をまだ聴いたことがないなら、まずは以下のアルバムをチェックしてみてください。

🔹 Moussolou(1989年)
🔹 Worotan(1996年)
🔹 Mogoya(2017年)
🔹 Timbuktu(2022年)

彼女の歌声が、日本のリスナーに新しいインスピレーションをもたらすことを願っています。もしかすると、近い将来、日本で彼女のライブを観る機会が訪れるかもしれません。その日を楽しみにしながら、ウム・サンガレの音楽の世界に浸ってみてはいかがでしょうか?


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