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モロッコのハマム文化:蒸気の中でととのう至福の時間
モロッコに来たら、ぜひ体験してほしいのが「ハマム」だ。
ハマムとは、蒸気浴を楽しむ公衆浴場のことで、モロッコの人々にとっては日常の一部。日本の温泉文化に近いものがあるが、そのスタイルや過ごし方は少し異なる。
初めてハマムに足を踏み入れると、まずは温かく湿った空気に包まれる。タイル張りの壁に囲まれた広い部屋には、ぼんやりとした光が差し込み、石の床には湯気が立ちのぼる。時間がゆっくりと流れる場所だ。
ハマムの習慣と流れ
モロッコのハマムには、一般的に 「公衆ハマム」 と 「プライベートハマム」 の2種類がある。
公衆ハマムは、地域の人々が通う大衆浴場で、ローカルな空気を肌で感じることができる。男女別になっているが、親子や友人同士で訪れる人も多い。
一方、プライベートハマムは、リヤド(伝統的なモロッコの宿)やスパで提供されるもの。よりリラックスした空間で、プロによるスクラブやオイルマッサージを受けられるのが特徴だ。
ローカルハマムの入り方は、日本の銭湯とも似ているが、いくつか異なる点がある。
まず、入口で バケツ を借りて、お湯をすくって使う準備をする。
次に、 「サボン・ノワール(黒い石鹸)」 というモロッコ独特のオリーブオイルをベースにしたペースト状の石鹸を全身に塗る。これを数分馴染ませることで、肌が柔らかくなり、次のステップである 「ケス」(ゴマージュグローブ)を使った垢すりがしやすくなる。
この垢すりの時間が、ハマムのハイライト。
隣に座っていたおじさん(おばちゃん)が「こっちに来なさい」と合図して、半ば強引に背中の垢をゴシゴシしてくれることも。最初は戸惑うかもしれないが、モロッコ人にとっては当たり前の光景。むしろ、観光客に優しくしてくれることが多いので、安心して身を任せよう。
ひとしきり垢すりが終わったら、温かいお湯を浴びて洗い流し、ミントの香りのするアルガンオイルやローズウォーターを塗って仕上げる。
ハマムは「心のリセット」
ハマムは、単なる体の清潔を保つ場ではなく、 「心のデトックス」 の場でもある。
地元の人々にとっては、友人や家族とおしゃべりを楽しむ時間でもあり、静かに自分と向き合う時間でもある。
蒸気に包まれていると、心のざわめきも自然と静まり、ふっと肩の力が抜けるのを感じるだろう。
旅の途中でふと「疲れたな」と思ったら、ハマムに行ってみるのもいいかもしれない。
モロッコの蒸気の中で、身も心も解きほぐされ、また新しい旅の一歩を踏み出せるはずだ。
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