別にバトルなんて出なくても…
なぜバトルに出るのか。
楽しいから。
なぜバトルに出るのか。
勝ちたいから。
なぜバトルに出るのか。
一番になりたいから。
なぜバトルに出るのか。
カッコいいから。
なぜバトルに出るのか。
みんな出ているから。
なぜバトルに出るのか。
賞金や賞品が欲しいから。
なぜバトルに出るのか。
自分のスタイルを表現したいから。
フリースタイルフットボールの大会はとても増えた。ビギナー向けの大会も開催されるようになり、日本のトッププレイヤーのみが鎬を削るものではなくなった。誰しもが何かしらの大会に向けて日夜練習をしていることだろう。
しかし、なぜ大会に向けて練習をするのだろう。
現状、賞金が出る大会は多くない。最近になって10万円の賞金が優勝者に与えられたり、投げ銭の額によって賞金を得られたりする大会も少数だが開催されてはきたが、世界最大級の大会であるSUPERBALLやRed Bull Street Styleは賞金がない。つまり、優勝それ自体で何かを得られるわけではない。強いていえばトロフィーか。もちろん、優勝することでその後の活動につながる場合もある。知名度が上がったり経歴に箔がついたりして、地方のイベントでのパフォーマンスで得られるギャラが増えるといったことはあるだろう。しかし、あくまでそれは副次的な効果でしかない。
ゴルフやダーツ、eスポーツなどの世界では、プレイヤーは大会の賞金を稼いで生計を立てている。スポンサーからの活動支援金もあるだろうが、多くの娯楽やスポーツではその意味において「大会」の持つ意義は大きい。人生がかかっていると言っても過言ではないだろう。
しかし、フリースタイルフットボールはどうだろうか。別に多くのフリースタイラーは大会で勝たなくても生きていけるし、現に大会で優勝という成績は残していなくても、パフォーマーとして一般的なサラリーマンよりうんと稼いでいるフリースタイラーはそこそこいる。
フリースタイラーはなぜフリースタイルフットボールの大会に出るのか。改めて問い直してみると、実はそこに大した理由などないのかもしれない。
冒頭に列挙した問答を見つめ直してみよう。
なぜバトルに出るのか。
「楽しいから」
→何が楽しいのか今一度考え直してみると、見える世界が変わるかもしれない。例えば、勝つことが楽しいのか、勝つために励むこと、いわば勝つまでの過程が楽しいのか、バトル中の駆け引きが楽しいのか、即興で音に合わせるのが楽しいのか。勝利が好きなのか、勝負が好きなのか、一発勝負であることが好きなのか、ナマモノであることが好きなのか。そのあたりを深く問い直すと、実はバトルではなく、JAMなどの場で仲間内で技を見せ合う方が好きと気づくかもしれない。実際、私はそうだ。
「勝ちたいから」
→賞金が出るわけでもないのになぜ勝ちたいのか。ジャッジ基準が云々言われて久しいフリースタイルフットボール界隈において、勝ちにこだわる理由は何なのか。今後、パフォーマーとしての活動をするにあたって経歴に箔を付けたいというのなら納得はする。しかし、バトル最強のフリースタイラーErlendは、大会を総なめしてもなお収入が大きく変わったわけではないそうだ。もちろん、彼自身の売り込み方が悪かったのかもしれない。しかし、あれだけのスキルを持っていて世界大会何連覇!といった実績を引っ提げればメディアももっと食いつくものだと思いたいのだが、そうではないらしい。
「一番になりたいから」
→先に述べた「勝ちたいから」は、結局ここに行き着く気がする。賞金といった部分で大会に出るのではなく、ただ直向きに、周りのフリースタイラーとは違うということ、それも「ナンバーワンになることでオンリーワンであることを証明したい」という、その気概で出場するというのが、少なくとも今のフリースタイルフットボール界で開かれている大会への出場に関して一番理にかなっていると思う。いわば、名誉のため。
「カッコいいから」
→確かにバトルで戦う姿はカッコよく映る。とはいえ、バトルに出たらそれでカッコいいかというといささか疑問がある。大会に対して「ジャッジ基準があんな感じだから〜」とか「自分のスタイルはこうだから〜」とか言うぐらいなら、淡々と大会に向けて準備を進める姿こそカッコいい。有言実行ならぬ不言実行である。いっそ、自分のスタイルをゼロにして、ゴリゴリに大会のジャッジに合わせた技だけをやる方がカッコいいのかもしれない。それに、バトルに出たことはあってもカッコいいとは言えないフリースタイラーはいるし(例えば私)、バトルに出なくてもカッコいいフリースタイラーはいる。タイトルの通り、「別にバトルなんて出なくても…」である。
「みんな出ているから」
→一周回ってこれがむしろ一番真っ当な理由なのかもしれない。そもそも勝敗を厳密には決められないフリースタイルフットボールのバトルにおいて、大会というイベントはそれ自体が矛盾を孕んでいると言える。「その日の1番を決める」という無理矢理の理屈によって成り立たせているわけだが、翻って、大会の存在意義を考え直せば、それはフリースタイルフットボールというカルチャーが盛り上がること、引いてはエンタメというカルチャーが盛り上がること、そして世界がより平和になることにある。結局、バトルが一番盛り上がるし。そのためには、理由がなくとも「みんな出てるし」でバトルに出ることは元来カルチャーとして求められることだと言えそうである。本当はバトルに対して本気になりきれていないのにあたかも「本気でバトルやってます」という風を装って「そうすることがカッコいいとされているらしい」という気持ちで大会に出るより、爽やかで潔い。
「賞金や賞品が欲しいから」
→ぜひ頑張ってほしい。
「自分のスタイルを表現したいから」
→YouTubeやInstagram、TikTokで動画を投稿するのはダメなのだろうか。ミスをカットできるし、それっぽい編集もできて華やかに仕上がるのだから、自分のクリエイティビティを最も見栄え良く発揮できるのは大会ではなくSNSなのではなかろうか。実際、最近の私はそうしている。日々の練習で思いついた技の組み合わせをインスタにアップする、あるいは数年に一度YouTubeに3〜5分程度の動画をアップするだけだ。確かに大会で自分のスタイルを発揮できたらカッコいいかもしれない。しかし、「こないだ、ストーリーにアップしてたスメSのコンボ見たよ!カッコよかった!」って言われるだけでは飽き足らないのだろうか。個人的にはそれで満足している。もちろん自分はバトルで勝ったことがほとんどないから、シコシコやってるだけで満足してしまっているのかもしれない。とはいえ、必ずしもバトルに出ないとフリースタイラーとして一人前になったとは言えない、みたいな空気感は違う気がする。それに、昨年の春に開催されたAKIのイベント eyes on me はバトルとは違うフリースタイルフットボールの醍醐味が凝縮されていた。バトルには一切出ずに「eyes on meに出るため」日夜練習に励むというフリースタイラーがいてもいいのではなかろうか。
別にバトルなんて出なくても…
最近はそう思う自分がいる。