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【学童】まるで物語のような①タツヤの話

放課後児童クラブ(以下学童)には、さまざまな小学生がいる。

以前出会ったタツヤ(仮名)の話を書いてみる。
(個人の特定を避けるため、事実を元に大幅にフィクション化してます。)

タツヤは小学3年の男の子。初めて会った時、私を指さして「お前は誰だ!なんかピーマンみたいだな!」と言った。それを聞いた周りの男子たちはケラケラ笑う。
ああ、なんて可愛い子だろうと思った。全然悪気を感じない。そして私にピーマン要素はない。笑 初対面で何を話していいかわからなくて、そんな恥ずかしい気持ちを誤魔化しているんだなと思った。何か言って周りを笑わせたいという気持ちも感じた。
私はひとまず「なんでピーマンなのよー!」と返すが「おい、ピーマンなんだろ?」とタツヤは言う。「いやピーマンじゃないけど笑」とまともに返すも「ピーマン!ピーマン!」と、周囲の男子らが“私を『ピーマン』と呼ぶこと”で盛り上がってしまった。でも、注意をしたり訂正したりするのは、この場においてよくない。なにせ私はタツヤと初めましてだ。不信感を持たせてはいけない。しかしこの、ちょっとした悪ノリを盛り上げさせるのも違う。「私さ、『しゅゆ』って名前があるから、できたらそっちで呼んでほしいな」とサラッと伝えてその場を離れた。

タツヤは同級生の男の子らと一緒に遊ぶことが多く、私と一緒に遊ぶことは少なかった。しかし、閉所間際によく、タツヤと一緒に過ごすことが多い。タツヤはいちばんお迎えが遅い子だったから。

夕方に近づき、どんどんお迎えが来て、学童内の人数が少なくなり、最後はタツヤ1人になる。そうするとタツヤはいつも、本棚の上に登りはじめる。
「タツヤ、危ないから降りなよ〜。もう毎日言ってるんだけど?笑」と私は言うが、タツヤは降りない。遅くまで学童に残っている子というのは、寂しいに決まっている。お迎えが来ない寂しさを、普段ダメだと言われていることをすることで、ちょっとでも気を紛らわしている。私にはそんな風に見えた。だからと言って、本棚に登ることはやめてほしいのだが。笑
そしてタツヤのママがお迎えに来ると、タツヤは母親に向かって必ず「おい。遅いぞ。」と言う。きっと家でのタツヤはそんな言い方しないんだろうが、支援員の前ではお母さんに対してちょっと上から目線だ。

タツヤは会話をするのがあまり得意ではない。ラリーが続かない。彼もそのことの自覚はありそうだったし、だからこそ、タツヤはいつも話をはぐらかしていた。でも私はそんなタツヤと話がしたかった。

ある日タツヤと話していると、とあるアプリゲームが好きだと知った。私は退勤後そのゲームをすぐにインストールしてプレイしてみた。

何日かプレイしてみて、ようやくタツヤと話せるレベルまでゲームのことは知れたかも?というタイミングで「そういえば、タツヤおすすめのゲーム、やってみたよ」と私はタツヤに伝えた。タツヤの目がパッと輝いた。そしてタツヤは一気に話し出す。「今どこのステージまでいった?」「5番目のボス倒したところ。そこから全然進まないんだよね〜。」「ああ、あのボスね。あのボスはパーティに超レアキャラ入れないと倒すのが難しいんだぜ。」「そうなの!?うわ〜そうか。レベル上げたらレアキャラでもいけると思ったけど、超レアじゃないと倒せないのか〜」「うん。特にソード持ってる系のキャラ入れるといいよ」今までにないぐらいタツヤとの会話が弾んだ。ゲームのことなんて正直どうでもいい。こんなにキラキラな顔で話すタツヤが見れたら、私はもう何もいらない。そう思えた。話は続き「タツヤはガチャ引いてる?」「ガチャはあんまり引かないんだよね。超レアの確率低いからさ。」「私毎日『ハイパーガチャ』引いてるんだけど、全然いいキャラ出てこなくてさ〜笑」「、、、、、」タツヤが一瞬止まった。あれ、どうした?と思っていたら

「おい、、、そのガチャ、引かないほうがいいぞ。」

と深刻な顔で教えてくれた。笑
そう。タツヤは根が非常に優しい子なんだ。それを知っているし普段から受け入れている。時々同級生同士で行きすぎたやんちゃなこともしているし、支援員側が注意したり悪ふざけの暴走を止めたりすることもある。しかしタツヤは優しい。タツヤの優しさに触れた時、こちらの心が温かくなる。
「え!?そうだったの!?知らなかったー教えてくれてありがとう!」と私が言うとタツヤは「おう、、、」と言って照れていた。


それからというもの、学童閉所間際のタツヤとの会話は、そのゲームの話題だった。「どこまで進んだ?」「新作出たんだぜ。やったか?」と聞かれたが、正直私はゲームが得意ではない。タツヤおすすめのゲームも、難しくてやめてしまった。でも、タツヤのキラキラ輝く笑顔が見たくて、何度もゲームの話をした。

ある日、いつも通り学童に1人になったタツヤは、ポロっと「ママ今日も遅いのかよ。でも、、、あの人も忙しいし頑張ってるからな。」とこぼした。私はなんだか嬉しかった。

その日のタツヤのお迎え時、こっそりタツヤのお母さんに「タツヤが『ママは仕事頑張ってる』って言ってましたよ」とこっそり教えると、タツヤのお母さんは「え〜?絶対思ってないでしょ?」と言った。タツヤのママも、照れ屋さんだ。


学童では、日々、まるで物語のような、美しく素敵なエピソードが転がっている。だから学童の支援員はやめられない。

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