【学童保育】まるでものがたりのような②マオの話
放課後児童クラブ(以下学童)には、さまざまな小学生がいる。
以前出会ったマオ(仮名)の話を書いてみる。
(個人の特定を避けるため、事実を元に大幅にフィクション化してます。)
マオは小学1年の女の子。その日は低学年の子を中心に、クリスマス制作に取り組んでいた。
ダンボールを手のひらサイズの円にカットする。その円周に8つの切り込みを等間隔になるように入れる。切り込みに沿ってランダムに好きな色の毛糸を巻いてモビールにする、というもの。
ダンボールを円の形に切るのは低学年には難しいので、あらかじめ円のパーツをたくさん作っておき、私は子どもたちを周りに集めて「この丸の周りにハサミでちょっとだけ切り込み入れるんだよ。ピザみたいに切ってくんだよ〜お手本見せるからね。」と、
1つの場所に切り込みを入れる。
その切り込みに向かい合うように2つ目の切り込み。
1つ目と2つ目の真ん中ぐらいに3つ目。
3つ目のお向かいに4つ目の切り込み。
4つの切り込みができたら、それぞれの間に1つずつ切り込みを入れて、全部の切り込み完成。
といった具合に教えた。
私に説明を横目で見ていた3年生の女の子は、説明の序盤ですぐに理解し、ささっと切り込みを入れて『しゅゆちゃん、こんな感じ?』とドヤ顔で見せにきた。容量がいい子は製作も話が早い。
しかし、1年生は違った。全員、等間隔に切り込みを入れられない。切り込みが細かすぎたり偏ったりと、“等間隔に”の感覚がなく、切ることに必死になりすぎる傾向にある。これは私の説明がまずかった。
そこでもう1度1年生を集め「ごめんね、私の説明わかりにくかったね。」と伝え、切り込みを6つに変更し、時計の文字盤で教えた。
「まず時計の【12】の場所と同じところ(位置)をちょっと切る。次に【6】の場所(と同じ位置)をちょっと切る...」
あとは2、4、8、10と同じ場所に切り込み入れてねと伝えた。
円のパーツを回しながら、1年生は一生懸命考えながら取り組んでいた。時々補助しつつも、どの子も自力で真剣にやっていた。
そんな中、マオが突然、ハサミを持って立ち上がり、ある場所へ行き、立ったまま丸パーツに切り込みを入れ始めた。
この学童は平日の放課後60〜70人の1〜6年生が集まる。そしてそんなに広い空間ではない。普段から室内で遊ぶ際は、安全に配慮し、「座って遊ぶ」が基本ルール。ましてハサミを使う時は余計に座ってほしいところ。机のある場所で、椅子に座って製作しないと、いつ誰が不意にぶつかるかわからない。私はマオに「座ってやろう」と声をかけようとした、、、が、止めた。
マオがなぜ立っているかが分かったから。
マオは、学童にある壁掛け時計の前に立っていた。時計を見ながら、「2のところ、、、」と小さく呟きながら、丸パーツに切り込みを入れていた。
マオは自分で考えて、「実物の時計を見ながら、切る場所を確認したい」と思い、時計の前までいって、切ることにしたのだ。うん。頭いい!!
マオなりの「いいアイデア」を邪魔したくなかった。マオの真剣な表情も素敵だった。これは大事にしたい。
だから私はマオには声をかけず、マオとマオの周囲の見守ることにした。
学童におけるルールは、安全面を考慮して設定されていることがほとんどだ。支援員は大事な子どもたちを預かる身。無闇に怪我をさせてしまうわけにはいかない。だからルールは必ず守ってほしいと、思う。
でも、子どもたちなりに考えていることがある。今回のように、こちらの対応によって安全が確保されているのであれば、子どもたちの考えや思いはいちばん大切にしたいところ。