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【学童】まるで物語のような⑦エイタとバンリ
以前、とある放課後児童クラブ(以下、学童)で出会ったエイタ(仮名)とバンリ(仮名)の話を書いてみる。
(個人の特定を避けるため、事実を元に大幅にフィクション化してます。)
今回は、小学校4年生のエイタとバンリ喧嘩の話をしよう。
男の子の喧嘩と言うのは、プライドのぶつけ合いのことが多い。
それはたとえ小さな子どもであろうが、大人であろうが、根底はあまり変わりないと思う。
以前であった学童保育の男性支援委員に「男の子の価値観って“強い”か“かっこいい”のどっちかなんだよね。」と言われたことがある。確かにそうかもしれないと思った。そう思わされることは、今までの経験上たくさんあった。一人ひとりにとって何を強さとするか、何をかっこいいとするかは、個人の価値観に委ねられるところだが、とにかく“強い”か“かっこいい”か。そこに重点を置いている気がする。
エイタとバンリの話をする前に、私の知人男性から聞いた話と、昔、一緒に働いたことのある男性支援員の話をしよう。
その知人男性は大学生時代、自転車通学をしていた。ある日、同じ講義を受ける別の学生から「お前のチャリ、ママチャリじゃん。ダサ。」と言われた、とのこと。そこから「自転車がママチャリか否か」で喧嘩になり、そのまま殴り合いになったらしい。
私は聞いてすぐ、アホくさ、と思ったものの、よくよく考えれば、つまり、プライドのぶつけ合いだったんだろうと思った。
知人男性は相手から「お前のチャリは“かっこよくない”」と言われ、プライドが傷ついた。そして「ダサい」と言い放ったその学生は「マウンテンバイクの方がママチャリよりも“かっこいい”」という価値観を持っていて、「ママチャリに乗っているお前は俺よりも下だ。」という意味合いで言ってきた、といったところだろう。
(何もハンドルにカバーが付いていて、前に可愛らしいカゴが付いているものだけをママチャリと呼ぶのではなく、中高生がよく乗っているような自転車も、ママチャリのカテゴリーらしい。私はその時初めてそれを知った。そして知人男性が乗っていた自転車は、中高生がよく乗っているタイプの自転車だったようだ。)
また、とある学童で一緒に勤務していた大学生の男の子(K君)は、普段からとても優しく、穏やかで、子どもに寄り添って接してくれる、とても素敵な支援員だった。
そんな彼が小学校1年生の男の子と相撲をとって遊んでいた時、見ているこちらがヒヤヒヤするぐらい、K君は絶対負けないのだ。小1の男の子は「普段から優しいK君が、僕に勝たせてくれないことはないだろう。」と、なめてかかっていたと思う。それでも一向に負けないK君に小1男子はイライラし始める。私は内心「最後の1回ぐらいK君が負けてあげれば丸く収まりそうだなぁ、、」と思っていたが、やっぱりK君が勝つ。小1男子は悔しすぎて泣きじゃくり怒りを爆発させ、K君をポカポカ叩き始める。K君はその姿を見て笑いながら「痛いよ〜なんでそんなに怒ってるの?」と小1男子に向かって言った。
私は、普段のK君の立ち振る舞いとちょっと違うなぁと思ったので、後日気になってその件について聞いてみた。
「いつものK君なら何回かに1回は負けてあげてる気がするけど、あの時なんで全勝してたの?笑」と私が聞くとK君は
「いや。あそこは何か、、男のプライド出ちゃいましたね。笑」と言っていた。
温厚で知的な大人であっても、そして相手が小学生であっても、男同士の対決には、何かゆずれないものがあるらしい。
(もちろん、K君が負けてあげることが正解ではない。小1男子が、「K君には敵わない」と思う機会だって、大事な機会の1つだ。)
さぁ、早速本題。
小学校4年生のエイタとバンリ。
私は最初他の子らを見ていたため、私がぱっと2人を見たときには、もう既に喧嘩が始まっていた。エイタがバンリに殴りかかろうとしていて、他の支援員では止められそうになかったので、私が間に入って、一旦力尽くで抑えた。“力尽く”はもちろん、体罰でも暴力でもない。しかし相手は小学校4年生。しかも大人ぐらい身長で、スポーツ万能なエイタ。エイタの力に女性はかなわないのだ。(一応私も女性だが、瞬間的なパワーぐらいはある。笑)
「まぁまぁまぁ、一旦バンリから離れよ?話聞くよ。」と声をかけながらエイタとバンリを引き離し、まずはエイタの話を聞いた。エイタは怒りに震え上がりながらも、少しずつ話をしてくれた。
「俺が持ってた紙飛行機、バンリが勝手に奪ってきたんだよ!!!」
え、、、紙飛行機?_(:3 」∠)_
私は一瞬呆れる気持ちを抑えて、エイタの気持ちを汲み取った。まずは状況確認。
「紙飛行機はもともとエイタのものだったの?」
「そうだよ!」
「エイタがバンリにあげたんじゃなくて?」
「ちげぇよ!!!奪ったんだよ!」
「エイタが手に持っていた紙飛行機を、バンリが奪ったってこと?」
「いや、、、俺の机に置いてたんだよ。それをあいつ(バンリ)が奪ったんだよ。」(その場には個人持ちの机があったので、「俺の机」という表現は間違っていない)
そしてエイタは話を続ける。
「ずるいんだよやり方が。あいついつも調子乗り上がって。」
ここで私は合点がいった。
この状況、この場合においての、エイタのプライドのシンボルが「紙飛行機」なのだ。それを持っている俺が強い。そしてエイタはバンリよりも上の立場にいると思っている。バンリには負けたくない。「紙飛行機」が大事だからではない。バンリに負けている今の状況が、いちばん嫌なのだ。
「なるほどね。机に置いていたのをバンリが勝手に持っていったってことね?それは確かにずるい。じゃあその話を私がバンリに話してくるから。エイタはここで待ってて。エイタが手ぇ出したら、エイタの方が悪いっていう印象になっちゃうから。離れててよ!」とエイタに言って、私はバンリの元へ行った。エイタはずっとイライラしていじけていたが、ちゃんと待ってくれた。
そして、私はバンリに、エイタから聞いた話をする。「バンリ。エイタは『エイタが机に置いていた紙飛行機を、バンリが勝手に取っていった』って言ってるんだけど、合ってる?」とまず事実確認。
「ちげぇし!!エイタから借りただけだよ。」
それを聞いたエイタはすっ飛んできて「貸してねーだろ!!!」と殴りかかりそうになる。バンリはひょいとかわす。
バンリはエイタよりも背がずっと小さく、かわしたり逃げたりすることに関してはエイタより優れている。きっとそういう身のこなしで、紙飛行機を盗んだのだろう。と言うのも、バンリは普段からごまかしたり嘘をついたりすることが多い。でも、それはそれで理由があるから、そこについてどうこう言うつもりはない。
何度か「いやちょっと借りただけだよ!」「違うだろ!お前が勝手に取ってただけだろ!」「でも、机の上に置きっぱなしだったじゃん?」「俺の机だろうが!!」みたいなやりとりがやんややんやと続き、少しずつバンリが本音の近くまで言うようになった。
「そもそも、エイタが持っている紙飛行機、チヒロが作ったやつなんだよ。じゃあエイタのものじゃねぇーじゃん。」とバンリが言う。
なるほど。チヒロ(同じく小4男子)が作った紙飛行機にもかかわらず、それをエイタの“プライドの象徴”として持っていることが気に食わない、といったところか。
その後バンリもまた
「エイタ、いつも調子乗ってるから気にくわねぇんだよ。いつも偉そうにしやがって。」と言う。
完全にプライドをかけた戦いである。このプライドは、尊重しなければならない。尊重したいと私は思った。大人にとって取るに足らないことであったとしても、彼らにとっては今いちばん大事なことなのだ。仲直りみたいな方向に持っていくのはかなり危険だ。
周りの人は、「紙飛行機を返してあげれば済む話」ぐらいに思っているが、そうではない。それはバンリのプライド、「かっこよさ」を尊重しないことにもなる。また新たな争いが始まってしまう可能性がある。
私が双方を行き来しているうちに、お互い事実確認はできた。
・チヒロが紙飛行機を作っていた。
・エイタはチヒロの作る紙飛行機が「かっこいい」と思い、チヒロに紙飛行機をくれるよう頼んだ。
・エイタはチヒロ作の紙飛行機を自分のものにする。
・そんなエイタのことが、バンリは気に食わなかった。
・エイタがエイタの机に紙飛行機を置いた隙に、バンリがその紙飛行機を取った。
バンリは納得した様子ではあった。だがバンリは、
「話はわかったよ。でも俺は返さねぇ。」
の一点張りだった。
こうなったら仕方ない。。
私はエイタをまた呼び出した。
「バンリ、話はわかってくれたよ。借りたんじゃなくて取ったって言うことも認めてる。でもねぇ、、それでもバンリは返したくないって言うんだよ。」
と言うと、少し頭の冷えたエイタは、鼻で笑った。
「あいつ、ガキだな。」
と、エイタは言った。私は少し声をひそめて
「んまぁ、ガキって言い方はちょっときついかなぁと思うけど、少し子供っぽいかもね。」と言った。
「エイタ、またチヒロに紙飛行機作ってもらったら?もっといいやつ作ってもらいなよ。」
エイタは無言でその場を去った。
そりゃそうだ。「そうする。」なんて言ったら負けを認めたことになる。
私はチヒロの元へ行き、チヒロに事情を話した。
「ーー ってわけで、チヒロが作る紙飛行機が、あんまりにもかっこよくて、奪い合いになってるってわけですよ。チヒロさん、どうかもう1つ作ってもらえませんかね?」
チヒロはニヤっと笑いながら
「ああ、やっぱり?俺の美的センスが光ってるっていうか?俺って才能溢れちゃうんだよね〜」と言った。
それを少し離れたところで聞いていたエイタは、ケラケラと笑っていた。