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BLドラマ 望海と叶雨 脚本

新宿二丁目深夜食堂 第十八話 赤いマフラーの高校生三人のエピソード0です


第一話 高校入学

登場人物

青井望海 高校一年生 叶雨の親友
霧生叶雨 高校一年生 イケメン高校生
滝川雫  高校一年生 叶雨に恋心を抱く、望海の幼馴染み、望海と同じクラス

○登校中の通学路、朝
   叶雨が前を歩いているのを見つける望海
   気付かれないようにそっと近付く望海
   後ろから突然、抱き付く
望海「 おはよ」
   驚く叶雨
叶雨「止めろよ」
   不意をつかれて慌てる叶雨
   叶雨から離れる望海
望海「昔は、お前からやってたじゃん」
叶雨「そうだけど」
望海「わかったよ、もうやんないよ」
   戸惑う叶雨
叶雨「そうじゃなくて」
望海「嫌なんだろ」
叶雨「嫌じゃなくて、、、」
   恥ずかしそうに、うつ向く叶雨
望海「何か、お前、最近、変だぞ」
   叶雨に目をやる望海
叶雨「俺からバックハグするから、、、誰も居ないときに」
   驚く望海
望海「バックハグ!?」
叶雨「そうだよ」
望海「いや、さっきのは朝の挨拶で、スキンシップ的な」
叶雨「俺、何だかハズイ」
望海「そうなのか」
叶雨「うん」
望海「そんなこと言われたら俺も意識してしまうだろうが」
叶雨「望海は今まで通りでいいよ」
望海「何だよ、それ」
叶雨「あのさあ、望海の言う通り、俺、最近、変なんだ」
望海「病気なのか」
叶雨「そんなんじゃ、なくて」
望海「確かに、あんま喋んなくなったし、ふざけなくなったよな」
叶雨「うん」
望海「俺、避けられてる?」
叶雨「そんな訳ないだろ」
望海「なら、良いけど」
叶雨「なあ、望海、お昼、弁当だったら屋上で一緒に食べない?」
望海「そうだな、クラスも変わって喋る時間ねえし、ふたりで食べようか」
叶雨「じゃ、屋上で待ってるから」
望海「おお、じゃな」
   高校に到着し、教室に入る望海
雫「おはよう」
望海「おはよう」
   隣の教室に入る叶雨

○高校、校舎の屋上、昼

   ベンチに腰掛けて待つ叶雨
   降り注ぐ太陽の光
   眩しく笑う叶雨
   叶雨が手を振る
   なぜか胸が苦しくなる望海
望海「おお、叶雨、早えーな」
叶雨「早く会いたかったから」
望海「彼女みたいなこと言うなよ、恥ずかしいだろうが」
   照れくさそうに笑う叶雨
   弁当箱を開けるふたり
望海「何か話があったのか」
叶雨「いや、別に、ないよ」
望海「新しいクラスに慣れたか」
叶雨「いや、馴染んでない」
望海「中学みたいな感じで、ワーワ言ってたらいいじゃん」
叶雨「あの時はお前がいつも隣にいたからだよ」
   望海を見つめる叶雨
望海「あ、そうそう、叶雨、お前、部活どうすんだよ、高校でも陸上続けんのか」
叶雨「ううん、陸上は止めた。望海はバスケ続けるのか」
望海「俺も、もう止めた」
叶雨「そっか」
望海「俺はレギュラー取れなくて、くすぶってたけど、お前、選抜に入ってたし、期待されてたじゃん」
叶雨「そんなんじゃないよ、じゃ、お互い帰宅部ってことで、一緒に帰ろう」
望海「ああ、いいよ」
   ふと視線を感じる望海
   屋上のドアあたりでこちらを見ている女子を見つける
望海「おい、叶雨、あの子、お前のクラスの子じゃないの?」
叶雨「そうみたい」
望海「行かなくていいのか」
叶雨「別に呼ばれてないし」
望海「でもさあ」
   ジェスチャーで女子に向かって叶雨を指差す望海
   うなずく女子
望海「お前に用事が、あんだって、行って来いよ」
   弁当箱を置き立ち上がる叶雨
   ポケットに手を入れて歩き出す
   すぐに戻ってくる叶雨
   水筒のお茶を飲む
   残りの弁当を食べ始める叶雨
望海「何だって」
叶雨「何でもないよ」
望海「告白されたのか」
叶雨「うん」
望海「何でもなくないじゃんか、、、振ったのか」
叶雨「うん」
望海「かなり可愛い子だったぞ」
叶雨「そうか」
望海「お前、中学の時からモテモテだったけど、彼女作る気ねえのか」
叶雨「要らないよ」
望海「何でだよ」
   返事をしない叶雨
望海「好きな人がいるとか」
叶雨「うん」
望海「誰だよ」
   返事をしない叶雨
望海「俺の知ってる子?」
叶雨「うん」
望海「中学一緒の子」
叶雨「うん」
望海「高校一緒の子」
叶雨「うん」
望海「クラス一緒の子」
叶雨「違う」
望海「もしかして俺のクラスとか?」
   笑ってうなずく叶雨
   戸惑う望海

望海のM「え、俺のこと!? そんな訳ねえよな」

叶雨「望海は好きな子いるのか」
望海「人を好きになったことねえから、よくわかんねえけど」
叶雨「そうなのか」
望海「ずっと考えてしまう人はいるな、考えていると何だか胸がモヤモヤする」

叶雨「小学校一緒の子」
望海「うん」
叶雨「中学一緒の子」
望海「うん」
叶雨「高校一緒の子」
望海「うん」
叶雨「クラス一緒の子」
望海「違う」
叶雨「、、、隣のクラスの子」
望海「うん」

望海のM「わ、叶雨のことだって、ばれたか、落ち着け、落ち着け、俺」

   弁当箱を片付ける望海

望海「昼から教室移動だから先に行くな」
叶雨「おお、じゃ一緒に帰ろうな」
望海「オッケー、じゃ」
   逃げるように屋上から立ち去る望海
   望海の後ろ姿を目で追う叶雨
   望海の姿が見えなくなる
   校舎の屋上に一人残る叶雨
   太陽が雲に隠れる
   風が通り過ぎて行く

○下校中の通学路、夕方

   下校中のふたり

望海「なあ、叶雨、一般的な話だけど付き合い始めたら、どんなことするんだ」
叶雨「んん、まあ、いろいろあるとは思うけど」
   叶雨に目をやる望海
叶雨「待ち合わせて登校したり、昼飯を二人だけで食べたり、一緒に下校したり、家に遊びに行ったり、休日にデートしたり、手をつないで歩いたり、抱き合ったり
まあ、お互いの好きなことをして一緒に時間を過ごすんじゃないかな」
望海「ふうーん」

叶雨「昨日、お前の家行ったから、今日は俺の家に来るか」
望海「そうだな」
叶雨「ゲームの続きやろ、あ、そうだ、ゲームの新作が出たから、土曜日に買いに行くから着いてきてよ」
望海「ああ、いいよ」

○待ち合わせ場所、昼

   先に到着している叶雨
   叶雨の服に驚く望海

望海「叶雨、その格好、めっちゃ気合い入ってるな」
叶雨「今日の為に買ったんだけど、おかしいか」
望海「いや、すごい似合ってる、雑誌のモデルさんみたい」
叶雨「そうか、良かった」
望海「それに比べて俺の服、全身ユニクロだから寂しくなる」
叶雨「いや、爽やかで似合ってるよ」
望海「うん」
叶雨「昼飯食ったか」
望海「いや、朝起きたのが遅かったから、まだ」
叶雨「じゃ、何か旨いもの食いに行こう」
望海のM「これってデートなのか!?」
望海「あ、俺、あんまり金がないから、ファストフード的な物がいいな」
叶雨「そんなの近所で、いつでも食えるじゃん」
望海「じゃ、バイトして金稼ぐ」
叶雨「一緒に遊ぶ時間なくなるよ」
望海「じゃ、ハンバーガーで」

   中年の男性が近づいてくる
男性「あ、ちょっと君、いいかな」
   名刺を叶雨に渡し何か話す
叶雨「俺、そういうの興味ないんで」
   戻ってくる叶雨
望海「何だって」
叶雨「モデル事務所のスカウト」
望海「ええっ」
叶雨「このジャケットが目立つのかな」
   ジャケットを脱いで肩にかける叶雨
   サングラスを胸ポケットにしまう
叶雨「これでいいかな」

   ファストフード店を見つける
   中年の女性が近づいてくる

女性「すみません、ちょっと時間宜しいかしら」
   名刺を叶雨に渡し何か話す
叶雨「俺、そういうの興味ないんで」
   戻ってくる叶雨

叶雨「ハンバーガー食って、ゲーム買って、さっさと帰ろう」
望海「そうだな」

○叶雨の自宅、中、夕方
   叶雨の自宅に戻る
望海「お邪魔しまーす、望海でーす」
叶雨母「のんちゃん、いらっしゃい」
   玄関の生け花に目をやる望海

○同、叶雨の部屋、中
   叶雨の部屋に入る
   叶雨が服を脱ぐのをじっと見てしまう望海
   ジャージに着替える叶雨
   新作ゲームソフトをセットする
叶雨「よーし、行くぞ」
望海「さあ、来い」

   叶雨のベッドで眠ってしまった望海
   目覚める望海
   目の前に叶雨の顔

望海「うわ、びっくりした、今、何時、あ、俺、帰るわ」
叶雨「明日、日曜日だし、泊まっていけよ」
望海「いや、母さんに言ってなかったので、帰る」
   望海のアウターを着せる叶雨
叶雨「そこまで送ってゆく」
望海「いいよ、子供の時から、何度も来たことあんのに」
叶雨「誰かに襲われるかも」
望海「そんなことあるか!」
叶雨「俺だったら襲うかも」
望海「お前バカか」
叶雨「バカかも、、、」
望海「え?言い返さないのかよ」
   叶雨の部屋を出る
望海「おじさん、おばさん、失礼します」
望海母「のんちゃん、夕食食べていかないの」
叶雨「要らないって」
望海「すみません、お心遣いありがとうございました」

○駅前通り、夜

   ふたりで歩く夜道
   街灯の照明
望海のM「え、叶雨と手つないでる、俺寝ぼけてるのか」
望海「もうこの辺でいいよ」
叶雨「俺、コンビニに用事あるし」
望海「さっき通ったじゃん」
叶雨「向こうのコンビニ」
望海のM「あ、やっぱり手つないでる、何で」
叶雨「望海」
望海「叶雨、今日は楽しかったよ」
叶雨「、、、俺も」
望海「本当に、この辺でいいよ、ありがとう」
叶雨「うん、じゃ」
望海「うん、じゃあな」
   ゆっくりと手を離す
   手を振る
叶雨「望海」
望海「ん」
叶雨「何でもない、おやすみ」
望海「おやすみ、かな」

望海のM「あ、心臓がバクバクする、何だこれ」

○登校中の通学路、月曜日、朝
   望海が前を歩いているのを見つける叶雨
   気付かれないようにそっと近付く叶雨
   後ろから突然、抱き付く
叶雨「 おはよ」
   驚く望海
望海「おはよ」
   叶雨の匂い
   望海の肩に首を乗せる叶雨
望海「おい、いつまでくっついてんだよ、みんな見てるぞ」
叶雨「いいじゃん、別に」
望海「いいけどさあ、何か俺ハズイ」
   顔を赤らめる望海
   登校する生徒達に追い抜かされるふたり
   月曜日の朝
   清々しい快晴
 2025/1/22

第二話 ゴールデンウィーク

登場人物

青井望海 高校一年生 叶雨の親友
霧生叶雨 高校一年生 イケメン高校生

○高校、校舎の屋上、昼
   ベンチに腰掛けて待つ叶雨
   降り注ぐ太陽の光
   眩しく笑う叶雨
   叶雨が手を振る
   なぜか胸が苦しくなる望海
叶雨「望海、連休は何か予定あるのか」
望海「短期バイトでもしようかな、まだ決めてないけど」
叶雨「バイト確定じゃないんなら、俺ん家、泊まりに来なよ?親、旅行でいないからさ」
望海「旅行、行かないのかよ」
叶雨「なあ、うち来いよ」
望海「うーん、、、じゃあ行こっかな」

○望海の自宅、部屋、中、昼
   お泊まりセットの準備に悩む望海
望海のM「何、持っていけばいいんだ、歯ブラシだろ、タオルだろ、パジャマだろ、着替えだろ、パンツだろ、新しいのにしておこう、靴下だろ、、、」
   鞄に詰め込む望海
望海「叶雨の家に行ってきまーす、明日、戻りまーす」
望海母「はいはい、かなちゃんに宜しく伝えてね」
望海「はーい」

○叶雨の自宅、前、昼
望海「おーい、叶雨、来たぞ」
   インターホンで呼び出す望海
叶雨「はーい」
   玄関のドアが開く
   望海にいきなり抱きつく叶雨
望海「え、何、何」
叶雨「ただの挨拶だよ」
望海「お前は西洋人か」
   リビングに入る
望海「おじさんとおばさんは、どこに行ったって」
叶雨「沖縄」
望海「沖縄いいじゃん、お前も、行ったらよかったのに」
叶雨「ひとりだと、つまんない、お前が居たら行くけど」
望海「家族旅行に、俺、関係ねーじゃん」

叶雨「昼飯食べに行こう」
望海「何でも良ければ作ろうか?」
叶雨「作って作って」
望海「じゃ、冷蔵庫を、うわあデカ、買い換えたのか」
叶雨「うん、俺が食うようになったから」
   冷蔵庫の扉を開く
   びっしりと詰まった食品
望海「見たことないものばっかだぞ、このキュウリみたいな太い緑の物は何だ?」
叶雨「ズッキーニ」
望海「ほうれん草みたいな、この葉っぱは?」
叶雨「モロヘイヤ」
望海「見たことないものばっかだな」
叶雨「そう?」
望海「カレーとかピラフとかオムライスとかは、どう」
叶雨「全部、食べたい」
望海「全部って、じゃ、昼はカレーにするぞ」
叶雨「はーい」
   食材を取ってキッチン入る
   準備に取りかかる望海

望海「叶雨、ちょっと、近い、近いよ」
叶雨「うまそう、いい匂いだね」
望海「俺、バックハグされてないか」
叶雨「これ挨拶」
望海「玄関で挨拶されたけど」
叶雨「これは昼飯の挨拶」
望海「なんだそれ」
叶雨「バックハグってのは、首からこうやってぎゅって」
望海「はい、わかりました、近いです」

○同、ダイニング
   料理を運ぶ望海
叶雨「いただきます」
望海「どうかな」
叶雨「うまい、母さんのカレーよりコクがある」
望海「隠し味にインスタントコーヒー、赤味噌、ニンニクを入れた」
叶雨「うまいな」
望海「上に乗っけているのが、ズッキーニ」
叶雨「ズッキーニ合うね」
望海「サラダも食べろ」
叶雨「はい」
   モリモリ食べる叶雨を見つめる
   胸の奥がじわーっとする望海
望海「おかわりあるよ」
叶雨「おかわりちょうだい、ご飯大盛り」
望海「はい」
   おかわりを運ぶ望海
叶雨「うまいな」
   叶雨を見つめる望海

   洗い物をする叶雨
   食器を拭く望海

望海「この後さあ、昔いつも行ってた公園に行かないか」
叶雨「ああ、久しぶりぶりに行くか」
望海「うん」

○近所の公園、中

   公園を見渡す望海
望海「こんなに狭かったんだ」
叶雨「そうだね」
望海「俺達が大きくなったってことか」
叶雨「うん」
   ブランコに乗るふたり
望海「長い付き合いだな」
叶雨「うん」
望海「小学生からだもんな」
叶雨「うん」
望海「どこに行くのも、いつも一緒だったよな」
叶雨「うん」
   ブランコを止める望海
望海「ん、どうした」
   様子がおかしい叶雨
叶雨「お前が居なくなるような気がして」
望海「何処にも行かないよ」
   ブランコをこぐ望海
叶雨「うん」
望海「お前の方こそ、進学や就職でここから離れるんじゃないの」
叶雨「そんなことわかんないよ」
   子供達のはしゃぐ声
   サッカーボールが跳ねる音
   ブランコが揺れる
   帰れないふたりを残して

○叶雨の自宅、前、夜
   ゲームを終えて立ち上がる叶雨
望海「俺が負けたところで終わるのかよ」
叶雨「よーし、夕食は俺が何か作る」
望海「おお、作って」
叶雨「うん」
   キッチンに入る叶雨
   水の音
   何かを切るまな板の音
   様子を見に来た望海
望海「へえー、何かおしゃれな物、作ってんな」
叶雨「近い」
望海「くっついてないだろうが」
叶雨「俺も『近い!』ってやりたい」
望海「え」
叶雨「やってみてよ」
望海「ええ、こんな感じ」
   後ろからそっと叶雨を抱き締める望海
叶雨「違うな」
望海「こんな感じ」
   後ろからぎゅっと抱き締める望海
叶雨「違う」
望海「こんな感じ」
   後ろから首まで強く抱き締める望海
叶雨「違う」
望海「お前、近いって言う気ないだろう」
叶雨「近かったら言うよ」
望海「近いじゃん」
叶雨「何だか近いのに遠いんだよ、、、」

○同、ダイニング
   料理を運ぶ叶雨
叶雨「どうぞ」
望海「なんだこのお洒落な飯は」
叶雨「どうかな」
望海「う、うめー」
   望海を見つめる叶雨
叶雨「ボロネーゼはブロック肉を家で挽いてる」
望海「こっちは」
叶雨「庭で採れた 自家栽培のベビーリーフ、ジュースは生のフルーツを今搾ったとこ」
望海「お前、毎日、こんなの食ってんのか」
叶雨「うん」
望海「お前は幸せ者だな」
叶雨「毎日、作ろうか」
望海「おお、毎日、作って」
叶雨「うん」
   望海を見つめる叶雨

   洗い物をする望海
   食器を拭く叶雨

叶雨「一緒に風呂入ろうか」
望海「な、なんだよ、いきなり」
叶雨「子供の時みたいに」
   叶雨に目をやる望海
望海「それって小学二年の頃の話だろが」
叶雨「うん」
望海「や、嫌だよ」
叶雨「そっか」
望海「うん」
叶雨「そうだな、お前、先に入れ」
望海「ああ、覗くなよ」
叶雨「覗かないよ」
   風呂の準備に行く叶雨
叶雨「お風呂いいよ」
望海「はーい」

○同、バスルーム

   シャワーを浴びて湯船につかる望海
望海のM「久しぶりの叶雨の家の風呂だな
しかし、まあ、うちと違って広い風呂だよなあ
ふたり十分入れるスペース」
   曇りガラスに叶雨の気配
望海のM「うわ、やっぱり、叶雨が来た、あああ、わわわ、どうしよう」
叶雨「バスタオルここに置いとくよ」
望海「サンキュー」
   姿を消す叶雨
望海のM「えええ、来ないのか!?」
   ブクブクブク
   安堵と期待外れで湯船に沈む望海

○同、叶雨の部屋
   叶雨のベッドの横に用意されているふとん
   バスタオルを腰に巻いたまま、ふとんに倒れ込む望海
望海「あー、のぼせたー」
叶雨「長風呂だなと思ってたけど」
望海「ううう」
叶雨「大丈夫か」
望海「大丈夫」
叶雨「じゃ、俺も入ってくる」
望海「ああ」

   髪を拭きながらパジャマ姿で戻ってくる叶雨
   バスタオルのまま、眠ってしまった望海
   望海にふとんをかける
   照明を消す

○同、翌朝、叶雨の部屋
   目覚める望海
望海のM「え、俺、叶雨と一緒に寝てるのか、なんで
え、俺だけ裸で寝てるのか、なんで
落ち着け、落ち着けよ
あ、風呂上がりでのぼせて、そのまま寝たのか
あ、夜中に水飲んで戻ってきてベッドに寝た
俺は、ふとんだったな、やらかしたのは、全部、俺か?」
   叶雨を起こさないように、ふとんに移動しようとする望海
   叶雨が望海の腕をつかむ
望海「起きてたのか」
叶雨「望海が来てくれたから、眠れなかったよ、すぐに寝てがっかりしたけど」
望海「あ、ごめん」
叶雨「望海、こっちおいでよ」
望海「俺、裸なんで何か着る」
   パンツをはいてパジャマを着る望海
叶雨「こっち、おいで、今日は1日パジャマで過ごそう、パジャマデーだ」
望海「俺、今日、帰るよ」
叶雨「明日も休みだし、いいじゃん泊まれば」
望海「んんん」
叶雨「おばさんに連絡しておこうか、のんちゃん返しませんって」
望海「もう、自分で連絡するから、いいよ」
   ベッドに寝転がって伸びをする望海
   伸びをした手で 叶雨にパンチする望海
   腕をついて横を向き笑いながら望海を見つめる叶雨
   パジャマのふたり
   連休二日目の朝
   本日も晴天なり
2025/1/24

第三話 留学するのか

登場人物

青井望海 高校一年生 叶雨の親友
霧生叶雨 高校一年生 イケメン高校生
滝川雫  高校一年生 叶雨に恋心を抱く、望海の幼馴染み、望海と同じクラス

○叶雨の自宅、ダイニング、夜
   父と向き合う叶雨
   うつむく叶雨
叶雨父「かな、留学先は決めたのか」
叶雨「もうちょっと待って、お父さん」
叶雨父「もうちょっとって、申請期限が迫っているだろう」
叶雨「はい」
叶雨父「お前にしては珍しいな、学校で何かあったのか」
叶雨「いや、何も」
叶雨父「留学先は自分で決めるようにと言ったはずだ」
叶雨「はい」
叶雨父「公立高校に進学するのは留学が条件だと約束しただろう」
叶雨「はい」
叶雨父「私立高校なら授業の一環で留学してただろうに」
叶雨「はい」
叶雨父「前にも言ったが、何れ私の後を継いでもらうことになる、今のうちに勉強以外にも、いろんな経験を積んでおきなさい」
叶雨「はい」
叶雨父「成功体験だけでなく、失敗、挫折も将来の宝になるんだからな」
叶雨「はい、お父さん」

○高校、校舎の屋上、昼
   ベンチに腰掛けて待つ叶雨
   何かを考え込んでいる叶雨
望海「おー、叶雨、どうした、元気ないじゃん」
叶雨「望海、前から決まっていたんだけど、親が留学しろって言ってるんだ」
望海「えええ!?」
叶雨「どうしたらいいと思う?望海が決めて」
望海「えっ、俺が決めるのか」
叶雨「望海が行くなって言うなら、俺、行かないから」
望海「そんな大事なこと、俺が決めていいのか」
叶雨「うん、決めて欲しいんだ」
望海のM「そんなの行って欲しい訳ないじゃん、でも、こいつの為になるのなら、、、でも離れたくない」
望海「留学するのって、いつから?」
叶雨「来月、夏休み入ったらすぐ」
望海「もうすぐじゃん、で、いつ戻るの?」
叶雨「夏休みが終わったら戻ってくる」
望海のM「あー何だ!短期留学か。良かった、それなら、なんとか生きて行けそう」
望海「夏休みなんて、あっという間だろ」
叶雨「俺たち会えなくなるんだよ?望海に、ひと月以上会えないなんてこと、俺、経験したことないもん」
望海「俺も、辛いよ」
叶雨「望海とハグできなくなる」
望海「エアーハグすればいい」
叶雨「何だよ、それ」
   笑い合う二人
望海「叶雨、行ってこいよ、俺、待ってるから」
   叶雨の肩に手を置く望海
叶雨「待っていてくれるのか」
望海「待ってるよ」
叶雨「じゃ、行く」
望海「うん」

○同、望海の教室、中、午後

   椅子に座って頭を抱え込む望海
望海のM「あー、カッコつけてあんなこと、言っちまったー、どうしよう、叶雨が、居なくなること想像しただけで、もう泣きそう」

雫「望海、元気ないじゃん」
望海「うん」
   頭を抱え込んだままの望海
雫「最近、お昼、どこで食べてんの」
望海「ああ、、、」
雫「昼休み、いつも先生の物真似やってたじゃない」
望海「うん」
雫「岡田先生の新作はできた?」
望海「やらねえー」
雫「皆、期待してるよ」
望海「知らねえーよ」
雫「望海、何かあったの」
   雫の目を見る望海
望海「なあ雫、もし、お前の離れたくない人が、将来の為に一歩進もうとして、今、お前の前から離れようとしている、お前ならどうする」
雫「将来の為でしょ、私なら応援するよ」
望海「お前は悩まないんだな」
雫「ねえ、それって恋の悩みなの」
望海「ち、ちげーよ」
雫「それって望海のこと?」
望海「ちげーよ」
雫「なんだ、つまんない」
望海「ええ?」
雫「愛している人の為でしょ、もちろん笑顔で送り出すわよ、心で泣いていてもね」
望海「そっか」
望海のM「笑顔で送り出してやらないとな、俺なんかより、ずっとあいつの方が不安だろうな、俺にできることって、それしかないよな」
望海「ありがとう、雫」
望海「おーい、できたて岡田先生の新ネタすんぞーっ」
  「おおー、待ってました!」盛り上がるクラスメイトたち
望海「『小テストするじょー』」
   岡田先生の物真似を披露する望海
   教室が大爆笑の渦に包まれる
   クラスの外まで聞こえる笑い声
   午後のチャイムが鳴る
   岡田先生が入ってくる
岡田「出欠を取るじょー」
   クラスに笑いが起きる

○叶雨の自宅、ダイニング、夜
   父と向き合う叶雨
叶雨「お父さん、留学先を決めました」
叶雨父「どこにした」
叶雨「ここの大学で、期間は、このくらい、費用は、このくらいです」
   タブレットで説明する叶雨
叶雨父「ああ、ここか、概要は見たことあるぞ、いいと思う」
叶雨「じゃ、申し込むよ」
叶雨父「はい、頑張んなさい、15歳の今でしか感じ取れないものが必ずあるはずだ」
叶雨「はい」
   固い決意の表情の叶雨
   母にも説明する叶雨
   英会話の勉強を再開する叶雨
2025/1/26

第四話 七夕祭り

登場人物

青井望海 高校一年生 叶雨の親友
霧生叶雨 高校一年生 イケメン高校生

○地元の駅、前

   待ち合わせの鎌倉駅
   望海を待っている浴衣姿の叶雨
   叶雨をチラチラと見て前を通り過ぎる年頃の女の子達
   甚平姿で、やってきた望海
望海「お待たせ叶雨、浴衣似合ってるな」
叶雨「母さんに着せられて、写真をバシバシ撮られた」
望海「フフッ」
望海「この格好で何かポーズしろって」
望海「おばさんなら、やりそう、目に浮かぶ」
叶雨「早く子離れしろー」
望海「あはは、おばさん、かなの事が大好きだから」
叶雨「そんなんじゃないよ」
望海「嫉妬する」
叶雨「母さんは俺の写真撮りすぎ、写真集出すのかっていうくらい」
望海「写真集、見たい」
叶雨「ないない」
望海「叶雨の浴衣格姿、格好いいよ」
叶雨「そうか、ならいいや」
望海「待受画面にするから撮らせてよ」
叶雨「いいけど、学校の奴らに見られても大丈夫?」
望海「誰に見られても構わないよ」
叶雨「望海、変わったな」
望海「変わってないよ、これが本当の俺だから」
   写真を撮る望海
望海「いいのが撮れた、ほら」

叶雨「望海の甚平も、すごく似合ってる」
望海「これ父さんのだけど、丈も丁度」
叶雨「うちの父さんは俺より低いな」
望海「叶雨は中学で急に伸びたからな」
叶雨「俺にも撮らせて」
   写真を撮る叶雨
叶雨「俺も待受画面にしよ、ほら」
望海「ハズ、誰にも見せるなよ」
叶雨「いいじゃん、別に、俺は誰に見られても、構わないよ」

   望海のクラスの同級生とすれ違う

同級生「おっ、望海に叶雨じゃん、お前ら仲いいな、付き合ってるみたい」
望海「、、、そうか、、、」

○地元の神社、中

   境内を歩く二人
   行き交うひとの群れ
   屋台の喧騒
   本殿・舞殿・太鼓橋の揺れる七夕飾り
   鈴掛神事が執り行われている舞殿
   夕方の風に舞う吹き流し

   望海のM「あと三週間で叶雨は出発するのか、笑顔で送り出すことなんて、とてもできないなあ、何て言葉をかけたらいいんだろ、『頑張れ』たって、叶雨は十分、頑張っているし」

叶雨「元気ないじゃん、いつもはもっとバカみたいにウッセーのに」
望海「なんだと」
  叶雨を羽交い締めする望海
叶雨「いてて、ギブ、ギブ」
望海のM「じゃれるのも、あと何回あるのか」
   叶雨の背中から抱き締める望海
   押さえていた何かが、一気に溢れだす望海
望海のM「あー、俺、やっぱり、叶雨がいないとダメだ、カッコつけて行けって言ったけど、ダッセーなあ」
叶雨「望海、お前が泣いていたら、俺が泣けない」
望海「ああ」
叶雨「留学しろって望海が決めたんだぞ」
望海「ああ」
叶雨「俺、行きたくなかった」
望海「わかってたよ」
叶雨「止めて欲しかった」
望海「それ言うな」
叶雨「どこか遠くにふたりで逃げようか」
望海「、、、バカか、お前は」
叶雨「留学のこと後悔してるのか」
望海「後悔してねーよ」
叶雨「やせ我慢すんな」
望海「ウッセー、バーカ」
   叶雨の背中を強く抱き締める望海

   鶴岡八幡宮の短冊形の絵馬
   ふたつが並んでゆっくりと風に揺れている

   叶雨が無事に留学を終えて元気に戻ってこれますように 望海
   留学から戻ったら、望海とずっと一緒にいられますように 叶雨
2025/1/27

第五話 旅立ち

登場人物

青井望海 高校一年生 叶雨の親友
霧生叶雨 高校一年生 イケメン高校生
隼人 見えても、見えなくてもー明日は、きっとー の登場人物 会社員
大地 上記と同じ 視覚障がい者ロックバンドのボーカル、隼人の恋人

○空港に向かう車、中

   望海の母親が運転する車内
   叶雨の見送りに向かう望海
   渋滞中の道路
   叶雨にメッセージを送る望海
   『渋滞に巻き込まれた、間に合わないかもしれない』
   叶雨からの返信を受け取る望海
   『間に合わなくていい、無茶なことは止めて』
望海「母さん、まだ動かないの?」
望海母「この先で事故があったみたいね」
望海「どれくらいかかるかな」
望海母「この様子じゃ、時間読めないわね」
望海「俺、先に行くよ」
望海母「望海、ちょっと、あんた」
   車から降り、車道の脇を走る望海
   渋滞の車列、望海の姿を目で追う人々
   走る望海
   
(回想)
   子供の頃から一緒に過ごしてきた思い出がよみがえる
   喧嘩したこと、泣いたこと、怒ったこと、笑ったこと
   そこにはいつも叶雨がいた
   叶雨が俺をいつも支えてくれていた
(回想戻り)

   事故現場を通り過ぎ走る望海
   前方の路側帯に止まっている一台の車
   その車を追い越して走る望海   
望海のM「かな、俺、お前にまだ何にも」
   足がもつれて前に倒れ込む望海
   汗があごの先からポタポタ車道に落ちる
   呼吸が苦しくてゼーゼーとなる望海
望海のM「叶雨、ごめんな」

   後ろからゆっくり近づく車
   車の窓が開く

隼人「ねえ、君、大丈夫?空港に行くんだよね、乗ってく?」
望海「はい、お願いします」
   車に飛び乗る望海
   望海の様子を伺いながら、車を走らせる隼人
隼人「びっくりしたよ、車道を走る君がいたからさ、飛行機間に合うの?」
望海「彼が留学するんです、見送りに行きたいんです」
隼人「わかった、しっかり捕まっていて」
   車を飛ばす隼人
隼人「泣かない、泣かない。君、何て名前」
望海「のぞみです」
隼人「いい名前だね、のぞみ君、絶対、間に合うから」
望海「はい」
隼人「彼に何て言葉かけるか考えておきなよ」
望海「何て言って送り出したら、いいのか言葉がみつからなくて」
隼人「何でもいいから、腹の底から叫んじゃえ」
望海「え」
隼人「周りの人のことなんか気にせずにさ」
望海「はい」
隼人「その叫びが君が本当に彼に伝えたいことだと思うよ」
望海「はい」
隼人「もうすぐ着くよ」
   急ブレーキ
隼人「走れ!」
望海「ありがとうございました」
隼人「いいから行け!」

   車を飛び出す望海
   ロンドン行き搭乗口
   叶雨のお父さんとお母さんが手を振っている姿を見つける望海
望海「かなー、かなー」
   待合室の人達が一斉に振り向く
望海「かなー、かなー」
   ゲートに入り搭乗口で立ち止まる叶雨を見つける望海
望海「かなー、俺、待ってる、待ってるからー」
   涙を手で拭う叶雨
   ハンドサインを望海に送る叶雨
   同じハンドサインを叶雨に返す望海
   搭乗口に消えて行く叶雨の後ろ姿
   立ち尽くす望海

叶雨母「かなも、のんちゃんも、大袈裟ね、小旅行、サマースクールみたいなものでしょ、あなた」
叶雨父のM「あの中指、薬指をまげて相手に手の平側を見せるハンドサインは『愛してる』」
叶雨父「そうだったのか」
叶雨母「え、何ですの」
叶雨父「かなが必死で守ろうとしていたものが分かったよ」
叶雨母「かなの守りたいものって何ですの」
叶雨父「そのうち分かると思う」
叶雨母「大好きなママの事かしら」
叶雨父「ま、そんなとこだな」
叶雨母「あら、いつまでたっても親離れしない子ね、本当に」

○隼人の車、中
   帰国した大地を迎えに来た隼人
   マネジャーさんから、あとを引き継ぐ
隼人「お帰り、どうだった、ライブは、ネットで配信されてなかったから見られなかったけど」
大地「世界中の視覚障がい者のアーティストの皆さんと一緒にライブができて本当に幸せだった」
隼人「へえー、ライブ映像を見るの楽しみ」
大地「これが最初で最後かな」
隼人「大地が今度、ホスト役になって日本から世界に向かって発信すれば、いいじゃん」
大地「俺がか」
隼人「そうだよ」
大地「そうだな」

   大地を助手席に座らせ荷物をトランクに乗せる
   車に乗り込む隼人
   車が動き出す

隼人「あ、そうそう、話変わるんだけど、空港に来る時、後続の方で事故があったみたいでさ」
大地「お前の車は巻き込まれなかったんだな、時間通りだったし」
隼人「そうそう、でさあ、急ぎの電話一本かけるのに路側帯に寄せてたら、後ろから高校生くらいの少年が走って来てね」
大地「走るって、高速の車道を?映画みたいだな」
隼人「びっくりだろ」
大地「ありえないな」
隼人「よっぽど急いでるんだろうって思って車に乗せてあげたら、彼氏を見送りに行こうとしてるって」
大地「うんうん」
隼人「実際、間に合うか、どうか分かんなかったけど、俺、絶対、間に合うって叫んでたよ」
大地「うんうん」
隼人「そしたら、本当にギリギリ間に合ったみたいで、のぞみ君っていうんだけど、『俺、待ってる、待ってるから』って声がロビーに響き渡ってた」
大地「うん」
隼人「俺、泣いちゃった」
大地「うん、うん」
隼人「それだけの話なんだけどおー」
大地「そうか」
隼人「フフン、フフン、フフ、フフフフン」
   鼻歌を歌いながら運転する上機嫌の隼人
隼人「大地、今日、何が食べたい、やっぱり和食かな」
大地「カレー食いてー」
隼人「え、カレーなの」
   渋滞が解消した反対車線
   また一台の飛行機が飛んで行く
   青空に向かって
   入道雲がゆっくりと流れて行く
    今まで経験したことのない別々の夏休み
   望海と叶雨の暑い夏が今、始まろうとしている
2025/1/29

第六話 夏休み

登場人物

青井望海 高校一年生 叶雨の親友
霧生叶雨 高校一年生 イケメン高校生
オリバー 叶雨の留学先の友人 男性
レイラ  叶雨の留学先の友人 女性

○予備校、中、朝
   夏期講習に参加している望海
望海のM「叶雨、何しているのかな、何で連絡してこねえんだよ
あ、授業に集中、集中」
   授業の内容が頭に入ってこず、講師の物真似ネタを探してしまう望海

○留学先の宿舎、中、夜
   ベッドで寝返りを打つ叶雨
叶雨のM「望海、何しているのかな、何で連絡してこないんだよ
俺からできないよ、帰りたいって言ってまた困らせちゃうし」
   ベッドで寝返りを打つ叶雨
叶雨のM「声が聞きたいな、望海のカッコよくて可愛くて優しくて太陽みたいなところ、誰かにばれたんじゃないのかな、心配だな」
   眠れない叶雨

○地元の海岸、中、夕暮れ

   夏期講習が終わった後、海岸を歩く望海
望海のM「叶雨、何しているのかな、今日も連絡してこねーなー
俺からできねえだろう、勉強の邪魔したくねーし
この海岸、中学の時、叶雨とよく来たな、でっけーハンバーガー食べに」
   砂浜に座り込んで海を見つめる望海
   スマホの待受画面を見る望海
   叶雨が笑っている
   寄せては返す波
   遠くに船が見える
   カモメが飛んで行く
望海のM「あの船、どこに行くんだろう」

○留学先の教室、中、朝
   午前中、英語レッスンする叶雨
叶雨のM「望海、何しているのかな、早く連絡してこないかな」

○同、校舎の食堂、中、昼

   ひとりでランチを取る叶雨
   スマホの待受画面を見る叶雨
   望海が笑っている

オリバー「やあ、kana、あなたが見ている写真はkimonoですか」
叶雨「いいえ、kimonoではありません、Jinbeiです」
オリバー「オー、それがJinbeiですか」
叶雨「Jinbei は、日本の伝統的な夏服です、特に男の子が夏祭りでよく着用します」
オリバー「そのcuteな男の子は君のboyfriendですか」
叶雨「はい、私のboyfriendです、寂しく思います、あなたに話したのが初めてです」
オリバー「なぜですか」
叶雨「私達の国では認められていないからです、同性婚が
だから同性同士の恋愛は、オープンにできないのです」
オリバー「君は何も間違っていない、間違っているのは君の社会だと思う」
叶雨「うん」
オリバー「ここイギリスは同性婚が認められている、そんなの当たり前じゃないか」
叶雨「うん、そうだよね、ありがとう、帰国したら彼と真剣に向き合おうと思う、これからのことを」
オリバー「応援しているよ、ところで、これ僕のboyfriendなんだけど」
   スマホの待受画面を見せる
叶雨「わお、素敵な彼氏だね、どこで知り合ったの、、、」

○留学先、古城の前、午後

   どんよりと曇った空
   鳥のさえずり
   青い海
   遠くの乳牛牧場
   くずれかけた城壁
   そびえたつ古城 
   古城を観光しにきたクラスメイト
   叶雨の前をひとりで歩くレイラ
   突然、転けて倒れそうになる
   腕を掴んで抱き抱える叶雨
   埃をはらう叶雨
叶雨「注意しなさい、レイラ、あなたは足元を見る必要があります」
   叶雨を見つめるレイラ

   オリバーと歩く叶雨
叶雨「いつから君は彼を好きになったのですか」
オリバー「中学のバスケットボールの試合があった時です、君は?」
叶雨「僕は子供の時から一緒にいたので、よくわからない」
オリバー「友情から愛情に変わった時、どのようでしたか」
叶雨「突然、落ちた感じがして、、、」

○留学先、ロンドン郊外、ダンスホールの外、金曜日の夜

   オリバーに誘われてダンスパーティに来た叶雨
   食堂を片付けただけのダンスホール会場
   外に出てひとりで星を見つめる叶雨
   レイラが外に出てくる
レイラ「あなたは今、何をしているのですか」
叶雨「私は星を見ています」
レイラ「なぜ踊らないのですか」
叶雨「私は大きな音が苦手です」
レイラ「静かな曲もあります、ほら、始まった、踊りませんか」
叶雨「僕はダンスが得意ではありません」
レイラ「大丈夫です、チークダンスです」
   ダンスホールに戻る叶雨とレイラ
   抱き合ってチークダンスをする叶雨とレイラ
   悔しがるレイラ目当ての男子三人組
レイラ「あなたは好きなひとがいるのですか」
叶雨「はい、男性の恋人がいます」
レイラ「私にも婚約者がいます、親が勝手に決めました」
叶雨「そうなんですね、、、君はそれでよいのですか」
レイラ「仕方がありません、私はこの家に生まれたのだから」
叶雨「君には好きなひとはいないのですか」
レイラ「いません、あなた以外には」
   叶雨の首に手をかけるレイラ
レイラ「黙っていたらわかりません、一緒にこの夏を楽しみませんか、私の部屋へ」
叶雨「君を本当に好きになる彼氏ができますように、自分を大切にしなさい、じゃ」
   チークダンスの途中でダンスホールを立ち去る叶雨
   ふたりをみつめるオリバー
   うれしがる三人組

○留学先、宿舎、中、夜
   イギリス 土曜日の夜
   日本 日曜日の朝
   留学してから初めての週末
   ラインでメッセージを送る叶雨
   『今からビデオ通話していい』
   すぐに返信する望海
   『いいよ』
叶雨「元気だった」
望海「おお元気だよ、そっちは」
叶雨「元気だよ」
   言葉につまるふたり
叶雨「夏期講習で忙しいんだよね、連絡できないくらい」
望海「お前の勉強の邪魔したくねーし」
望海「お前こそ、なんで連絡してこねえんだよ」
叶雨「帰りたくなるじゃん、わかってるくせに」
望海「わかるけどさあ」
叶雨「望海、俺、帰ったら話したいことがあるんだ」
望海「俺もお前に話したいことがある」
叶雨「うん」
望海「うん」
叶雨「俺さあ、昨日の夜、ダンスパーティで女の子に誘われてチークダンスしたよ」
望海「おい何だよ、それ、で、その後は、、、」

○留学先、食堂、月曜日の昼
   レイラがひとりで昼食を取ろうとしているのを見つけたオリバー
オリバー「やあ、レイラ、こっちに来なさい、Kana のボーイフレンドの写真見ましたか」
レイラ「いいえ、見ていません、見せてください」
   スマホを見せる叶雨
レイラ「わあ可愛い」
叶雨「可愛くて、カッコ良くて、優しい、太陽みたいなひとです
いつか君達が日本に来た時に紹介します」
オリバー「それで、これが僕のボーイフレンドです」
   スマホを見せるオリバー
レイラ「わあ、カッコいい、どうして、いい男にはボーイフレンドがいるのですか、それに比べて彼らときたら」
   レイラの視線を感じ、慌てる三人組
   思わず笑ってしまうレイラ
   「レイラが俺を見て笑った」「違う、俺だ」と言い争う三人組
レイラ「私も早く彼氏を見つけます」
オリバー「君は理想が高いのです」
レイラ「そりゃそうでしょ、私に見合う男でないと、ねえ、あなた達は彼氏をどのように捕まえたのですか」
オリバー「僕は、バスケットボールの試合で、、、」
2025/1/31

第七話 帰国

登場人物

青井望海 高校一年生 叶雨の親友
霧生叶雨 高校一年生 イケメン高校生

○望海の自宅、外、朝
   インターホンのチャイムが鳴る
   玄関で何やら話しこむ声
望海母「望海、かなちゃんよ」
   部屋から飛び出してくる望海
望海「なんでお前がここにいんだよ」
叶雨「サプライズ」
望海「来週、帰るって言ってたじゃん」
叶雨「驚いた?」
望海「いつ戻ってきたんだよ」
叶雨「昨日の夜」
望海「何で言わねえんだよ、迎えに行ったのに」
叶雨「そんなの、俺、泣いちゃうじゃん」
望海「いいじゃん」
叶雨「おばさんにお土産、渡しておいたよ、紅茶とビスケット」
望海「お前が無事に帰って来てくれたのが何よりの、土産だよ、良かったー」
   抱き合うふたり
叶雨「今、おばさんから聞いたよ、俺の出発の日、高速の車道を走ったんだって?」
望海「ああ、間に合わないと思って」
叶雨「あー、もう、本当、絶対、止めてね」
望海「はい」
叶雨「望海が死んだら俺、どうしたらいいのかわからない」
望海「ごめんなさい」
叶雨「、、、でも嬉しかった」
望海「うん」
   強く抱きしめる望海
望海「出発の見送り間に合わなかったから、帰りの迎えは絶対、行こうと思ってたんだぜ」
叶雨「出発の見送り、間に合ったよ、待っていてくれる人がいるって幸せだなって飛行機の中で、また泣いた」
   突然、扉が開く
   とっさに離れるふたり
望海母「望海、かなちゃんから頂いた紅茶、入れる?」
望海「母さん、向こう行ってて、俺、叶雨に話があるから」
望海母「はいはい」
望海「部屋、散らかってるけど、部屋にあがれよ」
叶雨「昔、山小屋に行ったの覚えてる?」
望海「ああ、覚えているよ、皆でワイワイ楽しかったな」
叶雨「父さんと俺、ふたりで行く予定だったんだけど、父さんに急用ができたから、ふたりでロッジに行かない?」
望海「おお、行きたい」
叶雨「やった、じゃ、俺、準備しなくちゃ、また明日ね」
望海「え、おい、かなー」
   一人残される望海

○叶雨の自宅、中、翌日の夜
   帰宅する父
叶雨父「かなの姿が見えないが」
叶雨母「ロッジに行ったわよ、あなたがドタキャンするから、ふたりで」
叶雨父「ふたりって」
叶雨母「のんちゃんに決まってるでしょ」
叶雨父「え、、、」
   苦々しい表情の父
叶雨母「あの子達、ふたりに任せても大丈夫でしょ」
叶雨父「かなとふたりで話がしたかったんだがな」
叶雨母「家で、したらいいじゃない、あら、私がお邪魔なのかしら?」
叶雨父「いや、そうじゃないよ」
叶雨母「あなた何だか難しそうな顔してるわね」

○ロッジ、中、夜

   簡単な食事が終わりコーヒーを飲むふたり
   消えかけた薪
   薪をくべる叶雨
   炎が燃え上がる
   意を決した叶雨
叶雨「俺、望海と離れてみてわかった」
望海「うん」
叶雨「俺、望海と、ちゃんと向き合いたい、これからも、ずっと」
望海「うん」
叶雨「俺は望海が」
   遮る叶雨
望海「待って、俺から言わせて、俺がプロポーズする」
   驚く叶雨
望海「叶雨に見合った男になるまで待って欲しい」
叶雨「うん」
望海「今の俺は半端者だ、自信がないから」
叶雨「待ってる、ずっと待ってるよ」
望海「ありがとう」

   それぞれ寝袋に入る
   黙り込むふたり
   寝袋に入ったままコロコロ転がって叶雨に近づく望海
   叶雨の、おでこにキスをする望海
   薪がパチパチと音を立てる
   静かに赤い炎が燃え上がる
   ロッジの外は満天の星
   瞬く星の下
2025/2/2

第八話 バーベキュー

登場人物

青井望海 高校一年生 叶雨の恋人
霧生叶雨 高校一年生 イケメン高校生
水上早苗 叶雨父の友人の一人娘

○叶雨の自宅、中、夜
   帰宅する父
叶雨父「次の日曜日、庭でバーベキューをしようと思う、私の友人も呼んで」
叶雨母「ええ、良いわね、久し振りね」
叶雨父「かなも出なさい」
叶雨「望海を呼んでもいい?」
叶雨父「望海君は、いつも遊んでいるじゃないか、また、今度にしなさい」
叶雨「望海が来ないなら俺、出ない」
叶雨父「じゃ、望海君を呼んでいいから出なさい」
叶雨「はーい、望海に連絡しようっと」
   険しい表情の叶雨父

○叶雨の自宅、庭、中、日曜日の昼
   張り切って準備をする叶雨
   叶雨父母に連れられて庭にやってくる早苗父娘
叶雨「いらっしゃい、ご無沙汰しています」
早苗父「叶雨君、大きくなったね」
早苗「ご無沙汰しています」
叶雨「早苗ちゃんも、こちらへどうぞ」
   案内する叶雨
叶雨「おじさん、ビール、あ、車ですか、じゃ、ノンアルで、お父さんはビールだね、早苗ちゃんはジュースでいい?」
   飲み物を運ぶ叶雨母
望海「点火すっぞー」
叶雨「早苗ちゃんも手伝って」
早苗「はーい」
   バーベキューの準備を始める望海と叶雨と早苗
叶雨「あ、ついたかな、、、ついた」
望海「これ、すっげー良い肉だな、よし焼いてくぞー」
叶雨「野菜も行くぞー」
   望海の方に流れて行く煙

望海「ゲホゲホ、煙吸った」
叶雨「ハハハハハ」
望海「熱っつー、熱っつー」
叶雨「ハハハハハ」
望海「髪、焦げた」
叶雨「ハハハハハ、焦げてないよ」
望海「また、煙来た」
叶雨「ハハハハハ」
望海「肉、燃えてる」
叶雨「そっちも焦げてる、ハハハハハハハハ」
望海「煙で目が痛いじょー」
叶雨「おかだー、ハハハハハ」

叶雨母「叶雨、楽しそうに、はしゃいでるわね」
叶雨父「あの子にしては珍しいな」

    焼けた肉、野菜を運んでくる叶雨と早苗

叶雨「どうぞ、召し上がってください、まだまだありますので、早苗ちゃんもいっぱい食べてね」
叶雨父「叶雨、早苗さんにイギリスへ短期留学した時の話でも、して差し上げたらどうだ」
叶雨「はい、えーそうだな、、、郊外の古い城を見学したんですけど、城壁が崩れかけていて、その朽ちていく美しさっていうを初めて感じました」
早苗「朽ちていく美しさ、素敵ですね」
叶雨「それと、夜空がすっごくきれいで手を伸ばせば届きそうな満点の夜空でした」
早苗「まあ」
叶雨「あと、面白い友人が出来たんです、そいつ恋人の話ばっかで」

望海「おーい、こっちも焼けたぞ」
叶雨「はーい」

    ヒソヒソ話をする父同士
早苗父「叶雨君、まだまだ男の子だと思っていたら立派に逞しく成長されて、霧生さんも安心ですな」
叶雨父「ありがとうございます、それでですね 、まあ以前にもお話ししましたが、是非、早苗さんをうちの叶雨にと思いまして」
早苗父「それはもう、こちらも、願ったり叶ったりです」
叶雨父「ご縁がありますように」
早苗父「まあ、しばらく見守りましょう」
叶雨父「そうですな」

   叶雨と望海を楽しそうに眺める早苗

叶雨父「ああ、早苗ちゃん、ちょっと来て、、、教えて欲しいことがあるんだが、このハンドサインは流行っているのかい」
早苗「あら、よくご存知で、連載中の人気コミックがありまして、恋人同士が何度も引き裂かれるシーンで愛を誓い合うサインですの『どんなに離れても君を愛してる』って、今度、漫画お持ちしましょうか」
叶雨父「あ、いや、いいんだ、ご親切に、どうもありがとう」

   食事が一段落ついたところ

叶雨母「叶雨、デザートを出すから、そこ片付けて」
叶雨「はーい」
   運び出しを手伝う早苗
叶雨「早苗ちゃん、ありがとう」
早苗「美味しかったです」
   キッチンで準備を手伝う早苗

   叶雨がリンゴの皮を剥き始める

叶雨「あっ、痛え、、、親指切っちゃった」
   血が流れる親指
   叶雨の指の血を舐める望海
望海「あー、血が止まんねえなー、結構、深い傷だ」
   叶雨の指の血を舐める望海
叶雨「こんなの大丈夫だよ」
望海「わあ、どんどん血が出てくる、救急箱は、どこにあるんだよ」
叶雨「棚にあるけど」
望海「手当てしに行こう」
叶雨「いいよ、これくらい」
望海「ほら、行くぞ」

   一部始終を見ていた叶雨父
   曇った表情で溜め息をつく叶雨父

○叶雨自宅、中、ダイニングテーブル

   救急箱から絆創膏を取り出す望海
叶雨「こら、じっとしとけ」
   叶雨の指に絆創膏を貼る望海
望海「血が止まんねえー」
   包帯を取り出す望海
叶雨「いいよ、そんな大袈裟な」
望海「大人しくしてろ」
   叶雨の親指に包帯をぐるぐる巻いていく望海
   突然、吹き出す叶雨
叶雨「フフ、これなんだか、おかしいよ」
望海「何がだよ」
叶雨「どこまで巻くの、何かニョロニョロみたい」
望海「何だニョロって」
叶雨「そういうキャラクターがいるのー」
   思いだし笑いをする叶雨
望海「じゃ、もう一回、やりなおそーっ」
叶雨「いいよ、このままで、せっかく包帯巻いてくれたのに、勿体ないから、今日は、つけておく」
   手の甲を広げ包帯を見つめる叶雨
   嬉しそうな叶雨
   ビールの空ビンをキッチンに運ぶ叶雨父がふたりを見つめる
   何か決意したような硬い表情の父
2025/2/4

第九話 文化祭

登場人物

青井望海 高校一年生 叶雨の恋人
霧生叶雨 高校一年生 イケメン高校生

○高校、校舎の屋上、昼
   二学期が始まる
   ベンチに腰掛けて待つ叶雨
   降り注ぐ太陽の光
   眩しく笑う叶雨
   叶雨が手を振る
   叶雨のもとに駆け寄る
   胸がいっぱいになる望海

叶雨「なあ、望海、俺達、結婚するんだよな」
望海「うん、そうだな」
   顔を赤らめる望海
叶雨「結婚の約束したんだもんな」
望海「うん」
叶雨「婚約してるんだよな」
望海「うん」
叶雨「ってことは俺は望海の婚約者なんだよな」
望海「そう、婚約者」
   顔を赤らめる叶雨
望海「あー俺、恥ずかしくなってきた」
   顔を赤らめる望海
   弁当箱を開けるふたり

望海「お前のクラス、合唱コンクールは順調か、俺のクラスはグタグタでさ」
叶雨「あ、俺、ソロパートやることになったんだ、聞きに来てよ」
望海「え、あの課題曲、そんな楽譜だっけ」
叶雨「うちのクラスにピアノやってる子がいて、この曲をアレンジしましょうって
男性ソロパートから始めて、テノール、バスが入って、そのあと全員で合唱しませんかって
俺、ソロに立候補した」
望海「えっ、お前、目立つこと嫌がっていたじゃん」
叶雨「うん、以前はね、でも今は見て欲しいんだ、望海に」
望海「おお、絶対、見に行く、楽しみだな」
叶雨「望海が聞いてくれると思うと、張り合いが出てくるな」
望海「お前、スゲーな、カラオケ上手いのは知ってたけどさ、静かなバラードで」
叶雨「えー、そんなこと初めて聞いた、早く言ってよ」
望海「お前は、頑張ってんな、俺なんか詰んでるし」
叶雨「今日の放課後も合唱の練習あるから、先に帰ってね」
望海「えええ」

○同、望海の教室、中、午後
   椅子に座って頭を抱え込む望海
望海のM「あー、俺、もう叶雨に追い付けなくなった、どうしよう、叶雨に見合う男になるって言ったけど、、、」

雫「望海、元気ないじゃん」
望海「うん」
   頭を抱え込んだままの望海
雫「望海、最近、お昼、どこで食べてんの」
望海「ああ、、、」
雫「昼休み、いつも先生の物真似やってたじゃない」
望海「うん」
雫「佐藤先生の新作はできた?」
望海「やらねえー」
雫「皆、期待してるよ」
望海「知らねえーよ」
雫「望海、何かあったの」
   雫の目を見る望海
望海「なあ雫、もし、お前の憧れてる人が、どんどん先のステージに進んでって、遠ざかろうとしている、お前ならどうする」
雫「同じスピードで進んでたら、その人から遠ざかることはないんじゃない?」
望海「そっか」
雫「ねえ、それって恋の悩みなの」
望海「ち、ちげーよ」
雫「それって望海のこと?」
望海「ちげーよ」
雫「なんだ、つまんない」
望海「ええ」
雫「仮にその人に追いついて、追い越せたとしても、今は、分からないと思うわよ、ずっと後になってみないとね」
望海「そっか」
望海のM「あいつを追い越せるわけねーよな」
望海「ありがとう、雫」
望海「おーい、できたて佐藤先生の新ネタすんぞーっ」
  「おおー、待ってました!」盛り上がるクラスメイトたち
望海「『ほな、リーディングやるで、
April shower is mystery
エイプロゥ シャウワー イズ ミスタリー
あかん、ちゃうて
エイプロゥ シャウワー イズ ミスタリー!!!
』」
   佐藤先生の物真似を披露する望海
   教室が大爆笑の渦に包まれる
   クラスの外まで聞こえる笑い声
   午後のチャイムが鳴る
   佐藤先生が入ってくる
望海「先生、英語で4月の発音教えてください」
佐藤「エイプロゥ」
望海「エイプリル?」
佐藤「あかん、ちゃうて」
   クラスに笑いが起きる
佐藤「エイプロゥ」
望海「エープリル?エイプリリ?エイプルリ?」
佐藤「あかん、ちゃうて」
   腹を抱えて笑い転げるクラスメイト

○同、放課後
   机を片付ける望海
望海のM「あー、ひとりで帰るの寂しいな、叶雨のソロパートの練習を盗み見したら、あいつ怒るかな」
   文化祭実行委員を兼務したクラス委員がやってくる
黒木「あのさー望海、文化祭でやって欲しいことがあるんだけど」
望海「合唱コンクール以外にか」
黒木「お前の先生物真似だよ」
望海「あんな身内受けのネタ誰が喜ぶんだよ」
黒木「絶対、受けるって、お前、サイコーだから」
   人差し指と中指をクロスする黒木
望海「え、そ、そうか」
   おだてられ、その気になる単純な望海
黒木「俺からの提案なんだけど、落語風にして、次々と先生が登場したら、どうだ、あとはアドリブで」
望海「あ、なるほどな、よし、やってみっか!」
黒木「じゃ、着物、扇子、屏風、出囃子はこちらで調達する」
望海「オッケー」

○同、体育館、文化祭の当日
   合唱コンクールが始まる
   1組が壇上にあがり合唱を終える
   拍手が起きる
   望海のクラスの2組の順番が来る
   壇上にあがる望海
   叶雨の姿を探す
   叶雨が緊張して下を向いている
   2組のピアノをやっている子が伴奏してくれる
   歌い初める2組
   合唱が終わる
   拍手が起きる
   
   叶雨のクラスが3組が壇上に上がる
望海のM「かな、がんばれー」
   ピアノが始まる
望海のM「負けた、伴奏からクオリティが違う」
   叶雨が歌い始める
   素晴らしい歌声
望海のM「かな、がんばれー」
   テノール、バスが入る
望海のM「スッゲー、これが同じ曲なのか」
   全員が合唱する
   ピアノが歌っている
   合唱と一緒に
   3組の合唱が終わる
   割れんばかりの拍手
   拍手が鳴り止まない

   全クラスの合唱が終わる
   結果発表
音楽の先生「優勝は3組」
   叶雨がクラスの皆とお互いの健闘を讃えあっている
   叶雨が笑っている

   壇上に金色屏風
   畳を重ねる
   寄席で敷かれる赤い敷物 毛氈をかける
   着物に着替える望海
   扇子を渡される

黒木「望海、準備いいか」
望海「いいぞ」
   マイクで案内を始める
黒木「皆さん、大変、お待たせしました、望海の落語会を始めます」
   拍手と声援が起きる
   先生がニンマリと微笑んでいる
   出囃子が鳴る
   望海が登場
   めくりが返される
   『望海のある1日』
   高座にあがる望海
   扇子を置き御辞儀をする望海
望海「えー、毎度、馬鹿馬鹿しいお話を一席」
   羽織を脱ぐ望海
望海「あー、やっべー、目覚まし鳴ってねーじゃん、あ、俺が止めたか
もう、母さん何で起こしてくれないんだよ
え、起こしたって、何度も
ほんとかよー
あ、寝坊した、また先生に怒られる
あいつ、いつも偉そうにしやがってよー
あ、岡田先生、おはようございます」
   順番に先生物真似をやる
   体育館がどーっと笑いで涌く
   物真似された先生方も、まんざらでもない様子で笑っている  
   調子が出て乗ってくる望海
望海「いかんてー、たーけ」
  「あかん、ちゃうちゃう、エイプロゥ」
  「皆、今日も元気か、健康が一番だっちゃ」
  「焼きそばパンだけなのー、もっと食べりん」
  「出欠、取るじょ」
   もはや落語の話になっていないが体育館が大爆笑
   叶雨が笑っている
望海のM「叶雨の笑っている顔を、死ぬまでずっと見ていたい」
望海「あー、やっと着いた、今日はいろんな先生に会ったな、よし時間に間に合ったぞ」
   黒木に合図を送る望海
  「あれ、皆居ない、えー何でだあ、あ、そうか今日は祝日か
   お後がよろしいようで」
   御辞儀をする煮望海
   寄席囃子を流す黒木
   体育館から鳴り止まない拍手と歓声

○下校中の通学路、夕方

   下校中のふたり

叶雨「お前、最高だな」
   思い出し笑いをする叶雨
   少しだけ叶雨に追い付いたような気がした望海
望海「叶雨の歌も最高だった、伴奏から違ったもんな、同じ曲なのにな」
叶雨「あー楽しかった」  
望海「そうだな」
叶雨「久し振りに俺んち来る」
望海「おー、行く、かなの家行くの滅茶苦茶、久し振りだあー」
叶雨「放課後、コンクールの練習してたのって一週間くらいじゃなかった」
望海「もっと長かったような」
叶雨「また適当なこと言って」
望海「そんなことねーよ、それくらい長く感じたっつうこと」
   ぴったりと寄り添って歩くふたり
   文化祭の一日
   後ろ姿が小さくなっていく
2025/2/6

第十話 体育祭

登場人物

青井望海 高校一年生 叶雨の恋人
霧生叶雨 高校一年生 イケメン高校生
滝川雫  高校一年生 叶雨に恋心を抱く、望海と同じクラス

○高校、校舎の屋上、昼
   秋が近い
   ベンチに腰掛けて待つ叶雨
   柔らかな太陽の光
   眩しく笑う叶雨
   叶雨が手を振る

叶雨「なあ、望海、俺、体育祭のクラス対抗リレーでアンカーになった」
望海「え?お前のクラス陸上部いなかったっけ」
叶雨「うん、あいつ中学の時の陸上部メンバー、だからお互いに実力わかってるし」
望海「そいつを差し置いて、お前がアンカーなの?」
叶雨「そう」
望海「はー、お前、変わったな、っていうか、すっかり昔に戻った」
叶雨「望海に見て欲しいんだ、俺が走るところ」
望海「おー、もちろん、応援する、頑張れよ」

   弁当箱を開けるふたり

○同、運動場、中、午後、快晴
   体育祭当日
   午前中に二人三脚、ムカデ競争、綱引きが終わった
   各クラスの応援合戦
   盛り上がりを見せる各クラス
   クラス対抗リレー開始の放送部のアナウンス

望海のM「叶雨、どこにいるんだろう、あ、いた、大丈夫かな」
   10クラス対抗リレー、半周100メートルでバトンを渡す、アンカーだけが1周200メートル、クラスの精鋭5名が最高の栄誉を競う

体育の小野先生「位置について、用意」
   ピストルが鳴る

   2組 望海のクラスはテニス部の黒木
   3組 叶雨のクラスは柔道部の山中
  
   一斉にスタート

   一人目、3組は第二グループ
   二人目、3組は第一グループ
   三人目、3組は第三グループ
   四人目、3組が最後尾

   五人目アンカー叶雨が出遅れて走り出す
望海「かなー、頑張れー」
雫「桐生くーん、頑張ってー」
   立ち上がって応援するふたり
雫のクラスメイト「あんた達、どこのクラスを応援してるのよ」
   最後尾の叶海が徐々に追い上げてくる
望海「かなー」
雫「桐生くーん」
   残り半周、ぐんぐん追い上げて第二グループに追い付いた叶雨
望海「かなー、行けー」
雫「桐生くーん、頑張ってー」
   ゴール直前、トップに並ぶ
望海「かなー、大好きだー、愛してるー」
雫「桐生くーん」
   ゴーーール!!

   叶雨が一位

   倒れ込む叶雨
   2位の2組のアンカー陸上部キャプテンの佐伯が手を差しのべる
   手を取って立ち上がる叶雨
   手を取り合って上げクラスの応援に感謝するふたり
   3組、2組から大きな拍手と歓声

   しゃがみこむ望海、雫
   
   叶雨が望海のところに満面の笑みで戻ってくる
   立ち上がる望海
望海「一位おめでとう」
叶雨「ありがとう」
   叶雨の汗をタオルで拭く望海
   女子達が望海をにらむ熱い視線
叶雨のクラスメイト「おーい、叶雨、お前のクラスは、こっちだぞー」
叶雨「なあ、望海、俺にご褒美くれよ」
望海「おお、何でもいいぞ、言えよ」
叶雨「俺にチューしてくれ」
   赤面する望海
望海「何、バカなこと言ってんだよ」
叶雨「いいじゃん、チューして」
望海「お前な、皆、見てるだろ」
叶雨「じゃ、皆、見てないところで」
   自分のクラスに戻る叶雨
   拍手で迎えられる
   歓待される叶雨
   グータッチ
   ハイタッッチの嵐

○下校中、帰り道、夕方
   ぴったり寄り添って歩くふたり
望海「お前、今日、大活躍だった、めっちゃ、カッコ良かった」
叶雨「そうかー」
望海「おお、そうだよ、スゲーな、スターじゃん」
叶雨「なあ、望海、ご褒美、ご褒美」
   甘えた声の叶雨
望海「ええ、誰か見てるじゃん」
叶雨「見てないって」
望海「ええ」
   周りを見渡す望海
   叶雨の頬にキスする
   赤面する望海
   走って先に行く望海
叶雨「待ってよ」
望海「やだよー」
叶雨「待って」
   望海に追い付く叶雨
   望海をバックハグする叶雨
叶雨「へへ、俺から走って逃げられると思ってんの、諦めろ」
望海「うん」
   夕日の帰り道
   体育祭の一日
   白い月が昇ってきた
   一番星が輝き始めた
2025/2/7

第十一話 誕生日パーティー

登場人物

青井望海 高校一年生 叶雨の恋人
霧生叶雨 高校一年生 イケメン高校生
水上早苗 叶雨父の友人の一人娘

○叶雨の自宅、ダイニング、中、夜
   叶雨の誕生日パーティーが開催される
   叶雨父が知り合いの御令嬢達を招待する
   ひとり気後れしてしている早苗
   誕生日席の叶雨から遠く外れた席に座らされる望海
   素晴らしい叶雨母のディナー
   ディナーもそこそこに桐生家の跡取り息子の叶雨の周りを取り囲み始める御令嬢達
   一人、二人、三人、四人、五人と、最後は皆で取り囲む、早苗を除いて
   質問攻めに合う叶雨
   御令嬢同士、ピリピリとした水面下での牽制のし合い
   辟易とする叶雨
   助けて欲しそうな目で望海を見る叶雨
早苗「おば様の料理とても美味しいですわねぇ」
望海「ねえ、早苗ちゃんは、あそこの輪の中に行かなくていいのかい」
早苗「ええ、私は父に言われて来ただけなので、いいんです」
望海「叶雨のことが嫌いなのか?」
早苗「いえ、叶雨さんは素敵な男性だと思います、優しくて聡明で立派な方です。」
望海「俺、子供の時から、ずっと一緒だけど、あいつはすごいいい奴だよ」
早苗「叶雨さんの子供の時って、どんな男の子だったの?」
望海「どんな、か、、、そうだな、小3の遠足で、俺が足を挫いちゃって、ずっと肩を貸してくれた」
早苗「優しい子だったんですね」
望海「そうそう、中学の林間学校で、道に迷った時、あいつが時計の針を太陽に向けて、『みんなこっちだ』って」
早苗「何ですか、それ」
望海「短い針を太陽に向けるでしょ、で、文字盤の12時と短針の間が南の方角なの」
早苗「へー」
望海「で、歩いた時間と、みんなのスピードやら、、、詳しくは覚えてないけど、元の場所に戻ってこれた」
早苗「すごい」
望海「でも、その時にね『本当に遭難した時は動くんじゃないぞ』って、大人みたいなこと言ってたな」
早苗「賢い子だったんですね」
望海「あとは高校の体育祭、クラス対抗リレーがあって、あいつがアンカーで最後尾から一気に抜き去って、一位でゴール」
早苗「わあ、すごい、頼りになるのね」

   パリンとキッチンから激しい音を聞くふたり

○同、キッチン、中、夜

   グラスを割ってしまった叶雨母
   砕け散るグラスの破片
   掃除する叶雨母
   駆け付ける早苗
早苗「おば様、大丈夫ですか」
叶雨母「驚かせてごめんね」
早苗「おば様、血が出ていますわ」
叶雨母「こんなのたいしたことないから、早苗ちゃん、テーブルに戻って叶雨の側にいて頂戴」
早苗「傷の手当てをしてからですわ、救急箱は、どこかしら」
望海「救急箱は、ここだよー」
早苗「ありがとうございます」
   早苗に手当てをされる叶雨母
叶雨母「ありがとうね」
望海「この前のバーベキューで叶雨が怪我したときに、この救急箱を使ったんだ」
早苗「あ、あのぐるぐる巻きの包帯は望海さんがされたんですね」
望海「叶雨にニョロって笑われた」
早苗「ふふふ」
望海「早苗ちゃんも、ニョロって知ってんの」
早苗「ええ、たぶんニョロニョロのことだと思います」
望海「あ、それそれ」
早苗「叶雨さんて面白い方ですね」
   手当てが終わる早苗
早苗「おば様、私、何かお手伝いしますわ」
叶雨母「いいのよ、ここはいいから叶雨の側にいてやって」
早苗「叶雨さん、たぶん好きな方がいらっしゃると思いますわ」
   ギクッとする望海
叶雨母「え?早苗ちゃん、叶雨の好きな子って誰なの」
   ギクッとする望海
早苗「わかりません、でも、直感でわかります、誰かを思っていらっしゃる」
   安心する望海
早苗「身近な方だと思いますわ」
   ギクッとする望海
叶雨母「ねえ、のんちゃん、かなの好きな子って知ってるの」
   ギクッとする望海
望海「え、あ、まあ、んーと、わかんないです、俺から聞いてみましょうか」
叶雨母「じゃ、お願いね、それとなく」
望海「はい、それとなくですね」

早苗「あの、おば様、本日のメインディッシュ大変、美味しく頂いたのですが、レシピを教えて頂けませんか」
叶雨母「ええ、良いわよ」
早苗「父に作ってあげたいなと思いまして」
叶雨母「あら、そんなに気に入ってくれたの、嬉しいわ、牛肉の赤ワイン煮込みをちょっとアレンジしたのよ」
早苗「あら、やっぱり、是非、お願いします、それと伊勢海老のものも」
叶雨母「伊勢海老のマスタードグリルね、それも、私風にアレンジしたのよ」
早苗「私にもできますかしら」
叶雨母「ええ勿論よ、まずは、、、」
   楽しそうなキッチン
   早苗を素敵な御嬢さんだなと思う望海
   一部始終を見ていた叶雨父
2025/2/8

第十二話 クリスマスパーティ(赤いマフラー)

登場人物

青井望海 高校一年生 叶雨の恋人
霧生叶雨 高校一年生 イケメン高校生
滝川雫  高校一年生 叶雨に恋心を抱く、望海と同じクラス
水上早苗 叶雨父の友人の一人娘

○高校、望海の教室、午後
   放課後、帰る準備をする望海
雫「ねえ、望海、これ叶雨君に渡して欲しいの」
   紙袋を差し出す
望海「自分で渡した方がいいんじゃねえのか」
雫「私、振られたから」
望海「うん」
雫「でも、いいの、渡して」
望海「別にいいけどさあ」

○下校中の通学路、夕方

   寄り添って歩く望海と叶雨

叶雨「今晩のクリスマスパーティー、忘れてないよな」
望海「おー、毎年の恒例だよな、楽しみー」

叶雨「望海、あ、いや」
   紙袋に目を遣る叶雨
望海「これ雫から、クリスマスプレゼントだぞ、ほら」
叶雨「俺、要らねえ」
   がっかりして目を逸らす叶雨
望海「貰っとけよ」
   紙袋から赤いマフラーを取り出す望海
望海「ほら」
   マフラーを叶雨の首に巻き付ける
望海「似合ってるぞ」
   何かを言いたそうな叶雨
望海「温かいだろ」
叶雨「ああ」
   マフラーの反対側を望海の首にかける叶雨
望海「ハハッ、バカカップルみたいじゃん」
   叶雨の吐息を感じる望海
叶雨「いいじゃん、別に」
望海「うう、首が絞まる、死ぬ」
叶雨「お前が離れるからだろ」
   マフラーを取る望海

○叶雨の自宅、ダイニング、中、夜

   クリスマスパーティーの夜
   雫の家に行っている叶雨
   ニコニコ笑って叶雨母の手伝いをする早苗

叶雨父「望海君、ちょっといいかな」
望海「はい」
   望海を、じっと見据える叶雨父
叶雨父「私はね、叶雨と君が、そういう関係だということは知っている」
望海「え」
叶雨父「それを、とやかく言うつもりはない、思春期にはよくあることだ、一過性でな」
望海「いや」
   言い返そうとするが出来ない望海
叶雨父「望海君、叶雨は将来、この家を継いで家庭を築き次の世代へつないでいく宿命があるんだ」
望海「はい」
叶雨父「叶雨の幸せを考えてくれ、叶雨の人生で本当に必要なパートナーは誰だと思う?」
   詰め寄られる望海
望海「早苗さんだと思います」
   絞りだすように答え、拳を握りしめる望海
叶雨父「このあとで、叶雨と早苗さんの婚約を発表する」

   雫の家から叶雨が帰ってくる
   遠くに望海の姿を見つけ声を掛けようと近づく叶雨
叶雨「望海」
   叶雨の顔を見ることが出来ず、下を向く望海
叶雨「どうかした?」
   クリスマスパーティーが始まる
   叶雨父母、望海、早苗、望海がテーブルを囲む
   テーブルの下で望海の手を握ろうとする叶雨
   叶雨の手を握り返そうとしない望海
   激しい胸騒ぎがする叶雨
叶雨「望海、何かあったの?」
   黙り込む望海
   グラスに飲み物が注がれる
   天井まで届きそうクリスマスツリーの前に立つ叶雨父
   グラスを持った叶雨父 
叶雨父「乾杯の前に、皆に聞いて欲しい、叶雨の婚約者を正式に発表する」
叶雨「え」
叶雨父「叶雨の許嫁を早苗さんにする」
叶雨「何言ってんだよ、俺の人生、勝手に決めんなよ」
   叫ぶ叶雨
叶雨父「望海君も賛成してくれている」
   望海に目を遣る叶雨父
叶雨「本当なのか望海、嘘だよな、嘘だよな」
   うつ向いたままの望海
   立ち上がってホールから走り去る望海
叶雨「望海!」
   その場で泣き崩れる叶雨
   それを見つめる満足そうな叶雨父
   すべてを悟った早苗

○叶雨の自宅、外、夜
   叶雨に家の前に立ち尽くす雫
   家から飛び出して来た望海
雫「クリスマスパーティーだって?」
   険しい表情の雫
雫「マフラー叶雨君に返された」
望海「そうか」
雫「叶雨君、好きなひとがいるって」
望海「うん」
雫「叶雨君、望海が好きなんだって」
望海「うん」
雫「一生、側に居たいって」
望海「うん」
雫「望海、私のことずっと笑っていたんでしょ」
望海「違うよ」
雫「あんた達、男同士でしょ、頭おかしいんじゃないの、気持ち悪い、最低」
望海「そうかもな、俺、ずっと叶雨のこと考えてる、頭がおかしくなるくらいに」
雫「あんたなんか消えてしまえばいいのよ」
   駆け出す望海

○叶雨の自宅、叶雨の部屋、中、夜
   ベッドに転がっている叶雨
   枕が湿っている
   携帯が鳴る
   無視する叶雨
   繰り返す着信音
   電話に出る叶雨

雫「叶雨君、私、望海に酷いこと言っちゃった
どうしよう、電話、つながらない
おばさんに聞いたら家出したって」
叶雨「わかった、ありがとう」

   自転車で駅に向かって走り出す
   砂利道でパンクする自転車
   自転車を乗り捨て走る叶雨
   駅に電車が入るのが見えた叶雨

   ボストンバックを抱えた望海
   上りの電車に飛び乗る
   扉が閉まる
   電車が動き出す
   叶雨の声が聞こえる
   立ち上がる望海
叶雨「待てよ望海、待てよ」
   プラットホームを走る叶雨
   座り込む望海
   叶雨の声が小さくなって消えてゆく

   電車の天井を向く
   上を向いて歩こうのメロディーがふと浮かぶ
   鼻歌を歌う望海
   フフフ、フフフフン、フフフフ、フフフフン
   涙がこぼれる
   電車が走る
   望海の想いを残して
2025/2/9

第十三話 新宿二丁目深夜食堂

登場人物

青井望海 上京してきた高校一年生
和夫 食堂店主
清子 食堂ママ 和夫の妻
圭太 常連客 二丁目のバー勤務
蓮 常連客 圭太の恋人 二丁目の美容師
愛 常連客 二丁目のゲイバーのママ
哲哉 常連客 二丁目の花屋店主

○新宿二丁目、深夜食堂、中、午前0時

   厨房でフライパンを振っている和夫
   店の扉が開く
圭太「清ちゃん、おはよう」
蓮「清ちゃん、ただいま」
清子「おう、帰ってきたか、おかえり」
   ビールを栓抜きでカカカン、カカカンと叩き、栓を抜く
   ビールを注ぐ
圭太「清ちゃん、何か食べさせて、あー、お腹すいた」
蓮「僕も同じので」
   ビールで乾杯する二人
清子「よし、待ってろ」
   厨房に消える清子
  
   丼をかき込む客
   酔ったサラリーマンのふたり組
   テーブル席の奥でひとり熱燗を飲む黒髪の女性

清子「ホラ、食え」

   鶏カツにごはん、ワカメと卵のスープをテーブルに置く
圭太「旨そう」
蓮「いい匂い、いただきます」

   店の扉が開く
   大きなバッグを抱えた少年
望海「あの、まだやってますか」
愛「あら、可愛い坊や、初めてみる顔ね」
   カウンターでひとり飲んでいる愛
愛「清子、お客さんよ」
清子「好きな所に座れ」
望海「はい」

   壁に貼られたメニューを見る望海
   
   本日の定食 鶏カツ

   ハムサラダ
   ほうれん草のおひたし
   豚肉の生姜焼
   かぼちゃの煮物
   エビフライ
   カキフライ
   揚げ餃子

清子「メニューはあるけどよ、食べたいもん言え、作ってやるから、できないときは代わりのもの作るぞ」
望海「じゃ、ハンバーグ」
清子「よし、待ってろ」
望海「お願いします」
   周囲を見渡す望海
   丼を食べ終えた客が席を立つ
哲哉「清ちゃん、ここ置いとくよ」
   小銭を置いて立ち上がる
   花瓶の花を少し直して出ていく哲哉
   望海の様子をじっと見ている愛
愛「ねーねー、坊や、クリスマスの、こんな時間に大丈夫なの?」
望海「えっ」
愛「うーん、見たとこ高校生かな?」
   唇をぎゅっと結んで下を向く望海
   湯気の上がったハンバーグを運んで来る清子
愛「親御さん、心配してるんじゃない?」
望海「母さんに話して出てきましたから」
清子「泊まる場所はあんのか」
   望海の大きなバッグを見て、ため息をつく清子
望海「ネットカフェとか探そうと思って」
愛「そんなの、すぐお金なくなっちゃうわよ」
清子「ま、食え」
   熱々のソースがかかったハンバーグを大盛りのごはんに乗せ、かき込む望海
愛「何かを目指して、上京したのかしら」
望海「ひとを笑顔にしたいんです、俺の話で、落語家になりたいんです」
   少し難しい表情をする清子
   ハムサラダに箸をのばす望海に話しかける清子
清子「オレの知り合いの師匠でな、もうすぐ新入りが二ツ目に昇進するから
今なら弟子にしてくれるかも
どうだ、やってみるか」
望海「お願いします」
清子「タレントみてえにテレビに出ねえから、有名じゃねーぞ、だが、腕は確かだ」
   箸を置き、清子に向き合う望海
望海「やらせてください」
清子「だがよ、皆やめちまうんだ、真打になる前にな、食えないから」
望海「がんばります」
愛「まあ大変だと思うけど、やってみたら、寄席、応援しに行くわよ」
   愛の言葉に頷く望海
清子「冷めるぞ、さっさと食っちまえ」
   味噌汁を一口飲む望海
   お腹から暖まる
   胸の奥までも
   目に涙を浮かべる望海
   叶雨の悲しそうな顔が脳裏に浮かぶ
   叶雨の泣き声が今でも聞こえてくる
   繰り返す叶雨からの着信を見つめる
   携帯の電源を切る望海
   
清子「お前、お昼、食べるもんあんのか?
おーい、和くん!おにぎり持たせてやってよ!」

   眠らない街、東京
   一声鳴いたカラス
   ゴミ棄て場の夢の欠片
   人通りがなくなった道
   もうすぐ新しい朝がやって来る新宿二丁目
2025/2/10

第十四話 エピローグ(最終話)

登場人物

青井望海 落語家
滝川雫  望海の同級生
空良 新宿二丁目深夜食堂の登場人物 会社役員
渡 新宿二丁目深夜食堂の登場人物 美容院経営者

新宿二丁目深夜食堂
第十八話 BL落語会
第十九話 閉店のご挨拶(最終話)
のつづき

T「10年後」

○真打昇進披露パーティ会場、中、昼

   会場に大勢のひとが集まり望海の真打昇進を祝う
   BL関連の出版社、アニメ関連会社、ドラマ作成部門会社
   若手落語家が次々とBL落語を始める
   BL落語原作のアニメ、ドラマが完成する
   名作BLコミックが落語化される話題となる
   一門、協会、所属の垣根を越えて、ひとつになってBL落語独演会が各地で開催される
   BL落語独演会がネットでも配信される

   新真打 望海が入場
   盛大な拍手
   会長から、ご挨拶はなむけの言葉
   子育てで忙しい雫からは祝電が届く
   たくさんの祝電を読み上げる司会者
   鏡開き酒
   望海から感謝と御礼の言葉
   昨年、亡くなった師匠に拾って貰った感謝と御礼の言葉
   理事から三本締め
   役員に昇進した空良、小さな個人美容院を開業した渡
   ふたりが望海に花束を渡す
   言葉を交わす望海

   パーティーが終わる頃、望海を迎えに来た一台の高級車
   車に乗り込む望海

   薄暗い車内、運転席の男の手には花束
男「真打昇進おめでとう」
   花束を渡す男
望海「ありがとう
ロッジで俺がお前に相応しい男になったら
プロポーズするって約束したの覚えてる」
男「うん、覚えてるよ」
   見つめ合うふたり   
望海「叶雨、俺と結婚してください
死ぬまでずっと一緒にいて欲しい」

   結婚指輪のケースを開ける望海
叶雨「なんだよ今さら」
  涙を拭う叶雨
叶雨「はい」
   熱いキスをする
   車のエンジン音
   望海と叶雨 ふたりを乗せて消えてゆく車
2025/2/11

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