100年後のマタギの姿を考える:山と共に生きる新たな形
人類がその歴史の大半を過ごしてきた狩猟採集生活。20世紀後半に農業社会や工業化が進む中、その役割は小さくなったかに見えました。しかし、今、私たちが直面する気候変動や生物多様性の減少は、新たな形での「狩猟採集」の復権を迫っています。100年後、狩猟採集の象徴ともいえる「マタギ」はどのような存在になっているのでしょうか?
ちょっと個人的な考えで恐縮ですが、下記にまとめてみたいと思います。
身体性の復権と山との対話
技術の進化が進む中、AIやロボティクスの台頭によって、私たちの生活や仕事のあり方は大きく変わろうとしています。いわゆるホワイトカラーの仕事が自動化され、事務的な仕事は人間のやるべきものではなくなっていきます。
そうすると、否応なしに人間の身体的能力がますます求められる時代が訪れるでしょう。
山と共に生きるマタギの身体性――自然と向き合い、身体感覚を研ぎ澄まし、瞬間的な判断を下す能力――は、未来社会において重要な役割を果たすに違いありません。
例えば、雪深い冬山で獲物を追い、その気配を感じ取るマタギの感覚は、人工知能が模倣できない領域にあります。私たちは、こうした身体的な知恵を活かし、次世代へ繋いでいく責任があります。この身体性は、単に生存のためだけでなく、山を深く理解し、自然と調和して生きるための道標でもあると考えています。
山と神々:信仰心と自然への畏敬
秋田発祥のマタギ文化には、山の神への深い信仰が根付いています。マタギは山の恵みを「授かる」存在であり、その恵みに感謝し、敬意を払います。この精神は、神道が重視する「八百万の神」に通じる考え方です。神道は、自然そのものに神が宿ると信じ、人間はその一部として調和を保ちながら生きるべきだと教えています。
しかし、技術の進化や都市化の影響で、こうした信仰や自然への畏敬の念が薄れている現代社会において、山と共に生きるマタギの存在は特に重要です。マタギのおじいちゃんたちが繋いでいる信仰の精神は、自然破壊や気候変動が進む時代において、私たちが自然を守り続けるための指針となっています。
マタギと観光:地域活性化の鍵
マタギ文化は漫画等の影響もあり、興味を持って訪ねてくる若い人たちも増えてきました。
個人的にはマタギは職業ではなく、ライフスタイル(生活様式)のひとつとして捉えることが実態に即していると思っていますが、現在の衰退していく過疎地域にとっては、観光の要としての役割も期待されるようになってきています。
観光のガイド、特に登山ガイドとしての役割を担うマタギは、これからの過疎地域において観光振興の重要なキーパーソンになっていきます。マタギが代々受け継いできた山への深い知識や文化的背景を活かし、地域の魅力を観光客に伝えることで、新しい交流や収益の創出が可能ではないでしょうか。
例えば、マタギが案内するツアーでは、単なる景色の紹介に留まらず、山に生きる者ならではの視点――動物たちの生態、植生の変化、季節ごとの山の表情など――を提供できます。これにより、観光客はただの訪問者ではなく、山の一部となるような体験が得られるでしょう。私も阿仁マタギの鈴木さんに山を案内していただき蒙を啓かれたのでした。
環境教育の担い手としてのマタギ
未来のマタギは、自然の守り手として、地域社会や訪問者に対する環境教育の重要な役割も担います。特に子どもたちへの教育は重要で、彼らが自然と触れ合い、環境への責任感を育む場を提供することが期待されます。
例えば、学校と連携した自然体験プログラムや、生態系を学ぶフィールドワークをマタギが主導することで、次世代に貴重な知識と技術を伝えることが可能です。このような活動は、過疎地域における教育資源の補完や地域への関心を高める役割も果たします。現在も北秋田市と東京の国立市と連携して「マタギの地恵体験学習会」というのを実施しています。気になる方は検索してみてください。
過疎地域における役割と希望
過疎地域の多くは、都市部との人口格差や経済的不均衡に苦しんでいます。しかし、こうした地域こそ、マタギ文化や自然資源を基盤とした新しい活性化のモデルを創り出せる可能性があります。マタギが担う狩猟や登山ガイド、環境教育は、過疎地に新たな価値をもたらし、人々を引き寄せる磁場となるでしょう。
秋山郷や、山形の小国町などは、本場の北秋田市よりもマタギ文化を全面に押し出して人を呼び込んでおり、いつも凄いなぁと拝見しています。(いつか行ってみたい!)
結び:山と共に未来を紡ぐ
未来のマタギとは、伝統的な技術や信仰を守りながら、身体性を活かし、地域社会や自然環境と調和する新しい生き方を象徴する存在です。彼らの役割は、自然と人間、そして過去と未来をまたぐ橋渡し役として、これからますます重要性を増していくでしょう。
自然を守り、地域を支え、未来への希望を紡ぐ――そんなマタギの姿を思い描きながら、私は今日も山の中を歩いています。
(今日のまとめ)
マタギ文化の現状と将来的な役割:
(1)伝統的価値:
・持続可能な狩猟方法や山の知識
・自然との共生の知恵
・独自の言葉や儀式を含む文化的価値
(2)未来の可能性:
・環境保全や野生動物管理の知識源としての活用
・アドベンチャーツーリズムやサスティナブルツーリズムへの展開
・伝統的な自然との共生方法の現代への応用
(3)課題についてはまた後日…
・後継者不足
・現代の法規制との調整
・生活様式の変化による伝統継承の困難さ