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熊ハント特区の問題点

Googleのオススメで下記の記事が出てきました。秋田の人がいない森を【熊ハント特区】にしてお金を稼ごう!という内容です。
誰も反応しないのは寂しいので、少し書いてみたいと思います。(まあ実際には人里から離れた森は意外とないもの。本当の山奥は鳥獣保護区にもなっているので、そもそも破綻している考えではありますが、そこは置いておいて。)

“安易な狩猟観光”では解決にならない理由

まず始めに、ハンティングを観光資源として活用するアイデアは、実は上記ブログで初めて出てきた話ではありません。たとえば、デービッド・アトキンソン氏が著書『新・観光立国論』(2017年刊)などで狩猟を含む多様な自然資源の利活用に触れるなど、過去にもさまざまな角度から議論されてきました。
その結果として明らかになったのは、単に「外国人富裕層に来てもらい、狩猟を楽しんでもらう」だけでは、本質的な地域課題を解決しにくいという点です。

つまり、ハンティングツーリズムの“観光素材”としての可能性は一定の認知がある一方、安易な導入には多くのリスクが伴うこともわかってきています。


熊と人の関係性を重んじる地域文化への配慮

秋田県には広くマタギ文化が根付いており、熊は単なる「狩猟対象」ではなく、神様の使いとして畏敬の念をもって接される存在でもあります。

こうした地域固有の文化を尊重せず、「富裕層向けのトロフィーハンティング」として熊狩りを安易に観光商品化してしまうと
「文化的価値の毀損: 伝統的な信仰・文化を傷つける恐れがある」
「地域住民との軋轢: 熊を“見世物”や“金儲けの道具”とみなすことへの反発が高まる」
といった深刻な問題を引き起こす可能性があります。

また、秋田県では熊出没をめぐる危険性がある一方で、熊は地域の生態系や人びとの生活との関係性を示す重要な存在です。

そこで、本来は狩猟を「推奨」するよりも、若者の移住促進による農地や山林の草刈り、ゾーニングといった地道な対策こそが、熊との軋轢を減らしながら地域の将来を担う労働力・担い手を確保する持続的な手段となります。

熊を“撃って減らす”短期的発想ではなく、人と熊が共存できる新たな関係性を見出すことが長期的には観光としても大きな魅力となり得ます。


観光ターゲットの「質」を高める方が現実的

「熊狩りを一頭2000万円で」などといった極端な高額プランで富裕層を呼び込むことは、一見すると効率的に見えるかもしれません。
しかしそれが長続きするかは疑問であり、むしろ【文化や自然への“深い興味”を持つ少人数の富裕層に絞って】【地域文化を体験し、学び、共に考える高付加価値のツアーを提供する】方が、地域文化を傷つけることなく持続的な経済効果をもたらす可能性が高いです。

実際、筆者(秋田県北秋田市で狩猟をしている立場)は「森吉山麓ゲストハウスORIYAMAKE」を営み、熊の有害駆除を担いながらも、熊を撃たずともマタギ文化の奥深さに触れてもらう宿泊体験を提供しています。

熊を象徴的な「地域資源」として捉え、それにまつわる文化や精神性を少人数・高単価のツアーで共有するほうが、世界的にもユニークな体験価値を創出しやすいです。


ライフル使用のリスクと安全管理上の問題

「初心者でも研修を受ければOK」「特区の山中なら大丈夫」という案は、銃社会である米国などと比べても安全管理のハードルがかなり高く、現実的とは言えません。
日本は銃規制が厳しく、ライフルの所持許可取得は容易ではないうえ、実際の最大射程が1kmを超えるライフル弾の安全管理は非常にシビアです。

〇万が一の誤射事故
〇バックストップ(弾が安全に止まる地形)の確保の難しさ
〇周辺住民・ハンター間の位置把握

など、リスクコントロールすべき項目は膨大であり、富裕層インバウンド客の短期集中利用などでカバーできるものではありません。

さらに、初心者ハンターを大量に招致するならば、十分な実地訓練が伴わない限り事故のリスクが高まるだけです。

「熊を撃ちたい」というレジャー感覚の利用者が増えるほど安全管理コストが跳ね上がり、結果として地元が負う責任や負担も大きくなるため、経済的メリットとのバランスが極めて悪いと言わざるを得ません。


長期的視点と“人づくり”こそが鍵

秋田が抱える最大の課題は、少子高齢化や若者の流出による人口減少です。短期的な“熊ハント観光”でお金を呼び込めても、根本的な人口問題は解決しません。

一方で、熊との軋轢を減らすための山林整備や農地の管理は、若い人材の労働力確保が前提となります。

熊を「殺す」発想から、「熊を地域の財産と考えて、人と自然の関係を考える学びの場をつくる」という方向にシフトすれば、熊という存在が若者を呼び込み、地域での役割を生み出す後押しになるかもしれません。

地域に愛着を持った若者が増えれば、農業・林業や猟師の担い手にもなり得ますし、文化ツーリズムに付随する民宿、飲食業などの産業連携も拡がります。こうした“人づくり”にこそ、自治体や地域が長期的に投資する意義があるのではないでしょうか。


現実的で持続可能なプランを

ハンティングツーリズムそのものを「絶対に否定」するわけではなく、富裕層観光客を呼び込むアイデアとしての意義は理解できます。しかしながら

  1. 昔から議論されてきたが、大きく成功した前例は少ない

  2. 熊を神聖視するマタギ文化を損なう危険性がある

  3. 初心者含む狩猟者が増えると銃事故リスクが高まる

  4. 根本的な人口減少問題を解決する策にはならない

といった現実的なリスクを見過ごすわけにはいきません。むしろ熊を軸にした文化的体験を少人数・高付加価値ツアーとして展開し、地域へ深く理解を示してくれる観光客を呼び込む方が、長期的かつ安定的な経済効果を生み出す可能性は高いのです。

熊と人との共存を見据えた“ゾーニング”や、若い人の定住を促す“人づくり”に重点を置いた戦略は、表面的には派手さがないように見えます。

しかし、熊がもつ文化的・生態学的価値を再認識し、地域社会全体で取り組むことでこそ、秋田という土地が誇る固有の魅力を世界にアピールすることができ、結果的には観光需要の創出に大きく寄与するはずです。

まずは貴重なご意見に感謝しつつも、出来ることを一歩ずつ確実にやって行きたいと思います。

ぜひ秋田に遊びに来てくださいね!

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織山英行@マタギ湯治トレイル開発中
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