バニーボーイ【連載本編・第3話】

第3話:天国と地獄

「計画って何よ?」
「そりゃあ、あの人たちを助ける計画だよ。玉井さん」
「あんた怒って帰るんじゃなかったの?」
「あれは演技だよ……。確かに今の所、ダランベールより大泉議員の方が嫌いだし、あのときは本音10割で喋ってたし……でも、助けようとは思ってたよ」
「なんか、あんたといると疲れるわ」
「お互い様だよ」
「あ゛!?」

弓月はポケットから腕時計を取り出した。

「腕時計持ってる?」
「ええ、もちろん」

玉井は左腕につけている時計を見せた。

「よし。気を取り直して……今回は玉井さんがいてくれるから助かるよ。計画はこうだ…」

弓月は玉井にコソコソと計画を話した。

「あんまり賢い計画ではないわね」
「単純でしょ?なら玉井さんは何か案はあるの?」
「あなたができるなら問題ないわ」
「じゃあ、決定で。それじゃあ30秒後に」

弓月と玉井は、お互いに持っていた時計のストップウォッチを合わせた。

議場内にいる残されたものたちは、しばらくしんとしていたが、全員の視線は大泉議員にあった。

「な…なにかね?何か文句があるのかね?」
大泉が大汗をかきながら言う。

「あなたのせいで、バニーボーイ帰ってしまったじゃないですか!」
「そうです。どう責任を取られるおつもりですか?」
「国民のためにならない無意味な法案ばっか考えて……」
「他国の利益になるようなことばっかり……」
残された他の議員たちが大泉を責め立てる。

「黙れ!あいつが悪いんだ!私は悪くない!」
大泉はわめく。

「うるさい!」
ダランベールが怒鳴る。

銃声が鳴り響く。だが、テロリストのものではない。

議場の入り口から玉井が銃を連射していた。
弾丸は誰にも当たっていない。

ダランベールたちは咄嗟に玉井に銃を向け撃ち、玉井は隠れる。

その隙に、左側上にある貴賓席から、大臣席に弓月が降りてきた。

そのことに誰も気がついていない。ダランベールとテロリストは銃を一心不乱に玉井に向かって撃ち、他の議員は伏せて撃たれないようにしている。

弓月は、大臣席に横並びになっていたテロリスト5人に向かって、突進する。弓月は一気に5人を将棋倒しし、制圧。そして、ダランベールに飛び掛かる。

「玉井さん!」

玉井は弓月の呼びかけを聞き、テロリストの方へ向かい、議員たちの保護をする。

ダランベールを捕らえた弓月は、悪魔を閉じ込めるカプセルを取り出したが、割れてしまっていた。最初議場に入ったとき、テロリストたちに銃撃された拍子に壊れてしまっていたのだ。

「しまった!こりゃまずい…玉井さん!」

テロリストの確保を終えた玉井に弓月は叫ぶ。

「ヒゲダンス知ってる?」
「知ってるけど……今更何よ!!!」
「その木刀を持って構えて!」
「なんでよ!?」
「いいから!」

言われるがまま、玉井は木刀を中段で構える。

「いくよ!!!」
「え?えー!??」

弓月はダランベールを持ち上げ、玉井に向かって投げた。

すると、飛ばされたダランベールの腹に、玉井の持っている木刀が突き刺さった。

「き……貴様ーー!」

ダランベールはそう叫ぶと、身体がボロボロと崩れていき、赤土になっていった。

「また赤土……はぁ……終わったの?」
玉井はへたり込みながら聞く。

「終わったよ…」
弓月も議員席に腰掛けて言う。
「皆さん!もう大丈夫です。警察が来るまでここで待機していてください。大泉議員もそれじゃあ」
気を取り直して、議員の人たちに言う。

「見捨てたんじゃなかったのか…」
大泉も気の抜けた声で言う。
「見捨てませんよ。あなたみたいにね……玉井さん、帰ろう」

Wood's Cafeに戻ってきた玉井と弓月。
玉井と弓月は、ウッドさんが随分前に作った、オムライスとナポリタンを温めて食べていた。

ウッドによると、起こったこと全てがテレビで中継されていたらしい。
ニュースやワイドショーではこの話で持ちきりだった。

<あのやり方はどうかと思います!議員の命を危うくしたわけですから!>
<助けたんだからいいじゃないか!!!>
<玉井巡査部長とは何者なんでしょう?バニーボーイとどういった関係なんでしょうね?>
<正体は不明ですが、警察の特殊部隊という噂も>

<テロの首謀者である指定暴力団組員の伊藤シンイチ容疑者の死亡時、赤土になったのは何か関係があるのではないか?バニーボーイとは本当にヒーローなのか不信感が募るばかりです>

<ユミヅキマドカ通称バニーボーイと玉井ヒヨリ巡査部長を『赤土の11・1』の事件の関係者とみて、警察は今日容疑者の2人を公開手配しました>

「指名手配犯だって!なんだかワクワクするね!」
「無実だから、今から出頭してくる」
「それはやめた方がいいんじゃないかなあ……」
「どうして?」
「君ももう理解してると思うけど、この世界には悪魔がうようよいるんだ。それに君は悪魔殺しとして、狙われている。警察にも悪魔に取り憑かれた人は大勢いる。いつ、君が殺されるかわからない。それなら、どう?ここにいても良いよ」
「一旦家に帰るのは?」
「それもやめた方がいいね」

玉井は少し考えて「わかったわ。ここに住む」。

「じゃあ歓迎会しないとね。明日」
「なんで明日なの?」
「僕はもう疲れたから寝るよ。ウッドさん、玉井さんに部屋案内してあげて」
「オッケ〜」

弓月は、奥の方へ消えていった。

「あの人、なんか変よね……」
玉井がウッドに言う。
「そうだね。あいつは色々あったからね」
「いろいろ?」

カフェの2階、弓月は自分の部屋に入る。
中は洋室で、ベッドと机と棚がある。棚には本やDVDが置いてある。
机の上にはパソコンが置いてあり、2枚の写真が置いてある。
1枚の写真には、4人の男と2人の女が皆笑って写っている。その中には弓月とウッドも写っており、禿頭のウッドの頭には白いウサギが座っている。
そして、もう一枚の写真には、前の写真に写っていた女性の1人と弓月が2人で写っている。弓月は女性の肩を抱き、2人とも笑顔でピースしている。

弓月はベットに座り、その写真をしばらく見ていた。

ウッドが言う。
「あいつは奥さんを亡くしてるからな……」
「え……?」

弓月はカチューシャを外し、横になりそのまま眠りについた。

大泉邸。

大泉議員はバスローブを着ている。
酒を飲もうと、持っているグラスにウイスキーを注いでいる。

突然、場面が切り替わったように、大泉は家ではない場所に立っている。風が強く、かなり高いところだということしかわからなかった。

「こ……ここは……」

狼狽える大泉議員。

「ここは東京タワーの先端付近です。良い眺めでしょ〜」

声の主の方を見る大泉。そこにいたのは弓月だった。

「バニーボーイ!これは夢か?」
「夢でも現実でもどっちでも構いません」
「なんの用だ!」
「ここ、いい景色ですよね。僕ね…よくここにくるんです。事件や事故が起こるとよく見えるし。小さいと見えないですけど……」
「……」
「そうそう、僕の言ったこと覚えてます?約束はしたわけではありませんが」
「辞職のことか?」
「どうしますか? 命を救ったことの報酬としては安いでしょ?」
「何が言いたいんだ?」
「命を救うのと対等な報酬は、あなたの命です。僕はそれ以下を要求してるんです……。あんたね、このまま逃げられると思うなよ。これでもお前に対して救いの道をやってるんだ」
弓月の声が暗くなる。
「今まで大勢の人間を傷つけてきた罪を、俺は清算してやれる。さあ答えろ。天国に行きたいか?地獄に行きたいか?」

大泉はどういうことかよくわかっていない。弓月は声を戻して続ける。

「地獄には2種類あるんですよ。死後すぐに行く場所『ハデス』と、最終的に行き着く場所『ゲヘナ』が。簡単に言えば、ハデスは罪人の待合室みたいなところで楽しいところなんです。そこで余裕だと思わせて、次はゲヘナに放り込まれる。ここは怖いですよ〜。大泉議員にはこのゲヘナの様子を見せてあげます。1秒だけ」

弓月は「これがあなたが行き着く場所です」と言って、大泉の頭に触れた。弓月が手を離すと、大泉は恐怖で固まってしまった。

「ここに行きたくなければ、今までの罪すべてと向き合え。そうすればお前は救われる……それじゃあ」

弓月は東京タワーから大泉を落とした。

落下中「ギャー!」と騒いでいた大泉だが、やがてパリンと音がし、気がつくと自分の家に戻っていた。
大泉はグラスとウイスキーの瓶を床に落としてしまっていた。

翌日。

<大泉衆議院議員、辞職>

翌日、テレビ、新聞、ニュース、SNSなどで大々的に話題になった。

ニュース:
<大泉議員の辞職、バニーボーイとの関係は?>

SNS:
<【朗報】大泉議員、辞職>
<いいんじゃないでしょうか?個人的にはやめてもらってよかったです。無駄な政策を打ち出し、我々の税金を奪う人には議員でいてほしいとは思わないですから。今後、素晴らしい議員が出てくることを願うばかりです>
<なんか偉そうで草>
<どこが偉そうなんでしょうか?>
<ネットニュースにコメントしてるやつ全員バカだし偉そうだよな。俺も含めて>
<草>

「おはよ〜」
あくびをしながら弓月はカフェに降りてくる。カチューシャはしていない。

先に起きていた玉井は、血相を変えて弓月に聞く。

「あなた、大泉議員に何かしたの?」
「なんかあったの?」
「辞職よ!あの堅物議員がおとなしく言うことを聞くわけないでしょ!あんた何かしたの?」
「知らないよ〜。ウッドさん、アイスレモンティーちょうだい」

ウッドはとっくに準備してたかのように「あいよ」と即座に出す。

「それに僕は昨日からずっと寝てたからね」
「あの人が辞めるなんて、びっくりだわ」
「そうだね。それよりウッドさん——」

弓月は話を変える。

「玉井さんの検査はどうだった?」
「調べたよ。確かに変わった体質だね」
「何よ?」

ウッドは静かに言う。

「玉井さんの身体にはね、人間の血の他に天使の血が流れてる……。つまり君はネフィリムだ」


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