天井に張り付く一本の髪の毛【不思議体験、ホラー】
——あれは一体何だったんだろうか。
私が大学生になり、一人暮らしを始めた頃のことである。
部屋は1K。
上にロフトがあるため、天井が高い。剣道の素振りをしたとしても、剣先が当たらないほど天井は高い。
壁は薄いが、家具家電付きなので、住むのに困るということはない。
引越しして、不要な荷物は全部ロフトに置いた。というのも、ロフトで寝るのに、はしごを昇り降りするのが面倒くさい。
私は——リビングというのか、居間というのか——食事も睡眠も同じところですることにした。
引越ししてから、しばらく経ってのことである。
ある休日、暇なので、布団でゴロゴロしていた。
ふと、天井を見てみると、長い髪の毛が一本張り付いている。
自分の視力に自信がないので、もしかしたら、埃や蜘蛛の糸とかかもしれない。
天井の中央である。
もし、ロフト用のはしごを登って、天井に頭をぶつけても、あそこには引っ付かない。
エアコンか?いや、それにしても、エアコンからは少し離れているし、風の軌道からは外れている。
誰かが照明を取り付けた時か?それにしても、その謎の物体から照明まで割と距離がある。
妙だ。
——取った方がいいか?
しばらくじっと、寝たまま見つめ、起き上がるのが面倒くさいと思った。
また今度にしよう。そう考えて、何日か経つ。
だが、天井を見るたびにあの黒い一本が目につく。
伸びているような気がしてくる。そんなはずはないのに、何度も見ているとそんな気がしてくる。
私は、いい加減取ることにした。
中学以来、捨てずにいた竹刀で、天井をササッと擦った。
あっという間にそれはヒラヒラと落ちてきた。
手にとって見てみると、やはり髪の毛であった。
黒く長いから、若い女性の髪の毛だろう。特に理由はないが、そんなことを思っていた。
ゴミ箱に捨てる。
——しかし、なぜあんなところに。
髪の毛……。心霊現象か何かだろうか……?
ネットで調べてみる。
「髪の毛 心霊」とか「髪の毛 天井」とか色々調べてみた。
それでも「排水溝に髪の毛が——」とか「屋根裏の木箱に束ねられた女性の髪の毛が——」とか、ありきたりな話しか出てこない。
天井に髪の毛が張り付いている話……。
天井から頭がズズズッと出てくる話なら、テレビでみたことならある。
芸人でもなんでもない私は、友人に霊能者がいるわけでもないので、この問題に早速行き詰まった。
「わからん……」
あきらめよう……。
とりあえず、目障りだったあの髪の毛は消えた。
とっくに髪の毛のことなんて忘れた。俺は飯を食べて、テレビを観て、スマホをいじっていた。
しばらくして、私は家の狭い浴室でシャワーを浴びていた。
浴槽の中でシャワーを浴びていると、浴室の壁に髪の毛が1本張り付いているのを見つける。
私はそれをシャワーで洗い流した。
——自分のだろう……
特に気にしなかった。
部屋に戻り、布団の上で仰向けになり、天井を見る。
髪の毛がついている。
——何なんだ……。
そう思いながら、竹刀で擦り取る。
すると天井の髪の毛があったところが、徐々に黒くなり始め、中央から女の顔が出てきた。
綺麗だが、ものすごく恐ろしい顔。
冗談でもなく、鬼の形相とはこのことをいうのだろう。
私は恐ろしくなり後ろにへたり込む。
声が出ない。息が苦しい。酸素が急激になくなったようだ。
身体も強張って、自由に動けない。
私は、恐怖でただ女の顔を見ていた。
女の顔は私にどんどんどんどん近づいてきた。
顔が大きく見える。近づいているからそう見えるはずだが、恐怖のせいでそう見えるのかもしれない。
私の視界全てを埋め尽くしているような気がする。
私の顔の真ん前に女の顔がある。
女の顔以外は真っ暗闇だった。
すると、鬼の顔をした女は金切り声でこう言った。
「取るなーーーーー!!!!!」
そこで私は、目が覚めた。
——夢か……。
ホッとして、天井を見る。
するとあの髪の毛が一本、天井に張り付いていた。
私は、あれ以来、あの髪の毛をとっていない。
そこには2年間住んでいたが、特に変わった現象は起こっていない。
——あれは一体何だったんだろうか。
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