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敵わないと知りつつ「あえて」 ヴィンテージプリント考 3


あえて

「ヴィンテージプリント考」の3回目。
今回だけ表題が少し違います。
後年にまた機会が訪れ、ここぞとばかりにある挑戦を企てます。
全カット焼き直し。オールモダンプリント。

他者からの意見を受けながら、しかし最終的には自分がどう感じるかなのだと思いまして。
ヴィンテージには敵わないということを理解しながらも、そんな達観できねぇよともがきます。過去の自分を超えたいという切なる願いもありますし、懲りずに挑戦した記録を記します。

1と2をまだお読みいただいていない方は、先に下のリンクよりご笑覧いただけましたら幸いです。


3度目の機会


2013年夏の展示から時を経て、2020年光栄にもメジャーなコマーシャルギャラリー・中野のギャラリー冬青さんより展示のオファーをいただいたました。
私としては新シリーズ「熊野」の展示という線をご提案しましたが、フィルムと銀塩でしっかりしたオリジナルプリントを展開して欲しいというご要望があり(熊野シリーズは撮影がデジタルで古典技法のプリントという形態)、いくつか作品シリーズをお持ちして見ていただいた結果「バリの祈り」がお眼鏡にかなったという次第。開催は翌年2021年の2月でございます。
 
ご承知のとおり、コマーシャルギャラリーはアート作品を販売することが生業です。写真家は、そのことに応える必要がございます。
同テーマの展示は3回目ですし、販売には不利な状況。逆にそれでお尻に火がつきます。

ヴィンテージを超える。新たな挑戦が始まりました。



テストプリントなし一発勝負でプリントする


暗室に入る時、上手である、そして整っている、このふたつは捨て去ろうと考えました。
キャリアも長く技術面の自信はございましたので、少々の荒っぽさを発揮したところで、大きく外れはしないと踏んでのこと。
 
自分で以下のルールを復活させます。私が修行時代に体得したオリジナルの方法論。
「テストプリントなし、1発勝負でプリントする!多くても2枚目で完全に仕上げる。」
 
ネガをじっくり見て、撮影時のその瞬間に心を集中させます。ひたすら思い返し、シャッターを押した瞬間と同期させる作業。
決意して、一気に焼き付け。実際に目にした風景とフィルム上の濃度が違う部分(特に青空などは違いが出ます)は焼き込みをしてまいりますが、これもまたアドリブ的に。集中力をマックスに、ゾーンに入るほど集中させます。


得体の知れないパワーって何?


赤い光だけが灯る暗い部屋の中、目の前には明暗が反転したネガ画像だけが照らし出される。仔細に眺め、脳内で変換し、秒数と号数(コントラストを決めるフィルターの数値)を弾き出す。
テストはせず、あっているかもわからぬままにプリントを開始する。
 
プリント技術者やベテラン勢、あるいは他の写真家たちからは馬鹿にされそうですね。でもまぁ良いです。
身体が反応する、そんなプリント。アドリブ力、憑依力。

面白いもので、集中力が高まれば失敗もしなくなります。ネガの濃度を見れば秒数や号数は目の前に数字としてパッと浮かび。。。オカルトチックで笑えますが、本当のことです。
(暗室の鬼とご紹介いただく機会が多かった私、この時は自分でもちょっと鬼っぽいなと感じました。。。)

展示は盛況でした

展示は盛況でございました。
年月が経ち、昔から見てくださっていた方に、新たに知ってくださった方も加わって大変刺激的な期間を過ごさせてもらいました。
おかげさまで販売も好調で一安心。良かったです。
 
2013年から2022年、この間に写真は大きく変わりましたね。
プリントは光で感光させるものから、印刷分野やインクジェットへと広がりをみせ、暗室でのプリントは全展示の中でも少数派になりました。

寂しくはありません。可能性の広がりは大歓迎です。

さて、ヴィンテージを越えようと頑張ったモダンプリントですが、比較してどうこう言うのは馬鹿馬鹿しくなりました。とても良いです。
南国特有の湿度、ざわざわした空気感、朝夕の爽やかな印象、全ては表現できたと感じます。結局のところ、私が焼けば、ゴールは同じ。違わないのだと分かります。

一つ、違うと言えば。
作業した人間だからこそ体得したことがございます。
作品に「得体の知れないパワー」が乗るかどうか。その明確な違い。
ここだけは理屈を超えて、私の中に確固たるものとして残った気がしています。

追記 2013年2回目の展示のモダンプリントが再評価された話。

後日談。おまけです

実は、3日目の展示で、展示はしていないものの話の流れでご披露した2013年おモダンプリントが、不思議なもので再評価されました。

美しく、最高なものをと願い突き進んだ時期。薬品を調合し、特別な機材を使い。玄人好みと申しましょうか、モノクロの風景写真としてのアンビエントな空気感はこちらが勝るように感じています。

って言うか。。。見てくださる方だって、昨日と今日では違うことを言ったりしますし実に勝手なものでございます。比較対象にデジタルが入ればまた印象もガラリと変わりましょう。それは自分とて同じですし、人間なんてそんなものです。

だったらヴィンテージだモダンだ、暗室だインクジェットだ、なんて細けぇことぬかさず「堂々とその時の全力」を展示すりぁ良いじゃねぇか。

巡り巡って、そんな境地(?)に達した次第。


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森谷修_photographer
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