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冒頭の改稿①

5/18に『森をひらいて』が発売になりました!

雛倉さりえ『森をひらいて』(新潮社)


まず目に入るのは装幀ですが、著者の雛倉さりえさんが装幀室のデザイナーにインタビューして下さった様子がYouTubeで公開されています。

https://www.youtube.com/watch?v=SdDzhrRDW3Q


今回は新鮮な色味を求めて、ちょっと変わったことをやっています!
デザイナーがこうして装幀の解説をする機会は珍しいので、ぜひお時間のあるときにご覧下さい。


読者の方の目に触れるのは完成版のみですが、装幀だけでなく原稿も完成まで何度も改稿を重ねていまして……。雛倉さんが原稿を完成させていく様子をリアルに感じていただければと思いますので、この場所を使って、いくつかの場面の変遷を公開していきたいと思います。

まずは物語の冒頭。一番最初はこのような文章でした。

第一稿の冒頭


冒頭をどんな意図でこのようにお書きになったのか、雛倉さんからコメントをいただきました。


雛倉さりえさん

「読者の五官に訴えるため、音の描写からはじめました。実際は人間にはとらえることのできない超至近距離の視覚的、聴覚的な要素を入れ、その流れで主人公の名前を出しています。早めに名前を出すことで三人称の小説であるという情報になり、微細といえば微細にすぎる描写がすべて主人公の知覚によるものではないと伝えられることにもなります。
あとは厚塗りするように、好きなだけ描写をかさねました。意識したのは色、香りなどやはり官能にかかわる部分です。とにかく微細に、至近距離で、森の景色に対し遠近関係なくすべての要素にピントが合っているようなイメージです。
ひととおり森を描いて満足したら、次は主人公の過去、物語の主軸の要素を少しだけみせます。のちに回収するためトラウマの描写も入れました。森のイメージで繋げつつもそれまでの美しい光景から落差をつけるため蛭の喩えを使い、最初のシーンを終わります。」


これを読んで私はとても納得でした……!
とても映像的で感覚を刺激される文章ですが、雛倉さんが非常に細やかに心配りして書かれているからこそなんですよね。

勿論このままでも完成度はとても高いのですが、実はこの冒頭から始まる原稿をいただいてから、全体の構成に関わる大きな改稿のご相談をしました。一番重要な点は、「物語を最後まで引っ張ってくれるような〝謎〟を入れませんか?」というご提案でした。既にある原稿をAとすると、Aのストーリーラインを引き立たせるために、新たにBのラインを織り込むようなイメージです。

かなり大きく手を加えていただく方向のご相談になりましたが、雛倉さんはこのようにお考えになっていたそうです。


雛倉さりえさん

「改稿はもともと苦手というか、いったん自分の中で完結した作品に手を入れることに対してどうしても抵抗があります。
今回も最初は文章を少し変える程度の修正かと思っていたのですが、エンターテインメントとしてより楽しんで読めるよう構成自体を大きく変えてはどうかと仰って頂き、「なるほどですね……」と思いました笑
当時アイデアもなく、具体的な変更内容を一人で考えるのが難しかったので、何度もお打ち合わせさせて頂き、相談に乗っていただきながらどう変えるか、かなり時間をかけて考えました。」


zoomを利用したり、対面でお話ししたりしながら、ご相談した記憶があります。今から構成を大きく変えるなんて!?と驚かれていたと思いますが、雛倉さんは冷静に聞いてご検討下さり、本当に有難かったです。

ご相談の結果、主人公の視点に加えて、別の人物の視点を入れ込むことになりました。ガラッと印象が変わった第二稿は次回公開させていただきますね!