出版社(マンガ業界)が進むべきDXとは その4
皆さまこんにちは、ノリで書きはじめた記事が書くこと多すぎてその4まで来てしまいました。まとめる能力がなさすぎる故ですね。まとまってなくて、読みづらくてすみません。
ただ、すごくありがたいことに、複数の出版社の方から「励まされた!」「なんかまだ出版社もやれる気がする!」、学生さんから「こんなアイデア考えているですが集英社でできないですか!?」といった旨のDMを直接頂けました。個人的に書いてよかったなと思う次第です。
さて、最後のまとめです。
出版社(マンガ業界)が進むべきDXとは その1
https://note.com/moritsuu/n/n50f5526c9cdc
出版社(マンガ業界)が進むべきDXとは その2
https://note.com/moritsuu/n/n60c5a8560c7c
出版社(マンガ業界)が進むべきDXとは その3
https://note.com/moritsuu/n/ncbc87ca7f273
--------その2はココカラ
・電子書籍という新しい流通形態・流通チャネル
・話売りをはじめとする販売形態の多様性
・マンガを読むきっかけが大きく変わった
--------その3はココカラ
・マンガアプリという媒体の変化
・宣伝プロモーションの変化
--------その4はココから
・データ分析に基づく施策の取り組み
・これからのDXを新規事業の観点で考える
データ分析に基づく施策の取り組みについて
集英社ってアプリたくさんやっているし、うまくいっていると思うんですが、データ分析ってやらないんですか?データからマンガを作るNetfilixみたいなやり方面白いと思うんです。
出版社でデジタルの仕事を5年近くやっているとこういったお問合せや質問をよく頂きます。
結論から言うと、データ分析とかはコツコツとは取り組んでいますが、データ分析からONE PIECEを超えるような超面白いマンガは現時点からは作るのが難しい。というのが今の私の意見です。
私も専門家ではないのですが、データ分析と一言でいっても色々とあります。売上のデータの分析だったり、作品の中身の分析だったり、アプリケーションのコンバージョンの分析だったり。基本的には今起きている事象のデータを取りまとめたうえで、未来の何かを予測したり改善をする。というのが現状のデータ分析であると私は理解しています。
けんすうさんのこの記事なんかはまさにデータを活用した素晴らしい事例だと思います。
https://kensuu.com/n/n58dfb5fc02e7
ですので、改善・過去の振り返りについては、完ぺきではないにせよ少しずつ取り組んでいたりします。その3で書きました、コマ広告の宣伝の分析とかは配信データ・売上データによるデータ分析ですし、そもそも再販制度で間違った部数を刷りまくると返本という形で戻ってくるビジネスモデルであるので、一歩間違えると大損をするリスクがある出版社は長年をかけて書店さん・取次さんを通してデータ分析をやってきたとも言えます。実際に、コミックスや雑誌の刷り部数の決定は長年のデータ分析と経験の賜物。実は出版社は昔からデータオリエンテッドな出版業界なのだと。
今では、アプリの改善、ユーザー行動、作品の人気、作品のレコメンデーションといったオーソドックスな運営改善では、データ分析をする専任の担当者もいたりします。頼もしい!でも、まだまだ足りないので有望な人材を求む!状況です
ただし、よく言われる、データ分析の先に超面白いマンガができるのか?というところで、私は個人的には難しいと思っています。
なぜなら
データ分析は過去の振り返り・改善はできるが、面白いマンガというのは過去の延長線上にないから
「ONE PIECEがなぜ面白くて売れているのか」
この命題はあらゆるマンガ業界の共通ミッションだと思いますし、実際に中身を色々な分析をすることで見えてくることは多いと思います。
ただ、大人気の作品を徹底的にキャラクター・シナリオ・書き方・セリフなどをデータ分析して、その結果をもって既存の作品を改善すれば面白くなるのか?おそらくならないと思います。
「バクマン。」で七峰 透というキャラクターが50人のマンガ好きの意見をとりまとめて、マンガを作ったが、最後は意見がバラバラになってしまって、とりまとめもできず、崩壊をしてしまった。というエピソードがあります。データ分析って遠からずこういうことで、結局のところエッセンスをまとめる才能、作品に仕上げる才能、すなわちそのセンスがある作家が必ず必要になります。
マンガが好きな方であれば、面白そうなエッセンスってみんな感じ取っているし、こういうのマンガにしたら面白そうだなというアイデアは皆持っていたりすると思います。でも、あくまでもそれは読み手側の意見です。
そういった小さな一つ一つを分析し、組み立て、全体の構想にまとめあげる。この圧倒的なセンスが作家性であって、分析されたデータをどう面白く料理し、真っ白なページに落とし込んでいくのか。
結局のところマンガ家の才能が必要になる。と私は考えます。
出版社として分析をしていないわけではない事例
とはいえ、分析からクリエイティブに繋げる活動もしています。一つだけ事例を紹介します。
グランドジャンプという雑誌が「グランドジャンプめちゃ」という増刊を出しています。実はこの雑誌はデータ分析から生まれた雑誌なのです。
ご存じ頂いている方も多いかと思いますが、グランドジャンプは本来青年誌、しかもビジネス層を狙った雑誌なので少し年齢は上めの男性の方に楽しんで頂くラインナップの作品が連載しています。
ベテランの作家も多く、読み応えがしっかりしていて、雑誌でもコミックスでも楽しめる。いい雑誌です。それゆえに、デジタルの対応が少し遅れ気味でした。
数年前の当時、担当の副編集長は悩んでいました。「次の増刊では紙だけではなく、デジタルに向けた作品を増やし、編集部としての厚みを増していきたい」と。当時デジタルでグランドジャンプを担当していた私も頭を悩ましていたのですが、ちょうど面白い事象が起きていました。
「金魚妻/黒沢R」「エロスの種子/もんでんあきこ」といった、少しエロ要素もあるが、女性の表には出しづらい裏の心情を描いた作品が電子書店でとても売れている。紙の書店では青年誌コーナーにあるので、男性しか買わないが、電子書店では女性が買ってくれている。
これは面白いぞと。
そこで、電子書店さんにご協力を頂き、どういったタグがついて、どういった層の方が買ってくれているのか、どういったレビューがついているのかを徹底的に分析をしました。そこでわかったのは「それなりに共通性はある」「これが今のトレンドだぞ」という結論です。(詳細は社外秘にもなるので話せません)
そこで、出た共通性をもって新増刊における作品の方向が決まりました。作家さんへのお声がけ、立ち上げたいマンガの方向性もパシッと決まった新しい増刊。売り方・販促の仕方も電子版での工夫をやる前提での取り組み。(細かくは書きませんが、その2、その3での記事の内容が大いに入ってます)
結果として、電子版では女性に、紙版では男性に売る。という面白い雑誌ができ、雑誌が売りづらいこの時代にも関わらず、雑誌も比較的好調、ビジネスラインとしても早い段階でリクープができそうという新しいモデルが立ち上がりました。
良い取り組みだねということで、編集部と一緒に社内表彰ももらえました。
従来、雑誌の増刊は編集長となる方が、なんとなく肌感覚でやってきたことですし、そのセンスが成功の鍵でした。もちろんこの取り組み自体をやるというセンスはあるかと思いますが、電子書店さんと協業だからこそできる、データオリエンテッドな新しい取り組みだと考えています。
以上、データ分析からのクリエイティブということで、才能ある作家があってこそではあるのですが、データ分析における作品の作り方の方向性や我々が今後進むべき未来といった観点ではとても役立てるのではと思った事例です。
グランドジャンプは取り組みに対して柔軟かつ、今とても勢いがある編集部なので、もしこれを見ている作家さんがいらっしゃれば、持ち込みおススメです!
新規事業でやっていきたいDXとは
さて、長々と書き続けたこの企画ですが、「じゃあお前は偉そうなこと語ってるけど、新規事業で何やるのよ?」という事を最後にまとめます。
細かい話は協業会社さんとのNDAもあるので、書けませんが、私は新しくやる事業に関して共通のテーマを決めていまして
クリエイターが稼ぐ手段を一つでも増やしていく事業であること
作品が広がるきっかけを一つでも増やしていく事業であること
この2つを掲げています。
ありがたいことに集英社で新規事業をやっていますというお話をすると、いろんなお話を頂けます。その中には「確かにこれは今やれば儲かるだろうけど、これに参加していただく作家・作品の価値は棄損する」だろうなというアイデアもたくさん混ざっています。私はこれだけは絶対にやっていけないと思っています。
僕ら出版社のマンガ業界はクリエイターの才能を発掘し、それを育て大きくし、その手数料(的なモノ)で収益をあげ、それを未来に再投資していくというビジネスモデルで回ってきましたし、これからもそうなっていくと思います。
だからこそ、クリエイター第一主義でないといけない。
例えば、私が今メインで取り組んでいるゲーム事業
従来の出版社のゲームビジネスは人気が出た作品をライセンスアウトし、アニメの版権をベースにゲーム化をするというのが一般的でした。
このやり方ももちろん価値があるし、作品を広げる活動になるので積極的に進めるべき事業です。もう一方で、我々自身の事業を通して作家の活動を広げることができないかなと私は思っています。
例えば、連載が終了した(終わりそうな)タイミングにて、少し違う仕事がしたい!という作家さんに新しい才能見出すきっかけとして、ゲームのキャラクターデザインのお仕事どうでしょうか?鳥山明先生のように未来のドラクエキャラクターが生まれる可能性があるかもしれません!といったお仕事がお願いできないか
若手の方で集英社のマンガ誌に持ち込みを頂いたが、なかなか連載までに時間がかる過程がある場合、絵・作画のセンスがある方であればゲームでのクリエイティブのお仕事を、シナリオ作りのセンスがある方であれば、ゲームのシナリオ監修のお仕事をお願いできないか。
その仕事を通して、何か新しい発想が生まれて新しいマンガを生み出していただければ大歓迎ですし、逆にゲームキャラクターづくりの仕事をきっかけに出会えた作家さんが、編集部に良い原作があるので良ければ作画担当をやりませんかという形でマンガ家になるという未来あっても良いと思っています。
もう一つの観点として、今の若い世代のタッチポイントは圧倒的にスマートフォンであり、その可処分時間の大半はゲームに占められているともいわれています。そんな中、僕らがキャラクター性を楽しめるゲームを企画し、ゲームを最初に楽しんでもらって、原作を知らない人が「このキャラクターが好き」「原作があるのであれば読んでみよう」というゲームをタッチポイントとした作品認知の可能性もあると思っています。
上記はあくまでも、ゲームの事例ではありますが、クリエイティブ活動の延長線を我々出版社のビジネス側の人間が切り開き、一つでも多くのビジネスの手段、稼ぐ手段を作り、クリエイティブ活動をループさせていく。その延長戦において、どこかで才能の花を開いて頂く。こういった未来を描ければと思っています。
AI、動画、ゲーム、コミュニティ色々なビジネスチャンスはあると思いますが、あくまでもそれは手段であり、新しい技術や仕組みを活用すること自体が目的になってはいけない
マンガ事業を通してつながった作家というクリエイターたちのチャンスをどう複合的に広げていけるのか。その手段としてデジタル技術をどう取り込んでいくのか、その先にある出版社はもしかしたら「出版」だけではない、エンタメ企業になれるのではないか、この活動への投資こそが僕ら出版社がやらねばいけないDXだと私は考えています。
まだまだ僕らは力不足です
おかげさまで才能がある作家さん、クリエイターの方々にはとても恵まれている会社です。先人たちのおかげで、会社としてのブランドもしっかりとあります。
ただ、集英社単体でマンガ業界をアップデートする。DXをしていく。というにはまだまだ力不足です。ビジネス側の人も足りなければ、ノウハウも足りない。
そこで、今回マンガビジネスの未来を新しい才能と切り開く、ビジネスパートナーを募集いたします!
どーん!
マンガテック2020はじめます!
https://shueishamangatech.com/
「マンガテック2020」
正式には
「集英社スタートアップアクセラレータープログラム マンガテック2020」
学生さんや、起業をしたい人!といった未来の新しいビジネスの才能を持った方々から、マンガに関わるビジネス企画を募集し、優秀なアイデアをジャンプ編集部を含めた集英社、そして外部のメンターたちと一緒に育て、実現をし、僕らと一緒にマンガ業界をアップデートましょう、という企画です。
細かい内容はジャンプ+細野編集長のnoteと重なってしまうので、こちらをお読みくださいませ。
え、今までの記事の内容って全部宣伝のためだったの?
って思った方
そうです。そうなんです。自分の企画のために書いていたんです。
自己紹介でも、書いたじゃないですか、自分の担当企画を一人でも多くの方に知ってもらいたいって。
私もメンターとして隅っこで入ってますが
超人気マンガの多くの立ち上げを担い、自らビジネス領域部門も立ち上げ出版社の未来を切り開いている第一人者 浅田
その3でも書いた、ジャンプのDXをすべて実現している細野&籾山
出版社なのにファッション通販事業をゼロから立ち上げて年商数十億まで伸ばした 石塚
集英社でもイロモノの面白い人たちが揃ってビジネスをサポートします。
もちろん、集英社だけじゃ起業とか不安!って思うと思います。
「安心してください。履いて...超優秀な外部メンターさんがいます!」
メディア、ファイナンス、リサーチ、アプリ市場のプロ、国内・グローバル市場、スタートアップ起業経験、もうこの人たちで起業したら超凄いんじゃない?といった方々にご協力をいただき、皆様の企業・事業化を伴奏型で応援します。
今までの集英社としてはできなさそうな企画でも大歓迎!できる限り精査をして実現までご一緒に考えます。もちろん、良い企画には出資する準備もできています。
さぁ、ビジネスの企画に才能がある方!コンテンツビジネスでいっちょ起業をやってみっか!と夢を抱いている方!ぜひこの機会にマンガアクセラレータにご応募ください!
以上、出版社(マンガ業界)が進むべきDXとはという記事を書かせていただきました。今後も何か思いついたら、会社に怒られない範囲でコツコツと発信をしていきたいと思っております。
再び、期間限定で質問箱もオープンにしますので
記事に関する質問、アクセラレーターに関する質問などあれば、遠慮なくどうぞ!
https://marshmallow-qa.com/moritsuu?utm_medium=url_text&utm_source=promotion
読んでいただきありがとうございました!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?