出版社(マンガ業界)が進むべきDXとは その1
こんにちは、仕事で質問箱を使おうという話があって、使い勝手を見てみたかったので、試しに自分のアカウントでやってみたら、思ったよりたくさんの質問を頂きまして。
その中でこんな質問を頂きました。
いわゆるDXってやつですね。コロナ禍において、「DXができない企業は滅ぶ」とか経済ニュースで良く書かれています。最初聞いた時はデラックス?って思ってたんですが、デジタルトランスフォーメーションだそうです。Xは一体どこから来たんだ。
「滅ぶ」とまで言われるのであれば真剣に考えねばでして、編集者の視点ではなく私がそれなりに得意なビジネスモデル分析の観点で、自分なりにマンガ業界がどうなったらハッピーなのか考えてみました。以下は個人的な意見になりますので、会社としての見解ではないです。あしからず。
書くべきことが多く長くなるので3投稿くらいに分けて書きます。時間を見つけて書くので、続編は少しお待ちいただくかも。
雑誌のモデルを見つめなおさねばならない
DXの前にマンガ業界を語るにおいて、切っても切り離せない一番重要な存在とは何か?
「雑誌」です
現状、雑誌がなければ連載漫画は生まれません。雑誌のアーカイブがコミックスとなり、雑誌で生まれた作品が原作としてアニメ、ドラマ、ゲームといった形で派生をしていくビジネスモデルで、雑誌はいわばコンテンツの源泉です。
マンガ業界は雑誌とともに成長してきましたし、自分も雑誌で育ってきました。雑誌は将来なくなるといわれて久しいですが、自分は「機能」としての雑誌はこれからも引き続き重要だと考えています。では「雑誌の機能」とはなにか?
「連載を生み出すコンテンツ工場としての機能」
「作品の認知を世の中に広める告知の機能」
この2つが重要な機能だと私は考えています。
簡単に説明します。
「雑誌」の連載を生み出すコンテンツ工場としての機能
雑誌は決められた期間に発行されることで、作品を定期的に世の中に出していく機能を持っています。この「定期的」というのがポイントで、定期ゆえに「制約」が発生します。この「制約」がとても重要。
一つが「締切」という制約
人間はそんなにきちっとした生き物じゃないので「いつでもいいよ」と頼まれた仕事は後回しになりがちです。「締切」があることで定期的かつ強制的に作品が生み出されることになります。作家さんには大変なプレッシャーではあるのですが、おかげで僕らは楽しいコンテンツを毎週、安定して楽しむことができるのです。こち亀は40年間一度も休載がなかったんですよ。秋本治先生は本当に神だと思います。
締切って大事なの?って話はたまに飲み話で出るテーマなのですが、編集者の意見をよく聞くと「締切はないので自由に書いていいですよ」という時よりも、「1週間で仕上げてください」という方が面白いものが仕上がるという人が多いです。自分も仕事で締切がある方がクオリティがあがるので、この点は少し理解できます。締切は大事。
もう一つが「掲載数」という制約
雑誌は物理的な紙で印刷できる限界があるので「連載数に制約」があります。ジャンプだと大体20作品くらい。この制約はとても重要で、ヒトは可処分時間の中でしかコンテンツを楽しめないのです。物理的にも精神的にも。
大量のコンテンツを投げ込まれても誰も読まないんです。最適なモノを教えてくれ!となる。なので、作品を絞って読者に提案するいわゆるキュレーティングが重要になります。
なので雑誌の役割として、ユーザが好む傾向合わせたキュレーティングが生まれる。全部が同じような作品であるとそれはそれで面白くない。雑誌の「雑」の部分が読者に出会いと驚きの楽しみを演出し、キュレーティングの方向性は編集方針によって導かれる。ここが雑誌の編集長の腕の見せ所となるわけです。
そして、もちろん数の制約があるから、持ち込まれたマンガは全ては掲載されない。厳しい連載会議を経て、選ばれし作品のみが生き残る。厳しい世界ではあるのですが、事実として生き残ったマンガが売れていきます。この数の制約があるからこそ、クオリティが上がると私は捉えています。
弊社だと、ジャンプ+はデジタルの媒体なので、数や締切の制約は本来緩くできるはずなんですよね。でもそれをやっていない。上記の制約をきちっと守っている。ジャンプ+が強い媒体に育ったのは、このポイントがあったと私は考えています。
最近、よくTwitterでマンガがたくさん載っています。とても面白い作品も多いですよね。「Twitterが雑誌を代替する」という議論がたまにでますが、僕はそうは思いません。なぜかというと前述の「制約」がないから。コンテンツ工場においての制約はとても重要だと思っています。
「雑誌」の作品の認知を世の中に広める告知の機能
雑誌のもう一つの機能が告知機能です。いわゆる「媒体」とも言われるポイントです。
マンガ雑誌の全盛期は1996年前後、雑誌を出せば500万人~600万人が買ってくれて、回し読みを含めれば数千万人がその雑誌に触れてくれる時代。当時は「ジャンプやマガジンに掲載されていれば誰もがその作品のことを知る時代」でした。
自分のクラスの会話でも「昨日のDRAGON BALL読んだ?クリリン死んじゃったよ!」といった会話だったのを覚えています。いわば、雑誌自体がマーケティングの機能を持っていた時代でした。
雑誌不況と言われ続けて20年、発行部数も大きく落ち込み「有名雑誌に載ったとしても作品は知られない時代」になりつつある状況です。マンガをもっと知ってもらいたい、売っていきたい立場としてはとても厳しい。言ってしまえば、雑誌が持っていたマーケティングとしての機能を失いつつあるというのが、現状かと思います。
僕らはコンテンツを作るという、プロダクト生産機能を持っているのに、多くの出版社において他の業種には当たり前に存在する「マーケティング部門」が未だに存在しません。なぜなら雑誌自体がマーケティング機能を持っていたから。必要がなかったから。
その機能が失われつつある今、僕らは代替する役割・機能を補完していかなければいけない状況にあります。
以上が雑誌の「機能」の説明です。仮に部数が落ちても「コンテンツ生産工場」のしての機能は維持ができます。ただし、マーケティングの機能は落ちてしまう。僕らのミッションは作家さんを発掘し、作品を育て、作家さんに可能な限り多くのお金を還元すること。
一人でも多くの作品の認知をとって、販売を伸ばしていくためにも、このマーケティング機能の補完が絶対的に求められています。
いま出版社に求められているのはマーケティング機能なのです。
マーケティング機能を補完していくためのDX
ネガティブな話を並べましたが、コンテンツのデジタル化は多くの機会を与えてくれており、上記課題のマーケティング機能の補完を含めて、幅広いチャンスが生まれていると思っています。
一つが電子書籍という新しい流通形態・流通チャネル
一つがマンガアプリという媒体としての可能性
一つが話売りといった販売形態の多様性
一つが1巻無料・待てば無料といったプロモーションの変化
一つがデータ分析に基づく施策のクオリティアップ
さて、長くなってきたので、ここで一区切り。ここまでは漫画業界に働かれている人からすると当たり前の話ですかね。。。デジタルの可能性のお話は「その2」で書きます。
感想・異論・反論などありましたらTwitterとかでバンバン頂けるとありがたいです!
その2はこちら
https://note.com/moritsuu/n/n60c5a8560c7c
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?