見出し画像

フラットデザインからの解放 - iOS18のマップ

先日公開されたiOS18では、マップアプリのデザインにもいくつかの変化が見られる。この記事では、私が個人的に良いと思ういくつかの箇所について、簡単にまとめる。


フラットデザインからの解放

iOS7、つまり2013年から11年にわたり、Appleマップはフラットデザインを採用してきた。2021年のiOS15から、地図の詳細な立体的な表現が導入されたのだが、それ以降も、POIのアイコンとラベル表示については、フラットデザインのままであった。それが、2024年9月のiOS18のリリースから、フラットデザインではなくなり、アイコンやラベルが浮き出て見えるものに変更された。これは注目すべき変化である。

地図表示におけるフォントデザインの重要性

日本語は漢字、ひらがな、カタカナが混在するため、地図ではPOIラベルに留まらず、住所や自然地名などの文字を読みやすくするためにはいろいろな工夫が求められる。一般的には、アルファベットを用いる言語よりも大きめのフォントを採用した上で、フォントの大きさ、太さ、色、ハーロー(文字まわりに施す影)を工夫して、視認性を高めるようにされることが多い。

紙地図の時代の工夫が引き継がれなかった理由

この典型的な事例として、紙地図がある。文字の書体(フォントの種類)、大きさ、色などの設定を工夫して、視覚的な奥行き感を実現して、重要な情報と一般的な情報との差別化をバランス良く実現している。これは、限られた紙面に、より多数の情報を掲載するための技法を、アルプス社や昭文社などの地図出版業界の先人達が努力して達成したものだ。そうした努力の成果の一端は、この記事に掲載されている紙地図によく表れている。

ところが、最近のデジタル地図では、残念ながらあまり受け継がれていない。
その理由は二つあると私は思っている。

1つ目は、デジタル地図のサービスが、GoogleやAppleなどの外資によるシェアが圧倒的になっていて、日本企業による地図サービスのシェアは低い。外資では日本固有の事情が理解されなかったり、日本の地図の製作スキルを持った人材がほとんど採用されず、知恵や工夫が継承されていないことが挙げられる。

2つ目は、フォント表示の柔軟性には技術的な制限が存在していて、表現の豊かさとリソース消費はトレードオフの関係にあることが挙げられる。

基本的な操作に支障を与えてきたラベル表示

ラベルが読みにくい地図は、目的地を探すなどの基本的な操作に支障を与えてしまう。

Appleマップにおいては、ラベル表示も含めて、地図のデザインは世界共通の設定となっている。このため日本語の複雑な漢字も世界共通の小さめのラベルサイズで表示されてきた。ズームレベルを拡大してもラベルの大きさは変わらない。とりわけ私のような「老眼世代」には読みにくかったし、移動中の電車の中などでは「読めない」レベルだった。

ラベル表示にフラットデザインが採用されていることで、文字が建物や道路に埋没しがちで、日本の大都市圏に特徴的なPOIの密集エリアでは、目的のPOIをピックアップしづらかった。

一方、Appleのオフィス群が存在しているシリコンバレーでは、POIは密集していない。加えてフォントサイズもアルファベットの視認性に適していたため、こうした日本での課題は共感を得るのが難しかったのだろう。

2020年にリリースされたiOS14で、POIが密集しているエリアでは、小さなドットのみを表示し、拡大するとラベルが表示されるという工夫が施された。この結果、「地図一面文字だらけ」という問題は改善されたものの、肝心のPOIラベルの視認性は改善されなかった。

iOS17の表示
POIが建物や道路に埋没していて視認性に難がある

iOS18のマップで改善したこと

iOS18のマップは、私が長年気になっていたPOIのラベル表示が大きく改善された。

POIアイコンのサイズが拡大され、浮き上がって見えるデザイン

POIのアイコンのサイズが拡大され、周囲に紛れないように白枠で囲まれるだけでなく、グレーの影を施すことで、浮き上がって見えるようになった。
ラベル表示も、ハーローを強調させて、さらにが影をつけることで、小さなままのフォントサイズであっても、立体的に見えるようになった。

i0S18の表示
アイコンのサイズが拡大され、文字の浮き出し処理によって視認性が改善している

ラベルのサイズも拡大される

さらにありがたいことに、地図を拡大するとラベルのサイズも拡大される。これで「読めない」問題はほぼ解消された。

iOS17の表示
地図を拡大してもフォントサイズは小さいままである
iOS18の表示
地図を拡大するとフォントサイズも大きくなって読みやすい

交通機関モード

交通機関モードでは、従来のラベル表示設定と、今回の新しいラベル表示設定の折衷案のような表示になる。
細かな変化ではあるが、POIのドット表示を無くし、ラベルの影を付けずにハーローだけにしたり、駅のアイコンを鉄道運行会社のものにしたりなど、「公共交通機関フォーカス」のデザインがなされている。

iOS18の表示
交通機関モードでは、POI表示が抑えられている

このように、iOS18のマップアプリでは、ここ10年近く変化のなかったPOIラベルデザインに大きく手を入れ、本来そうあって良かった手法が採用されている。「フラットデザインからの解放」と私が表現したのは、それが実現するまでに、あまりにも長い年月が経過してしまったからである。今回、ようやくであるが、少しでも読みやすいデザインを採用したことに対して、心から歓迎したい。

地形表現と登山ルートの登場

iOS18から、アナウンスされていたとおり、日本でも登山ルートが表示されるようになった。これに合わせて、地形表現も詳細にされるようになっている。

何もなかったこれまでの山の地図

Appleマップは、道路地図(北米や欧州などでの表現ではstreet map)としての機能を満たすアプリとして提供されて来たため、道路が無い山間部などについては、長らく手薄で、地図を拡大してもほとんど何も表現されないことが多かった。

近年Appleマップは地形や土地被覆(land cover)表現に力を入れ始めるようになり、ズームアウトした際には山の陰影が表示されるようになっていた。

しかし、日本を代表する登山のメッカである槍ヶ岳(標高3180m)でも、山頂などがわずかに表示されるだけだった。

iOS17の槍ヶ岳周辺は地形表現、登山ルートも無い

山が山らしく見えるiOS18のマップ

iOS18になって、ようやく日本の主要な山岳について、登山ルートの表示がされるようになり、同時に山の陰影もズームアウトしても表示され、尾根と沢がわかるようになった。

iOS18では、山の陰影と登山ルートが表現されている

等高線も表示される

地図を拡大して登山ルートをタップすると、10m毎の等高線が表示されるようになる。
下図は槍ヶ岳周辺だが、表示される等高線からは、あの急峻な「ヶ岳」にはとても見えない。おそらく、等高線はDEM(デジタル標高値モデル)から生成されたためで、国土地理院の地形図に見られるような崖表現、岩場の表現が無いのは少し物足りない。

登山ルートを表示すると等高線が表示される。
ところで計曲線が40m毎になっているのは何故だろう?

登山アプリのユーザーを惹きつけるか?

現時点で、マップアプリではルート、距離、高低差が表示されるだけだ。この情報だけでは、槍ヶ岳のような本格的な登山を目指す人達にとっては心もとない。このため、ヤマレコあるいはYAMAPなどの登山アプリのユーザーを惹きつけることは、現時点では無さそうである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?