Appleマップのアップデートのインパクト

Appleマップで、集客施設、レストラン、お店、宿泊施設などのユーザーレビューや写真が投稿できるようになった

早速私も試してみたが、記事にある通り、自分の評価を投稿できる。ただ、「Appleがユーザーに通知することなく、そうした提出物を使用、ホスティング、保存、配信、インデックス化、伝達、複製、注釈、改変、それに基づく二次的著作物の作成、展示、再現、修正、翻案、出版、翻訳、公演、公表、利用可能化、一般公開、およびその他あらゆる形で利用するための、全世界的、権利使用料無料、無制限、非独占的の使用許諾を、Apple(そのパートナーまたはライセンシーも含む)に付与したものとする」とあるので、投稿した情報はAppleマップ(のみならずAppleという企業)が非独占的に自由に利用できることになる。

今まで、Appleマップは、地図に表示される(検索して表示される)施設情報は、自社で整備するのではなく、日本国内においては、食べログ、Wikipedia、Trip Advisor、じゃらんなどの複数のサードパーティーから提供されたデータを組み上げたものになっていた。今回のアプローチは、こうしたデータに加えて、Appleマップ自体が、ユーザーからの投稿によって付加的な情報を収集するもので、いずれはそれを他のユーザーへも提供していくことに繋がる第一歩だと思われる。

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レビューや写真投稿の敷居が一気に下がる

Appleマップのこの方法は、レビューを投稿する敷居を一気に取り払ってくれる。

食べログ、じゃらん、Trip Advisorなどに投稿することは、なかなか手間がかかる。まず、それぞれにアカウントが必要になる。もちろん、それぞれのサイトの投稿のフォーマットやルールに従わなくてはならない。このため、書き込みたい程の満足か、あるいは不満があったかなどの結構なレベルの動機が必要になる。レビューや写真投稿の数は有名店や人気スポットでもなければ、なかなか増えない。一方、Appleマップは、Apple IDがあれば、ユーザーはあらゆるジャンルで気楽にレビューや写真の投稿ができ、幅広い多数の投稿が集まることになる(これは、既にGoogleマップが数年前から採用しているものとほぼ同じである)。

グルメサイトなどへの送客を握る

今日のGoogleマップには多数のレビューや写真投稿が溢れている。ユーザーはGoogleマップでの検索結果から、例えば食べログやぐるなびなどのサイトへ移動して情報を収集する必要が無く、Googleのレビューや写真などでレストランを比較し、予約の必要が発生した時だけこれらのサイトへ行く流れが作られている。

この結果、グルメサイトのトップブランドとしての食べログの圧倒的な存在感は薄れてしまった。私自身の体験としても、食べログやじゃらんを表示して情報を得る必要が次第になくなり、多くはGoogle検索で済ませてしまうようになっている。

Appleマップが、同じようなことを始めたことで、この流れは決定的になったように思う。GoogleマップやAppleマップで済んでしまうのだったら、多くのユーザーは、わざわざ食べログやじゃらんに行く必要性が減る。自社サイトに直接訪問していたユーザーが減少し、GoogleやApple経由で流入するユーザーが増加する。

マップで検索できない施設は存在しないと同じ

こうした流れにより、マップアプリにおけるPOI情報(POI: Place of Interest)は、重要性を増してきている。今や「マップで検索できない施設は(実在していても)存在しないと同じ」と言い切れる程のレベルだ。

それに伴い、POIにユーザーが求める情報属性も幅広くなっている。

POI情報は、名称、住所や電話番号などの基本属性から、URL、営業時間、価格帯、支払方法などの拡張属性、そしてレビューや写真などのリッチ属性へと拡張してきている。利用者の立場からは、リッチ情報が豊富であればある程、それが最新の状態でアップデートされればされる程有益である。Googleマップや、今回のAppleマップのアプローチは、ユーザーの利便性を高めるという方向に沿っている。

リッチなPOI情報が持つ高い価値

POIデータの構築方法はおおむね次のような流れとなる。

最初は電話帳データや地図会社が提供するPOIデータ、その他グルメサイトやホテルサイトなどの複数のデータプロバイダーからPOIデータを調達することで、網羅性を高める。複数のデータソースを集めると、その中には重複や表記の微妙な違いなどが含まれる。そこで、重複除去や名称の統合などの処理を行って、自社独自のカテゴリー区分やスコアリングを行い、自社独自のサービスにふさわしいPOIデータベースとして統合していく。これは、特定のジャンルに特化したデータプロバイダーには無い領域のノウハウである。

その次のステップとして、ユーザーレビューや写真を自社で整備していくのは自然な流れだ。POI情報はリッチとなって、ユーザーにも多くのメリット提供する。多数のユーザーが利用するGoogleマップやAppleマップならば、短期間に新鮮で豊富な情報が集まる。POI情報がユーザーからの投稿によって飛躍的にリッチになればなるほど、さらにそこにユーザーが集まるという好循環が発生する。

この際、ユーザーからの投稿には不適切なものも含まれており、それらをフィルタリングするための仕組み作りが必須である。AIなどのソフトウェアによる処理のみでは不完全なため、人がモニタリングするオペレーションも必要になるだろう。それに伴うコストの負担を難なくやってのけるのは、限られた大手のプラットフォーマーに絞られてしまう。

こうして仕上げられたPOI情報は、現実世界を反映した、網羅的で、豊富で、新鮮で、安全なデータ資産であり、予約や決済サイトへの送客の可否判断を提供する、大変高い価値を持つことになる。

プラットフォーマーは圧倒的に優位

マップアプリは、地理的なユーザーインターフェースを提供する検索ツールの側面がある。それ故、グルメサーチや、ホテルサーチなどとの親和性が高い。グルメサイト、ホテルサイトなどは、それぞれ予約サイトとしての機能は依然として果たすものの、検索して比較していく利用者側の意思決定のプロセスは、マップアプリにかなり奪われてしまうことになる。

このような流れから、プラットフォーマーと呼ばれる企業の圧倒的な優位性が見えてくる。プラットフォーマーが提供する様々な付帯サービスを提供することで、ユーザーをガッチリと抱え込んでしまう。そして、予約サイトやECサイトにユーザーを送客すれば良い。いずれは、送客せずに、予約やECも自社で提供するようになってしまう可能性も十分にある。

企業間の競争という点では、グローバル企業に圧倒的な人的、資金的リソースの優位性がある。最初から勝つことがわかっている戦いと言ってしまっても良い。リソースが限られる日本企業は、じわじわとユーザーや市場自体を奪われて弱体化していかねない。

プラットフォーマーが支配する結果としての課題

一つ、彼らにも陥りかねないリスクもある。それはローカライゼーションだ。

日本は世界有数規模の市場があるが、独自性の高い文化やライフスタイルを持つ。グローバル企業が提供するサービスにおいても、ローカライゼーションはとりわけ重要である。とは言え、日本企業が提供してきた、質が高くきめ細かいサービスレベルまでには行かないこともままある。AppleマップのiOS6時代の失敗がその代表例で、その後大幅に改善されたものの、まだいくつもの課題が残されている。マップアプリの代表例としてのGoogleマップも、少なくとも地図表現に関しては、日本企業が90年代に提供してきたクオリティの水準までには至っていない。大多数のユーザーは、Googleマップ、あるいはAppleマップが支配的であることによって、現在のサービスを甘んじで受けている。このことは大変残念である。

私は、GoogleにしてもAppleにしても、あるいはプラットフォームを展開するどこの企業であっても、常に日本のユーザーに寄り添い、ユーザー体験を向上させるような方向でサービスの質を高めていってもらいたいと願う。と同時に、支配的地位であることを自覚し、高い倫理性を持って、先行している日本の事業者へ敬意を払い続けて欲しい。


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