当事者PTが伝える!リハビリ学生が臨床に出る前に知っておきたい患者のこと
新型コロナウイルスの影響で大学や専門学校が休校になっているリハビリの学生たち。
この間にどんな勉強をしておいたらいいでしょうか?
SNSでそんな意欲的な学生からの質問も何度かみました。
私が学生だった頃よりも熱心で驚く。
解剖学や運動学、生理学をもう一度押さえよう。
英語やビジネスなど医療の勉強以外の事をするといい
そんな返答をされているセラピストも多かったかな。
この意見には同感。
ぜひ基本的なことを押さえてほしいし、でも医療以外のこともしっかり視野を広げてほしい。
そして私からもう1つ提案。
患者について知ってみませんか?
皆さんがどこに就職するは分かりませんが病院やクリニック、老健、デイケア、訪問リハ・・・
いずれにしても患者や利用者といった「対象者」がいます。
そういう人たちのことをよく知る、理解するというのはとても大事なこと。
習ったことをそのままやっていても、それがその患者に合うかどうか何てわからないし正しい知識だったとしても、それがその患者にとっての「正解」かどうかなんてまた別問題なんです。
私は理学療法士ですが、1年目の終わりがけにギランバレー症候群を発症しました。
ギランバレー症候群とは・・・
急性発症の末梢神経障害をきたす疾患。
左右対称の弛緩性麻痺(脱力)、軽度感覚障害などをきたす。
重症性例では呼吸筋麻痺により人工呼吸器が必要な場合もある。
急速に症状が進行するのが特徴、4週までにはピークを迎えてその後は軽快していくが後遺症が残る場合もある。
死亡例はまれ。
自分が患者になったことで、理学療法士としての考えの中には間違っていることや知らなかったことが多くありました。
それは衝撃であり、今までの自分に対して反省の気持ちもありました。
学校で習う医療、そして医療従事者の考えと患者の感じ方にはギャップがある
これを伝えていかなければという思いがいつからか芽生えました。
そんな私から臨床に出る前に知っておいてほしい患者のことをお伝えしたいと思います。
独歩自立したら本当に幸せ?
私がPTなのでPT的な話にはなりますが、リハビリ目標で「独歩自立」ってよくあるんです。
症例検討したことがある学生さんは知ってるかもしれません。
しかし独歩自立したら幸せか?QOLは向上するのか?というのを一度考えてみてください。
私は全然そんなことなかったです。
私がどれくらい動けなかったかというと、倒れた時は立っていることもできなくて気づいたら床にいました。
幸い倒れたのが職場の病院。
しかもギランバレー症候群は神経内科領域なのですが神経内科の病棟だったんです。
運が良すぎました笑
その日のうちは車椅子移乗に介助が必要でした。
というかほぼ全介助です。
人に手伝ってもらわないと歩くどころかベッドから車椅子に移ることもできなかったのです。
なので独歩できたらかなり回復です。
もちろん嬉しいです。感謝です。
しかし、だからと言って幸せか?というとそれとはまた別問題なのです。
人は無意味に歩くわけではありません。
行きたい所があるから歩く。やりたいことがあるから歩く。
歩く、歩行というのは手段であって患者が「歩けるようになりたい」と言ってもその先に何かあることが多いのです。
そこを分かったうえで目標を「独歩自立」としたいものです。
家の中を自分で歩いて身の回りのことは自分でして家族に迷惑をかけたくない人もいます。
買い物に行きたいから歩きたい人もいます。
仕事をするのに歩行が必要だから歩きたい人もいます。
この3人の目標はみんな「独歩自立」だとしても、必要な距離が違うし必要なスキルは変わってくるのです。
家の中を歩くのであれば靴は履かずに歩く必要があるけど長距離の歩行は必要ないかもしれません。
家の中ではよっぽど豪邸なら別ですが何mも直線距離も必要ありません。
方向転換をたくさんしても安定していることの方がよっぽど大事です。机や壁をつたうこともできます。
では買い物に行きたい人は?
1人で行くなら当然帰りは買った物を持って帰ってこなければなりません。
車だとしても少しは持ちますよね。
それなら荷物を持って歩く必要があります。
仕事をする人は?
歩ければいいわけじゃなくて仕事をするのに必要な動作の獲得が必要になります。
立って作業をする、資材を運ぶ、悪路を歩く、ハイヒールを履かないといけない
色々あります。
形式上は「独歩自立」とは「杖歩行自立」かもしれません。
しかし、そこに隠れた意味や実際には何が必要なのかを考えて目標をたてる必要があります。
ちなみに私も独歩自立が目標になっていた時がありましたが、その先の復職が最終目標でした。
担当してくれたPTは私の上司で当然、そこを見据えて考えてくれたので困ることはありませんでしたが、自分の目標設定の浅はかさに気づくきっかけとなりました。
例えば私が本当に独歩自立だけを言葉の通りに目指すことになったら復職なんてできないのです。
独歩自立しているが、患者より歩行速度が遅すぎたら仕事になりません。
患者がふらついた時に、自分の身体を安定させることで精一杯でもだめです。
独歩自立できても、復職できなかったら私にとっては幸せでないしQOLは高くありません。
しかし仕事ができても私にとってQOLが不十分だと感じたのはスニーカーしか履けなかったこと。
元々私は靴が大好きでその多くはヒールのある靴でした。
スニーカーも好きです。
しかし好きでスニーカーを履くのと、スニーカーしか履けないからスニーカーを履くのは全然違います。
持っている靴の多くは履けなくなりました。
私は体幹失調がありかなりふらつきやすい状態だったのです。
体幹失調とは・・・
体感の姿勢保持、運動の調節ができないために体幹がふらつく状態。
ヒールのある靴に合わせて着るような服も着れなくなりました。
当時はスニーカーが流行りだし、きれいめなファッションにスニーカーを合わせることも一般的になっていましたが、やっぱりヒールが履きたい。
履いている人が羨ましくでしょうがない。
一般の女性はおしゃれをするために頑張って仕事をして稼いだお金で服や靴を買う。
おしゃれをするためにセンスを磨いたり流行をチェックする。
しかし私は歩くことから頑張らないとおしゃれもできなくなっていた。
歩けるようにはなっても、当時まだ25歳の私は辛かったです。
そして、リハビリの場面ではいつも歩行訓練はスニーカー(急性期だとまだ靴が届かずスリッパなんてこともあるけど)なんだろうという疑問が生まれました。
365日スニーカーでみんな過ごすのか?
冠婚葬祭にもスニーカーで行くのか?
行かないですよね。
もちろん、最初はスニーカーで練習します。
しかしそこをクリアできた人には別の靴でも練習をしてもいいんじゃないかと思います。
リハビリには算定期限というものがあり脳卒中は発症から150日、高次脳機能障害があれば180日、骨折などの運動器疾患(整形外科領域)の場合は90日と保険の範囲でリハビリを受けたり回復期病院に入院できる期限も決まっています。
そのためヒールまでというのは難しい場合も多いのですが、そんな視点を持っておくのは大切なことです。
ポジティブすぎる声かけはかえって辛い
臨床実習に行った経験がある学生さんは実際に患者や利用者と話す機会があったと思いますが、何を話したらいいかって結構困りませんか?
私は緊張しやすいので特に初対面の方に対しては苦手意識がありました。
何度もお話しして慣れてくるといいんですがね。
その中で「自分が言ったことでよけいに傷つけたらどうしよう」って悩んでしまうこともあると思うんです。
「こんな言い方は失礼かな?」
「どんな話し方をしたら喜んでもらえるかな?」
そんな風に考えたことがある人もいるでしょう。
人それぞれなので難しいですよね。
患者の立場になって意外だったことが1つあるので紹介します。
私が急性期病院に入院していた時にちょうど評価実習のPT学生がいました。
前日まで働いていたPTが突然患者になっていたので驚いたと思います。
せっかくなので、MMT(筋力の検査)をやってもらったり話す機会が結構ありました。
間違っていてもすぐPTの目線で指導ができるので1人で指導係と患者役がいてコスパ良いですよね笑
その学生さんにこんな質問をされたことがありました。
「治ったらどんなスポーツしたいですか?」
この時に私が思ったことを素直に言うと・・・
「スポーツ?歩くのすら十分じゃないのに?」
「今歩行器使ってるんだけど!!」
「今の状態分かってる?」
でした。
彼は決して嫌なタイプでも性格が悪かったわけでもないです。
きっとHOPE(患者の願いや目標)を聞きたかったんだと思います。
元からスポーツを特にしていたわけではないので、なぜスポーツ限定できたかはちょっと謎ですが・・・笑
ここで気づいたのはポジティブすぎることや、先すぎる目標を見せられても今の状態や現実とのギャップを感じてより辛くなるということ。
「今歩行器でしか歩けない」
「走れないんだからスポーツなんて無理」
とかスポーツしている自分と今の自分でギャップを実感してしまうんです。
スポーツが現実的こととして視野に入るくらいになっていれば問題ありませんが、その時はだいぶ先のことに思えていたのでちょっとショックもありました。
そして「私の状態わかってるのかな?」
という思いがでてきたのです。
これが免許をもったPTやOT、STだったらちょっと信用が落ちていたかもしれません。
私はPTなので質問の意図を多少くみ取れましたが、そうじゃない患者が圧倒的に多いのでこれは要注意です。
覚えておいてください。
そしてこちらも要注意。
「全然うまく歩けない、治るのか不安です」
なんて弱気になってしまう患者は少なくありません。
私もあまり口にはしなかった気がしますが、心の中ではめちゃくちゃ思ってました。
(元々不安とかを口にすることが苦手なのです)
そんな時についついやりがちなのが
「そんなことないですよ!うまくなってきてます!」
「病は気からです!前向きに頑張りましょう!」
って励ますパターン。
あとはできた事にフォーカスして
「だいぶつまずく回数が減りましたね」
とか良くなった点を伝える。
この2つとも一見良い対応に見えます。
もちろん絶対やってはいけない事というわけではないです。
良くなった事に意識を向けるのも大切です。
しかし度を越したポジティブな声かけというのは、ネガティブな気持ちでいる自分に対して自己否定をしてしまう可能性があるのです。
どういう事かというと先ほどの例でもう一度考えてみましょう。
「全然うまく歩けないし、治るか不安です」
と言ったら
「大丈夫です!だんだん良くなっています!前向きにいきましょう!」
と返されたとします。
すると
「そうだよな、ずっとネガティブでいるからだめなんだ。いつまでも落ち込んでるなんて弱いなぁ私は・・・」
こんな風にネガティブな自分を責めてしまう事があります。
もちろん全員じゃありませんが、発症間もない患者はこう感じる場合もあるのです。
私の例を出してみます。
例えば私は発症して2週間で病棟でのADL(生活)は自立しました。
幸い嚥下機能には問題なし。
息切れはあるものの、呼吸困難になるほどではありませんでした。
病棟では歩行器を使いリハビリでは杖歩行の練習をしていました。
杖で300mくらい歩けました。
最初は車椅子に乗るのにも介助してもらってたんだから、かなり改善しています。
でも25歳でいきなりこのような状況・・・
すぐに「仕方ないよね、リハビリ頑張ろう!」
なんて前向きにはなれません。
リハビリは一生懸命やりました。
でも不安に襲われて1人病室で泣いた事は数えきれません。
検査1つでも、悪い結果はないかどうか気になって仕方ない。
良くない想像をしては落ち着かない時間を過ごしました。
ギランバレー症候群は神経疾患の中では予後の良い病気ですが最初は診断がはっきりしませんでした。
検査上、何も異常がでないので(血液検査、MRI、神経伝導速度等)確定診断に至らないという状態が続きました。
神経疾患の中には予後が悪く進行性の病気もたくさんあります。
私は神経内科の担当をしていたので、そういった患者をよくみていました。
良くも悪くも医学的な知識があるので良くないイメージもできてしまうのです。
「病気がみえる」という教科書を読み漁りこんな事をしました。
予後の良い疾患(主にギランバレー症候群)に書いてある症状と自分の症状の共通点を探す。
予後の悪い疾患に書いてある症状で自分にはないものを探す。
何をしているのかというと、予後の良いギランバレー症候群と思いたくてそうだなんだと思える情報を探しては安心する。
予後の悪い疾患であってほしくないとう思いから、自分とは当てはまらないものを探して「やっぱ違うな」と思って安心する。
こんな事を毎晩していたのです。
念のため言っときますが(笑)、私は精神的な疾患はありません。
落ち込みやすいとか、気にしやすいといった性格はありますがそれくらいです。
それでも、こんな状態になるのです。
それでも昼間は普段通りの状態でリハビリをしたり雑談をするんです。
入院中に人前で泣いたのは発症した日だけです。
落ち着いて見えたと思います。
でもとても入院期間の3週間程度で受け止められるものではなかったという事が少しでも伝わると嬉しいです。
ポジティブがいけないわけではありません。
もちろん、ポジティブな声かけで元気になる方もいます。
ポジティブな事を言っても余計に自己否定してしまうフェーズの人もいるんだという事を頭にいれて患者や利用者を診てみてください
最後に
少し意外だと思う内容もありましたか?
患者になってみて私は知らない事がたくさんあった事に気づきました。
やっぱりなってみないと分からない、その一言に尽きると思うのですが100%理解できなくても理解しようとするその姿勢は必要です。
そしてそういう姿勢があるかないかは不思議と伝わります。
患者と良いコミュニケーションをとって関係性を築く事はリハビリの効果にも大きく影響すると思っています。
これを読んだ学生さんたちは、どうか自分の知識や技術を押し付けるのではなく、患者の立場になって考えられるセラピストになって下さい。
基本的な事ですが、実は結構難しいのです。
難しいのですが、特別な才能がいる事ではありません。
患者の事を本当に考えられるセラピスト仲間が増えると嬉しいです!!
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