蓑虫
職場では今ミモザが大量入荷で次々に売れていくという人気商品です。
日曜日は店内も家族連れが多く、その中に小学生の男の子を連れたお客様がいらした。
朝の開店直後、スタッフの一人がミモザの枝に蓑虫がぶら下がっているのを見つけていて、男の子が喜ぶと思い蓑虫付きのミモザを見せていた。
男の子は蓑虫を知らなかった。
喜んだのはその子のお母様の方で、「懐かしいですねぇ。この蓑を剥がして遊んだりしましたよね。」と。
その話を聞いていた男の子はドン引きしてしまい、ミモザを見ようともしない。
お母様はその様子をにこやかにやり過ごされましたが、『蓑虫の蓑なら私も剝いた事ありますよ。』とは言えなかった。
男の子のトラウマになりかねないので。
子供の頃蓑虫は特に珍しくもなく日常的に目にしていました。しかし今を思うと、本当に見なくなり、それは数を減らしている事や、子供の視点が失われたのかは分からないけれど、きっとその両方なのだと思う。
けれども昔と違っていたのは、子供の頃は蓑虫を見ても「虫」としか思わなかったのが、スタッフが男の子に蓑虫を見せた時、「妖精みたいですよね」と、自分の中で虫ではなく妖精扱いになっていた事ですか…。
言ってから、いやいや、どうしたのかな?と、自問してみたわけですが、その場にいた大人たちは皆同意したので良しとしました。男の子は少し、呆れていたと思います。
結局その方は、蓑虫がついていないミモザを購入されました。
ところで蓑虫の蓑を剥がした事のある人はいるのだろうか…。私はその時祖母の家でいとこたちと一緒に遊んでいて、蓑虫を見つけて剥いてしまったのですが、それを見ていた叔父は止める事なく、枯れ葉の中に返しておけば、また蓑を作るから。とアドバイスをしてくれた。
私たちは、これでもかという程蓑虫に枯れ葉を被せ、この日までその事を忘れて過ごしていたと言うわけです。
同僚は皆、蓑を剥がした事のない人たちで、なんで剥がすんですか〜と、引かれました。
けれども剥がして知った事は、蓑虫の蓑はとても丈夫である。という事です。
鋏を使わないと切れない程の強度があり、植物の頑丈な繊維質と枯れ枝の切れ端でしっかりと作り込まれた完成度の高い代物でした。
これならば冬の北風にも耐えられるなぁ…と甚く感動したのを覚えています。
誰かが作ったダウンコートを着て、誰かが作ったエアコンやストーブで暖まり、誰かが作った快適な家で暑さ寒さを凌いでいる私。
快適な物を発案したり、それを作り提供してくれる方々には本当に感謝です。
厳しいけれど自然に適応し生きる彼らには敵わないなぁと、しみじみと思ったのでした。
それにしても、30代男性社員にも蓑剥がさず派がいた事に、軽い衝撃を受けた1日でした。
何だか私一人が腕白みたいになっちゃった。