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フランス漫遊記7~リヨンの色気に魅せられて~


「あなたの本に救われました」
彼は両手を組んで、その像の前で膝をついた。
「あなたの書いた本を多くの人が手に取り、あなたの生み出した物語が多くの人の心を救ったのです。私もその一人なんですよ、先生」
私はベルクール広場をぼんやりと散歩しながら、流れ星が見えないだろうかと考えていた。

峯岸達夫『サンテグジュペリ像の前にて』

リヨンへ

 ジュネーブから近くて賑わっている場所はどこかと考えたとき、ちょうどフランスのリヨンがあることを知った。大体、マップを眺めながら面白そうなところはあるかなと考えて、思い付きで行こうと決めるのである。
 前日にスイス旅行のピークになるかもしれないと思うほどの体験をし、十分に自然を堪能したので、次は人の多い都市部であればバランスが取れるであろうと思った(何のバランスか分からないが)
 FlixBusが非常に安く、3000円以下でリヨンまで行けるのも魅力だったため、初のバスに乗ってフランスはリヨンへと向かった。
 FlixBusや電車系のチケットは全てOmioで購入している。安く簡単にチケットが買えるので重宝している。
 約束の時間を15分ほど遅れてバスが到着。2時間45分ほどかけてリヨンの街に到着した。道中は充電ができてWi-Fiも使用できたため快適な旅になった。

ノートルダム大聖堂へ

 リヨンの街に着くと、まず美しさに目を奪われるのは何と言ってもノートルダム大聖堂であろう。街を見下ろすように建つ姿はスイスのSionでも似たような景色を見た。高いところにある建物を見ると、登ってみたくなるのが人の性というもので、マップを頼りに一路、ノートルダム大聖堂を目指した。

すぐ近くにあったガロ=ロマン劇場


ガロ=ロマン劇場

フルヴィエールの丘を登って見つけたのだが、ノートルダム大聖堂のすぐ近くには旧ローマ時代の劇場跡があった。10月5日と6日には催しがあるらしく看板が立てかけられていた。シアターらしい作りと、そこで何か演劇なり演説なりが繰り広げられていたのだろうと思うと、一体どんなことがこの場所で議論されたり、演じられたのだろうかと思った。とても景色が良い場所であるため、見る方もやる方も楽しかったであろうと思った。

陽気なメロディと美しきパノラマ

 

丘からの眺め

 ノートルダム大聖堂の中に入って、絢爛豪華な内装を眺めた後、丘から見える景色を写真に収めた。可愛らしい赤茶色の屋根が見え、リヨンという街の景色を彩っている。統一感があって、どこかに違和感のある建物があるわけでもない。浅草にドン・キホーテの建物があるような、異質な建物は見る限り見当たらなかった。
 お土産屋さんで星の王子様関連のグッズを買ったのち、腹が減ったのでどこか飯屋に入ろうと考え、丘を降りて市街の手ごろな店を見つけて昼食を取った。
 ベルクール広場にあるというサンテグジュペリの像を目指そうと考え、ぼんやりとマップを見つつ街を歩いていたのだが、どうにもGPSの動きが悪くて迷った。川沿いに歩いていけばどうにかなるだろうと思い、しばらく歩いてみたのだが、進行方向とは逆に移動していたようで、GPSが狂うとどうしようもないなと思いながら、時間はたっぷりあったので市内をぼやぼやと歩くことにした。
 何があるとも知らずに、ただただ歩いているだけで心がワクワクする。ふとした機会に美しい建物を見つけては、何の建物だろうとマップを調べるのだがネットとGPSが上手く機能せず、後になって知る始末。突然に大きな広場に出て、何やらカッコいい建物と噴水を見たりと、川に流されている桃のような心持ちで、なんだか良くわからないままに美しい景色に出くわす。

なんだか良くわからないうちに出くわした美しい景色

 ストリート・ミュージシャンのような男性も見つけたのだが、タンバリン片手にマイクを持って、譜面台に乗せたスマホを見ながら何やらぶつぶつ歌っている。日本であればスナックでサラリーマンがやっているようなことを、路上で繰り広げているので陽気だなと思う。
 リヨンの街並みには、なんとも言えない色気がある。上手く説明することは難しいのだが、例えば道を歩いているときに、ふとした瞬間に綺麗な女性や色気のある女性に出会ったりする。そんな感覚がリヨンという街を歩いているとあるのだ。一目惚ればかりしてしまうような街並み。決していやらしくない、品のある色気が街に満ちていて歩くのが楽しかった。

ベルクール広場のサンテグジュペリ像

 なかなかわかりづらい場所にサンテグジュペリ像はある。ベルクール広場のちょっと外れの場所にあって、それほど人も多くない場所にそっと像は建てられていた。
 星の王子様と言えば、読書好きなら知らない人はいないであろう名作である。誰もが一度は星の王子様の表紙を見たことがあるのではないかと思う。そんな星の王子様とともに、パイロットの格好をしたサンテグジュペリの像があった。
 本を読んだことのない人にとってはどうという話でもないのだが、やはり本を読んだ者としては感慨深いものがある。彼の生い立ちや最期のことなどを知っているだけに、彼の与えた影響や彼の生きざまというものに憧れを抱く。
 

サンテグジュペリ像

 星の王子様という本には、美しい名言が幾つかあって、それは是非読んで確かめてほしいと思う。色んなことが、優しく胸に残る名作である。

色気ある街を歩いて

 サンテグジュペリ像を後にし、バスの時間が近づいてきたためぼんやりと街を散策したり川を眺めたりして過ごした。ノートルダム大聖堂は間近で見ても遠くから見ても美しく、その点はシオンのトゥルビヨン城と同じだ。無論、トゥルビヨン城は元の姿は失われてしまっているが、リヨンのノートルダム大聖堂は美しい姿のまま、今も丘の上に立っている。
 ヨーロッパの美しい建物を十分に堪能し、私はバスに乗ってジュネーブへと戻った。

 あっという間に一週間が過ぎ、いよいよジュネーブを離れることとなった。次はチューリッヒへ向かう。あっという間に流れた時間であったが、生涯忘れることのない素晴らしい経験になった。これはひとえに、出会いと縁、そして運によるものだと思う。自分からコントロールして全てを決めたわけではない。むしろ、何も決めないからこそ決まっていた物事によって、過ごすことができた時間なのである。
 旅は方々に行って化けると書く。夜、眠るときに脳裏に映し出される美しい景色の数々を見ながら、私はこの旅で見た風景、出会った人、全てに感謝して眠りにつく。もう二度と目覚めない日が来るときまで、何度でも目を覚まして動き、出会い、感情が動いて、生きていく。その繰り返しなのだ。
 オーストラリアでネパール人と出会ったときは、「くって、やって、ねて」が人生だと言われたが、もっと楽しむべきことはたくさんあるだろうと思った。動き続ける限り、もっともっと楽しいことも苦しいことも待ち構えている。全てを受け入れて、何も持たずに、自由に。
 旅によって化けていく自分を楽しみに生きる。

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