Neutoneを使うミュージシャンの声(1) ー AIを使うことで起こった、新しいゲームチェンジ。グラニュラー以来の全く違う種類のシンセシス方式が出てきたな、という印象だった。【サウンドデザイナー 中岡将二郎さん】
Qosmoで開発されているAIを用いた音色変換プラグイン、Neutoneを実際に使用しているミュージシャンにインタビューを行う企画の第一弾。
サウンドデザイナーとしてご活躍されている中岡将二郎さん(https://linktr.ee/shojironakaoka)に、Neutoneをご使用になっている経緯や感想についてお話を伺った。
➖中岡さんの普段のご活動について、教えてください。
自分の作家活動もしながら、依頼を受けて、映像コンテンツ、デジタルサイネージ、アプリケーション、ゲーム、ハードウェアなど、音が必要とされているところの作曲やサウンドデザインを行なっています。 ジャンルとしては主に電子音楽になると思いますが、作ったサウンドが単純に再生されるだけではなく、インタラクティブな動作や、展開を生成するプログラミングなども含めてサウンドデザインしたりしています。
ー影響を受けたアーティストやミュージシャンなどは、いらっしゃいますか?
これまでにいろんな音楽から影響を受けていますが、その中に例えばDavid Cunninghamというミュージシャンがいます。パンクからジャマイカンミュージック、UKダブへと興味を持って聴き進めていくうちに知った音楽家です。
彼はひねくれたポップミュージックもリリースしながら、ダブミックスアルバム (傑作) を作ったり、のちにサウンドインスタレーションも制作するような人で、そういった領域を横断した活動に興味を惹かれました。 ある時、彼のサウンドインスタレーションに関する記事を読んだのですが、10~20メートルくらいの離れた壁がある空間に、マイクとスピーカーを両方の壁際に設置し、その中間で鑑賞者が発生させる音をフィードバックさせ、その空間の音自体を鑑賞するという内容のもので、当時すごく衝撃を受けました。(The Listening Room)
サウンドインスタレーションというものが存在しているということすら知らなかった時で、ポップミュージックとしては逸脱しているかもしれないが、確実に彼のダブミュージックとは接続しているというふうに感じられ、一つの方法論を突き進めていくとこういう形態にもなり得るのかと驚きました。
またそれが、既存のジャンルの方法論を消化してさらに深化させていくということに興味を持つきっかけにもなりました。
そういう意味では、このオシロスコープ上のリサジュー画像を利用したオーディオビジュアル作品(https://youtu.be/BU7-fNt0X14)も、自分が音楽を始めるきっかけとなったダブをやっているつもりなんです。
他にも、音楽が生成される枠組みを自体を作り、それを製作者も鑑賞する、という点でも影響を受けたと思います。公案’Koan’というブライアンイーノ監修のMIDIジェネレーションソフトもありましたね。
ーそういった方法自体を進化させていくという点にご興味を持ったというのが、Neutoneにも興味を持っていただいたきっかけにも繋がったのでしょうか?
そうですね。その頃Maxというプログラミング環境に興味を持つようになったのも同じ理由で、リアルタイムでのオーディオ処理を自分でプログラミングできるということが新しくて、興奮しながら取り組んでいましたが、
それに近い衝撃を感じて、AIを使ってサウンドを変形したり、生み出したりできるNeutoneにもすごく興味を持ちました。
とはいえいきなり導入するのはハードルが高かったので、まずはワークショップに参加して、概要を聞きながら少しづつ使ってた感じです。 「難しそうだったがやってみるしかない」と思いました。興味深さが勝っていましたね。
ーその後Neutoneをご自身の活動に取り入れてみてどうでしたか?
めちゃくちゃ面白かったです。
モデル自体を気軽に試せるのも面白いし、一つ一つのモデル自身が新しい響きを持っていました。
いろんなレベルでAIを使っているプラグインが世の中にはありますが、自分でモデルをトレーニングするところからやってみたのは初めてで。
そのような本格的なAIを音楽制作に使ってみることができたのは本当に面白い体験だったと思います。
その時はraveモデルを使ったんですが、自分がこれまでに作ったサウンドを集めてトレーニングしてみました。書き出してプラグインに読み込むまで、一連のワークフローを体験できて良かったです。
これなら自分でもAIを音楽制作に取り入れられるなと思い、ものすごく大きな可能性の端緒に触れられた気がしました。
今後ますます目が離せないなと思い始めましたね。
中岡さんが作成したRAVEモデル
ーNeutoneのようなAIプラグインが今後どのように発展していき、音楽業界に影響を与えていくか、といった期待感はありますか?
20年ぐらい前にmaxを初めて触って、リアルタイムにオーディオを扱えるようになった時に、グラニュラーシンセシスという、電子音楽研究所でしか使われていなかったような技術が自分のノートPCでも動かせるようになって、アカデミックな技術も家で普通に試せるようになりました。
グラニュラーシンセシスの音自体が当初相当なインパクトがあったんですが、未だにシンセシス方法の中では比較的新しい部類で、それ以降目新しいシンセサイズ方法はそんなに出て来ていないんですよね。
既存の方法を混ぜたりしたものが大半を占めていて。
実際にNeutoneに触れてみて、そこに新しいゲームチェンジが起こったような、久しぶりに全く違う種類のシンセサイズ方法が出てきたなという大きな可能性を感じました。
まだまだ克服するべき課題がたくさんあるんだろうなと想像しますが、これから音楽制作に一体どのような変化が起こるのか、全く想像もつきません。
ただ個人的に音楽機材愛好家としては、音楽最終形自体を生成する試みより、今までになかった新しい響きを体験したいと思っていて、その点をとても楽しみにしています。そこに焦点が当たった新しいジャンルのようなものも生まれてくるんでしょうね。
ーご自身でトレーニングしてみたモデルをDAW上で実際に動かしてみて、どうでしたか?
自分がこれまでに作ったサウンドを入れてトレーニングさせてみたんですが、頻繁に出てくる音があのループから来ているのかな、とか、どうすれば他のトレインデータの音を引き出せるんだろうかとか、というようなことを想像しながら使ってみた感じです。
なかなか効果的な使用法を確立するまでには至らず、いろいろ実験している段階なのですが、まずは何も考えずに色々な音を入力してみて、アタックの強い音を入力するとこういう出力に、、コード的な音を入力するとこういう出力に、、などと自分なりに経験を積みながら探るのが楽しかったですね。
アップロードされているモデルは既にいい感じに調整されているものだと思うので、自分のモデルをもっと突き詰めて制作してみたいです。
先日依頼されて楽曲制作を担当したPARCO onlineのムービー(https://youtu.be/ZYPXse6t4Nw)の制作時は、制作期間が限られていたので、一からモデルを作るのではなく、既存のモデルを主に使わせてもらいました。
それでも聞いたことのないすごく新鮮な音色が出てきたりして、ワクワクしながら制作することができました。 こちらのアウトテイク集(https://on.soundcloud.com/U3W7A)ではよりNeutoneの面白さを感じられると思います。
ー今後Neutoneにどういったモデルがあれば嬉しいですか?
あらゆる響きが対象となると思うので、特にこういうものが欲しい、というよりは もっともっと色々なものを試してみたいと思いますね。
まだ自分の中でも経験値が少ないので「こういうものが面白そうだ」というのもまだ確信していない段階なので 、とにかくいろんなものを試したいです。
音楽から離れた効果音制作に向くようなモデルがあってもいいだろうし、音を破壊するようなグリッチに特化したもの、 レゾネーターのような響きを扱うモデル、、midiエフェクターのように使えるもの、、、などなどでしょうか。
ーNeutoneを他の人に勧めるとしたら、どんなところを薦めますか?
Neutoneは全く新しい体験で、想像を超えた音が出てきたりします。
そういう変化が好きな人は、絶対試すべきだと思います。入力に対して、出力が想像を超えて欲しい人ですね。
入力に対応する出力は想像できる方が使いやすい場面もあると思いますが、「そこに何か魔法が起こって欲しい」という時には、格好のおもちゃになると思います。
自分も使い始めてそこまで経っていないのですが、謎が多いところが、今のところ一番の魅力です。
今後いろんなモデルが出てくると全然違う展開になると思うので、今のうちにNeutoneを使い慣れておきたいですね。
論文の状態から全部自分でやろうとすると、とんでもない労力がいるじゃないですか。そこをジャンプさせてくれる物だなという気がします。どんどん新しいモデルを試したいです。 これまでに触れたことがないようなものが好きな人は、一度触ってみて損はないと思います。
文、インタビュー : 森達哉