恋人たち 都市の底のドブ川からも見える小さな青空
橋口亮輔監督の7年ぶりの作品
美形の売れっ子俳優が一人も出ていないかつてのATG系の文芸映画。
それを大手の松竹が製作していることにまず驚いた。
超有名監督でないと興行的に難しい文芸作品は作れない現状で、才能のある若手監督に大手が出資するこの試みは評価されていいだろう。
そして、橋口監督が7年ぶりに監督した「恋人たち」は近年稀に見る日本映画の傑作といえるのではないか。
通り魔殺人で妻を失った男の苦悩
一見ふわっとしたタイトルのイメージとは180度違う、歯を食いしばって生きる市井の人々が主人公。
高速道路の橋脚の点検をするのが仕事のアツシは通り魔殺人で妻を失った。
なんとか仕事についているものの、精神障害で無罪となった犯人に対した怒りは収まるはずも無く、裁判の道を探るが、その費用で生活も苦しい。
その他、自分に興味を示さない夫とそりが合わない姑と希望のない日常を送る女、一流大学を出て弁護士として活躍するが恋人とうまくいかないゲイの男のどうにもうまくいかない日常を淡々と描く。
自分の夢が実現し幸せな人生を送る人など一握りしかいない。ほとんどの人が夢破れ、うまくいかない平凡な人生を送る。それが現実。
しかし、歯を食いしばって生きていればなんとかなる。そして小さな希望だってあるよ、とこの映画は語りかける。
高速道路の橋脚を点検する仕事がテーマを象徴
アツシの仕事がこの映画のテーマを象徴している。
東京の一番下を流れる運河の流れは底辺で歯を食いしばって生きる人々の人生そのもの。そして、上を走る高速道路の土台の安全を守る。
橋脚しか見ていなかったアツシは最後、川を走る船から初めて上を向く。
そこには高速道路やビルの隙間にはなっているが小さな青空が見える。
それはなぜか清々しい。
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