キャロル•キング つづれおり
NHK大河ドラマ「光る君へ」
昨夜の回「中宮の涙」は感動的でした。
式部が書く物語を読み、先が気になる中宮
「この娘はこの後どうなるのだ?」
式部「今考えていろところでございます。中宮様はどうなるのが良いとお思いですか」
中宮「光る君の妻になるのがよい。なれるであろうか。のう、式部、なれる様にしておくれ」
式部(まひろ)は意を決して、
「中宮様、帝に誠の妻になりたいとおおせになったら宜しいのではないでしょうか。帝をお慕いしておられましょ?」
「私の知る中宮様は(中略)いろいろな事にときめくお心をお持ちでございます。その息づく心の内を帝にお伝いなさいませ」
そこへ登場した帝、いつものように中宮には無関心に「あつやす(前妻の子)に会いに来たがおらぬゆえ…」
すると唐突に、中宮は泣きながら
「おかみ!お慕いしております!」
驚く帝、驚くまひろ。
私も観てて驚きました。幼く父の言いなりだった中宮。帝に寵愛されずいつも下を向き、話すことさえままならぬほど消極的だった中宮が、突然泣きながら本心をさらけ出すシーンです。予告動画↓
「光る君へ」は、初の平安大河。貴族の超ロングヘアーに十二単(ひとえ)の女性の正装が美しいです。この衣装、重さがなんと約10kgです。
「100カメ」という制作舞台裏の番組を観ていたら、着付けの準備をしているスタッフがこのロングヘアーをビニール袋を被せて包み込み、三人がかりで着付けをしていました。整髪料が衣装に付くのを防止するためだそうです。衣装も高級織物でしょうから大変そうです。
高級織物といえばタペストリー。(無理やり)
本来の織物としてのタペストリーは、縦糸を見えないようにして横糸だけで絵柄を表現する絨毯を作る要領、日本でいう「つづれ織り」で作られます。というわけで
キャロル•キング
「タペストリー 」(つづれおり)
私は、ライヴで涙する事はあまり無いのですが、キャロルキングの2008年のリビングルーム公演を観て、四度泣きました。
一度目はキャロルがステージに登場してきた時、ラメが入った黒のドレスに髪にはやはり銀のラメが光り、思ったより背が高い。庶民的なイメージは消え去り、神々しい姿を見た時。
二度目はスタートが意外な選曲「ビューティフル」の出だしの第一声の力強さに感動した時。
三度目は I feel the earth moveのピアノのイントロがR&Bぽく躍動的でそれこそ大地が揺れているように感じた時。
四度目は、男性二人との三人でシンプルなアコースティックコーナーが素晴らしかった時。
私は、ブルースのボニーレイットや麗しいカーラボノフや、その他キャロルキングより歌が上手い好きな女性シンガーが沢山居るのに、本物の「つづれおり」に出会った瞬間、これ程までに感情がコントロールできなくなってしまったのは、どうしてだったのだろう。
キャロルキングは、60年代、一度目の結婚相手と組み数多くのヒット曲を書いてヒットさせました、が離婚。
二度目の結婚相手とシティを活動させるも彼女がライヴを嫌がり全く売れずに、離婚。
三度目の結婚相手からはDVを受けていたと後に公表します。
四度目のソングライターと結婚した後、三度目の結婚相手は薬物の過剰摂取で他界します。
波瀾万丈の人生、自由な恋愛人生。子供は四人いて42歳で祖母になっていました。
一方、平安時代の貴族の恋愛観といえば、愛しい人を思って和歌を詠み、恋文を送り逢瀬を重ねていくこと。その情熱は、独身か既婚かを問わず、安定した家庭や地位を築いても冷めることがありません。そのことはタフな人生を歩んできたキャロルキングの人物像のようであり、つづれおりという邦題も、結婚と離婚を繰り返した彼女の経歴が、複雑な製法のつづれ織りの様でもあります。
その息づく心の内を帝にお伝いなさいませ
まひろが言ったその言葉が、空想の物語に読み浸っていた中宮の心を突然リアルに突き動かしました。大人の貴族社会に、がんじがらめだった若い中宮が、源氏物語とまひろの言葉によって、心が解き放たれたのです。
あのライヴの時になぜ四度も泣いたのだろう。空想の名作物語だった「つづれおり」が突如、リアルに現れて本当の自分を解き放とうとしたのかもしれない。
テレビの中の源氏物語のドラマを見ていて、ふと、そう思いました。
真の気持ちを解き放つことは、人生で何回あるのだろうか。
キャロルキングは、才能に恵まれたソングライターでしたが同時に、その人生経験から本当の気持ちを歌を通して数多く発し、リスナーに勇気を与え続けた存在だった気がします。
つづれおりは彼女の、恋愛というマグマのような火山が最初に爆発した、世紀の名作です。