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アル•スチュワート 24Carrots
1980年、高校三年生だった自分を思い出すと、高校生時期って、なんだかんだ忙しかったと思う。だって、部活やって家に着いたら八時。夕飯に風呂に明日の準備をしたらもう、あっという間にラジオでクロスオーバーイレブンが始まる時間になってしまう。今みたいに携帯で動画を見たり、友達とSNSをやっている時間なんか、考えてみたらあまり無いと思う。
しかし、三年生の部活も終わり、明るいうちに家に着いてしまうという、なんとも居心地の悪い毎日が始まってしまった。受験勉強もしなきゃいけないのに気が乗らず、夕方から始まる「軽音楽をあなたに」のラジオをぼんやりと聞いていた。
DJの山本さゆりの声は、眠たい学校の先生の話と違って、大人のお姉さんのトーンで親しみが持てた。紹介される音楽も何が出てくるか分からない楽しさがあった。
「君の面影 Optical illusion」↓と紹介されて始まったその曲のイントロは、唐突だったが優しい曲だった。すぐに買ってしまった。高校生の時に買った数少ないレコードのそのジャケットの絵には人参が並んでいて、40年以上経った今も、人参が愛しい古い友人のようだ。
部活を引退したので、つきあっていた彼女と一緒に下校する日々が始まった。ほんとうは時間を忘れて自由でいたかった。だけど受験生なので気を遣っていたと思う。
土曜日の学校は半日で終わるので好きだった。ある土曜日の午後に、静かな佇まいの蕎麦屋に二人で入った。あの店も、あの店で楽しそうに話す君の顔もとても綺麗だった。
駅で同じ改札から入って、右と左の階段に別れるという些細な寂しさを繰り返しているうちに、本当の別れ道ができてしまった。
二人の時間が、改札口までだったように、
あの時が、人生の改札口だったようだ。
切符を切った後も、君と一緒にいたかったけど、乗る電車が始めから違うように、二人の人生も別々に進んで行った。
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最近、釘付けになっている欧州サッカーチャンピオンズリーグを観ていたら、スコットランドのグラスゴーのチーム、セルティックを応援する六万人の観客席の中に、ロッドスチュワートが居た↓
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グラスゴーではロッドのサッカー好きは有名で、彼は必ず一般サポーター席に居る。先日はドイツの最強チームとの対戦で、グラスゴーの六万人の大観衆の誰もが、2006年に中村俊輔が起こしたミラクルを信じて応援していたに違いない。2006年のあの時もロッドが観客席に居て、勝った瞬間、子供のようにオロオロと泣いていたのを見てますますロッドと俊輔の事が好きになった。
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イタリアからグラスゴーのチームに移籍した中村俊輔は、当時の事をこう話す。
「グラスゴーの第一印象は、雨が多くて、ちょっと暗いというものでしたが、最初から気に入っていました。雰囲氣はイタリアよりも日本に似ています。スコットランド人は他人を尊重するんです。料理はハギスが好きでしたが、フィッシュ&チップスは油っぽいので食べられませんでした。長男が4歳のときに引っ越したので、英語は話せませんでしたが、みんな長男と妻にとても親切にしてくれました。妻はグラスゴーになじみ、楽しく暮らしていました」
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アル•スチュワートは、そのグラスゴーの出身で、70年代前半のアルバムジャケットを見てみると↓中村俊輔が言うように「雨が多くてちょっと暗い町」なのかと思ってしまいます。この頃はフォーキーで哀愁が強いのですが、どうも私には軟弱に聞こえてしまいます。
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70年代後半は、アランパーソンズと制作しAORポップ風になってヒットします。「イヤーオブザキャット」がこの頃です。↓
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アル•スチュワート「24Carrots 」1980年
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そして、1980年、本作「24carrots」は、アル•スチュワートが、ショットインザダークというバンドとの共同作業という形で制作されました。1979年のツアーから同行し1981年には自作も発表した英米混成バンドです。それまでのフォークムードから、バンド感覚に重きを置いたアプローチが、アル・スチュワートの音楽性に力強さやリズミカルなフォルムをもたらしました。
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私は、アル•スチュワートは、この一枚だけが好きです。高校三年生だった事もありますが、70年代のフォーキー感もなく80年代サウンドにも染まらず、ライヴで培ったバンドのリアル感があるからです。
それから、ジョンレノンの一番好きな曲は「ウーマン」なのですが「君の面影」はウーマンと似ています。ジュリアン•レノンがデビューした時も、顔も歌も父に似てると思いましたが、私はアル•スチュワートだと感じました。
私の憧れの二人はグラスゴーに縁あるロッドと中村俊輔ですが、アルスチュワートもまた私の高校三年生を映し出す人です。
最後に本作で一番親しみやすい曲、「ミッドナイト•ロックス」↓
ショットインザダークとの演奏(口パク)です。
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