フリー Fire&Water
ロックの三大ギタリストというと、お馴染みの、Jペイジ、Jベック、Eクラプトン、ということになるだろうけど、では、三大ヴォーカリストは?となると、その昔、ロバートプラント、ロッドスチュワート、ポールロジャースと言われていた気がする。ただ、ちょっとロック通でないと、ポールロジャースの名前は出てこないと思う。試しに、動画でポールロジャースを検索してみたら、オールライトナウとクイーンばかりが出てきた!?そうか、彼の一般的知名度は、クイーンのVoのひとりなのか…なんか残念。彼が、フリーやバッドカンパニーに居たことが遠い過去になるのかと思いつつ、ロック史に残る名盤を取り上げることにします。
FREE 「Fire and Water」1970年 3作目。
「オールライトナウ」がヒットしたことで大成功したアルバムだが、この曲自体は、悪くはないがそれ程でも…と思う。むしろそれ以外の6曲が、かなり良いのだ。とりわけ「ファイヤー&ウォーター」「ミスタービッグ」「ヘヴィーロード」の三曲は素晴らしい。
A1の「ファイヤー&ウォーター」は、ヴォーカルのロジャースが魂の如く歌い、ギターのポールコゾフは熱いリフを刻む。重いリズムには、独特の隙間があり一音一音が熱い↓
「ミスタービッグ」は、前半は淡々と進み、後半から徐々にベースが踊り出し、ヴォーカルも跳ねるように「♪ミスタービッグ!!」とシャウトして、後半にかけて盛り上がっていく。ベーシストのビリーシーンがリーダーだった、かのMR.BIGも、この曲からバンド名を取った↓
そして今これを↓聴いていたら、これが一番良いのではないかと思えてきた。抑えた歌い方なのに、徐々に盛り上げていく演奏が巧いと思うし、美しいスローバラードだ。↓
それから「リメンバー」は個人的にずっと好きだった隠れた佳曲だし、「オーアイウェプト」も、英国フォークからの影響を感じる、陰鬱だかしっとりと記憶に残る曲だ。そして大ヒットシングル「オールライトナウ」は今聞くと、このアルバムの中で一番良くないんじゃないかとさえ聞こえてしまった。
フリーの核となる人物は、意外にもベースのアンディーフレイザーらしい。作曲に関わっているし、フリーの曲は確かにベースが軸になっている(と思う)。もともとアンディーフレイザーは、ジョンメイオールやアレシックスコーナーの元にいたようで、そうなると、フリートウッドマックやクリーム、ツェッペリンらとルーツは同じな訳だが、60年代の黎明期のブルースロックは、私は苦手で、まず曲が長い!ギターソロも長い!例えば、大好きなツェッペリンでも、1stのB面とか苦手で聞けない。長いし、おどろおどろしい。
そうした冗長なプルースロックから脱却して、極めてシンプルで正当なロックを打ち出したのがフリーだと思う。プルースロックとは対照的に、音響はほぼデッドで、無音の隙間を維持しながら、シンプルなアンサンブルに徹したサウンドは、研ぎ澄まされた演奏力がある。しかもヴォーカルとギターは異常に上手い。
1970年というブルースロックやサイケデリックに追われた時代にあって、あの若さでこの重厚なロックが生み出されたことが信じがたい。ただのオールライトナウのアルバムと思ってしまってはいけない。
その後、ポールロジャースは、バッドカンパニーを経て、ソロやザ•ファーム等で良質な作品を出すも商業的な成功はなかったが、1993年、数々のスーパーギタリストと曲ごとに共演したトリビュート作品「マディウォーターブルーズ」が起死回生のヒット作となった。
↓はニールショーンとのジミ・ヘンドリックスのカヴァー。ほんとに歌が上手い。
そして、2014年、黒人ブルースの名曲カヴァーに取り組み、60年代の一流のプレイヤー達と組んだが、これも当たった。もはやフリーとはかけ離れた音楽であるが、元々ブルースが、特にオーティスレディングが、彼の好みであり、最近は黒人寄りの音楽に落ち着いているという訳だけど、フリーの素晴らしさを知っているファンにとっては、それではちょっと寂しい。
こうした黒人の模倣をやれば、彼の声からすれば似合うと思うし、本人も好きな音楽をやっているだけだと思う。ただ、フリーを先に知ってしまったファンとしては、商業的な匂いのない、英国の香り漂うフリーがよけいに恋しくなってしまう。
私にとっては、彼は、いつまでもフリーのポールロジャースであり、三大ロックボーカリストの一人なのだ。
尚,この前作、2ndアルバムについて、よっしーさんの素晴らしい記事がありますので、ぜひそちらもご覧ください。