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ブックレビュー『インテリジェンスと保守自由主義』江崎道朗著

「ほとんど知らなかったことを知らされ、目を開かされる」という意味で、評論家の江崎道朗先生の一連の著作には、これまで何度も目を開かされる経験をしてきた。今回読んだ『インテリジェンスと保守自由主義』もまたそうであった。重要な内容が数多く含まれるが、いくつかポイントを絞り、同書からの引用を交えながら感想を述べていきたい。

第二次世界大戦の末期、ドイツを打ち破ったソ連は再びバルト三国を占領するや、バルト三国の「言論の自由」を奪い、ソ連占領下でどのようにひどい占領政策が行なわれたのかを、自由に話すことを禁じられたというのです。
そしてソ連に占領されたバルト三国は、それまでの自由民主主義を完全に破壊され、一党独裁の共産主義体制を押し付けられたのです。日本もソ連に占領されていたら、同じ目に遭っていたことでしょう。

同書に書かれていたが、かつてソ連の支配下にあった国々がどういう状況だったのか、特に東西冷戦時代の最中、私たちはほとんど知ることがなかった。そのため私などは特に疑問を感じることもなく、「自由主義国よりは貧しかったかもしれないが、普通に生活はしていたのだろう」と高をくくっていた。
しかしそれは大きな間違いだった。一党独裁の共産主義の国に支配されるということは、イコール「言論の自由を奪われる」ということであり、何十年も支配されていた間、バルト三国でどれだけソ連がひどいことをしていても、それが他国に知らされることがなかっただけなのだ。今ヨーロッパでは、当時のソ連がいかに苛烈な支配をしていたのか、その歴史をきちんと見直す動きがあるのだという。

(※ポーランド人が自由を求めて立ち上がった「ワルシャワ蜂起」が失敗に終わったあと、チャーチルはスターリンと手を結び、ポーランドをソ連に売り渡した。その結果……)
要は、ポーランドの東側の大半はソ連領とすることと、ポーランド共産党と連携することを認めるよう、チャーチルは要求したのです。
これを日米同盟に置き換えると、例えば中国共産党政権と軍事紛争になって日本の自衛隊が劣勢になった場合に、同盟国アメリカが、中国との停戦と引き換えに日本に対して、沖縄と九州は中国共産党政府の領土とし、かつ、日本共産党による連立政権を樹立するよう、日本政府に「通告」してきたようなものなのです。果たして、こうした想定は杞憂なのでしょうか。

親日国のポーランドもまた、歴史に翻弄され、耐え難い苦痛を味わった悲劇の国だった。この引用部分は、イギリスのチャーチルが、同盟国のポーランドとソ連とを天秤にかけ、ソ連が有利と見るや、手のひらを返してスターリンと手を結んだという事実から、その状況を現在の日本に当てはめた推論である。将来、世界情勢の流れによって、この推論通りにならないという保証はどこにもない。つまり日本が他国に支配され、「言論や信教や移動の自由が奪われる日が来る可能性」は、われわれ自身がそれを防ぐ努力をしない限り、決してゼロにはならないということだろう。

要は戦争になれば、勝利こそすべてとなる。しっかりした軍事力を持たないまま、同盟国を信頼していると、手痛い裏切りに遭う可能性がある。よって、しっかりした軍事力を持つとともに、常に敵だけでなく、味方、つまり同盟国の政治情勢についても徹底的に調べ、分析し、警戒を怠らないようにしておかないといけない。これがポーランドの「痛苦な反省」なのです。

我が国もかつて、ソ連に条約を一方的に破棄され、北方領土が奪われたまま何十年も取り返せていない。そしてまた現在の同盟国が、五年後十年後に手のひらを返さないという保証もない。もちろん同盟国と信頼関係を築いていくことは大事だが、我々自身が国を護る努力を怠ることは絶対にあってはならない。これを忘れることを「平和ボケ」と呼ぶのであろう。その先に待っているのは、もしかすると「この世の地獄」かもしれない。

《諸君は、列強諸国と結んだ不平等条約の改定を目指しておられるという。しかし欧米列強が「日本は、近代的な法制度を整備した」という理由だけで、日本との条約改定に応じるかどうかには疑問がある。国際法は、諸国の権利を保護する不変の取り決めだと言われている。しかし列強諸国は自国の利益になる時は国際法や条約を守るが、自国の利益にならないと思えば、あっさりそれを無視して武力に訴える。諸君、それが国際社会の現実である。欧米列強は礼儀正しく他国と交際しているように見えるが、そんなものは表面的なふるまいにすぎず、実際には弱肉強食が国際関係の真の姿である。
(中略)
諸君は国際法や条約のことばかり気にするよりも、富国強兵して実力をつけることに尽力していただきたい。諸君は実力をつけて独立を守るべきだ。そうしないと、列強の植民地獲得競争の餌食になってしまうかもしれない。》

これは明治六年に欧州を訪れた「岩倉使節団」が、ドイツのビスマルク宰相から受けたアドバイスの言葉だそうだ。原典は伊藤貫氏の著書『歴史に残る外交三賢人』であり、「孫引き」になることをご了承いただきたい。
このビスマルクの言葉こそ、「弱肉強食の世界の現実」を正確に言い表しているのではないか。当時と現在では世界情勢は大きく変化しているが、おそらく本質的には変わってはいないように思える。むしろ「外国を侵略する方法論も各種の技術も(悪い意味で)進化している」ため、かえって現代のほうが危険度が高いとも考えられるのではないだろうか。単純に武器を使用して領土を奪い合う「わかりやすい戦争」とは異なり、表面上は平和に見えながら、裏側では想像もつなない方法で侵略が進みつつある可能性も否定できない。
百年後二百年後の子孫に禍根を残さないためにも、我が国はインテリジェンス能力を向上させ、正しく国策に生かすとともに、弱肉強食の世界に飲み込まれないだけの「実力」を養わなければいけないのだろう。私など微力ないち個人に過ぎないが、とにかく少しでも多くの人たちと問題意識を共有し、できるだけのことをやっていきたいと思う。

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