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冬の朝に聞きたくなる“魔法の言葉”

1月のある朝、
あまりの寒さに布団から出られなかった。

頭のてっぺんから足の爪先まで、
一瞬たりとも外気には触れさせまいと、
布団の中で、全身を小さく丸める私。

二度寝しようか、起きようか、
本気で悩んでみる。

朝が苦手、
とりわけ“冬の朝”が苦手なのは、
子どもの頃から変わっていない。

布団から少しだけ顔をのぞかせ、
頭上にあるカーテンを見上げてみた。

もう外は明るく、
白いカーテンが朝日を反射して光っている。

“雪・・・積もってるわけないか”

心の中で独り言を言い、また布団の中に潜り込む。

ここは関西。
私が生まれ育った北陸とは違って、
雪もあまり降らないし、降ったとしても、
積もることなんて滅多にない地域に住んでいる。

分かっているにもかかわらず、
ほんの一瞬、雪を期待した自分がいた。

私が喜んで飛び起きる“魔法の言葉”

北陸の雪深い地域で生まれ育った私は、
子どもの頃から雪が好きだった。

日が落ちるのが早い冬を、少し憎らしく思うほど、
雪さえあれば、ひとりでも無限に遊んでいられた。

凍えるような冬の朝が苦手で、
普段はなかなか起きられない私でも、
そこに雪があるなら話は別だった。

毎朝、部屋まで起こしにやって来る母の言葉。

「雪、積もってるよ」

このひと言で、私の目はパチンと開く。
私にとって(おそらく母にとっても)魔法のような言葉だった。

「え、ほんと!?」

雪と聞くと、どんなに寒い朝でも喜んで起きることができた。
普段の数倍のスピードで身支度を済ませ、
仕上げに“アノラック”を着て、いつもより大幅に早く家を出る。
※アノラック・・・スキーウェアのような防水性のある防寒服

私が見つけた小さな銀世界

雪が積もった日の朝は、
学校に行く前に、必ず立ち寄る場所があった。

それは通学路から一本外れた道にある空き地。
誰の足跡もついていない、私が見つけた小さな銀世界。
膝のあたりまで積もった一面の雪に、朝日が反射して眩しい。

しめしめと、ランドセルを道の脇に置き、
アノラックに付いたパーカーをしっかりと被る。

そして両手と両足を大きく広げて、
雪に背を向けた状態で勢いよくダイブ・・・!

ズボッという鈍い音とともに、身体が雪の中に沈み込む。
さっきまで聞こえていた、車の走行音も、
近所のおばちゃんたちの話し声も、すべて遮断された無音の世界。

大の字になり雪の中で横たわっている間は、
私も銀世界の一部になれたような気がした。

顔にかかった雪が、ひんやりと気持ち良い。
寒い・冷たいといった感覚も不思議と楽しいものに変わり、
いつもより高く感じる空を見上げながら、
しばらくの間、ボーッとしてみる。

「あ、学校・・・!」

急いで起き上がり、アノラックについた雪を払いながら、
ランドセルを背負って学校へと走る。

うっかり学校に遅刻してしまわないか、
少しヒヤヒヤしながらも、雪と一体化する時間は心地よかった。

大人になった今でもずっと

“雪が積もっていたらなぁ・・・”

いい年齢になった今でも、
寒くて布団から出られない日の朝は、
天井を見上げながら、そう思う時がある。

今は、雪の中にダイブするより、
暖かい部屋の窓から雪を眺める方が好きだけれど。

もう母の声は聞けないし、
小さな銀世界もこの場所にはないけれど、
「雪、積もってるよ」のひと言は、
きっといつまでも、私にとっての魔法の言葉。

さぁ、今日も起きて一日を始めよう。

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もりさとこ
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