9.勝ち負け
「この間さぁ、旦那を妊娠させちゃってさぁ」
片手にビール、片手にコンビニのビニール袋、夜道、イヤホンマイクで友達と会話。
「ラッキーって感じ」
「ほら、私姉さん女房でしょ?若い方が産んだ方が、良いし」
「つわりとか、出産もないしね。まぁ養わなきゃって責任はあるけどさぁ」
私達はセックスをした。
でも旦那だけが妊娠をした。
旦那の妊娠がわかった時、あ、二人とも妊娠するわけじゃないんだ、って思った。
良かったかもしれない。
二人とも妊娠すると、後々大変みたいだし。
私もう32歳だし。
旦那はまだ28歳で、だったら、若い方が産んだ方が赤ちゃんにとっても良いはずだ。
「はぁー」
別にいいんだけどね。
いいんだけどさ。
公園のベンチでつまみを食べる。
1袋100円、イカのカリカリした天ぷらのようなお菓子。
ピリ辛味が刺激的。
二人とも妊娠する可能性があって、どちらか片方しか妊娠しなかった時、しなかった側が責められるような気がするのはなんでなんだろう。
義両親には明日報告に行く予定だ。
できることなら行きたくない。
サルのように、片方だけが妊娠できる性別だったら、どんなに良かったか。
そしたら、私は胸を張って旦那を支えるのに。
つまみを食べ終えて、ビールを飲み干す。
近くのコンビニのゴミ箱に捨てて、家に帰る。
「ただいま」
旦那はリビングのソファで眠っている。
額に腕をのせて、床には洗面器が転がっている。
私は、何をやっているんだろう。
もっとまともにならないと……