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イラストレーターに知って欲しい「著作権譲渡」のリスク

一人でも多くのイラストレーターに知って欲しいことがあります。

それはーー
【著作権譲渡に一度でも応じたイラストレーターは、その後の宣伝・広告の仕事はリスクと背中合わせになる】
という、ほとんど知られていない、そしてあまりにも重い問題に関してです。

宣伝・広告関連のイラストレーションの仕事は、一般的にバッティング禁止です。
つまり、イラストレーターは、一定期間、競合他社での仕事が禁じられます。

例えば、化粧品会社のポスターのイラストレーションを担当したら、そのイラストレーターは、一定期間、その競合他社での宣伝・広告の仕事を禁じられることが多いです。
競合他社の仕事をやってしまうと、多額の賠償金を請求される可能性があります。
だからイラストレーターは、他の化粧品会社の仕事はしないように気を付けながら活動を続けることになります。

しかし、著作権を譲渡したイラストレーションは、本人の知らないうちに、様々な事業で使われる可能性があるのです。

あなたが、化粧品会社Aのポスターのイラストレーションを担当していて、当面他の化粧品会社の仕事ができない契約になっていたとします。
一方で、洗剤会社Bに著作権を譲渡したとします。

洗剤会社Bは、洗剤会社です。
だから、化粧品会社とは競合しないと思って著作権を譲渡したのです。
しかし洗剤会社Bは、実は化粧品も販売しているかもしれません。
そうなると洗剤会社Bは、著作権を買い取ったイラストレーションを化粧品のポスターにも使えるのです。

著作権を買い取ったら、その著作権を所有する企業は、原則、何に使ってもいいのです。
イラストレーションを描いた著作者に許可を得る必要なく、自由に使えます。
それは法律上、何一つ問題のない、正当な行為なのです。(※注1)

イラストレーターが、「洗剤商品の宣伝のために描いたイラストレーションを勝手に化粧品にも使うなんて、洗剤会社Bはひどい!」と感じたとしたら、それは大間違いです。
洗剤会社Bは著作権を所有しているのですから、何に使ったとしても、それは悪いことではありません。
あなたが八百屋で人参を購入したとしましょう。
その人参をカレーに使おうが、サラダに使おうが、八百屋に文句を言われる筋合いはないと思いませんか?
著作権を買い取ったイラストレーションは、人参と同じなのです。
何に使うかは、著作権を有するものの自由なのです。

洗剤会社Bが化粧品の広告にあなたのイラストレーションを使うことは、正当な行為であるにもかかわらずーー
あなたが化粧品会社Aから禁じられていたバッティングとなってしまいます。
あなたは、化粧品会社Aから多額の賠償金を求められ、この業界で信頼を失うかもしれません。

洗剤会社Bは、今はまだ化粧品の販売をやっていないかもしれません。
しかし、将来それを始める可能性はあります。
新たに始める可能性があるのは、化粧品事業に限りません。
企業というものは、今とは違う新しい事業を始める可能性が無限にあります。
新しく始めたどんな事業でも、著作権を持つあなたのイラストレーションを自由に使えるのです。

そしてーー
著作権は再譲渡が可能です。
洗剤会社Bは、著作権を買い取ったイラストレーションを他の化粧品会社Cに再譲渡できるのです。
そうなると、やはりバッティングが起こります。
再譲渡する先は、化粧品会社Cとは限りません。
あらゆる業種の企業に再譲渡することが合法です。
つまりあなたが著作権を譲渡したイラストレーションは、あらゆる業種の企業で使われ始める可能性があるのです。

ストック・イラストレーションのサイトを運営する企業に再譲渡することだって出来ます。
あなたも知らないうちに、ストック・イラストレーションのサイトにあなたの作品がずらりと並んでいるかもしれないのです。
そこに載っている作品は、どんな業種の企業も自由に使えます。

つまりーー
一度でも著作権を譲渡したイラストレーターが宣伝・広告の仕事をしようとすると、あらゆる業種でバッティングする可能性があるのです。


だからーー
【著作権譲渡に一度でも応じたイラストレーターは、その後の宣伝・広告の仕事はリスクと背中合わせになる】
のです。

このことはあまりにも恐ろしい問題であるにもかかわらず、ほとんど知られていないと思います。

このことに気がついたのは、イラストレーターとして活動を始めた初期の頃。今から20年ほど前です。

気がついてから、著作権関連の本を読み漁るようになりました。

この問題をどう考えたらいいのか、専門家の意見を知りたかったのです。

これまでに読んだ著作権に関する本は20冊程になります。

しかし、この問題を指摘している本は一冊も見つけられていません。(※注2)

イラストレーター 仲間に聞いても、誰も気がついていないようでした。

徐々に、「ひょっとすると、このことに気がついている人はほとんどいないのではないか」と思い始めたのです。

その一方で、著作権譲渡を求める企業や出版社が増えてきました。

私がこのことを発信しなければ、リスクに気がついていないイラストレーターがどんどん著作権を譲渡して、取り返しのつかないことにもなりかねません。

そこで、ブログやSNS、あるいは私が主宰をしているプロイラストレーター団体「イラストレーターズ通信」の掲示板でも、繰り返しこのことを書いてきました。

しかし思ったようには広まらず、著作権譲渡を求める企業や出版社はさらに増え続けています。

一部のクラウドソーシングでは、著作権譲渡が前提になっています。

イラストレーション・コンテストの応募要項に「応募作品の著作権は当社に帰属」と書かれているケースも増えています。

安易に著作権を譲渡しているイラストレーターが年々増えていることに危機感が募る一方です。

そこで、このnoteでも情報を発信することにしました。

この情報が、一人でも多くのイラストレーターに届くことを祈ります。

これからもーー
「著作者人格権不行使の契約のリスクは、どんなものなのか?」
「著作権譲渡を求められたら、どう交渉していけばいいのか?」
「リスクを回避しながら、著作権譲渡の仕事をする方法」
「著作権譲渡でありながら、リスクを回避する契約方法」
「トラブルを未然に防ぐ仕事の進め方、契約の仕方」

などなど、イラストレーターの著作権や契約に関する話題を中心にして、noteから発信していきます。

どうぞよろしくお願いします。

(※注1)著作権を所有する企業は、原則としてどんな用途にも使えます。しかし正確には、「著作者人格権を行使しない」という特約のある契約でない場合は、著作者の名誉をおとしめるような用途には使えません。しかし、それはまた別の機会に解説します。

(※注2)当時は、私の気づいた問題が本当に危険なことなのか確信がなかったのですが、その後顧問弁護士と契約し、私の認識に間違いがないことを確認済みです。さらに顧問弁護士と話し合いを重ね、著作権譲渡でありながら、リスクを回避する契約方法なども考案しました。それはまたの機会に解説します。

著作者人格権不行使の契約についても書きました。
イラストレーターに知って欲しい「著作者人格権を行使しない」契約のリスク
https://note.com/moriryuichiro/n/nb6d23eab97f6

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