「イラストレーターが著作権譲渡を断らない」特殊な活動方法
(この記事は、『イラ通・スクール』の《著作権譲渡問題05 「著作権譲渡を断らない」特殊な活動方法》を転載したものです)
これまでにーー
「プロ・イラストレーターにとって著作権はとても大事なもので、安易に譲渡してはいけない」と書いてきました。
しかし実はーー
「著作権譲渡を一切断らずに、プロ・イラストレーターとして活動していく」という選択肢もあるのです。
著作権譲渡を求められても、どんどん応じていく活動方法です。
それはどういうことなのでしょう?
著作権譲渡に応じたら様々なトラブルに遭うのではなかったのでしょうか?
今回の記事では、「著作権譲渡に応じながらトラブルを回避する、特殊な方法」について解説しましょう。
■ 著作権譲渡のデメリットを改めて確認しましょう
著作権を譲渡してはいけない理由は主に次の3つでした。
1)著作権を譲渡してしまうと、あらゆる用途で勝手に使われる。
2)自分の名刺・ポートフォリオ・Webサイト・SNS・画集であっても、勝手に載せることができない。
3)著作権譲渡に一度でも応じたイラストレーターは、その後の宣伝・広告の仕事はバッティングと背中合わせになる。
バッティングすると多額の損害賠償を負う可能性もある。
■ 著作権譲渡に応じるイラストレーターはどうなる?
1)について考えてみましょう。
著作権譲渡に応じると、いろんな用途で勝手に使われます。
「どんな用途で、どう使っていただくか」をコントロールできません。
想定していなかった用途で使われてしまう可能性もあります。
何に使われても文句を言えなくなります。
でもーー
「それでも問題ない」と思うイラストレーターもいるだろうと思います。
これは、個人の価値観次第では、受け入れてもいいものだと思います。
2)について考えてみましょう。
自分の名刺・ポートフォリオWebサイト・SNS・画集などにも載せられなくなります。
どうしても載せたい場合は、著作権を所有している企業・団体・自治体に許諾を得なければなりません。
場合によっては使用料を支払う必要もあります。
でもーー
「それでも問題ない」と思うイラストレーターもいるだろうと思います。
これも、個人の価値観次第では、受け入れてもいいものだと思います。
3)について考えてみましょう。
著作権を譲渡してしまうと、どんな商品・サービスの宣伝・広告にも使い放題となるためーー
他の仕事とバッティングしてしまう可能性があります。
バッティングしてしまうと、多額の賠償金を求められるかもしれません。
著作権譲渡の最大の問題点はここです。
このトラブルだけは、個人の価値観でどうにかなるものではありません。
「著作権譲渡をしながらバッティングになることを避ける方法」はないのでしょうか?
それが、実はあるのです。
その方法を解説していきます。
■ 著作権譲渡によるバッティングのトラブルを回避する特殊な方法
著作権譲渡をしながら、バッティングになることを避ける方法は二つあります。
一つ目の方法として、
「著作権譲渡問題02 著作権を譲渡しながら、リスクを低減する契約方法」がありました。
これでもバッティングを避けることが可能です。
今回解説するのは、もう一つの方法です。
どんどん著作権譲渡の仕事を受けても大丈夫な二つ目の方法です。
それはーー
「競合制限のある仕事を受けない」という活動方法です。
「著作権譲渡をすると、多額の賠償金を負う可能性が有る」というのはーー
「競合制限のある仕事とバッティングするかもしれない」からでした。
つまりーー
競合制限のある仕事を受けなければ、どんなに著作権譲渡しようが、バッティングになって賠償金を求められることもないわけです。
この活動方針にすれば、時として心が折れそうになるクライアント様との著作権に関する交渉から解放されます。
人によってはストレスが軽減され、創作活動に専念できるかもしれません。
■ 「競合制限のある仕事を受けない」という活動方法のデメリット
受講生からは、「なんだ。そんな方法があるなら早く言ってよ」という声も聞こえてきそうです。
ここまでこの方法に触れてこなかったのは、大きなデメリットがあるからです。
それはーー
「競合制限おある仕事を受けない」ということは、「報酬額の少ない、目立たない、規模の小さな仕事ばかりになる」というデメリットです。
大量の仕事をこなしても、収入は大した額にはならないことが多いのです。
一流企業からの報酬額の高い広告の仕事は、大概の場合、競合制限がかかります。
最近はそうでないケースも増えていますが、世間からも注目を集めるようなイラストレーションの仕事は、だいたい「競合制限がかかる」と思って間違い無いありません。
数十万円とか百万円以上といった高額の報酬をいただける仕事では、必ずといっていいほど競合制限がかかります。
競合制限のかからない仕事は、1点数千円程度になることもあります。
良くても1点数万円といったところでは無いかと思います。
1点十万円とかになってくると……競合制限がかかる場合が多くなってくるでしょう。
■ それでも「競合制限のある仕事を受けない」方法で活動していくのならーー
○ 出版系の仕事を中心にする
出版系の仕事を中心にするのもいいでしょう。
雑誌の挿絵や書籍カバーでは、もともと競合制限がかかることがない世界です。
ここを活動の中心にしてもいいと思います。
小説のカバーや挿絵に向いた画風なら、この選択肢も検討していいのかもしれません。
○ ストックの仕事を中心にする
アドビ・ストックなどのストックサービスに登録して、そこを活動の中心とする方法もあります。
そもそもストックは、広くいろんな用途で使われることが前提です。
ここに登録した名義やタッチでは、競合制限のある仕事をすることはできません。
ストックの活動なら、「競合制限のある仕事を受けない」という方法と相性がいいと思います。
「オリジナリティや世界観が弱いけれど柔軟性・大衆性が高いイラストレーター」には、選択肢の一つだと思います。
詳しくは、《「コンテスト」「ストック」「クラウドソージング」における、著作権譲渡問題》を読んでくださいね。
○ 自分でフリーの素材サイトを作って作品をどんどん公開していく
「いらすとや」のように、自分でフリーの素材サイトを作って作品をどんどん公開していくやり方もあるでしょう。
この活動も、「競合制限のある仕事を受けない」という方法と相性がいいと思います。
これも「オリジナリティや世界観が弱いけれど柔軟性・大衆性が高いイラストレーター」には、選択肢の一つだと思います。
■ 著作者人格権との関係は?
「著作権譲渡の仕事に積極的に応じて、競合制限のある仕事を断る」という活動方法を選ぶとするなら、「著作者人格権不行使」にも応じることになるでしょう。
「著作権譲渡+著作者人格権不行使」の仕事であっても断ることなく、受け入れていくことになると思います。
あらゆる作品の改変に対して文句は言えなくなります。
他のポーズを、勝手に作られることもあります。
クレジットは入れてもらえないかもしれません。ひょっとすると、他の名義でクレジットされる可能性もなくはないです。
アダルト系やカルト系など、一般的なイラストレーターなら使われたくない用途に勝手に使われても、あまり文句は言えません。
でもそうしたことに抵抗がない人もいると思います。
これは個人の価値観次第です。
こうしたことも問題ないと思えるのなら、「著作権譲渡の仕事に積極的に応じて、競合制限のある仕事を断る」という活動方法は「あり」だと思います。
■ 「別名義。別タッチ」で使い分ける活動方法
普段の仕事では著作権譲渡を断っているけれどーー
「別の名義・別タッチ」では「著作権譲渡の仕事に積極的に応じて、競合制限のある仕事を断る」という活動方法もあります。
ふたつのペンネームと画風を使い分ける方法です。
これなら、報酬額の良い大きな広告の仕事もできるし、著作権譲渡が条件の仕事を断る必要もなくなります。
「どうしても著作権譲渡が条件」という仕事は、もう一つのペンネームとタッチで応じていくわけです。
「著作権譲渡の仕事に積極的に応じて、競合制限のある仕事を断る」方のペンネームでは、ストックサービスに登録しても問題ないでしょう。
ストックサービスに登録した作品がどんな商品の広告に使われても、バッティングの問題が発生することはないわけです。
ただし、この方法で活動する場合はーー
競合制限のある仕事を受ける際に「別タッチで著作権譲渡をしていて、あらゆる商品・サービスの広告に使われる可能性があります」ということは伝えておきましょう。
別のペンネームも伝え、どんな画風なのかも見せておきましょう。
変に隠すと、トラブルのもとです。
■ クライアント様には、著作権の大事さも伝えてください。
「著作権譲渡の仕事を積極的に受けて、競合制限のある仕事を断る方法」で活動すると決めたイラストレーターの皆さんにお願いがあります。
著作権譲渡のお仕事を受ける際に、クライアント様に伝えて欲しいことがあるのです。
それはーー
「イラストレーターにとっての著作権の大事さ」についてです。
私が書いたnoteの記事を紹介するのが一番いいと思います。
例えばこんな感じです。