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イラストレーターの為の著作権譲渡契約を回避する交渉術

(この記事は、「イラ通・スクール」の「著作権譲渡問題01 著作権譲渡契約を回避する交渉術」を転載したものです。)

私たちイラストレーターは、著作権譲渡が条件のお仕事が来た時、どう対応すればいいのでしょう?
原則として「著作権譲渡の仕事は受けない」のが正解です。
とはいえ、安易に断るのもよくないです。
上手く交渉することで、著作権譲渡を回避できることもあるからです。

しかしーー
「著作権譲渡契約を回避しようといつも交渉しているけれど、うまくいかない。クライアント様に疎ましく思われて仕事を失うことになりがち」
という話をよく聞きます。
当然の権利でありながら、当然のこととして権利を主張すると、絶対に成功しないのが、著作権譲渡回避の交渉なのです。

今回の記事では、10年以上にわたってプロ・イラストレーター団体「イラ通」で教えてきた著作権譲渡契約回避の交渉術を公開します。



■ 著作権は、なんのためにある?

交渉の具体的な方法を学ぶ前にーー
「著作権は何のためにあるのか?」を知っておきましょう。
その答えは、著作権法第1条にあります。

この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。

著作権法第1条

つまりーー
「著作者の権利を保護することで文化を発展させよう」ということです。
文化を発展させることこそが、著作権の目的です。

イラストレーターがせっかく作った作品の著作権を企業が激安金額で買い取ることが当たり前になると、イラストレーターという職業が成り立たなくなり、日本の文化が衰退していくのです。
それを防ぐために著作権があるのです。

著作権制度の目的に関する参考ページhttp://cozylaw.com/copyright/kihon02/

「著作権は、企業が儲けるためにあるのではなく、クリエーターを保護し文化を発展させるためにある」のです。
このことを、しっかり頭に入れておきましょう。

■ 日本の大衆文化の灯を守りたい

著作権譲渡契約を回避する交渉においては、イラストレーターの個人的なわがままで言っているように思われたら、なかなかうまく行かないと思います。
もっと大きな「善」のためにお願いするのも、交渉成功のポイントです。
「日本の大衆文化の灯を守るためにも、著作権譲渡はやめていただきたい」とお願いしましょう。
「日本の大衆文化の灯を守る」ってどういうこと?
と思ったあなたのために、少し解説しましょう。

江戸時代の日本では、浮世絵をはじめとする大衆文化が花開きました。
そのころのヨーロッパにおいて絵は、一部の裕福層や教会のものでした。
一般大衆がカラーの絵を購入することは、ほとんどなかったようです。
油絵は高価ですから庶民の手は届きません。
比較的安価な銅版画はありましたが、一般庶民への浸透度は今ひとつだったようです。

一方、日本ではごく普通の町民も浮世絵を楽しんでいました。
江戸時代すでに、日本は世界でも稀な大衆文化の国だったのです。
それが現代日本のアニメーション・漫画・イラストレーションといった世界に誇るべき文化につながってきたのです。

しかしーー
著作権譲渡契約は、「企業ばかりが保護され、創作者の保護が疎かになる契約」です。
世界に誇るべき日本の大衆文化を破壊してしまうのです。
文化を発展させようとする著作権の理念にも反します。
著作権譲渡契約が広まりつつある最近の傾向は、世界に誇るべき日本の大衆文化の危機なのです。
クライアント様には、「世界に誇るべき文化を共に守っていきましょう」という意識で交渉しましょう。
イラストレーターの個人的なわがままで言っているのではないこと、大きな「善」のために行っていることをしっかり伝えましょう。
それが、相手の心を動かすポイントともなるはずです。

■ 仕事を受ける前に、著作権譲渡かどうか確認しよう。

著作権譲渡が条件なのかどうかは、仕事の問い合わせが来た最初の段階で確認しましょう。
確認しないまま「お引き受けします」といってはいけません。
なぜなら、後から著作権譲渡とが条件であることを伝えてくるケースも少なくないからです。

仕事をお引き受けした後ーー
仕事がかなり進んでからーー
あるいは出来上がったイラストレーションを納品した後にーー
「著作権譲渡でお願いします」と言われるケースもあります。
こうした場合、うまく断ることができず、そのまま了承してしまうイラストレーターが多いです。

何の説明もなく送られてきた契約書に、小さな文字で著作権譲渡であることが記されていることもあります。
相手は有名な出版社や企業なので、多くのイラストレーターは信頼してしまいがちです。
「よく読まずにサインしてしまって、後で青くなった」という話もよく聞きます。

契約書は、仕事が始まる前に送られてくるとは限らないです。
かなり前に終わったはずの仕事の契約書が、何の前触れもなく、ある日突然届くこともあります。

あるいはーー
嘘やハッタリでイラストレーターを騙そうとするクライアント様も存在します。
「日本文藝家協会で、イラストレーションの著作権は出版社に譲渡することが決まりました。」
と、私に言った有名な教育系出版社の編集者もいました。
これは、真っ赤な大嘘です。
そもそも、日本文藝家協会で決めたことがイラストレーターに何らかの拘束力を持つことなど、あろうはずもありません。
悲しいことですが、こうした嘘をつくクライアント様もいるのです。

私たちイラストレーターが法律や契約などについて教わることは、ほとんどありません。
美術系の学校やイラストレーション教室でも、教えているところは稀でしょう。
だから、こうした手口に簡単に騙されてしまいます。

フリーランス・イラストレーターは絵さえ描ければそれでいいのではありません。
私たちには、海千山千がうごめく実社会の海をうまく渡っていくための、「船」が必要なのです。
法律や契約に関する知識こそが、「船」です。
海千山千がうごめく実社会の海を、長いイラストレーター人生の間ずっと泳ぎ続けるのは大変です。
「船」がなければ、いつかどこかで溺れてしまう可能性があるでしょう。
ぜひ、この note 記事で学んでください。

■ 「買取」と言われたら、その意図を確かめよう。

著作権譲渡のことを「買取」というクライアント様がいます。
しかし、「買取」が著作権譲渡を意味しないケースもあります。

「色んな媒体で使う使用権を買い取る」という意味で使うクライアント様がいます。
これは最近は「オール媒体」と呼ばれることもあります。

「使用期間を決めず、半永久的に使う権利を買い取る」という意味で使うクライアント様もいます。

「原画を買い取る」という意味で使うクライアント様もいます。

漫画の世界では「持ち込まれた漫画をその雑誌で掲載する権利を買い取る」という場合にも使われるようです。

クライアント様とイラストレーターとの「買取」に関する認識のズレが原因でトラブルとなり、裁判に発展した例もあります。
裁判では「『買取』は著作権譲渡を意味しない」という判決が出ています。
こうした判決は「判例」と呼ばれ、法律の隙間を埋める役目を持っています。
つまり、「『買取』は著作権譲渡を意味しない」ことが確定しているのです。

ですから、「買取契約」をしても、裁判をすれば「著作権譲渡ではない」という判決をいただける可能性が高いです。
ただし現実のトラブルには様々なケースがあり、微妙な違いにから、必ずしもそうとはいえない場合もあり得ます。

しかし、トラブルになって裁判をするのはお金も労力もかかります。精神的にも疲れます。
多くのイラストレーターにとって、そこまでやるのは現実的ではないでしょう。
トラブルや裁判になるようなことは、可能な限り避けて活動するのが一番です。

ですからーー
「買取」といわれたら、必ずその意図を確認しましょう。
イラストレーター側は、けっして「買取」という曖昧な言葉を使わないようにしましょう。


■ 著作権譲渡が条件でないのなら、事前に「お仕事確認書」を交わそう。

お仕事を引き受ける前に確認して「著作権譲渡が条件ではない」と言われたら、それは幸いです。
でも油断せず、「お仕事確認書」をかわしてください。

「お仕事確認書」についてはこちら:
《イラストレーター必須のツール 「お仕事確認書」について知ろう!》

なぜなら、後から著作権譲渡を強要されるケースが多いからです。
法律上は、口頭やメールでも、契約は成立します。
しかし、きちんとした書類で残しておいた方が、相手を説得しやすいのです。

最初は「著作権譲渡ではないです」と言っていたのに、後になって「実は著作権譲渡でした」となるケースは、残念ながら時折あります。
そんな時は、この「お仕事確認書」を示しましょう。

「お仕事確認書」には、著作権はイラストレーターにあることが明確に記されています。
この書面をかわしていれば、後から著作権譲渡を強要されることを防ぐことが可能となるでしょう。

海千山千の相手と対等な立場で交渉するために、「お仕事確認書」はきっと役立つと思います。


■ 著作権譲渡をお願いされたら、noteの「著作権譲渡にNO!」を読んでいただこう。

お仕事を引き受ける前に確認して「著作権譲渡でお願いします」と言われたらーー
著作権譲渡を回避する交渉を始めましょう。

交渉の手順としてはーー
まず最初に、私がnoteに書いた「著作権譲渡にNO!」の記事を読んでもらいましょう。

「著作権譲渡にNO!」:https://note.com/moriryuichiro/n/n0c5dfd875341

これはーー
著作権譲渡を希望するクライアント様に著作権譲渡の問題点を説明し、著作権譲渡ではない契約方法を検討していただくことをお願いする内容になっています。

企業(あるいは団体や自治体)の皆さんは、著作権譲渡契約の問題点をご存知ないことが多いです。
イラストレーターに大きな損害を与えることも、イラストレーターに様々なリスクを押し付ける契約であることも、学ぶ機会がないのです。

弁護士ですら、こうした問題点をよく知らずに、企業に著作権譲渡契約にするよう勧めている人は多いです。
だから、特に悪気もなく、安易に著作権譲渡を求めるケースがあります。
多くのクライアント様は、決して悪人ではありません。
単に知らないだけなのです。

私たちは、問題点やリスクをしっかり伝える必要があるのです。
そこを伝えるために、この「著作権譲渡にNO!」の記事は最適だと思います。

このnoteの記事を読んでいただかずに、「自分でもっと上手く説得できる」という方もいるかもしれません。

しかし、ご自身の言葉でも説得したとしても、このnoteの記事のURLは伝えることをお勧めします。

noteの記事なら、ご連絡をいただいた発注ご担当者様に、

「もし可能であれば、部署の責任者の方や御社のさらに上の方の方にも、これを読んでいただくことはできませんか? もし可能であれば、noteのURLを伝えていただけるとありがたいです」

と、お願いすることができるからです。

著作権譲渡をやめるかどうかは、いち担当者で決められることではありません。
企業のトップレベルで決まった経営方針であることも多いです。
クライアント様の社内の決定権を持つ上の方の人まで、しっかりと著作権譲渡の問題点が伝わるように工夫する必要があるのです。

もしもーー
あなたが、noteのURLを伝えずに著作権譲渡をしない理由を、発注担当者だけに説明したとしましょう。
するとその担当者は、上司に「イラストレーターは、著作権譲渡はいやだと言ってます」と、簡単に報告するだけになりがちです。
その上司には、著作権譲渡の問題点がきちんと伝わらないでしょう。
そうなると、その上司には「わがままで困ったイラストレーターの戯言」にしか見えないとおもいます。
「困ったイラストレーターのわがまま」だと勘違いされたらおしまいです。あなたのメールの文章がどんなによくできていても、交渉はうまくいきません。

結果として、著作権譲渡の回避はできず、その仕事は他のイラストレーターに流れてしまうでしょう。

ですから、自分で説得しながらも、このnoteの記事のURLはちゃんと伝えるべきなのです。
そして、上司や会社の上の方の方々にも読んでいただくよう、丁寧にお願いしましょう。
この時、決して命令的にならないよう注意してください。
偉そうにしたり、マウントしたり、相手を責めるような口調になるのは厳禁です。
相手が自分の権利を奪おうとしている敵だと思って文章を書くと、敵対的な文章になりがちです。
そうなると、クライアント様の中でも敵対心が芽生えます。
敵対する者同士の交渉は、絶対に決裂します。
そうならないように、あくまで腰を低く、丁寧にお願いすることを心がけてください。


■ 著作権譲渡を希望する理由を尋ねよう。

「著作権譲渡にNO!」の記事を読んでいただくと同時に、企業(または団体や自治体)には、著作権譲渡を希望する理由を尋ねましょう。
企業(または団体や自治体)には、かならず理由があるはずです。
交渉においては、相手が著作権譲渡を希望する理由をしっかり受け止めることが大事です。

あなただって、自分の話をちゃんと聞いてくれない相手の言うことは聞きたくないでしょう。
「傾聴」は、交渉をスムーズに運ぶための、心理学的テクニックです。
意識して相手の希望を受け止めるようにしてください。

ちゃんと傾聴ができていないと、「このイラストレーターは、メリットを奪う敵だ」と認識されることも多くなります。
そうなると、交渉は絶対にうまくいかなくなります。


■ よくある著作権譲渡を希望する理由3つ。

企業(あるいは団体や自治体)の皆様が、著作権譲渡契約を希望する理由は、主に次の3つだと思います。

1)さまざまな媒体で流用する可能性があるため

しかも使用する媒体は今後も広がる可能性がある。使用する媒体が増えるたびに、イラストレーターに使用許諾を取るのは手間がかかる。著作権を買い取っておいた方が、効率的だ。

2)いつまで使うかわからない

長期間使うかもしれないが、いつまで使うかわからないので、とりあえず著作権譲渡にしておこうというケースです。

全国の支店に貼られるポスターの仕事などでは、「地方の支店で使用期間を過ぎてちゃんと剥がしてもらえる保証ができない」いう場合もあります。

3)訴訟リスク回避

著作権のことをよくわかっていない社員が、そのイラストレーションをイラストレーターに断ることなく、勝手に何かに流用するかもしれない。そうなると訴えられるリスクがある。リスク回避のために著作権を買い取っておきたい。

と言うケースです。

そんな理由で企業に著作権譲渡契約を勧める弁護士も多いです。

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果たしてこうした場合、どう考え、どう対応したらいいのでしょう?
この後、この問題の解決策を提案しています。
それは、イラストレーターの都合を一方的に押し付けるものではなく、クライアント様のメリットを奪うものでもございません。
イラストレーターとクライアント様、双方にとってメリットのある解決策です。

■「1)さまざまな媒体で流用する可能性がある」場合の対応策。

イラストレーターがいただく報酬は、そのほとんどが使用料です。(絵を描く労力が含まれる場合もあります)
使用する媒体(または商品等)の数が増えるなら、その分の使用料もいただくのが筋です。

ですからーー
イラストレーションのお仕事では、使用する媒体をきっちり定めて契約するのが基本です。
ここを曖昧にしてしまうと、少ない報酬額でたくさん使われてしまうこともあります。

お仕事の依頼が来たら、クライアント様と話し合い、使用する媒体(または商品等)を厳密に指定しましょう。
使用する媒体(または商品)が後から増えたら、そのときにまた、流用代をプラスしていただくことにしておきましょう。
流用代はあらかじめ約束しておいたほうが、流用が決まった場合の話し合いはスムーズにいくでしょう。
流用が発生する可能性が高い場合は、あらかじめ決めておくのがベターです。
しかし、流用が発生する可能性が低い場合は、あらかじめ決めておくことはあまりありません。流用が決まってから話し合うことが多いでしょう。


流用代は、下の報酬額の10%から50%程度の間であることが多いです。
媒体や使い方次第でも大きく変わります。
経済効果の大きい流用ほど、パーセンテージは大きくなります。
経済効果の低いものに描いたイラストレーションが、経済効果の高い媒体に流用される場合は、元の金額よりも流用代の方が高くなることもあるでしょう。

以上は、話し合いにより使用媒体を定めてもらえた場合です。

話し合いを持っても「どうしても使用媒体をあらかじめ決めたくない」というクライアント様もいらっしゃいます
「流用の必要が出てくるたびに、イラストレーターの許諾を取るのは、手間がかかるし非効率的だ」と考えるクライアント様が少なくないのです。
この場合はなかなか厄介かもしれませんが、諦めずに交渉を続けましょう。

こうした使用媒体を決めたくないクライアント様には、「オール媒体」を提案する手があります。
「オール媒体」とは、あらゆる媒体で、回数制限なく、イラストレーションを使用できる契約です。
媒体を限定しないので、後から新たな流用が発生するたびに、いちいち許諾をとる必要がありません。
ただしこの契約方法の場合は、「使用できる商品(またはサービス等)の範囲を決めておきましょう。

たとえば、「食品メーカーAの新商品Bの宣伝・広告ならどんな媒体でも使用可」という感じです。
商品Cや商品Dにまで使われると困りますよね。
ですから使える商品やサービスは厳密に決めておかないと、後でトラブルになることもあります。

また、この新商品Bの紹介記事が新聞・雑誌・Webなどに載ることもあります。
こうした紹介記事での使用も「可」としておくよう希望された場合は、了承しておいた方が交渉はまとまりやすいです。

ただし、「オール媒体」は、使用媒体が多い分、報酬額も多めにお願いしましょう。

交渉成功の鉄則は、相手が重視しているメリットを奪わないことです。
「自分の大事なメリットを奪われる」と思った人間は、奪う相手を敵だと認識します。
メリットはそのままに、代替案を提示するのがいいのです。


「自由にいろんな媒体で使える」ということが著作権譲渡のメリットだと考えているクライアント様なのだとしたら、そのメリットを取り上げずに済ませましょう。
それができるなら、相手も納得してくれる可能性が高いはずです。

ただし、安易に「オール媒体」を提案するのは、お勧めしていません。

媒体が多い割に、報酬額が少なくなってしまうことが多いからです。報酬額が少ないのであれば、使用媒体を決めて契約し、使用媒体が増えるたびに二次使用料をいただくのがいいでしょう。

■「2)いつまで使うかわからない」場合の対応策。

「長期間使う、でもいつまで使うかはっきりしない」という場合は、年契約をお願いしましょう。
年契約は、「1年いくらで契約し、1年以上使う場合は、毎年更新使用料を支払っていただく契約」です。
毎年更新使用料をいただくことで、長期間使用することが可能になります。

話し合い次第では、1年ではなく、「2年」あるいは「3年」になることもあります。
金額次第では、「5年」や「10年」という長期契約でもいいでしょう。

「どうしても、半永久的な使用権が欲しい」と希望された場合は、あなたがその業種で生涯に得るであろう収入額をお願いするのがいいでしょう。

「ポスターなどで、地方の支店で使用期間を過ぎてちゃんと剥がしてもらえる保証ができない」いう場合もあります。
この場合はーー
そのポスターの隅っこに小さな文字で、「掲示期限:2022年10月31日まで」などと印刷していただくことを提案しましょう。
これなら、地方で働くよくわかっていないアルバイトにも、「期限が来たら、剥がさなければ」と分かります。
多少は期限が過ぎても貼られ続けることがあるかもしれないですが、何年も張りっぱなしになることは無くなるでしょう。


■ 「3)訴訟リスク回避」の場合の対応策。

クライアント様が著作権譲渡にしたい理由が、「訴訟リスク回避」だとしたらーー
著作権譲渡契約にも、訴訟リスクがあることを伝えましょう。

十分な対価を伴わない著作権譲渡の強要は、下請法や独占禁止法に抵触する可能性があるのです。

公正取引委員会の「コンテンツ取引と下請法」パンフレット(https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/contentspamph.pdf)には、問題となる事例として、こんなふうに書かれています。

下請事業者と著作権の対価にかかる十分な協議を行わず、通常の対価を大幅に下回る代金の額を一方的に定める。(買い叩き)

「コンテンツ取引と下請法」

また、このパンフレットには、「優越的地位の乱用として独占禁止法上問題となる行為」として、こんなふうにも書かれています。

情報成果物に係る権利等の一方的取り扱い。
著しく低い対価の設定。

「コンテンツ取引と下請法」


経産省から公表された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210326005/20210326005-1.pdf)でも、著作権譲渡の強要は下請法や独占禁止法に抵触する可能性があることが指摘されています。
つまり、著作権譲渡の強要は違法である可能性が高いのです。

著作権譲渡契約はまた別の訴訟リスクをはらんでいるので、真のリスク回避とはならないのです。

ただしーー
著作権譲渡契約の全てが違法だという意味ではありません。
しっかりと話し合いがあって、十分な報酬が支払われ、双方納得した上での著作権譲渡契約であるなら問題ないと思います。

■ 交渉のコツ

1)理屈よりも気持ちが大事

理論ばかりで相手に迫ると、大概の場合、うまくいきません。
相手が圧迫感を感じるからです。
圧迫感を感じさせたら、「負け」なのです。
相手が好意を持ってくださるような、気持ちを込めた交渉をしましょう。
相手の気持ちに働きかけて、「ああ、この人のためになら、上司に掛け合ってあげたい」と思ってもらうことが、成功の秘訣です。

2)高圧的にならない。相手を思いやりながらお願いする

高圧的に相手に「著作権譲渡の撤回」を迫ったら、まずうまくいきません。
偉そうに権利を主張するのも、マウントを取るのもダメです。
相手に勝とうとすると、必ず負けます。
そんなイラストレーターは、ほぼ100%嫌われるからです。
嫌われたら、「このイラストレーターとは一緒に仕事をしたくない」と思われます。
そんなふうに思われたら、著作権譲渡は関係なく、その仕事は他のイラストレーターに流れてしまう可能性が高まります。
交渉では、腰を低くし、相手を思いやりながら、柔らかで、しかも丁寧な口調で、「お願い」するのがいいのです。
あくまでも「お願い」です。
「交渉すると、先方の心証を損ねるのでは?」と心配するひともいます。
しかし多くの場合、先方の心証を損ねるのは、交渉の行為そのものではなく、その態度や口調なのです。
丁寧で誠実にお願いすれば、心象を損ねずに交渉することが可能です。
逆にあなたへの心証が良くなる可能性もあります。

3)卑屈にならない、自信を持つ

卑屈になるのもダメです。
謙虚であることはいいですが、しっかりとした自信を持って交渉にあたりましょう。
自信なさげにみえると、仕事をお願いすることそのものが不安になります。あなたが家を建てるとして想像してみてください。
「卑屈で自信なさげな大工さん」と「謙虚であってもしっかりとした自信に溢れた大工さん」がいたとして、どちらにより高いお金を払いたいと思いますか?
クライアント様がイラストレーターに依頼する際も、同じような気持ちで見ていると思います。
交渉は、相手より上になろうとするのも、卑屈になるのもダメなのです。
対等の立場であることが大事です。
そして、お互いに相手をリスペクトし、思いやることができた時、双方が納得のいく合意点に達する可能性が高まるのです。

4)ウィン・ウィン・ウィンを目指す。

こうした交渉では、自分だけの「ウィン」を目指すと、仕事が逃げます。「クライアント様のために、精一杯良い作品を描きたい」ということも伝えましょう。
良い作品を描けば、その企画は成功し、売り上げが伸びるはずです。
売り上げが伸びれば、クライアント様は、豊かで幸せになれます。
クライアント様の成功と幸せのお手伝いをすることこそが、イラストレーターの使命です。
そしてさらには、消費者も、その商品やサービスを利用することで、幸せになるはずです。
「消費者を喜ばする」という、クライアント様とイラストレーター共通の目標を掲げると、交渉がスムーズになる傾向があります。

イラストレーターの仕事とは、三者が「ウィン」となることを目指すものです。
イラストレーターは報酬を得て「ウィン」となり、
クライアント様は利益を増やして「ウィン」となり、
消費者もその商品やサービスによって幸せになるので「ウィン」となるのです。
そのことを忘れず、交渉には臨みましょう。

仕事によってはーー
3つ目の「ウィン」が「世の中や社会」であることもあります。
あるいは、「イラストレーター」と「クライアント様」と「消費者」と「世の中や社会」の4者が「ウィン・ウィン・ウィン・ウィン」となることを目指すこともあります。

5)感謝を忘れない

「たくさんのイラストレーターから選んでくれたこと」への感謝もしましょう。
おざなりなお礼を書いても、相手には響きません。
心からの感謝を述べましょう。
感謝された人間は、感謝してくれた人のために何かしてあげようと思うものです。
そして、お仕事を進める途中の段階でも、納品が済んでからも、感謝の気持ちを忘れてはいけません。

6)相手企業や商品についての思いを書いたり、企画への賛同の意を伝える

「この商品は昔から私も愛用していたものです」
「ぜひ一緒に成功させたい企画です」
という感じで、クライアント様やその商品・サービスの肯定的な感想を伝えたり、その企画への賛同の気持ちを書きましょう。
そうすると、「あ、このイラストレーターは私たちのことも好きなんだ」「私たちの考えた企画を気に入ってくれている」と思ってもらえます。
そう思ってもらえたなら、交渉が円滑に行きます。

■ こうした対応策でも、うまくいかなかったらーー

この記事の通りに交渉しても、先方が納得してくれないことはあります。
経験の少ないイラストレーターが、いきなり交渉をうまくやるのは難しいと思います。
交渉がうまくいかず、クライアント様がどうしても著作権譲渡にこだわった場合は、いったいどうしたらいいのでしょう。

実はーー
そういう場合のための特殊な契約方法も考案しています。
著作権譲渡でありながら、イラストレーターのリスクを大幅に軽減する裏技です。
どの法律書を読んでも出ていなかったので、私が独自に考案しました。
顧問弁護士のチェックも受けているので、法律的にも問題ありません。

いつか、この契約方法に関してnoteに書こうと思っています。


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イラストレーターズ通信
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