イラストレーターの宣伝・営業術06 《ストーリーの8パターン》
スタンフォード大学のマーケティング担当教授、ジェニファー・アーカーの研究で、単なる説明よりも、ストーリーで伝えた方が、22倍(!)も記憶に残りやすいことが分かっています。
相手の記憶に残り、第一想起のイラストレーターになるためには、極めて有効な武器となることが、科学的にも実証されているわけです。
あなたも、ストーリーという名の武器を手に入れ、第一想起のイラストレーターへの道を歩き始めましょう!
今回は、森流一郎が考えたストーリーの8パターンを紹介しますね。
(※ この記事は,『イラ通・スクール』の《宣伝・営業術06 ストーリー02「ストーリーの8パターン」》を一部修正したものです)
■ ストーリーの8パターン
ストーリーとは、作者や作品の背後に潜む物語です。
森流一郎は、「ストーリー」「マーケティング」「ブランディング」「自己紹介」「伝え方」「フリーランス」関連の書籍を大量に読み込み、世に溢れる様々なストーリーを分析しました。
そして、イラストレーターに特化したストーリーの 8 パターンを考案しました。
これを元にすれば、受講生の皆さんも、自分のストーリーを作りやすいでしょう。
1. 自分の志、情熱、想い、価値観を語るストーリー
「どんな価値観に基づいて、生きているのか」
「なぜ、その職業(イラストレーター)を目指すのか」
「どこを目指しているのか」
「その職業(イラストレーター)で、何をしたいのか」
といった内容を語るストーリーです。
『SASUKE』で、Mr.サスケは『SASUKE』に対する熱い思いを語ります。
その情熱に心打たれた視聴者は、自然と応援するようになるのです。
2. 自分の過去を語るストーリー
「その仕事を志したきっかけ(絵を描くようになったきっかけ)」
「過去に味わった感動」
「自分が成長した(あるいは変化した)体験」
「困難や障害を乗り越えた体験」
「負の体験」
「正の体験」
などを語るストーリーです。
『SASUKE』では、過去の映像も、繰り返し流れます。
それが視聴者の共感を呼び、より熱心に応援するようになります。
3. 未来を語るストーリー
「自分がどうなりたいか、何を目指しているのか」
「誰にどんな影響を与えたいか」
「世の中をどんなふうに変えたいか」
といった、目指したい未来を語るストーリーです。
『SASUKE』でも、今一歩のところで次のステージに進めなかった選手が、「来年こそは」と、未来を語りますよね?
4. 現在進行形のストーリー
これは、現在の様子をリアルタイムで届けるストーリーです。
TV番組『ASAYAN』では、「モーニング娘。」が頑張っている様子を毎週のように放送していました。
その結果、彼女たちは大ブレイクしました。
『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』では、「ウリナリ芸能人社交ダンス部」の活動の様子を視聴者に届け続けました。
それが高視聴率につながりました。
「モーニング娘。」や「ウリナリ芸能人社交ダンス部」は、現在進行形のストーリーが人々の共感を呼び、ファンを作ったのです。
イラストレーターも、SNSを通じて「日頃の活動の様子」「作品の制作過程」「目標に向かって努力する姿」「挫折する姿」「困難や障害を乗り越えていく様子」どを発信し続けることで、ブランディング効果を得ることが期待出るでしょう。
特に、「目標に向かって努力する姿」は共感されやすいです。
『SASUKE』では、「ステージをクリアする」という目標がありました。
「モーニング娘。」や「ウリナリ芸能人社交ダンス部」などでも、まずは目標が掲げられました。
エンターテイメント系の小説・漫画・映画でも、多くの場合、主人公は目標を与えられます。
例えば、こんな目標です。
「誘拐されたお姫様(恋人)を救う」(『ルパン三世 カリオストロの城』『スターウォーズ エピソード4』『ストリート・オブ・ファイヤー』)
「殺された家族や恋人の復讐」(『キル・ビル』『告白』)
「殺人事件の犯人を見つける。トリックを暴く」(『名探偵コナン』『金田一少年の事件簿』『警部補 古畑任三郎』)
「お宝を見つける」(『グーニーズ』『ワンピーズ』『レイダース』)
「大会で優勝する」(『ドカベン』『ラブライブ!』『ちはやふる』)
「好きな人と両思いになる。結ばれる」(『ロミオとジュリエット』)
「怪獣や悪者を倒す」(『仮面ライダー』『ウルトラマン』『鬼滅の刃』『エイリアン』『ダイ・ハード』『ストリート・オブ・ファイヤー』)
「迷い込んだ異世界から生還する」(『千と千尋の神隠し』『オズの魔法使い』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』)
目標に向かって努力する主人公に共感するからこそ、人は物語に惹かれるのです。
皆さんも、明確な目標を立てて、それに向かって努力する姿を発信することを考えてみましょう。
5. スキル・得意・好き を語るストーリー
「特別なスキル」「誰よりも得意なこと」「大好きなこと」について語るストーリーです。
ただし、自慢話や実績アピールにならないように気をつけましょう。
6. 商品(作品)に関して語るストーリー
「映画の制作秘話」などを知ると、その映画をより好きになったりしませんか?
イラストレーターもーー
「イラストレーションに込めた思い」
「イラストレーションを描く際の、工夫や心がけ」
といった作品のストーリーを語ると、効果的です。
7. 困りごと解決のストーリー
エンターテイメント系の小説・漫画・映画は、その大半が「困りごと解決の物語」になっています。
「街で怪獣や悪者が暴れている」という困り事を解決するのがヒーロー物のストーリーですよね?
「殺人事件が発生した」という困りごとを解決するのが、刑事物や探偵物のストーリーです。
「片思いのあの人と両思いになりたいけれど、上手くできない」という困り事を解決するのが恋愛物のストーリーです。
「誰かが困っている」という状況を解決するストーリーに、人は惹かれるのです。
これは、マーケティングやブランディングにも応用されています。
例えば、Amazon です。
一昔前は、欲しい本を探して、何軒もの本屋を回るのが普通でした。
近所で見つからなければ、遠くの大きな書店まで出かけたものです。
それでも見つからなければ、近所の書店に取り寄せをお願いしていました。
しかし、入庫まで数週間から1ヶ月程度かかるのが普通でした。
欲しい本がすぐに手に入らないことに、かつての私はとても大きな不満を感じていました。
そこに Amazon が登場したのです。
「かなりマイナーな本でも、翌日には配達してくれる」というそのサービスは、画期的でした。
Amazon は、「欲しい本がすぐに手に入らない」という私の困りごとを解決してくれました。
たちまち、世界最大級のショッピングサイトに成長していったことはみなさんご存知の通りです。
プロ・イラストレーター団体「イラストレーターズ通信」でも、クライアントの困りごと解決に取り組んでいます。
今、SNSなどを通じて気軽に作品を発信できることもあって、かつてないほどイラストレーターが増えました。
しかし、実際に依頼してみると問題やトラブルが生じることも少なくないようです。
「印刷用のデータ納品をRGBで送ってくる。それなのに、スリ上がりの色に文句を言ってくる」
「アナログ作品のスキャンデータが、汚く、紙目やゴミが残っている」
「締め切りに間に合わない」
「途中で連絡が取れなくなる」
「迷惑メールをチェックしていない」
「著作権侵害で炎上する」
といった話をよく聞くのです。
イラストレーターは確かにたくさんいるのだけれど、安心して依頼できるイラストレーターが誰なのかわからない時代になっていると感じます。
これが、クライアントの困りごとです。
そこで、「イラストレーターズ通信」は、問題解決に乗り出しました。
独自の厳しい会員条件を設け、「どこよりも安心して仕事を依頼できるイラストレーター団体」となることを目指したのです。
「著作権侵害をしないこと。著作権についても日々学ぶこと」
「クライアント様からのお問い合わせには迅速に対応し、締切を守ること」
「お仕事に関わる電子メールや名刺等には、住所や電話番号等の連絡先も記載すること」
「作家名(ペンネーム)宛の郵便物が、確実に届くこと」
など、他のイラストレーター団体とは一線を画す会員基準となっています。さらに、さまざまな会員条件があります。詳しくはこちら。
これらの条件全てを満たすイラストレーターのみが所属している団体は他に存在しません。
まさに、オンリーワンの団体なのです。
現代においては、「顧客の困りごとは、ほとんどが解決積み」と言われています。
「顧客の困りごと解決」よりも、「顧客の共感や気持ち」が重視される時代です。
しかし、あなたが誰かの問題をイラストレーションで解決する方法を発見したなら、そこにブルーオーシャンが広がっています。
ぜひ、その問題解決のストーリーを作り、ブルーオーシャンに乗り出してください。
8. 顧客を主人公にしたストーリー
顧客の立場からストーリーを作る手法もあります。
JR東海のキャッチコピーに「そうだ 京都、行こう。」があります。
これは、JR東海自身が「そうだ 京都、行こう。」と思ったのではないですよね?
JR東海の新幹線は毎日京都に行っていますから、わざわざそんなことを言う必要もありません。
「そうだ 京都、行こう。」は、一般消費者が思うセリフなのです。
ニトリのキャッチコピーは、「お、ねだん以上。」です。
これは、ニトリ自身が「お!」と驚いているわけではありません。
消費者がニトリの商品を見て感じる驚きを表現していますよね。
吉野家創業時のキャッチコピーは「はやい、うまい、やすい」でした。
このコピーは「お客様の気持ちを感じる順に並べている」と聞いたことがあります。
1)牛丼を注文してすぐに来るので「早い」
2)食べてみたら「うまい」
3)このうまさでこの値段は「安い」
と言うわけです。
ただし、現在は、語順を変えて「うまい、やすい、はやい」となっています。
「『うまい』を、より前面に出したい」という新社長の意向だそうです。
企業の立場から作られたコピーやストーリーは、消費者から見ると、上から押し付けられているように感じられることもあります。
顧客の立場に立って、その想いをストーリーやコピーにすると、より共感を得やすいのです。
イラストレーターにとっての顧客とは、編集者やデザイナー、あるいは一般消費者ですね。
例えばーー
という感じが考えられます。
あまり出来は良くないですが。
なおーー
「顧客を主人公にしたストーリー」には、次の2種類があります。
① 実在の顧客が使用した感想等を述べる真実のストーリー
② 架空の顧客を主人公にした創作のストーリー
当然ながら、「実在の顧客が使用した感想等を述べる真実のストーリー」に嘘があってはなりません。
もう一つの「架空の顧客を主人公にした創作のストーリー」においても、やはり「嘘」にならないように気をつけましょう。
たとえば、「痩せ薬で、こんなに痩せました」といったいかがわしい広告がネット上にはありますよね?
あの広告には「嘘」や「誇張」があります。
あんなふうになってはいけないのです。
そういう意味で、「顧客を主人公にしたストーリー」においても、「嘘」がないようにしましょう。
架空の顧客を主人公にした創作のストーリーでは、クライアント様、あるいは消費者の未来を語ります。
あなたのイラストレーションを使ったクライアント様、あるいは消費者が、どんなポジティブな未来を手にすることができるかを語るのです。
具体的な使用シーンを物語にしましょう。
その物語で、何らかの問題を解決できたり、幸せになっていたり、喜びを感じているそんな未来を描きましょう。
顧客のポジティブな未来を描くことで、「あなたのイラストレーションを使いたい」と感じていただくことに繋がります。
参考Webページ
・ニトリホールディングス:https://www.nitorihd.co.jp/sustainability/materiality01/
・吉野家:https://www.yoshinoya.com/history/
その他の参考資料はこちら:
参考資料 | イラストレーターズ通信・ (illustrators-tsushin-school.com)